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福光俊介の「週刊サイクルワールド」<205>“メンタル”が勝敗を分けたパリ~ルーベ クラシックシーズンはアルデンヌへ

by 福光俊介 / Syunsuke FUKUMITSU
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 落車とそれによるメカトラブルで、パリ~ルーベの難所の1つであるアランベールを前に、一時はメイン集団と40秒ものビハインドを背負ったグレッグ・ヴァンアーヴェルマート(ベルギー、BMCレーシングチーム)。チームメートのアシストで集団に復帰してからは冷静さを取り戻し、初のモニュメント勝利へ前進を続けた。その走りを支えたのは、ライバルを上回る圧倒的な“メンタル”だった。優勝を賭けて争った選手たちのレース後コメントをもとに、「クラシックの女王」と称される厳しくも美しいレースを紐解く。そして、いよいよ始まるアルデンヌクラシックに向けた展望もお届けする。

パリ〜ルーベで優勝争いを演じた3選手。勝負を分けたのは“メンタル”だった Photo: Yuzuru SUNADA

勝利への執念がフィニッシュでの差に

 昨年のツール・ド・フランスでのマイヨジョーヌ着用から始まり、リオデジャネイロ五輪ロードレース金メダル、そして今年のクラシックシーズンでの強さ。ヴァンアーヴェルマートの快進撃がとどまる気配は今のところ感じられない。

グレッグ・ヴァンアーヴェルマートの北のクラシック勝利は、いずれも少人数スプリントで共通している Photo: Yuzuru SUNADA

 レース後のインタビューでは、「クラシック3勝でも素晴らしいのに、この歴史ある大会で勝つことができてさらなる喜びを感じている」と語ったヴァンアーヴェルマート。2月25日のオンループ・ヘットニュースブラッド、3月24日のE3ハレルベーク、同26日のヘント~ウェヴェルヘム、そしてパリ~ルーベ。石畳系レースでの勝利に共通しているのは、少人数スプリントを制している点にある。

 要所でアタックし、集団の人数を絞ったうえで勝負に備える。決して独走に持ち込むほどの威力あるアタックではないが、力のある選手だけで先行することによって後続との差を広げながら、勝負の瞬間に備える戦法は、このところの勝ちパターンとなっていた。そして、スプリンター顔負けの最終局面での強さも光る。

インタビューに答えるグレッグ・ヴァンアーヴェルマート。スプリントになれば絶対の自信があったことを強調した Photo: Syunsuke FUKUMITSU

 今回のパリ~ルーベに限って見れば、誰よりも勝利にこだわっていたことが言葉からもうかがえた。「スプリントには絶対の自信があった。少人数でのスプリントは得意だし、これまでのレースでもそれを証明してきた」と述べ、ルーベのヴェロドロームに入ってからも「常に勝つつもりでいた」と続けた。「彼らにはもう少し協力してほしかった」と振り返ったように、この日のライバルとなったズデニャック・シュティバル(チェコ、クイックステップフロアーズ)やセバスティアン・ラングフェルド(オランダ、キャノンデール・ドラパック)との協調体制が思うように整わなかった状況でも、こうした自信から冷静に対処してみせた。

グレッグ・ヴァンアーヴェルマートの勝利を喜び合うダニエル・オス(奥)とジャンピエール・ドリュケール。再三に渡ってエースを助けた Photo: Syunsuke FUKUMITSU

 とはいえ、強い自信の裏側には、持ち前のスピードやパワー、そしてチャンスをものにする勝負強さを兼ね備えていることを忘れてはならない。数年前までは、力があると誰もが認めていながらどこか勝ちきれずにいた彼が、キャリアのピークを迎えて完全なる強さを身につけたこと。心身の充実や、今回クラッシュ直後の彼をサポートしたダニエル・オス(イタリア)やジャンピエール・ドリュケール(ルクセンブルク)といったアシストに恵まれていること。それらの要素が、いまのヴァンアーヴェルマートの強さを引き出しているのだ。

 そんな彼のクラシックシーズンは、もう少し続くことになる。インタビューの場で、4月16日のアムステル・ゴールドレースへの参戦を正式に発表。コースレイアウトが変わり、多くの選手にチャンスが生まれると予想される戦いに、勇んで臨む。目標はもちろん優勝。北のクラシックとアルデンヌクラシックにまたがる、驚異の“5冠”を目指して突き進む。

最後までボーネンの勝利を願ったシュティバル

 2015年に続く、2度目の2位となったシュティバル。フィニッシュ直後は手で顔を覆い、悔しさをあらわにしたが、表彰式では笑顔を取り戻した。

レースを振り返るズデニャック・シュティバル。自身の結果以上に、トム・ボーネンとの共闘ができなかったことを悔やんだ Photo: Syunsuke FUKUMITSU

 「2位という順位は個人としては満足」と言葉を切り出したが、続いて出たのは「今回はそれでは意味がない。トムと最後まで一緒に走り、優勝へと導かなければならなかった」。この日が現役最終レースであったチームメートのトム・ボーネン(ベルギー)を絶対エースに据え、“有終の美”にこだわってスタートラインについただけに、自身だけが優勝争いに絡んだ状況は「失望しかない」と悔やむ。

 ヴァンアーヴェルマートとラングフェルドとの先頭グループでは、先頭交代のローテーションを飛ばす場面が目立った点についても、「ボーネンが後ろにいたから」とし、エース待ちという戦術的な理由を挙げた。ただ、逃げ切りが濃厚となってからは、スプリントではヴァンアーヴェルマートには勝てないと判断。アタックを何度か試みたが、失敗に終わった。

 ヴァンアーヴェルマートとの力の差だけではなく、ボーネンを待つという悩ましい状況も勝負を分けた印象だ。来シーズンはエースとしてパヴェに戻ってくる可能性も高いが、ライバルにはスプリント力の高い選手がひしめいており、最後までもつれるようなレースでは脚質的に不利となる。アタックを決めて有利な状況を作り出せるかが、今後の課題となる。

殊勲のラングフェルド チームを救う

 この時期の絶対エースとなるはずだったセップ・ヴァンマルク(ベルギー)を負傷と体調不良で、実力者のテイラー・フィニー(アメリカ)はツール・デ・フランドルでの落車で負った脳震盪の影響と、重要な戦力を欠いていたキャノンデール・ドラパック。苦しい台所事情を救ったのが、3位に食い込んだラングフェルドだった。

厳しいチーム状況ながら3位と健闘したセバスティアン・ラングフェルド Photo: Yuzuru SUNADA

 レース前半のメカトラブルを乗り越え、積極的に展開した後半から終盤にかけての走り。最後は力尽き優勝は逃したが、「私より上位にいるのはヴァンアーヴェルマートとシュティバルという本当に強い選手だけ。(3位は)今日の私にふさわしいポジションだ」と笑顔でコメント。「パリ~ルーベの表彰台に立つことができて、本当に誇りに思っている」と続け、満足感を表現した。

 こちらもヴェロドロームを前に仕掛けたかったようだが、体力的に厳しかったと打ち明ける。また、追走グループにはチームメートのディラン・ファンバール(オランダ)が控えていたことによる戦術的な理由も挙げている。

 ここ数年は体調不良に苦しんでいたが、この好走で完全復活といえそうだ。今年のクラシックシーズンは数年ぶりに好調で迎えられたといい、低調な結果に終わったレースがあっても「必ずしも調子が結果に結びつくとは限らない」と割り切ることができていたとも話す。かつてはクラシックの上位常連だっただけに、気持ちの部分での安定が復活につながり、さらにはチームとしてもその走りが計算できるものになったと見てもよさそうだ。

将来への可能性を予感させた若き追走2人

 戦いのフィナーレとなるルーベのヴェロドロームを熱狂させたのは、先頭でたどり着いた3人だけではなかった。この選手たちに追いつき、優勝争いを混沌とさせたのは、24歳のジャスパー・ストゥイヴェン(ベルギー、トレック・セガフレード)と22歳のジャンニ・モスコン(イタリア、チーム スカイ)だった。

先頭グループを猛追したジャスパー・ストゥイヴェン(左)とジャンニ・モスコン。ルーベのヴェロドロームで劇的な展開を演出した Photo: Yuzuru SUNADA

 結果的に、追いついた瞬間にスプリントが始まったことで、ヴァンアーヴェルマートらに太刀打ちできなかったが、粘り強く追走を続け、牽制する先頭3人に追いついた点は大きな評価に値する。

 ストゥイヴェンは当初、クラシックシーズンのエースの1人とされていたが、思うような結果が残せず、この大会でもジョン・デゲンコルブ(ドイツ)のアシストとなっていた。この扱いには「正直落ち込んでいた」というが、この結果をもってしてエース扱いにふさわしい選手であることを改めて証明。表彰台を惜しくも逃したが、「満足できる結果だ」と振り返る。

 モスコンはその若さから、15年前に初出場ながら3位に食い込んだ22歳当時のボーネンと重ねる関係者も多いよう。奇しくも、この日ボーネンは現役を引退。国籍こそ違えど、将来はボーネンのような偉大なライダーとなる可能性を感じさせる激走だった。

 今後の成長が期待される選手が優勝争いに加わったあたりに、石畳系クラシックの未来と、彼らを筆頭に世代交代の時が刻一刻と迫っていることを印象付けたといえよう。

アムステル・ゴールドレース展望

 クラシックシーズンは、オランダやベルギー南部の丘陵地帯へと舞台を移す。その初戦となるのが、4月16日にオランダで開催されるアムステル・ゴールドレースだ。

アムステル・ゴールドレース2017ルートマップ ©︎AMSTEL GOLDRACE

 数々の急坂とテクニカルなコーナーが選手と苦しめ、最後には名所「カウベルグ」がレースの行方を左右してきた。多くのチャンピオンを生んだカウベルグだが、今年からこのレースにおける扱いが大きく変わってくる。

 35もの登坂セクションと261kmというレース距離は、これまでとの違いはそれほどないが、昨年まで4回通過したカウベルグが3回通過に変更。最後の通過となる3回目は、フィニッシュまで残り19km地点となる。代わって、ダールヘーメル通りがフィニッシュ地点に採用される。

 コース変更の理由は、「カウベルグが勝負するうえではあまりにも決定的な場所だった」というもの。ダールヘーメル通りは、ラスト2kmで上りが終わり、そこからフィニッシュまではほぼ平坦。上りも緩やかと見られており、これによってスプリンターを含む多くの選手に勝機が生まれるとの予想がされている。

2016年のアムステル・ゴールドレース覇者、エンリーコ・ガスパロットは2連覇をかけて参戦する Photo: Yuzuru SUNADA

 それでも、多くのチームが“アルデンヌ編成”のメンバーで臨むようだ。昨年優勝のエンリーコ・ガスパロット(イタリア、バーレーン・メリダ)や、一昨年優勝のミハウ・クフィアトコウスキー(ポーランド、チーム スカイ)、ツール・デ・フランドルでの優勝が記憶に新しいフィリップ・ジルベール(ベルギー、クイックステップフロアーズ)あたりが戦いの中心となるか。ロマン・クロイツィゲル(チェコ、オリカ・スコット)も優勝経験のある1人。

 集団でのスプリントとなれば、アレハンドロ・バルベルデ(スペイン、モビスター チーム)やマイケル・マシューズ(オースラリア、チーム サンウェブ)、そしてルーベを勝利したばかりのヴァンアーヴェルマートらにチャンスが訪れる。上りで勝負を仕掛けたいチームと、スプリントに持ち込みたいチームとの駆け引きも見ものとなりそうだ。

 そして、日本勢も別府史之(トレック・セガフレード)と新城幸也(バーレーン・メリダ)が出走の見通し。ともに層の厚いメンバーの中からアルデンヌクラシックのレギュラー入りを勝ち取った。両者ともスピードと登坂力の高さで、新コースにも十分適応することだろう。

今週の爆走ライダー−エドワード・トゥーンス(ベルギー、トレック・セガフレード)

「爆走ライダー」とは…

1週間のレースの中から、印象的な走りを見せた選手を「爆走ライダー」として大々的に紹介! 優勝した選手以外にも、アシスト や逃げなどでインパクトを残した選手を積極的に選んでいきたい。

 昨年のツール・ド・フランス第13ステージ。個人タイムトライアルでコースに繰り出したトゥーンスは突風によって、バイクもろともコース外へと飛ばされてしまった。激しく地面に叩きつけられた体は、脊椎骨折との診断が下った。快調に進んでいたトップチームでの1年目。大会の序盤にはスプリントで上位フィニッシュを繰り返すなど、その先の見通しが明るかった中でのアクシデントだった。

2016年のツール・ド・フランスで負ったけがから立ち直ったエドワード・トゥーンス Photo: Yuzuru SUNADA

 けがの代償は大きい。背骨にはいまだにプレートとネジが埋め込まれており、ライド中の背中の痛みも避けられない状況にある。それでも、今シーズンは1月からレースに参戦。痛みが耐えられたのは、北のクラシックを走るとの目標があったからだった。

 その思いを力に変え、パリ~ルーベで8位フィニッシュ。「けがをしてから今までのことを思うと、最高の結果だ」と喜んだ。チームはストゥイヴェンが4位。エースのデゲンコルブも10位に続き、自身を含めた3選手がトップ10入り。チーム力の高さを証明した中心に、トゥーンスの姿があった。

 これでレース活動はひと段落。休養に入り、4月21日には背骨の金属を取り除く手術に臨む。10日ほどでトレーニングを再開できるといい、すでに再始動に向けたイメージはできているのだとか。

 決して本調子とは言えない体で石畳を駆け抜けた。背中の痛みが癒えたときにはどれだけの力を発揮するのだろうか。そんな楽しみが膨らむ25歳。再び走り出し、レースへ戻るときにはクラシックと並ぶ「もう1つの顔」であるスプリンターとしての役割が待ち受ける。けがの不安は、きっと自らの走りによって払拭することができるはずだ。

パリ〜ルーベでは復活を印象付ける8位フィニッシュ。エドワード・トゥーンスにはスプリンターとしての期待も膨らむ Photo: Yuzuru SUNADA
福光俊介福光俊介(ふくみつ・しゅんすけ)

サイクルジャーナリスト。自転車ロードレース界の“トップスター”を追い続けて十数年、今ではロード、トラック、シクロクロス、MTBをすべてチェックするレースマニアに。現在は国内外のレース取材、データ分析を行う。自転車情報のFacebookページ「suke’scycling world」も充実。UCIコンチネンタルチーム「キナンサイクリングチーム」メディアオフィサー。ウェブサイト「The Syunsuke FUKUMITSU

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