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サイクリスト

世界的に人気急増中の「レッドフッククリット」に本格参戦山村明徳がアメリカの強豪クリテチーム「アレ・アレ スペシャライズド」と契約

by 福光俊介 / Syunsuke FUKUMITSU
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 ヨーロッパを拠点にレース活動を行っているサイクルロードレーサー、山村明徳がこのほど、アメリカのクリテリウム専門チーム「アレ・アレ スペシャライズド(Allez-Allez Specialized)」と2017年シーズンの契約を結んだことを発表した。世界的に人気急増中のピストバイクによるクリテリウムシリーズ「レッドフッククリット(RED HOOK CRIT)」を専門とするチームで、アジア人ライダーとして初めて契約を勝ち取った。そこで、レッドフッククリットについて触れ、山村本人と、彼が師と仰ぐシリーズトップライダーのアルド・イノ・イレシュッチュ(スロベニア)のインタビューをお届けする。

レッドフッククリットシリーズの強豪「アレ・アレ スペシャライズド」と契約を結んだ山村明徳 Photo: Akinori YAMAMURAレッドフッククリットシリーズの強豪「アレ・アレ スペシャライズド」と契約を結んだ山村明徳 Photo: Akinori YAMAMURA

ブルックリン発のピストバイク・クリテリウム

 クリテリウムは公道を利用したサーキット(周回コース)で行う、ロード競技の1つ。サーキットは1周あたり約3~5kmが一般的で、レース総距離も50km以下であることが多く、おおむねフィニッシュでの着順で最終順位が決定する。

レッドフッククリット発祥の地、ブルックリンで行われた2016年大会のひとこま Photo: RED HOOK CRIT / Jason Sellersレッドフッククリット発祥の地、ブルックリンで行われた2016年大会の様子 Photo: RED HOOK CRIT / Jason Sellers

 一般的なクリテリウムではロードバイクが使われるが、レッドフッククリットにおいては、後輪がペダル駆動と直結する固定ギアの使用、さらにはブレーキを装着しないことがルールとされる。つまり、選手たちはトラック競技で用いられるピストバイクでロードのサーキットを走るのだ。そこには、「パーツの違いで現れるアドバンテージをなくし、等しい条件となるよう、自転車レースを極限までシンプルにする」という意味合いが含まれているのだという。

 レースの方式は男子の場合、まず60人ずつ5組に分かれて20分間の予選レースを実施。各組上位3人(合計15人)が決勝での前方スタート「スーパーポールポジション」を獲得。1番から15番までのスタートグリッドは、1周回のタイムトライアルを行って決定する。続いて、各組4~18位の選手も決勝へ進出。各組19~30位の選手は20分間の敗者復活戦「ラストチャンスレース」へと回り、上位10人が決勝へと進む。そのうちトップでフィニッシュした選手は、決勝でスーパーポールポジション(16番グリッド)からスタートが可能になる。女子は予選2組で、それぞれ上位50人が決勝へと進出。そのうち各組上位8人(合計16人)がスーパーポールポジションとなり、1周回のタイムトライアルでスタートグリッドを決める。そして、夜に行われる決勝は45分で争われる。

 初開催は2008年。書類や荷物を運ぶ自転車便「メッセンジャー」たちによるレースにヒントを得て、短距離のサーキットと固定ギアバイク、ラップ数とフィニッシュラインを設定しレースを行ったのがはじまり。当初はコースの封鎖はせず、危険を避けるために深夜にレースを行ったが、2011年からは警察の許可のもとコース周辺の道路をクローズにして大会を運営している。

テクニックとクレイジーさが重要に

現在は欧米4都市でシリーズ化されている。写真は2016年のバルセロナ大会 Photo: RED HOOK CRIT / Tornanti.cc現在は欧米4都市でシリーズ化されている。写真は2016年のバルセロナ大会 Photo: RED HOOK CRIT / Tornanti.cc

 シリーズ名にある「レッドフック」とは、アメリカはニューヨーク・ブルックリンに位置する地区の名前。このシリーズが興った場所に由来する。回を重ねるごとにスポンサー企業が集まり、2010年にはイタリアのバイクメーカー「チネリ」の協賛により、シリーズは海外進出。イタリア・ミラノでの開催を皮切りに、2013年にはスペイン・バルセロナ、2015年にはイギリス・ロンドンでも行われ、現在はこの4都市を転戦するシリーズ戦となっている。なお、現在のシリーズメインスポンサーは、アメリカのゲームメーカー「ロックスターゲームズ」が務める。

クリテリウムを通じた数日間のパーティといった趣き Photo: RED HOOK CRIT / Tornanti.cc クリテリウムを通じた数日間のパーティといった趣き Photo: RED HOOK CRIT / Tornanti.cc

 ただレースを行うだけではなく、前夜祭やアフターパーティといった関連イベントも行われ、クリテリウムを通じた数日間のパーティといった趣きがあるのも魅力。また、UCI(国際自転車競技連合)公認のレースではないこともあり、選手たちは所属するUCI登録チームの縛りを受けずに参戦できるメリットもある。現在NIPPO・ヴィーニファンティーニに所属するエドゥアルド・グロス(ルーマニア)が2013年と2014年にミラノ大会を2連覇したケースや、昨シーズンまでウィグル・ハイファイブに所属したダニ・キング(イギリス)が昨年のロンドン大会で優勝した例がある。

 シリーズの盛り上がりやレースのレベルアップに伴い、激しいクラッシュがクローズアップされるなど、その危険性を指摘する声は少なくない。だが、このシリーズが重視するのはレースに臨む勇敢さ、バイクコントロール、優れた戦略にある。もちろん、主催者は安全性の確保に努め、アンチ・ドーピングにも真剣に取り組んでいる。事故を避け、誰もが満足できる結果を得られることが一番ではあるが、そのためにはテクニックとクレイジーさが要求されるというわけだ。

 レースのスピード感や盛り上がりは、動画から実感いただきたい(昨年のロンドン大会の様子)。

レッドフッククリット最強チーム入りを実現させた山村

 山村が加入するアレ・アレ スペシャライズドは、アメリカ・カリフォルニア州に本社を置くスペシャライズド社直営のクリテリウムチーム。レッドフッククリットのために結成され、レースごとに開催地をイメージしたバイクやジャージのデザインでファンを魅了する。

レース開催地をイメージしたアレ・アレ スペシャライズドのバイクやジャージのデザインはSNSを中心に話題沸騰。左からコリン・ストリックランド、アルド・イノ・イレシュッチュ Photo: RED HOOK CRITレース開催地をイメージしたアレ・アレ スペシャライズドのバイクやジャージのデザインはSNSを中心に話題沸騰。左からコリン・ストリックランド、アルド・イノ・イレシュッチュ Photo: RED HOOK CRIT

 このチームを牽引するのが、イレシュッチュとアメリカ人のコリン・ストリックランド。昨年はストリックランドがミラノ大会を除く3大会で優勝。圧倒的な強さでシリーズチャンピオンに輝いた。リードアウト役を務めるイレシュッチュも4大会連続で3位に入り、シリーズ総合2位。シリーズ規定で1チーム最大6人が出場できるが、2人だけの参戦でチーム総合優勝を果たした。

 そんな最強チームに山村が加わる。今シーズンは5人が所属予定で、アジア人ライダーとしては初の加入だ。

 山村は長崎県出身の22歳。高校卒業後の2013年にフランスへと渡り、翌年にはチェコ籍のUCIコンチネンタルチーム「エクスペリメント23」と契約。2015年からはオーストリア籍の同コンチネンタルチーム「チーム フォアアルベルク」で走った。現在は、ハンガリーの首都・ブダペストを拠点にしている。

 これまでレッドフッククリットに日本人の出場こそあったが、シリーズトップチームの一員として参戦する選手は事実上初めてといえる。そこで、一時帰国していた1月下旬、山村に話を聞いた。

レッドフッククリット参戦について語る山村明徳 =スペシャライズド・ジャパン本社にて Photo: Syunsuke FUKUMITSUレッドフッククリット参戦について語る山村明徳 =スペシャライズド・ジャパン本社にて Photo: Syunsuke FUKUMITSU

――レッドフッククリットへの参戦が決まりましたが、決定までの経緯について教えてください

 去年の9月頃まではロードレースをメインに走ろうと考えていて、当時所属していたチーム(チーム フォアアルベルク)と契約延長するつもりでいたのですが、一方で何か刺激がほしいと思うようになっていました。

 そんなときに、拠点にしているブダペストでアルド(・イノ・イレシュッチュ)と会う機会があって、彼からアレ・アレ スペシャライズドでアジア人ライダーを採用する計画があると聞かされました。もう、二つ返事で飛びつきましたよ(笑)。

 レッドフッククリットはピストバイクで走りますが、アルドからは「オレが教えてやるよ。以前もそうだっただろ!」と背中を押してもらっています。

 アルドとはフォアアルベルクで一緒に走っていた時期があって、今でも仲がよいんです。ロードレースの走り方も彼から教わった面が大きくて、レッドフッククリットでもいろいろ吸収していきたいです。

――レッドフッククリットは動画視聴を中心に、日本でもファンが増えています。このシリーズの魅力や、実際に走るにあたっての楽しみな点を教えてください

 テクニカルなコースをピストバイクで走るようなレースはなかなかないですし、ルールだけにとどまらないレースの奥深さがあると思います。

 それと、観客の層がヨーロッパのレースファンとは異なっている印象があります。よい意味でクレイジーですし、次々と新しいスポンサーがレースを支えるべく参加しているあたりからも、自転車レースの新たなジャンルとして確立されつつあるように思います。

 正直、クラッシュや怪我を覚悟しながらにはなりますが、今はレース出場が楽しみです。

――クリテリウムは競技特性上、スピードレースになりますが、脚質的には対応できそうですか?

レッドフッククリット参戦が決まり、トレーニング内容を大幅に変えた Photo: Akinori YAMAMURAレッドフッククリット参戦が決まり、トレーニング内容を大幅に変えた Photo: Akinori YAMAMURA

 僕は本来短めの上りが得意なので、レッドフッククリットを見据えて去年の10月からは筋力トレーニングを導入したり、スプリントトレーニングを増やしています。パーソナルコーチも変えて、トレーニングをイチから見直しました。

 それらの甲斐あって、スプリント時のパワーは350ワット以上アップしましたし、まだまだ上がっていく手ごたえがあります。以前はもがいても1000ワットまで届かなかったのですが、今では1500ワットは出るようになりました。

 ただ、アルドたちは1900ワットは出ているというので、少しでもそのレベルに近づくように取り組んでいきたいです。

――レッドフッククリット参戦1年目のターゲットはどこに据えていきますか?

 まずは開幕戦のブルックリンでファイナル(決勝)に残ることですね。そこから自分に何ができるのかを考えて、現実的な目標設定につなげていきたいと思っています。

――シリーズ開幕までの予定を教えてください

 日程は未定ですが、カリフォルニアのスペシャライズド本社へ行きます。そこでバイクを受け取って、1カ月ほどかけてみっちりトレーニングですね。アルドの自宅近くにバンク(競技場)があるというので、そこで感覚を養ってからブルックリンに臨む感じです。

 最近はレッドフッククリット以外にも、ピストバイク使用のクリテリウムがアメリカで行われているので、それにも参戦します。加えて、ロードバイク使用のクリテリウムにもアルドたちと一緒に出場する予定です。

 クリテリウムは「自転車の学校」のような要素があって、ブレーキングやバイクスキルがモノをいう世界なので、選手としてステップアップするきっかけになるのではないかと思っています。

――クリテリウムシリーズへの参戦は、キャリアにおいてどのように位置づけていますか?

エリートカテゴリーに上がり、他ではない経験に心を躍らせる Photo: Akinori YAMAMURAエリートカテゴリーに上がり、他ではない経験に心を躍らせる Photo: Akinori YAMAMURA

 個人的にはいろいろなことにトライしたいと思っています。この先もロードレースには出場していくので、レベルを落とすことなく、並行してスキルをクリテリウムから磨いていくイメージですね。

 クリテリウムもロードも強いアルドというお手本がいるので、彼のような選手になりたいです。

 今年からエリートカテゴリーに上がったので、アンダーからの切り替えという意味でも、他ではできないような経験にモチベーションが高まっています。 

日常とは別世界に行くことができる

 アレ・アレ スペシャライズドの主軸であるイレシュッチュは、1984年生まれの32歳。2004年にスロベニアのUCIコンチネンタルチームと契約後、2009年にはチーム タイプワン(現・チーム ノヴォノルディスク)、2013年から2年間はユナイテッドヘルスケア プロサイクリングチームに所属。その後、チーム フォアアルベルクで山村とともに走った。

 世界各地のレースで実績を残しており、2012年にはツアー・オブ・チンハイレイク(中国、UCIアジアツアー2.HC)でステージ優勝を挙げるなど、アジアでも活躍。実業家としての一面を持ち、現在はアメリカで従業員約200人を数える企業の社長でもある。

 そんな彼に、インターネット回線を利用してインタビュー。レッドフッククリットや山村の魅力について語ってもらった。

――あなたが思う、レッドフッククリットの素晴らしさを教えてください

インターネット回線を利用して、アルド・イノ・イレシュッチュへのインタビューが実現した Photo: Syunsuke FUKUMITSUインターネット回線を利用して、アルド・イノ・イレシュッチュへのインタビューが実現した Photo: Syunsuke FUKUMITSU

 個人的には、仕事で疲れたときや退屈な気分になったときに、ピストバイクで思いのまま走るイメージかな。レース本番ではアドレナリンが大量に出るし、日常とは別世界に行けるところが好きなんだ。

 ピストバイクは全身を使って走らないとスピードが出ない。その意味では、自転車の原点だと思っているよ。

――これまでロードレースで多くの実績を残してきたわけですが、レッドフッククリットという違ったジャンルのレースに臨むことになったきっかけを教えてください

2016年のロンドン大会では予選を1位通過したアルド・イノ・イレシュッチュ(右)。この後の決勝でも3位に入った Photo: RED HOOK CRIT / Paul Williams2016年のロンドン大会では予選を1位通過したアルド・イノ・イレシュッチュ(右)。この後の決勝でも3位に入った Photo: RED HOOK CRIT / Paul Williams

 2015年まではこのシリーズについてまったく知らなかったんだ。この年のミラノ大会を観戦する機会があって、「これだ!」と思ったんだよね。

 まずはチームとのコンタクト手段を調べることからはじめて、契約できるよう努めていた。そんな矢先にスペシャライズドから連絡があって、すぐに話がまとまったんだ。

 僕は身長193cmで、ロードレーサーとしては大柄だ。いつも上りで苦しんでいたから、レッドフッククリットのような距離が短くてスピード勝負のレースは僕に合っている。観客も熱いし、実際に走る僕もアドレナリンが出るから、このシリーズは大好きだよ。

――レッドフッククリットは日本でも人気が高まっています。ファンが観戦する際に注目すべきポイントを教えてください

 いま、チームでは各選手のバイクにウェアラブルカメラを装着して、レースをしながらライブストリーミングを配信する計画があるんだ。実現したらぜひとも観てもらいたいね。

――チームで使用しているバイクについて教えてください

 スペシャライズドの「アレ・スプリント」というモデルで、コーナーリングの安定性に優れているのが特徴だ。フィックスギア(固定ギア)はアジアでも人気が高まっていて、今後イベントなどを通じて多くのファンと交流ができたらと思っているんだ。

――あなたから見る山村選手の魅力はどこにあると思いますか?

シーズンオフには各地でスポンサーとのミーティングに臨む。写真はイタリア・ミラノでのひとこま Photo: Akinori YAMAMURAシーズンオフには各地でスポンサーとのミーティングに臨む。写真はイタリア・ミラノでのひとこま Photo: Akinori YAMAMURA

 アキ(山村)が活躍できるかは、どれだけクレイジーかにかかっているよね(笑)。

 フィジカルはもちろん、度胸も必要だし、レース前後のパーティを含めて、いかに個性を発揮できるかも大切なんだ。個性的じゃないと人気者にはなれないからね。

 ポイントを3つ挙げるとするならば、1つ目はレースを走ること。2つ目はファンを含めた多くの人との交流。3つ目はスポンサーとのつながり。ただレースを走るだけでは成り立たない、レッドフッククリットは新しいジャンルのスポーツなんだ。

――あなたは会社社長だと聞いています。いつトレーニングを行っているのですか? よかったら会社についても教えてください

 トレーニングは時間があるときにしかやらないよ(笑)。まぁ、マウンテンバイクに乗ったり、冬場はクロスカントリースキーをやったり、他にはランニングやハイキングをしたりなんだけど…今年は忙しいからまったくトレーニングができないかもしれないね。

 会社は、工業用機械やソーラーパネルを扱ったり、取り組みは多岐にわたっている。あっ、そういえば日本企業とも一緒に仕事がしたいから、どこか紹介してくれないかな(笑)。

――最後に、今年のレッドフッククリットの目標を教えてください

 自分のことよりは、チームが勝利するためのマネージを重視する。そこに尽きるよ。

◇         ◇

 山村明徳オフィシャルフェイスブックページでは、随時最新情報を更新中。アレ・アレ スペシャライズド加入や、レッドフッククリット参戦に関するインフォメーションも多数提供される予定だ。レッドフッククリット公式ウェブでも、2017年シリーズの情報公開に向けた準備に入った。ぜひチェックいただき、新たなサイクリングシーンへと足を踏み入れてみよう。

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