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福光俊介の「週刊サイクルワールド」<207>バルベルデがアルデンヌ最多表彰台 支えたのは強固なアシストのコントロール

by 福光俊介 / Syunsuke FUKUMITSU
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 クラシックシーズンの締めくくりは、恒例のベルギー南部・ワロン地域での2連戦。4月19日のラ・フレーシュ・ワロンヌと、23日のリエージュ~バストーニュ~リエージュを制したアレハンドロ・バルベルデ(スペイン、モビスター チーム)は、アルデンヌクラシック最強の称号を手にした。そこで、今回は主役となった選手たちの戦いぶりにスポットを当てたい。そして、シーズンはステージレース主体へ。グランツールを見据えて動き出すプロトンにも注目だ。

4月23日開催のリエージュ〜バストーニュ〜リエージュではアレハンドロ・バルベルデが優勝。アルデンヌクラシック最強の称号を手にした Photo: Yuzuru SUNADA

バルベルデがアルデンヌ表彰台記録を樹立

 徹底したレースコントロールと、的確な読みでバルベルデの連勝を呼び込んだモビスター チーム。レース後の記者会見でもバルベルデは、アシスト陣の働きを大きく称え、彼らなしでは勝利できなかったと口にした。

リエージュ〜バストーニュ〜リエージュのフィニッシュ後、アレハンドロ・バルベルデ(右)はアシストを務めたホセホアキン・ロハスと喜ぶ Photo: Yuzuru SUNADA

 37歳となり、いまなお健在の勝負強さ。今シーズンは序盤からとりわけ好調だが、その要因としてはレーススケジュールも関係しているようだ。今年は早い段階で、グランツールの目標を秋に行われるブエルタ・ア・エスパーニャと公言。シーズン前半はアルデンヌクラシックに集中できるようプログラムを組んだ。年間通してハイレベルで安定している点は今も昔も変わらないが、ときに年齢的な衰えも隠せないことが増えているだけに、どのレースに調子のピークを持っていくかをしっかりと定めて、そこに向かって集中するスタイルが奏功しているようだ。

 とはいえ、狙い通りに勝つことは容易ではない。フレーシュでは最大の勝負どころ「ユイの壁」の麓までアシスト陣のお膳立てのもと、ユイでは爆発的な力を発揮。リエージュでは、いくつかのチームが先手攻撃に出てモビスター チームを苦しめようと試みたが、最後はライバルのアタックをこれまた力でねじ伏せた。やはりそれだけのフィジカルと、モチベーションを持ち合わせていないと、長く続くキャリアにおいて頂点に君臨し続けることはできない。そして、バルベルデの得意とする小集団スプリントに持ち込むまでの、アシスト陣の強固なコントロールも大きく評価されるべきだ。

アルデンヌクラシック表彰台回数が16回となったアレハンドロ・バルベルデ。エディ・メルクス氏の記録を破った Photo: Yuzuru SUNADA

 バルベルデはこの連勝によって、エディ・メルクス氏が持っていたアルデンヌクラシック表彰台回数を塗り替え、16回の新記録を樹立。内訳は、アムステル・ゴールドレースが3回、ラ・フレーシュ・ワロンヌが6回(うち優勝5回)、リエージュ~バストーニュ~リエージュが7回(うち優勝4回)。数字で見てみると、改めて驚異的な強さを誇っていることが分かる。ちなみに、アムステル・ゴールドレースだけ獲得していないタイトルとなっている。

ライバルチームの先手攻撃と慎重なレース展開

 力が抜けているバルベルデとモビスター チームに対し、ライバルチームが講じた策は先手攻撃。2位に入ったダニエル・マーティン(アイルランド、クイックステップフロアーズ)は残り1kmを切って強烈なアタックを繰り出し、3位のミカル・クウィアトコウスキー(ポーランド)擁するチーム スカイも、準エースのセルジオルイス・エナオ(コロンビア)がアタックする場面がたびたび見られた。

集団スプリントを嫌ったダニエル・マーティンが残り1kmを切ってアタック。しかし、フィニッシュ手前でアレハンドロ・バルベルデにかわされた Photo: Yuzuru SUNADA

 集団スプリントになると有利になるバルベルデだけに、早めの攻撃で脚を削り、優位な流れにしたかったところ。実際はモビスターのアシスト陣がしっかりとレースを作り、最終局面もバルベルデがマーティンの動きを見つつ、自らにとってベストなタイミングで追ったことで勝利に結びつけた。

 要所で有力チームが動きを見せた一方で、プロトン全体に慎重なレース運びも今回の傾向だったといえそうだ。序盤に飛び出した逃げを13分以上のタイム差まで容認したことも然り、集団の人数を絞り込むような動きもそう多くは見られず、終盤まで大きな集団のままレースが推移したことにもそれが表れている。

 その良し悪しは別として、近年は小集団スプリントで決着することが多い点は、プロトンの慎重姿勢が関連していると見ることができそうだ。レース距離が長く、次々と現れる登坂区間のハードさがボディブローのように効き、やがて優勝候補たちによる争いへと自然に流れていくが、かつて見られた実力者による早めのアタックや、独走勝利はこのところ見られなくなった。

選手やチーム間の力の拮抗が、慎重なレース展開を生んでいる可能性がある Photo: Yuzuru SUNADA

 いわば、選手・チーム間の実力が拮抗してきていることや、優勝候補たちの脚質も関係してきていると見られる。一方で、こうした趣きが主催者にどう映っているかは興味深いところ。先のアムステル・ゴールドレースのように、レースのマンネリ化を嫌ってコース変更するのもよし、伝統を守るべく要所をそのまま残すもよし、それらの判断によってリエージュ~バストーニュ~リエージュの在り方も変化する可能性を秘めている。

シーズン中盤に向けて弾みをつけた別府と新城

 今年のアルデンヌ3連戦には、日本勢として別府史之(トレック・セガフレード)と新城幸也(バーレーン・メリダ)の両選手が出場。それぞれ、リエージュでのレース後に取材に応じてくれた。

「チームオーダーに基づく仕事はやり切った」と充実した表情を浮かべた別府史之 Photo: Syunsuke FUKUMITSU

 別府は途中でバイクを降りたものの、「完走することだけがすべてではない」と前置きをしたうえで、このレース8つ目の登坂セクションであるコート・ド・ラ・ルドゥット(222.5km地点、登坂距離2km、平均勾配8.9%)でエースたちをよいポジションへ送り込むことが仕事だったと説明。途中で何度か集団から遅れかけるなど、耐えながらのレースだったが、前半からの動きに対応するなどし「チームオーダーに基づく仕事としてはやり切った感覚がある」と充実した表情を浮かべた。

 アルデンヌクラシックを意識した調整を行っていなかったこともあり、「苦しさが身に染みた3連戦だった」と振り返るが、シーズン序盤からレース数をコントロールしながらクラシックまでを終えたこともあり、「調子も上がってきているし、この先のレースが楽しみ」と期待を膨らませる。

取材後、ファンサービスに応じていた新城幸也。チームの目標を達成し、表情に明るさが見える Photo: Syunsuke FUKUMITSU

 新城も別府と同様に、コート・ド・ラ・ルドゥットにエースのホン・イサギレ(スペイン)、ジョヴァンニ・ヴィスコンティ、エンリーコ・ガスパロット(ともにイタリア)を好ポジションに送り出すチームオーダーだったといい、「よい走りができて、仕事もしっかりできた」と笑顔。特にイサギレが5位入賞を果たし、チームとしての目標が達成されたことへの喜びが大きかった様子。個人としても「アルデンヌ3連戦に照準を合わせることができた」とし、調整に成功しての好走だったことを強調する。

 また、新チームであるものの選手・スタッフいずれも経験・実績に富んでおり、レース内外すべてにおいてオーガナイズされていることも、好調の要因として挙げる。過去には、強力な戦力に注目が集まりながらも、統率が取れずにしばし苦戦を強いられたビッグチームもあったが、バーレーン・メリダにはその心配はないと話す。

 そして、両者そろって4月25日開幕のツール・ド・ロマンディ(スイス)へと参戦が決定。別府は当初のスケジュール通り、新城はリエージュのレース後に急遽出場が決定したが、ともに好調のままクラシックシーズンを終えたこともあり、弾みをつけてスイスでの6日間に臨むことができそうだ。

ツール・ド・ロマンディ展望

 別府と新城が出場するツール・ド・ロマンディは4月25~30日に開催される。

クリストファー・フルームがツール・ド・ロマンディに参戦する。写真は3月のボルタ・ア・カタルーニャ Photo: Yuzuru SUNADA

 まずはプロローグとして、4.8kmの個人タイムトライアルが行われる。以降は難関山岳の連続。第1ステージ(173.3km)から頂上フィニッシュが設けられ、総合争いの形成が早々に絞り込まれる可能性も大いにある。第2、第4ステージも上級山岳ステージ。そして、最終日の第5ステージに18.3kmの個人タイムトライアルが設けられ、これを終えた時点で首位の選手が総合優勝となる。

リッチー・ポートも総合優勝候補。写真は3月のパリ〜ニース Photo: Yuzuru SUNADA

 選手たちも、いよいよグランツールを見据えて動き出すことになる。総合争いでは、クリストファー・フルーム(イギリス、チーム スカイ)やリッチー・ポート(オーストラリア、BMCレーシングチーム)あたりが中心になりそう。若いボブ・ユンゲルス(ルクセンブルク、クイックステップフロアーズ)、サイモン・イェーツ(イギリス、オリカ・スコット)、1週間のステージレースに強いシモン・スピラク(スロベニア、チーム カチューシャ・アルペシン)、総合力のあるイサギレも有力だ。

 なお、プロローグはファビオ・フェッリーネ(イタリア、トレック・セガフレード)が優勝。リーダージャージを着用し、26日の第1ステージに臨む。

今週の爆走ライダー−ブレント・ブックウォルター(アメリカ、BMCレーシングチーム)

「爆走ライダー」とは…

1週間のレースの中から、印象的な走りを見せた選手を「爆走ライダー」として大々的に紹介! 優勝した選手以外にも、アシスト や逃げなどでインパクトを残した選手を積極的に選んでいきたい。

 4月17~21日にオーストリアとイタリア両国で行われたツアー・オブ・ザ・アルプスで総合11位。最終の第5ステージでは、スプリントにトライしてステージ2位。険しい山々を走るレースとあって、スプリンターがほとんど顔をそろえていなかったことも関係しているが、ステージ優勝を目指してのトライは勝利まであと一歩だった。

グランツールデビューとなった、2010年のジロ・デ・イタリア第1ステージで2位に入り、一躍脚光を浴びたブレント・ブックウォルター Photo: Yuzuru SUNADA

 2008年のプロ入り以降、現チーム一筋の生え抜き選手。大学時代はロード、マウンテンバイク、シクロクロスでアメリカ国内の学生タイトルを総なめ。個人タイムトライアルでは年代別の国内チャンピオンにも輝いたことがある。そんな彼が一躍脚光を浴びたのは、グランツールデビューとなった2010年のジロ・デ・イタリア。第1ステージの個人タイムトライアルで2位となり、TTスペシャリストとしての地位を確立する。2011年のツール・ド・フランスでは、カデル・エヴァンス氏の総合優勝にアシストとして貢献。派手さはないが、堅実な走りで信頼を獲得してきた。

 そんな彼が近年強化しているのが、山岳での走り。2015年のツアー・オブ・ユタや翌年のツアー・オブ・カリフォルニアでは、ともに総合3位に入りオールラウンドに力を発揮できるようになった。そして、今シーズン最初のターゲットに据えるのが5月14~20日のカリフォルニア。もちろん、地元での総合優勝を狙う。

 その過程として最適となったツアー・オブ・ザ・アルプス。総合優勝争いからは後れをとったが、スピードや上りでの感覚は悪くない。コンディションも上々だ。

 年齢的にも33歳と、最も脂の乗った時期に差し掛かっている。エースにアシストに、そして山岳からタイムトライアルまで、マルチに走るアメリカンがスポットライトを浴びる日もそう遠くはなさそうだ。きっと、自らの力でその時を手繰り寄せることだろう。

近年はオールラウンドに力を発揮するブレント・ブックウォルター。アメリカ最大のステージレースである、ツアー・オブ・カリフォルニアでの総合優勝を視野に入れる Photo: Yuzuru SUNADA
福光俊介福光俊介(ふくみつ・しゅんすけ)

サイクルジャーナリスト。自転車ロードレース界の“トップスター”を追い続けて十数年、今ではロード、トラック、シクロクロス、MTBをすべてチェックするレースマニアに。現在は国内外のレース取材、データ分析を行う。自転車情報のFacebookページ「suke’scycling world」も充実。UCIコンチネンタルチーム「キナンサイクリングチーム」メディアオフィサー。ウェブサイト「The Syunsuke FUKUMITSU

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