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福光俊介の「週刊サイクルワールド」<206>有力選手が活発に動いた“ニュー・アムステル” そしてクラシックシーズンは終盤戦へ

by 福光俊介 / Syunsuke FUKUMITSU
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 かつてのアルデンヌの王者が完全復活をアピールしている今シーズン。フィリップ・ジルベール(ベルギー、クイックステップフロアーズ)は、4月16日のアムステル・ゴールドレースで通算4回目の優勝を遂げた。今年からコースが一新し、新たな展開が予想されていたが、そうした中でもしっかりと勝ってみせた。今回は、“ニュー・アムステル”で見られた傾向と今後の可能性、そしてクラシックシーズン終盤戦の展望をお届けしたい。

コース一新のアムステル・ゴールドレースは、フィリップ・ジルベール(先頭)が優勝。予想通り新たな展開が勝負を分けた Photo: Yuzuru SUNADA

“最後のカウベルグ”廃止で見られた積極性

 オランダやベルギーの丘陵地帯を舞台に、3つのビッグレースが行われるアルデンヌクラシック。その初戦は、恒例のアムステル・ゴールドレース。マーストリヒト郊外を巡る261kmのコースは、合計35カ所の急坂区間と「1000のカーブ」と呼ばれるテクニカルなルートが特徴だ。

オランダの丘陵地帯が舞台のアムステル・ゴールドレース。フィニッシュ地点変更はレース展開に大きく影響を及ぼした Photo: Yuzuru SUNADA

 そんなレースに、今年は大きな変化が生まれた。これまで、数々の名勝負が生まれた上り坂「カウベルグ」が4回通過から3回通過に変更。特筆すべきは、フィニッシュ手前1.8kmで頂上を迎えた“4回目のカウベルグ”が廃止されたことだ。

 カウベルグの頂上にフィニッシュが設けられていた時代も含めて、このレースの風物詩だった上りは、勝負に大きな影響を及ぼす一方で、カウベルグ一辺倒の展開になりがちという、いわばマンネリ化した状態にあった。それを刷新すべく、フィニッシュエリアを変更し、直前の上りも緩やかという、多くの選手にチャンスが生まれるルート設定となった。

 コース変更が発表された当初は、「スプリンターにもチャンスあり」との声も聞かれたが、実際のレースではスプリンター系ライダーの出走は少なめ。スプリンターでも対応可能なのは、あくまでのフィニッシュ直前のレイアウトに限定されたものであって、全行程を見ていった場合には、次々訪れる上りで苦しめられるであろうとの判断を、多くのチームが下したものと思われる。

 とはいえ、重要局面を中心にスピード感満載の展開となったことは事実。カウベルグ勝負であれば、「個の力」で局面打開は可能だったが、それが不可能となったいまは展開を読む力が試された印象だ。どこでレースを動かし、集団の人数を絞っていくかといった側面は、力のある選手といえどスマートさが求められた。

ティシュ・ブノート(先頭)のアタックでレースが動いた残り約40km地点の「クルイスベルグ」は来年以降も重要な局面となりそうだ Photo: Yuzuru SUNADA

 レースが大きく動いたのは、フィニッシュまで残り40kmを切った「クルイスベルグ」と、残り28kmの「ケウテンベルグ」。この2カ所でほぼレースが決まってしまったほどに、有力選手たちの力ある仕掛けが見られ、実際に対応できた選手たちが優勝争いを繰り広げることとなった。大幅なコース変更がないことを前提に考えるならば、このポイントは今後も重視されることとなるだろう。

 今回は残り6.5kmの「ベメレルベルグ」でミカル・クウィアトコウスキー(ポーランド、チーム スカイ)がアタックし、ジルベールが乗じる形となったが、来年以降はあらゆる展開が考えられそうだ。この坂でアタックが決まらないようなことがあると、フィニッシュは小集団でのスプリントや、牽制状態から一瞬のスキを突いたアタックなど、見ごたえのある駆け引きが楽しめるはずだ。ただ、この先もスプリンターが勝利するのは至難の業。可能性があるとすれば、上れるスプリンターが最後まで生き残った末に勝利を収める、といったパターンくらいか。

 コース変更によって、実力者たちが早い段階で自ら動くシーンが多く見られ、大会主催者の狙いにあった積極的なレース展開は、しっかり実を結んだ。

今回はフィリップ・ジルベール(右)とミカル・クウィアトコウスキーのマッチスプリントとなったが、今後は最終局面にあらゆるパターンが生まれそうだ Photo: Yuzuru SUNADA

ジルベールは負傷によりアルデンヌ残り2戦を欠場

 新コース最初の王者となったジルベールだが、後日アルデンヌクラシック残り2レース、フレーシュ・ワロンヌとリエージュ~バストーニュ~リエージュ、さらにその先のジロ・デ・イタリア(5月5日開幕)を欠場すると発表した。

アムステル・ゴールドレースでの歓喜から一転、フィリップ・ジルベールはこのレースでの負傷で戦線を離脱する Photo: Yuzuru SUNADA

 理由は、優勝したアムステル・ゴールドレースでの落車による負傷。残り約130kmの地点で、ミケル・ヴァルグレン(デンマーク、アスタナ プロチーム)とともに落車。すぐにレースに復帰し、優勝を果たしたが、その後に痛みが出たという。診断の結果、右側の腎臓を損傷。ジルベール本人によれば、「落車した瞬間には痛みを感じていたが、レース復帰後はそれが和らいでいた。レース後に腰の痛みがあって病院へ行くことになった」と説明。ただ、深刻なものではなく、2週間後にはトレーニングを再開できる見込みだとしている。

アルデンヌクラシック終盤戦展望

■ラ・フレーシュ・ワロンヌ(4月19日、204.5km)

ラ・フレーシュ・ワロンヌ2017ルートマップ ©︎A.S.O.

 クラシックレースの舞台は、ベルギー南部のワロン地方へ。フランス国境に近いバンシュをスタートし、東へ針路をとる。細かなアップダウンは終始続くが、急坂セクターはレース後半に集中。前回の12カ所から9カ所と減ったものの、勝負を左右するうえで重要な上りが待ち受けている。

 何といっても注目は、ミュール・ド・ユイ(ユイの壁)だ。登坂距離1.3km、平均勾配9.6%、上りの後半に最大勾配26%にまで達する激坂が選手たちの力を試す。登坂3回目の頂上にフィニッシュが設けられ、そこで勝負が決するのは確実。ラスト10kmはスプリントさながらのトレインが組まれ、チーム単位での激しいポジション争いが繰り広げられる。

 UCI(国際自転車競技連合)ウィメンズワールドツアー「ラ・フレーシュ・ワロンヌ・ファム」も同日開催。こちらはミュール・ド・ユイを発着とする120kmで争われる。ユイの壁は2回通過し、男子同様に頂上にフィニッシュが設けられる。

■リエージュ~バストーニュ~リエージュ(4月23日、258km)

リエージュ〜バストーニュ〜リエージュ2017ルートマップ ©︎A.S.O.

 1892年に第1回大会が行われた世界最古のクラシックレース。最古参を意味する“ドワイエンヌ”との別名をもち、歴史と格式の高い「モニュメント」と呼ばれるレースの1つだ。

 登坂ポイントは10カ所だが、1つ1つの上りが厳しく、獲得標高は4000mを超える。なかでも、残り35.5kmのコート・ド・ラ・ルドゥット(登坂距離2km、平均勾配8.9%)、残り19kmのコート・ド・ラ・ロッシュ・オウ・フォーコーン(1.5km、9.3%)が終盤のアタックポイント。この2つの上りでメーン集団の人数は絞られることだろう。戦力が充実しているチームであれば、サブエースが飛び出して、ライバルチームの動きを探ることも考えられる。

 最終盤は、残り5.5kmのコート・ド・サン・ニコラ(1.2km、8.6%)、そしてフィニッシュまでの約1.5kmが上り基調。優勝争いに大きな動きが起こりそうな局面だ。ここで決定的な動きが起きないようだと、優勝争いは生き残った選手たちによるスプリントに委ねられる。

 また、UCIウィメンズツアー「リエージュ~バストーニュ~リエージュ・ファム」が初開催される。こちらは135.5kmで争われ、男子レースの後半部分と同じコースが一部採用される。男子同様にアップダウンでのサバイバルレースが予想される。

■注目選手

 本来であれば優勝候補と目される選手たち欠場発表が相次いでいる。ジルベールのほか、チームメートのジュリアン・アラフィリップ(フランス)も4月上旬のブエルタ・アル・パイス・バスコでの落車で右膝を負傷。戦線を離脱している。また、昨年のリエージュ覇者、ヴァウテル・プールス(オランダ、チーム スカイ)も欠場が決まり、2連覇の目標は果たすことができない。

アレハンドロ・バルベルデはスペインでのステージレースを2連勝。ラ・フレーシュ・ワロンヌ4連覇へ視界は良好だ Photo: Yuzuru SUNADA

 俄然優勝に近い存在となっているのが、アレハンドロ・バルベルデ(スペイン、モビスター チーム)。昨年までラ・フレーシュ・ワロンヌを3連勝しており、前人未到の4連覇に挑戦する。16日のアムステル・ゴールドレースでは19位に終わったが、あくまでもその後の2戦に集中していると見てよいだろう。3月下旬のボルタ・ア・カタルーニャ、その後のブエルタ・アル・パイス・バスコを連続して総合優勝したことから見ても、状態は万全と見られる。

チーム スカイはミカル・クウィアトコウスキー(中央)とセルジオルイス・エナオ(左)の強力コンビで勝利を狙う Photo: Yuzuru SUNADA

 アムステル2位のクウィアトコウスキーもタイトル獲得に期待がかかる1人。チーム スカイはセルジオルイス・エナオ(コロンビア)も控え、展開次第でどちらでも勝負が可能。急坂に強いエナオがフレーシュ、スピードのあるクウィアトコウスキーがリエージュと、狙いを定めることもありそうだ。

 ジルベールとアラフィリップを欠くクイックステップフロアーズは、ダニエル・マーティン(アイルランド)が軸になる。リエージュでは2013年以来の優勝を狙う。

アムステル・ゴールレース3位のミヒャエル・アルバジーニはサイモン・ゲランスとの共闘でチャンスをうかがう Photo: Yuzuru SUNADA

 オリカ・スコットもアムステル3位のミヒャエル・アルバジーニ(スイス)、サイモン・ゲランス(オーストラリア)と、2人の優勝候補を送り込む。ゲランスは2014年にリエージュを優勝。小集団でのスプリントになれば、両者ともに強さを発揮する。

 日本人ライダーでは、アムステルに続き別府史之(トレック・セガフレード)と新城幸也(バーレーン・メリダ)が出場予定。女子では、與那嶺恵理(エフデジ・ ヌーヴェル=アキテーヌ・フチュロスコープ)の出場が明らかになっている。

今週の爆走ライダー−ミヒャエル・ゴグル(オーストリア、トレック・セガフレード)

「爆走ライダー」とは…

1週間のレースの中から、印象的な走りを見せた選手を「爆走ライダー」として大々的に紹介! 優勝した選手以外にも、アシスト や逃げなどでインパクトを残した選手を積極的に選んでいきたい。

 16日のアムステル・ゴールドレースでは終始好位置を走り、最終的に8位。ファビオ・フェッリーネ(イタリア)との共闘で、よい流れを作り出した。アルデンヌクラシックでの活躍を目標に据えた今シーズン。ここまでは目立ったリザルトはなかったが、順調に調整が進んだ成果が現れた。

アムステル・ゴールドレース8位のミヒャエル・ゴグル。満足する一方で、さらに上を狙えるとの思いも強まった。アルデンヌ残り2戦への期待が膨らむ © Trek - Segafredo

 有力選手が動いたクルイスベルグの上りで対応に苦慮したことで、先手を打って攻撃していく必要性を感じたという。8位でのフィニッシュは、積極的に走った結果だと分析。同時に、もっと上を狙えるとの思いも強まった。

 自転車競技を本格的に始めたのは15歳のとき。それまではアルペンスキーに傾倒していたが、その世界では大成できないと悟ったという。もともとオフシーズンのトレーニングに取り入れていた自転車だったが、転向して才能を開花させることになる。ティンコフで走った昨シーズンは、プロ入り1年目にして早くもアルベルト・コンタドール(スペイン)のアシストを務めるなど、将来のエース候補として期待をされてきた。コンタドールとともに現チームに移籍し、さらなる飛躍を目指しているところだ。

 「この日のために3週間、真剣に準備をしてきた。この走りは、残るアルデンヌ2レースと将来へとつながることを意味する」と、アムステル後に自信を口にするなど、自らの走りに大きな手ごたえを感じている。勢いはフレーシュ、リエージュへも続くか。ビッグネームが調子を合わせてくる2つのレースで結果を残してこそ、強さが本物であることを証明できる。23歳の挑戦はこれからが本番を迎える。

福光俊介福光俊介(ふくみつ・しゅんすけ)

サイクルジャーナリスト。自転車ロードレース界の“トップスター”を追い続けて十数年、今ではロード、トラック、シクロクロス、MTBをすべてチェックするレースマニアに。現在は国内外のレース取材、データ分析を行う。自転車情報のFacebookページ「suke’scycling world」も充実。UCIコンチネンタルチーム「キナンサイクリングチーム」メディアオフィサー。ウェブサイト「The Syunsuke FUKUMITSU

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