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一から始めるパワートレーニング<3>パワトレメニューってどうやって作るの? 「レース強度を考えたプラン作りが大切」

by 松尾修作 / Shusaku MATSUO
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 FTP計測をした白戸太朗さんのパワーデータを元に、コーチを務める宮澤崇史さんは出力の値や癖を解析し、パワートレーニングメニューを作成した。しかし、パワー、ケイデンス、心拍数、勾配など複雑なグラフを読み解くのはパワトレビギナーには難しい。ロードレース向けに、誰もが簡単に実践できるポイントを踏まえ、パワトレビギナーが初めて実践できるメニュー作りのコツを宮澤さんに聞いた。

「レースのシチュエーションを考えたトレーニングメニューが大事」と強調した宮澤崇史さん Photo: Shusaku MATSUO

←<1>“ビギナー”白戸太朗さんが初めて使うパワーメーター FTPって何のこと?

←<2>20分間の最大出力テストにチャレンジ 白戸太朗さんがFTPを計測

「一定パワーの維持」も技術が必要

白戸さんが出場したレースのパワーデータを解析する宮澤さん Photo: Shusaku MATSUO

 FTPチャレンジで計測されたデータは宮澤さんへと送られ、分析された。データを元に「テンポとペースを一定に速く走る」を目標にメニューが組まれ、白戸さんは仕事、ラン、スイム練習の合間にバイクを練習。4月にアメリカ・カリフォルニア州で開催されたトライアスロン「アイアンマン 70.3 オーシャンサイド」にパワーメーター付きのバイクで出場し、完走を果たした。

白戸さんが出場したレースの走行データの一部。標高を表すグラフ(グレー)で、斜度が上がるとパワー(ピンク)が激しく上下している

 レースのデータを分析した宮澤さんは「前半からパワーの動きが激しいですね。また、標高のグラフを見ると、斜度が厳しくなったポイントや、坂の上り口で出力が極端に高くなる癖が見受けられます。トライアスロンのように一定ペースで走る際、インターバルがかかっては後半までに疲れが溜まり、出力を保てなくなってしまいます」

 「その証拠に後半の出力はバラつきは少なく、瞬間的にパワーが上がっても前半よりも低いことから、疲労が出ていると感じます」と白戸さんの走りを解説した。「たとえ勾配が急にきつくなったり、他の選手に抜かれてもペースを保ちながらじわじわとパワーをあげなければなりません。スピードを意識してしまうと勾配や風変化でパワーがバラバラになってしまいます」と付け加えた。

「赤の線が計測した出力傾向、青い線が理想の傾向」と説明する宮澤さん Photo: Shusaku MATSUO

 「ここから分かることは2つあります。1つはメーターを見ながらでもパワーを一定に保つのは難しいこと。これはパワトレの最中にも課題になります。もう1つは、レースを想定したパワートレーニングが必要になるということです。トライアスロンでは一定ペースで走ることが求められるため、白戸さん向けにはアベレージスピードを高めるメニューを組みました」

 一方、ロードレースのトレーニングはトライアスロンのそれとは全く異なってくる。「ロードレースではアタックをかけたり、逃げたり、他の選手の動きに合わせた走りが求められるので、一定ペースではなくインターバルがかかります」と宮澤さん。実際のレースを想定し、初心者でも自分のFTPデータをもとにパワトレメニューを構築するにはどうしたらよいのか? 宮澤さんに「本番1カ月前から組み立て、初めてでも実践できて結果を出せる」メニュー作りのコツを聞いた。

パワトレ実践で1カ月でレースへ

 宮澤さんは「まずは自分が計測したFTPの値と、次の一覧を照らし合わせて、トレーニングで求められる強度の『レベル』を確認してみてください」と説明した。

◆トレーニング強度のレベル

レベル1(L1):「アクティブリカバリー」=FTPの55%以下
レベル2(L2):「エンデュランス」=FTPの56-75%
レベル3(L3):「テンポ」=FTPの76-90%
レベル4(L4):「スイートスポット」=FTPの88-94%、「LT」=FTPの91-105%
レベル5(L5):「VO2max」=FTPの106-120%
レベル6(L6):「アネロビック」=FTPの121-150%
レベル7(L7):「スプリント」=MAXパワー

 「パワートレーニングは練習で高いパワーを出すことが目的ではなく、あくまでレースで結果を出したり、楽に長い距離を走るためのトレーニングです。今回は群馬県のコース『群馬サイクルスポーツセンター』を例に考えてみましょう。コースは1周6kmですが、大きなポイントでは2回くらいしか“踏む上り”がありません。“リフト下の上り”で300~400Wで30秒ほど、“心臓破りの上り”では体重の8倍半ほどの出力値が1分弱位踏むことになります。あとは下りや平地なので、あまり踏まなくてもいいコースです。踏んでいる間だけのパワーを平均化したノーマライズドパワー(NP値)が高いコースですね。ホビーレースなら5周ほど走るのでしょうか。計10回踏みきることができれば結果に繋がるわけです」

 「まずはパワーを上げることに慣れることから始めましょう。レベル5(L5)からで90秒間頑張ってみます。体の調子を見ながら週に2~3回、はじめは3本1セットほどから行ってみましょう。このインターバルはL2で走りながら十分に回復させてください。また、慣れてきたらこのメニューにプラスしてL3を5分2本混ぜてみてもいいですね。集団の中で休める余裕が生まれます」と説明。インターバル中のレストは「L5で1回90秒をしっかりと踏める時間をレストに充てて下さい。レストが短すぎてL5の最中にへばってしまうと意味がありません。これはインタバールの回数や、強度が上がっても当てはまります」と解説した。

 「ちなみに、僕は現役時代にL2はケイデンスが大体75~80回転でトレーニングしていました。もう少し高いケイデンスでも同じワット数は出せるのですが、ゆっくりとした動きの中で低い出力でスピードを出し、なるべく心肺機能に負担をかけないようにしました。心肺機能が限界を迎えたら踏めなくなりますが、筋ダメージはある程度受け入れることができます」とコツを述べた。レース中はトレーニング中のケイデンスから約10%ほど高かったという。

初心者レース前1カ月のメニュー(例)

1週目:90秒(L5)×3本(リカバリーはL1)、+5分(L3)×2本を2~3日間/週
2週目:90秒(L5)×4本(リカバリーはL2)、+5分(L3)×2本を2~3日間/週
3週目:90秒(L5)×3本(リカバリーはL1)、+5分(L3)×2本を2~3日間/週
4週目:調整期間
※インターバル間のレストはメニューのゾーンレベルを維持できる時間を取る

「ウィークポイントを見つけ、応用していきましょう」と話す宮澤さん Photo: Shusaku MATSUO

 「パワトレ開始2週目はインターバルの回数を3回から4回に増やしてみてください。ここで大事なのは『キツいけどなんとかなった』という自信と成長を自ら感じることです。3週目までくると、高強度と低強度のインターバルに慣れてくると思います。更に回数を増やしていきましょう。この練習はレース中、上りきったところから下りへ向けて踏まなくてはいけない場面で、ポジジョンを下げずに、アコーディオンのように伸び縮みする集団内でも余裕を持って立ち回れることに繋がります。また、集団で前方にいるためには常に細かく踏まないといけないので、強度に慣れることがポジションキープにも繋がり、レースの結果が期待できます」

 「4週目は自分が得意なトレーニングをして、自信を持ってレースへに臨みましょう!」

 「例えば極端な話、ツール・ド・おきなわ210kmの走り方と、ヒルクライムでは全く違いますね。沖縄は超距離を走るベースの高さは大事ですが、最大パワーはそれほど必要ありません。逆にヒルクライムは時間が短いので、沖縄のような長いトレーニングは必要なく、1時間の最大パワーにフォーカスしたトレーニングが必要になります。ロングのトライアスリートは、前者の沖縄向きのトレーニングがあてはまってきます。

 「1カ月間パワトレを行い、レースに出場すると色々見えてくるものがあるはずです。『想定よりも更に出力が求められた』とか『強度は大丈夫だったけど、みんなより長い時間踏めなかった』など振り返ることができます。例えば『僕はスプリント力があるから、集団に残れさえすればいい』と気づけたら、次回からL3とかL4の強度で長く踏む練習を行います。また、『1人逃げを決めたい』と考えた人は、例えばL5を15分行う練習をして勝機を見出すなど、様々な応用が考えられるんですよね。まずは1カ月のパワトレをしてからレースに出場し、自らのウィークポイントを探してみてください」とアドバイスした。

「パワトレで成長を感じ、レースに余裕を持って走り、経験を積むことが大事」と力説した Photo: Shusaku MATSUO

 それでは、1カ月間のパワトレでレースに勝てるのだろうか。宮澤さんは「それは難しいと思います」と言い切る。「しかし、レースに出るたびに『後ろに、後ろに』とポジションを落としていた人が、集団前方に留まることはできるかもしれません。そうすると、レースで今何が起こっているのかという“流れ”が分かりますし、余裕が出てくればアタックが出来るかもしれません。パワーを出せばレースに勝てるということはありませんが、レース中に何ができるのかというヒントをパワーメーターは与えてくれ、ライダーを成長させてくれます」と総括した。

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