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サイクリスト

編集部員が実走レポート「Rapha Prestige KUJU」くじゅう連山の天国へ迷い込んだ134km、獲得標高3400mの挑戦

by 澤野健太 / Kenta SAWANO
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 5人1組のチームで急峻な山岳ルートや未舗装路をロードバイクで走り、全員で完走を目指す「Rapha Prestige KUJU」(ラファ・プレステージ・くじゅう)が4月22日、熊本県阿蘇郡小国町の木魂館を発着に開催された。「苦痛の先にある栄光」を体現するイベントを体感しようと全国から30チーム、150人が参加。それぞれの目標、思いを胸にくじゅう連山の周りでアップダウンを繰り返す134㎞、獲得標高3400mに挑戦した。Cyclist編集部員も地元・南小国のチームから参戦。実走レポートでお届けする。

くじゅうの牧草地を走るchanoko40の5人 Photo: Atsushi TANNO

3年ぶりの小国発着

 「プレステージ」とは、「敬意、尊敬、名声」。数々の魅力的なラファのイベントの中でもサイクリストがいつか参加してみたいイベントだ。5人一組で立哨員もエイドステーションもないコースを、補給も自分たちで準備して進む。途中には2か所のチェックポイント。そこを制限時間内に通過し、スタンプをもらう。

 参加者は主催者から1週間前に送られてきたルートデータをサイクルコンピューターに読み込ませ、チームでコースを確認しながら進む。順位はつけられるが、速く走るだけでなく、走っている様子をハッシュタグをつけてインスタグラムなどSNSで公開。いかに楽しんでいるかも重要なポイントとなる。

くじゅうの雄大な山々をバックに走る Photo: Atsushi TANNO
他のチームも一緒にグラベルを走る Photo: Atsushi TANNO

 近年、プレステージはより難度を深めていっているという声を多く聞いた。昨年、徳島で開催された「Rapha Prestige Kamikatsu(ラファ・プレステージ・カミカツ)」では、最高難度の獲得標高4000m、完走チームは参加33チーム中、約半数の17チーム。未舗装路(グラベル)の上り坂も多く、あまりのきつさに一部苦情が出たという話も聞いた。

 今回のコースディレクターはラファアンバサダーで小国を知り尽くした丹野篤史さん。2014年の「ジェントルマンズレース・オグニ」のコースを監修。その小国の美しい景色を堪能したコースは伝説となり、イベント後も多くのサイクリストがそのルートを「トレース」しに来たという。

 カメラマンとして九州、特に小国の大自然を走るサイクリストを美しい写真におさめてきた丹野さんに前もって話を聞くと「グラベルがどれくらいかとか、あまり関係ないと思う。とにかく楽しんでいただけるルートです」という自信満々な答えが返ってきた。これはよほど素晴らしいルートに違いない。おそらく大自然を満喫して、丹野さんが引くルート、撮る写真の中に自分たちが収まるのだろう、と勝手に妄想を膨らませた。とはいえ、何度も耳にして来たラファのフィロソフィー「GLORY THROUGH SUFFERING」(苦痛の先にある栄光)を覚悟しなくてはならない。

牧草地の間の一本道を力を合わせて走る Photo: Atsushi TANNO

平均年齢40代の地元チーム「CHANOKO40」から出場

窓際から明るい日差しが差し込む「Tearoom 茶のこ」。休日には九州中のサイクリストが集まる Photo: Takeshi MATSUZAKI

 メンバーは1チーム5名。全国から集まった30チームは、ショップに集まる練習仲間、この大会を目指し結成されたチーム、実業団選手まで様々だ。今回記者が参加したのは熊本県小国町の喫茶「Tea room茶のこ」に集まるメンバーで結成された「CHANOKO40」(茶のこフォーティー)。

 「茶のこ」は地元阿蘇郡小国にある九州各地のサイクリスト、自転車選手が集まるハブ的な役割を担う店。その中から精鋭?の「平均40代」が選出され、この日のために作ったスぺシャルジャージ&ビブで臨んだ。

くじゅう連山のシルエットがバックに入った「Chanokoプレステージスペシャルジャージ」 Photo: Kenta SAWANO
Chanokoプレステージ・スペシャルジャージには大会当日の日付も入っていた Photo: Kenta SAWANO

 チームメートは広島の実業団「voyAge cycling team」に所属するE2選手・横手徳広さん、福岡のクラブチームCCPPに所属の稲員栄一さん、「茶のこアンバサダー」の谷村康寿さん、そしてリーダーは「茶のこ」店主の松崎猛さんだ。筆者以外は何度か直前合宿で練習した仲間。本来なら通常から一緒に練習している仲間で、たくさんの練習を重ねて出場するのが理想だろう。でもSNS全盛の現代、「1年に一度集まって出場するチームもあっていいのではないか」と勝手に思いながら大会直前は毎週末、奈良、台北、仙台と取材先の各地で練習を重ねた。

走行しながらプロフィール用に撮影した写真。翌日リーダーの松崎さんが文字を入れてプロフィール画像に仕上げてくれた Photo: Takeshi MATSUZAKI

快晴、温暖の好条件

木魂館前に集まりブリーフィングを聞く参加者 Photo: Atsushi TANNO 

 大会当日の朝。朝4時で気温はすでに10度。快晴のスタート地点「木魂館」に朝5時に到着すると、参加者が続々と集まっていた。ラファのルイゾンで提供されたエスプレッソで目を覚ます。全国から集まった約150人の参加者は期待や不安が混じっている表情に見える。

 ブリーフィングが終わり、あっという間にスタート時間に。6時16分、九州のチームが続々と出発。福岡の自転車店「正屋」、鹿児島の強豪「鹿児島水曜会」に続いてのスタート。他のチームや関係者の拍手に送りだされ、134kmの旅がスタートした。

スタートに並ぶchanoko40。後方は先輩チームの「CHANOKO50」 Photo: Aya Fukamachi

 序盤は小国の森の間を走る。朝日が杉の木立からもれ、仲間の影が長く伸びる。フリーの回転する音だけが森の中に響く。これから待ち受けるいくつもの苦痛(アップダウン)の前の静けさの中、メンバーは皆笑顔でペダルを漕いだ。森が明けると、町全体から煙が立ち上がる、はげの温泉をヒルクライム。日本なのか、海外なのか、夢か現実か分からないルートを進む。

小国の木立の間を朝日を浴びながら走る Photo: Eiichi Inakazu
集落全体から温泉の湯気が上がる、はげの温泉を抜ける Photo: Kenta SAWANO

 国道に出て、くじゅう連山を前にしながら順調に5人で隊列を組んで走る。初めて一緒に走る5人の連帯感が気持ちいい。会話の中心はリーダーの松崎さんで、自分の体調の悪さ、各チームの情報など、走りながらずっと話し続ける元気の良さに感心した。

 また、一緒に参加する他のチームとの交流も楽しい。大声を山々にこだまさせるようにエンジョイして走るTeam Blue Lug、さすがの実業団というようなスピードで抜いていったかと思うと、写真撮影に余念のないVC Fukuoka。あっという間に坂で抜かれたMAAP x BONSAIのチームワークには脱帽だった。

 色々なチームと交流を楽しんでいるうちにあっという間に、第1チェックポイント(36kmポイント)の長者原レストセンターでスタンプをもらう。ここで同じchanokoチームの先輩「club chanoko 50」チームと合流、健闘を誓い合って、トイレ休憩だけで先に進んだ。

第1CPでchanoko40とclub chanoko 50チームで記念撮影 Photo: Aya Fukamachi
第1CPはやまなみハイウェイ沿いの長者原(ちょうじゃばる)ビジターセンター Photo: Atsushi TANNO
茨のグラベルを進むchanoko40のリーダー・松崎さん Photo: Kenta SAWANO

 ここまでは至って順調。まだ4分の1でコースもひどくない。「このままなら問題なく完走はできる」と安心したここからが「地獄」だった。湿ったオフロードの上に杉の葉が重なったスリッピーな激坂を超えると、54km過ぎからトゲやツタの間を進む「酷道」が襲ってきた。体力はもちろん、転倒しないうに神経を使い、少しずつ疲労がたまってくる。もうこの時点で獲得標高は1000m以上、まだ3分の2の坂が残っている。

 みんなを待たせてはいけない。その一心で苦痛を我慢し、前へ進んだ。普通ならとっくにスピードを緩め、DNFな状態だが、全員で完走するという目標のため、とにかく前へ進む。リーダーの松崎さんも足を攣りそうになりスピードを緩める。そんなとき若手でエースの横手さんが「リーダーの足の心配より、とにかくゴールして完走の証のキャップとサコッシュがもらえればいいですよ」とジョークを一発。するとリーダーが「オレよりサコッシュかい」とみんなを笑わせてくれた。走るうちに深まる連帯感が心地良かった。

どんなに苦しくてもカメラを向けるとみんなで笑顔 Photo: Atsushi TANNO
息もピッタリで牧場の間を進むTEAM PUNKS Photo: Atsushi TANNO

 進むごとに信じられないような景色が続いていった。中盤には、牧場の間の道を九重連山に向かって5㎞ほど延々に進む坂道があった。最初は山を前に景色を楽しんだが、意外と斜度があり、メンバーからは「もうお腹いっぱいだ」という声が漏れた。ここでついに筆者は左太ももを攣ってしまった。

牧場の間の道を延々に進む Photo:Takeshi MATSUZAKI

 そんな自分を他のメンバーが一人一人スピードダウンしてくれながら「ゆっくり行きましょう」と前を引いてくれた。稲員さんは黙って補給食を渡してくれた。リーダーの松崎さんは自分も攣っているのに足攣り防止のサプリメントを分けてくれた。チームは一つになり、前に進んだ。

100km過ぎ地点、グラベルを一列になって走るchanoko40 Photo: Atsushi TANNO

 ただきつくなればきつくなるほど、風景は印象的に、しっかり目に焼きつくようになった。100km地点、いよいよ楽しみな最後のグラベルが始まる。ただの石の道でなく、石の間から芝が生えているような極悪で「極上」なグラベルだ。心身ともに疲れがピークで、新緑の中のきついグラベルは、天国へ続く道のように感じた。
 
 112キロ地点にある第2CP(瀬の本高原)を足切時間の1時間半前に通過。最後の“1級山岳”を10kmをほぼずっと上り続けると、今回主催者が特別に許可を得たという未知のルートに進む。しばらくグラベルが続くと、直線の先に風車が見えた。逆行で良く見えないが、人影が伸びた。カメラマンでコースディレクターの丹野さんだった。昔はDJもしていた丹野さんは、長い長い楽曲のクライマックスにこの絶景を持ってきてくれた。

プレステージKUJUのクライマックスへと進む Photo: Atsushi TANNO 

 山頂の尾根を進むコースは、阿蘇五岳や、小国周辺の小高い山や丘を見下ろす大パノラマだった。どこまでも山々を見下ろせる絶景に感動し、なぜか涙が止まらなくなった。ゴールに近づいた達成感というより、大自然の景色に言葉を失った。多くのチームが、残り時間をギリギリ使い果たし、ここで写真を撮ってinstagramにアップしたり(#rpkuju)、思い思いの時間を過ごしていった。

幻想的な山の上の風車に沿って走る Photo: uk3110insta
ゴールに向かってグラベルを進む Photo: uk3110insta

 クライマックスの景色を存分に楽しむと、最後のご褒美、約10kmの「ダウンヒル」を満喫。いよいよゴール近くになると、リーダーから「まずはみんなで服装をそろえようよ」と指示が飛ぶ。一旦ストップして、ジレを着ていた人は脱ぎ、スペシャルジャージのジッパーも一番上まできっちり締めるよう指示が飛んだ。順位よりもタイムよりも「美しいゴール写真」を…。身支度を整えている間に数チームに抜かれたがお構いなし。リーダーの教えを守ってきっちり整列してゴール。9時間10分、134kmの旅が終わった。

午後5時過ぎ、無事5人そろってゴール Photo: Aya Fukamachi 

和間さん一家は3人完走

ゴール直後にフォトブースでは完走の記念撮影 Photo: Kenta SAWANO

 メンバー全員で握手するのはもちろん、他のチームとも握手して健闘をたたえ合う。ゴール付近では笑顔の輪が広がった。大分在住の和間栄紀さんは息子の和間雄大さんと親子でチームRin’sを結成し完走。妻の和間恵さんも福岡のチーム「MOZU COFFEE」から参戦。ラファ・ジャパンの衣本始司さんによると「親子3人での参加は世界的に見てもいないのではないか」という貴重な親子3人での完走だった。しかも雄大さんはロードバイクに乗り始めて4か月。初めて参加する自転車イベントが「プレステージ」という無謀とも思える挑戦を家族の力で乗り越えた。「最初にしてはハード過ぎましたが、また家族で挑戦してみたい」とプレステージの魅力にはまった様子だった。

チームで手を合わせ健闘をたたえ合う Photo: Aya Fukamachi 
親子でチームを組み参加した和間栄紀さん親子 Photo: Takeshi MATSUZAKI
アフターパーティーでは他のチームの話に皆で聞き入る Photo: Atsushi TANNO

 女性だけで挑戦した「Team Zephyr」は制限時間を超えて完走した。「最後の風車の絶景の所で休まなければ、時間内ゴールが出来ましたが、あそこで楽しまない手はないです」と記録より仲間との思い出を優先させ、遊び切った。

 アフターパーティーでは全30チームが全員の前で自己紹介。2014年の「ジェントルマンズレース・オグニ」では九州のチームは3チームだったが、「今年は三分の一の11チームが九州のチームで、ラファの目指す自転車文化が浸透してきたな、と感じます」とラファの衣本さんは手応えを感じていた。

アフターパーティーではそれぞれのチームを紹介 Photo: Atsushi TANNO
プレステージ完走者用のキャップやサコッシュ。今回はスタンプカードも準備された Photo: Kenta SAWANO
フェアグランドシャッターズに撮ってもらったゴール後の集合写真 Photo: Fairground Shutters

 今回は、ゴール直後に福岡の写真家ユニット「フェアグランドシャッターズ」による完走記念撮影が特設ブースで行われた。色々なサイクリストのSNSのタイムラインには、様々なポーズの記念写真が並んでいる。

 それぞれの写真には、完走後の高揚感、達成感が映っている。2度と同じメンバー、同じ場所を、同じ条件で走ることはないかもしれない。しかしこの記念写真を見るたびに、KUJUを走ったサイクリストは絶景を走った時の風景を思い出すだろう。

 

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