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栗村修の“輪”生相談<94>19歳男性「平坦、上り以外に短距離型、長距離型などの得意不得意はありますか?」

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 毎度見させてもらっています!

 人生初レースを終えて気付いたことがありまして、出場したのは10kmの平坦周回式で、10kmなどの短距離レースだと自分の力を100%出し切れないんです。やってる最中はかなりきついのですが、終わってみると脚はいい感じに温まり、体力は有り余ってる感覚。

 かなり種類は違いますが富士山五合目まで上るとか、早い速度で長く走るなどは得意なんです。でもクライマーかと思えば平坦は平坦で、部の先輩にビビられたことがあるくらい走れることも…。

 いわゆる平坦、上りの脚力以外に短距離型、長距離型などの得意不得意は存在するのでしょうか? 存在するのならば短距離に強くなるトレーニングなどを教えてもらえないでしょうか。

(19歳男性)

 初レース、おめでとうございます。僕も、15歳で出た初レースを、今でも思い返すことがあります。集団の中を走っていると、なんだか宙に浮いているような変な感じがしたことを鮮明に覚えています。懐かしいなあ…。

 思い出話はともかく、10kmの平坦周回レースで力を出し切れなかったということですね。レースはおそらく「クリテリウム」だと思いますが、上手くいかなかった理由は2つ考えられると思います。

 まず、テクニック面です。自転車レース、とくにクリテリウムは、単なる体力勝負ではありません。仕掛けどころを見抜く目とか、コーナーを安全かつ素早くクリアするセンスとか、テクニックが問われるんです。そのテクニックが不足していたため、力を出し切れなかったのではないか。最中はきつかったけれど、終わってみると、体力の一部を消費しただけだったということですね。

 もうひとつが重要なんですが、フィジカルのタイプです。

 フィジカルのタイプというと、「クライマー」「ルーラー」などと分けられることが良くあります。質問者さんも聞いたことがあるかもしれません。平坦を得意とするか、上りを得意とするか、という区分が多いですね。実際、僕もそういう解説をしてきました。

 しかし、「平坦、上りの区分以外に短距離型、長距離型などの得意不得意はあるのか」という今回のご質問はその区分では説明が難しいですね。

 答えを先に言うと、イエスです。脚質というのは、実はかなり複雑なんです。いちがいに「クライマー」「ルーラー」「スプリンター」とは言えないんですよ。なぜなら、これらの区分以外にも、短距離を得意とするか、長距離を得意とするかの違いがあるからです。

一口にスプリンターと言っても、さまざまな性質に分かれている =ツール・ド・フランス2016第1ステージ Photo: Yuzuru SUNADA一口にスプリンターと言っても、さまざまな性質に分かれている =ツール・ド・フランス2016第1ステージ Photo: Yuzuru SUNADA

 えーと、話を分かりやすくするために自動車のエンジンに例えましょうか。ディーゼルエンジンが…と、ここで担当編集さんからストップが入ってしまいました。近年は若者の車離れが著しく、余計にわからなくなっちゃうリスクがあるということです。僕の思い出の初レースからおよそ30年、日本社会はこんなに変わったのか…と愕然としたわけですが、このことはとっても重要なので、気を取り直して説明します。

 魚、食べますよね。若者の魚離れって聞きませんからね。

 魚には、大きく分けると赤身と白身がありますよね。赤身なら、マグロとかアジとかです。白身は、よく食卓に上るのはヒラメかな? 文字どおり赤い肉と白い肉の違いです。

 脚質を分類する上でとても重要なのが、その選手がマグロタイプかヒラメタイプか、ということです。マジです。

 マグロタイプの赤身の魚は、回遊魚です。海の中を一定のスピードで高速巡行して、小魚を追いかけまわしているわけです。「泳ぐのをやめると死んでしまう」とか言うじゃないですか。ずーっと、ハイスピードで運動できるんですね。砲弾型の体も、いかにも空力、じゃなかった、水の抵抗が少なそうです。

 しかし、俊敏ではないんです。マグロが加減速している映像ってあまり見ないですよね? 一定スピードで動き続けるのは得意なんですが、ダッシュは苦手なんですよ。

 いっぽうのヒラメタイプはどうか。彼らは、海底の砂にじっと身を潜めています。そして、獲物が通りがかったら強烈にダッシュし、食いつく。ダッシュ力がすごいんですよ、白身の魚は。

 ただ、巡航は苦手。ヒラメがびゅーんと海中を泳ぎ続けることって、あまりないようです。あの平べったい体も、海水を蹴って短距離のダッシュ、という運動パターンに特化していますよね。磯に潜んで、獲物が近づくと飛びつくソイやカサゴも同じ白身です。

マグロは海のルーラーだマグロは海のルーラーだ

 マグロタイプが、いわゆるルーラーです。一定強度の運動をずっと続けることが得意なんです。ヒラメタイプは、たとえばスプリンターですね。ダッシュや、速度の上げ下げが得意(もっとも、スプリンターにもマグロ寄りのタイプがいたりするので話はややこしいのですが、ここでは単純化します)。

 人間にも魚にも、長距離の運動が得意な「遅筋」とダッシュが得意な「速筋」との、2種類の筋肉があります。魚の場合、その違いが肉の色として表れていると。

 人間は魚ほど赤身人間・白身人間がはっきり分かれているわけではありませんが、遅筋と速筋との割合には個人差が大いにあります。それが、体重や身長に加えて、脚質の違いになるんですね。

 もうお分かりかもしれませんが、質問者さんはマグロなのです。マグロが生まれたときからマグロであるように、これは生まれつきです。砂地に潜むマグロっていないじゃないですか。

 もちろん、マグロに憧れるヒラメが、猛トレーニングの結果、多少の巡航能力を手に入れることはあるかもしれません。しかしマグロはヒラメになれませんし、その逆もしかりです。特に、マグロタイプの選手がヒラメタイプになるのは難しいそうです。

 平坦系か上り系かも重要ですが、この、マグロ/ヒラメの違いも同じくらい重要だと思っています。

 そして、質問者さんが苦しんだクリテリウムはヒラメ向きのレースです。長距離が得意な質問者さん向けのレースではなかったということです。レース後に体力が余るのも無理がない話です。

 まずは質問者さんの肉体的な長所を理解し、その上で、ご自身のウィークポイントを強化していくトレーニングを取り入れていくことが重要だと思います。質問者さんがクリテリウムで勝つための戦術は集団スプリントに持ち込む形ではなく、縦長の展開の中から独走に持ち込むパターンです。

クライマータイプの選手でも平坦で勝利することは可能だ =クリテリウム・ドゥ・ドーフィネ2016 第3ステージ Photo: Yuzuru SUNADAクライマータイプの選手でも平坦で勝利することは可能だ =クリテリウム・ドゥ・ドーフィネ2016 第3ステージ Photo: Yuzuru SUNADA

 そのためのチャンスを生み出すために、ご自身のウィークポイントであるインターバルを強化し、そして、ストロングポイントである独走力に持ち込むイメージをトレーニングに取り入れていきましょう。

 具体的には、短時間(1セット数十秒~数分)の高強度なダッシュを繰り返したあとに、個人タイムトライアルを取り入れるようなトレーニングが有効だと思います。

 トレーニングを行う上で大切なのは、実戦のなかで自分がどう勝つかをイメージし、そのイメージを具体化してトレーニングのなかに取り入れることです。

 マグロもヒラメも、それぞれの美味しさがありますよね。マグロにはマグロの、ヒラメにはヒラメの勝ち方があることを理解し、その長所をどう引き出すかをイメージしてトレーニングメニューをご自身で考えられるようになると、強い選手になるための第一歩を踏み出せることになると思います。

(編集 佐藤喬)

回答者 栗村修(くりむら おさむ)

 一般財団法人日本自転車普及協会 主幹調査役、ツアー・オブ・ジャパン 大会ディレクター、スポーツ専門TV局 J SPORTS サイクルロードレース解説者。選手時代はポーランドのチームと契約するなど国内外で活躍。引退後はTV解説者として、ユニークな語り口でサイクルロードレースの魅力を多くの人に伝え続けている。著書に『栗村修のかなり本気のロードバイクトレーニング』『栗村修の100倍楽しむ! サイクルロードレース観戦術』(いずれも洋泉社)など。

※栗村さんにあなたの自転車に関する悩みを相談してみませんか?
 ml.sd-cyclist-info@sankei.co.jpまで、タイトルを「輪生相談質問」としてお寄せください。

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