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工具はともだち<114>実は目的が違うラチェットのプッシュボタン~ ソケットが外れない謎

by 重田和麻 / Kazuma SHIGETA
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 2017年も1/3が終わり、そろそろ初夏を感じる日が増えてきましたが、私も「工具はともだち」を書き始めてはや2年が過ぎ、3年目に突入です。3月の「TAIPEI CYCLE」を見てから、自転車産業そのものに対し更に興味が湧いて来た今日この頃です。これからも、工具や測定具という視点を通してサイクリストの皆さんに情報提供できればと気持ちを新たにしています。

構造の違いは目的の違いから生じる

 さて、自転車にも色々ありますが、同じような機能の部品でもタイプによって構造が違うなんていう事がよくありますよね。その構造の違いの多くは目的の違いです。例えば「速さ」を重視しているからとか、「耐久性」を重視しているから等です。工具についても同様に目的によってその構造や形状に違いがあったりします。今回はそんな目的の違いから生じた構造の違いについてご紹介したいと思います。

 KTCのラチェットハンドルにはヘッドの中心にボタンが付いていて、そのボタンを押すと装着したソケットが外れます。これは、一般的には「プッシュキャンセル」や「クイックリリース」と呼ばれるのですが、KTCのラチェットの場合は少しその構造に違いがあります。

一般的なプッシュキャンセルの構造 ©KTC

 一般的な構造のボタンはボタンと一体となっているプッシュピンと呼ばれる部品の先端がテーパー状になっていて、ばねによって押し上げられたプッシュピンのテーパー面でボールを押し出し、ソケットを保持しています。そして、ボタンを押すとボールが引き下がり、ソケットが外れるようになります。

KTCのユニオン構造 ©KTC

 それに対し、KTCではこのプッシュピンの先端が階段状になっており、普段はばねでピンが押し上げられ、ボールがピンの高い段の上に上がり、それによってソケットを保持しています。そして、ボタンを押すとボールが低い段へ落ち込み、ソケットが外れるようになります。

 このように、二つの機構は「ボタンを押すとソケットが外れる」という点では同じ結果を生み出します。ところが、この二つにはその構造がもたらす決定的な違いがあるのです。それは、ボタンを押さない状態でソケットの抜き差しができるかどうかです。

ボタンを押さないとソケットが外れない?

 一般的な構造の場合、先端がテーパー状になっていますので、ボタンを押さなくてもソケットを強めに差し込むか抜けば、ボールに掛った力がテーパー形状に伝わり、プッシュピンを押し下げるため、ソケットの着脱は可能になります。ところが、KTCの構造の場合は平らな段の上にボールが乗っているため、力を入れてもプッシュピンを押し下げる事ができませんから、ボタンを押さない限りソケットの着脱はできないようになっています。

 つまり、ソケットを外す際はもちろん、ソケットを取付ける場合もボタンを押す必要があるのです。KTCではこの構造を「ユニオン機構」と呼び、一般的な「プッシュキャンセル」や「クイックリリース」といった機構と区別しています。でも、「ボタンを押さなくても着脱ができる方が便利なんじゃ…」と思われる方もいると思います。単にソケットを素早く外す事だけを考えるのであれば、それは正解ですが、KTCでは違う目的でこの機構を採用しています。

 その目的というのは、「ソケットを素早く外す事」ではなく、逆に「ソケットを簡単に外れなくすること」にあるからです。なんだか更に謎が深まったかもしれませんが、この真逆の目的の理由は、一般的な構造の場合、力を入れて締めこんだ際などボルト・ナットにソケットが食い込んでしまった場合、ラチェットからソケットが外れる、つまりソケットだけが作業対象物側に残ってしまう可能性があるのです。

ネプロス6.3sqラチェット ©KTC

 こうした場合、ソケットだけを外すのは結構大変で、クリアランスがある場合はまだいいのですが、狭い場所などではソケットを外すのに苦労してしまいます。当然のことながら、作業対象物側にソケットが残ったまま、機械などを動かす事は事故の原因になる可能性もありますし、高所作業中などではソケットを落下させてしまう事も考えられるので、KTCではソケットが簡単に外れない「ユニオン機構」を採用しているんです。つまり、これも、これまでにご紹介した「安全」を優先した考え方に基づくものの一つでもある訳です。
 
 このように一見同じ結果をもたらすモノであっても、目的の違いからその構造が異なる場合があるので、自転車においてもその構造の違いと併せてどういう「目的」でその構造が採用されているのかを知る事で、その構造の特性や注意すべき点が見えてくるかもしれません。

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重田和麻(しげた・かずま)

KTC(京都機械工具)入社後、同社の最高級ツール「nepros」(ネプロス)の立ち上げに携わった後、販売から企画、商品開発とさまざまな立場で同商品と歩みを共にしてきた。スポーツ自転車は初心者だが、工具についてはプロフェッショナル。これまでの経験を生かして、色々な角度からサイクリストに役立つ工具の情報を提供する。

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