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つれづれイタリア~ノ<87>プロ選手は“存在”がチームのもの 自転車競技における肖像権問題

by マルコ・ファヴァロ / Marco FAVARO
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自転車競技では、選手が自由に自分の肖像権を使用することは許されていない(写真は本文と関係ありません)

 今回は、プロ選手を目指す若者たちにしっかり読んでほしい話題です。選手が必ず直面する肖像権使用問題に関わることです。とある自転車競技のプロチームで、ある問題が発生しました。チームが把握していないところで、選手が個人スポンサー契約を結んでいたことが明らかになったのです。選手が移籍をする前にお世話になっていた個人スポンサーを申告せずに、その関係を継続していたのです。最終的にその選手には罰則は与えられず、チームとして選手を集めてスポンサーに関する再教育を行うことで解決しました。

プロスポーツ界でのスポンサーの意義

 日本ではチームを持たない若い選手を支える個人スポンサーが数多く存在します。アメリカでも無名選手やマイナースポーツの場合、選手自身がスポンサーの募集に乗り出すことが一般的です。最近では、リオ五輪でカヌー競技の銅メダルに輝いた羽根田卓也選手がそのスタイルで話題になりました。

 いうまでもなくプロスポーツ界においてスポンサーは重要な存在であり、自転車競技においてスポンサーはチームのすべての経費を負担しています。チームマネージャーに求められる最も重要な仕事は、スポンサーとなる企業や個人を見つけることです。契約金から給料や機材、ユニフォーム、備品の費用が支払われ、場合によっては住まいも提供されます。

 ヨーロッパでスポンサーの重要性が増したのが1950年代。その先駆けとなったスポーツが、まさに自転車競技です。スポンサーはチームを支えるだけでなく、選手の成績によって個人的に特別な手当てを払っていました。グランツールやクラシックレースに勝った選手にクルマを提供したり、自宅をプレゼントしたりする場合もありました。その反面、チームとスポンサーの間には絶対的な信頼関係を結ばなければならず、肖像権使用もその一つに含まれます。

契約と同時に個人肖像権が消滅

 自転車競技において、選手は自由に自分の肖像権を使用することが許されていません。UCI(国際自転車競技連盟)の規定によると、選手がチームと契約を結ぶとき、個人肖像権が消滅し、チームに肖像使用権が委ねられます。つまり、選手は個人スポンサー契約ができない仕組みなのです。日本だと、芸能人と所属事務所の関係に似ています。

 なぜこのような不利な条件が生まれたのでしょうか。簡単に説明しましょう。

 プロチームとして活躍するには、UCIに申請をしなければなりません。その上でUCIに対しチーム収入の25%を支払う義務があります。チームはすべての収入源を申告しなければなりません。収入のほとんどがスポンサーからのもので、選手が個人スポンサーと勝手に契約を結んだ場合、チームの収入源とみなされ申告漏れになります。結果としてチームがUCIから違反金を科せられることになります。そのため、自転車競技において原則として個人スポンサーとの契約は禁止されているのです。

 プロ選手がゴール時にジッパーを閉じてジャージを整え、スポンサーロゴに手を当てる行為はおしゃれではなく、すべての面倒を見てくれるスポンサーに対する最高の敬意を表していることを意味します。実際にいくつかの例を見てみましょう。

【2011年、シューズ大手メーカー「Sidi」のCMにリクイガス・キャノンデール(当時)のスポンサーとしてイヴァン・バッソとヴィンチェンツォ・ニバリを起用】

【2010年、スペシャライズドはアスタナのスポンサーとしてアルベルト・コンタドールを起用】

【2015年、スロバキアの通信大手「Slovak Telekom」はスロバキアの国民的ヒーロー、ペテル・サガンを起用】

 一方、安い給料で働いている選手の首を絞めるのは逆効果だとし、特例も認められています。しかし、個人契約の可能性が出た場合、必ずチームと相談しなければなりません。チームのスポンサーと競合するようなスポンサーでなければ特別個人契約が認められる場合はたくさんあります。

 F1ドライバーのアイルトン・セナ(1960-1994)がかぶっていたブラジルの銀行「Nacional」のキャップの話も有名です。興味ある方は、ぜひ調べてみてください。感動する話です。

個人肖像権が認められているケースも

 一方、サッカーの場合は、個人の肖像権が認められています。その背景にはチーム契約金の安さがあります。チームの運営を支える資金源は一般から集められた会員入会金のみで、経営はかなり厳しく、結果としてスポンサーの個人契約が認められたのです。1970年代に入るとサッカーチームにスポンサーがつくようになりましたが、個人契約はそのまま残りました。

 ただし、選手は特別な場合を除き、私服を着用しなければなりません。中田英寿選手、本田圭佑選手や長友佑都選手、野球界のスーパースター、イチロー選手も例外ではありません。もしチームジャージを着て、チーム以外のスポンサーのCMに起用されたら、違反金を支払うことになります。

 これはどのトップスターであっても同じです。さらにチームの公式の活動(トレーニング、大会、公式インタビューなど)の最中は、必ずチームが提供したウェアなどを着用しなければなりません。2013年にドイツトップリーグFCバイエルン・ミュンヘンに所属していたマリオ・ゴメス選手らが別のスポンサーのキャップを被り、トレーニングに行っただけで1万ユーロ(約120万円)の罰金が科されました。

イタリアではジュニア時代から学ぶルール

イタリアジュニア強豪チーム「ワークサービスブレンタ」の選手たちと専属チームマネージャーのイラリオ・コンテッサ氏(中央)©work service brenta

 こうしたスポンサーへの敬意はジュニアの時代から徹底的に叩き込まれるルールです。イタリアでは学校レベルのスポーツチームはほとんど存在しません。スポーツに興味のある若者がまずは地域のチームに入団し、そこから成長していくのが一般的です。ジュニアであっても自転車競技連盟が認める公式大会に出る場合、選手登録のほか、チームと契約を結ばれなければなりません。その中で選手として行うべき行為が明確に記されており、発言もその対象に含まれます。

 2014年、当時チーム スカイに所属していたブラッドリー・ウィギンス(イギリス)はプライベートのウェブサイトに自転車のプライベートコレクションを紹介し、その中で「コルナゴC40」をべた褒めしたところ、チームに自転車を提供しているピナレロ社の怒りを買いました。

 これからプロ選手を目指す人は、円満な選手生活を送るためにもあらゆることについてチームときちんと相談することが大切です。きっと解決策が見つかるはずです。

マルコ・ファヴァロMarco FAVARO(マルコ・ファヴァロ)

東京都在住のサイクリスト。イタリア外務省のサポートの下、イタリアの言語や文化を世界に普及するダンテ・アリギエーリ協会や一般社団法人国際自転車交流協会の理事を務め、サイクルウエアブランド「カペルミュール」のモデルや、欧州プロチームの来日時は通訳も行う。日本国内でのサイクリングイベントも企画している。ウェブサイト「チクリスタインジャッポーネ

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