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つれづれイタリア~ノ<91>減っても消えない死亡事故 スカルポーニの死を受け注目浴びる安全対策

by マルコ・ファヴァロ / Marco FAVARO
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 4月末になりましたのでジロ・ディタリアの話題が増えてきました。この時期になると、イタリア国内の各メディアはこぞって、各ステージや各地のグルメを紹介したり、過去の名レースを再放送したり、優勝候補の選手を追いかけながらトレーニングの秘密を探ろうとする特集番組が増えます。特に今年は記念となる100回目の開催に当たりますので、取材が熱を帯びる……はずでした。

 しかし、今年はずいぶん様子が違います。4月22日、イタリアを代表する選手の一人、ミケーレ・スカルポーニ選手(アスタナ プロチーム、享年38歳)が交通事故でこの世を去った影響で自粛ムードが広がっています。スカルポーニ選手の明るい人柄と粘り強さは自転車界の外でも知られ、ファンが多く、彼の突然の死を受け入れない人が多いのも事実です。

ヴィンチェンツォ・ニバリの総合優勝をともに喜ぶミケーレ・スカルポーニ =ジロ・デ・イタリア第21ステージ、2016年5月29日 Photo: Yuzuru SUNADA

主な事故原因は「ながら運転」

 スカルポーニ選手の死を受け、自転車に関する安全強化が急務となり、毎日のように各テレビ局で討論番組が放映されています。あまりうれしくないことですが、ここでイタリアの「交通事故事情」を紹介いたします。

 イタリア統計局「ISTAT」のデータによれば、2016年には毎日平均で自転車の絡む交通事故が45件発生しています。そして悲しいことに35時間ごとに死亡につながる事故も起こりました。2010年と比べて、死亡事故は20%以上減っているものの、毎年イタリアで250人以上のサイクリストが命を落としています。スカルポーニ選手もその一人です。

イタリアではクルマの「ながら運転」が主な事故原因 (イメージ画像)

 イタリア警察のデータを見ると、興味深いことがわかってきました。イタリア国内で発生した交通事故の主な原因は、携帯をいじりながらのクルマの不注意運転によるものです。それが全体の交通事故のおよそ80%です。イタリアでも「ながら運転」が禁止され、警察の取り締まり全体の20%に上ります。

 もう一つの大きな原因が、運転教育が徹底されていない国からイタリアにやってくる移民が絡む事故です。イタリア人による交通事故が減っているものの、ルーマニア、ブルガリアやアルバニアといった東ヨーロッパの中でも貧しい国が絡む交通事故が増えています。

 今年3月27、28日にマルタ共和国でヨーロッパ評議会主催の交通安全報告会が行われ、EU加盟国の各交通大臣が集結しました。ここでヨーロッパ圏内で発生した交通事故による死亡事故(クルマ、自転車、歩行者を含む)件数のデータが公開されました。それを見ると、やはり東ヨーロッパの国では数が圧倒的に多いようです。一方、少ない国は北ヨーロッパに集中します。イタリアはフランスとベルギーと肩を並べ、55件ありました。中盤ぐらいです。

2016年に各国で発生した死亡事故(100万人あたりの平均件数)

【ワースト3】
ルーマニア:97件
ブルガリア:99件
ポーランド:79件
【トップ3】
スウェーデン:27件
英国:28件
オランダ:33件

その他のデータ(2017年3月28日EU評議会交通安全白書より)

2016年EU内における死亡事故:25,500人(重症:13万5000人)
2015年EU内における死亡事故:26,100人
2010年EU内における死亡事故:31,500人
(交通事故による死亡者は減る傾向にあります)

もう一つは「難民」

 東ヨーロッパ出身者のほか、イタリア国内で事故が増えているもう一つの原因は、アフリカからの難民です。近年、イタリアに寄せてくる大量の難民の素早い自立をうながすために、支援対策として運転免許証の発行が簡素化され、十分な教育を受けないままクルマに乗る人が増えています。信号無視、優先無視、無理な追い越しに加え、飲酒運転、ながら運転など、悪質なケースが目立つようになりました。

 クルマに限らず、自転車を利用するアフリカの移民も最低限の交通ルールを守らない人が後を絶ちません。そのため、自転車に乗っても予測不能の行動をとるため、交通事故につながります。

国は交通法改正で対策

 自転車を利用する人の命を守るために、安全対策が急務となりました。現在、審議されているのが交通法改正です。まずは、追い越す際の注意点。自転車を追い越す際に150cm以上の距離を確保することが義務になろうとしています(交通法148号第3条B)。自転車専用道路の拡充と整備、さらに交通警察による監視の強化も。

イタリアの警察が使用する取締り用のシステムの一つ Photo: polizia-municipale firenze

 すでにフィレンツェ周辺で実用化段階に入っていますが、AI(人工知能)を備えたパトカーが運転手を撮影し、スピード違反のほか、手の動きなどで「ながら運転」の疑いがあるかどうか判断されます。つまり、罰則の強化と運転手の教育が欠かせないという判断です。

スカルポーニ事故の新事実

 最後ですが、スカルポーニ選手が死亡した原因について、警察の現場検証による新事実がわかってきました。スカルポーニ選手をひいた運転手は、下り坂を走行中に交差点を左折する予定でした(イタリアは右側運転で、日本でいうと右折に当たります)。朝8時で東の方向に向かっていました。サマータイムに変わったイタリアでは、この時間帯は太陽がまだ低く、太陽光がまっすぐに運転席に入ります。

 その上、事故が発生したイタリア中部のアスファルトにも特徴があります。経費を削減するために、質の悪いアスファルトが使われ、表面がざらざらではなく、クルマのタイヤで摩耗され、つるつるになっています。雨が降ると、スリップ事故の原因にもなりますが、鏡のように太陽の光を反射してしまう原因にもなりました。

 つまり、運転手の目に道が見えないほどの光が入り、前がほとんど見えない状態でした。下り坂で減速せず左折してしまい、上ってきたスカルポーニ選手を判別できず、ひいてしまいました。様々な不運が重なり、スカルポーニ選手が帰らない人となりました。本当に残念なことです。

不幸な事故で帰らぬ人となったミケーレ・スカルポーニ =ブエルタ・ア・エスパーニャ第4ステージ、2016年8月23日Photo: Yuzuru SUNADA
マルコ・ファヴァロMarco FAVARO(マルコ・ファヴァロ)

東京都在住のサイクリスト。イタリア外務省のサポートの下、イタリアの言語や文化を世界に普及するダンテ・アリギエーリ協会や一般社団法人国際自転車交流協会の理事を務め、サイクルウエアブランド「カペルミュール」のモデルや、欧州プロチームの来日時は通訳も行う。日本国内でのサイクリングイベントも企画している。ウェブサイト「チクリスタインジャッポーネ

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