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つれづれイタリア~ノ<ジロ2017緊急報告>第100回のジロ、イタリアのプロコンはわずか2チーム ワイルドカードの裏側を分析

by マルコ・ファヴァロ / Marco FAVARO
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 1月18日、ジロ・ディタリア(以下「ジロ」)に参加するチームの公式発表が行われました。ジロにはUCI(国際自転車競技連合)ワールドチーム18チームのほか、ワイルドカードとして組織委員会のRCSスポルト独自の審査のもと、プロコンチネンタルチームが4チーム招待されます。第100回の節目とありイタリア登録のチームが招待されるだろうと期待されていましたが、蓋を開けてみれば招待枠のうちイタリアのチームは2つだけ。イタリアのマスコミやチーム関係者のみならず、多くのファンが驚きを隠しませんでした。

ジロのワイルドカード争いでイタリアの世論が白熱。(左から)NIPPO・ヴィーニファンティーニ、バルディアーニ・CFS、CCC・スプランディ・ポルコウィチェ、ウイリエール トリエスティーナ、ガスプロム・ルスヴェロ(いずれも2016年シーズン) Photo: Yuzuru SUNADAジロのワイルドカード争いでイタリアの世論が白熱。(左から)NIPPO・ヴィーニファンティーニ、バルディアーニ・CFS、CCC・スプランディ・ポルコウィチェ、ウイリエール トリエスティーナ、ガスプロム・ルスヴェロ(いずれも2016年シーズン) Photo: Yuzuru SUNADA

2年間で激変したチームNIPPOの評価

 招待が決まったイタリアチームは、バルディアーニ・CFSとウイリエール トリエスティーナの2チーム。昨年のコッパ・イタリア(イタリア国内のランキング)で優勝した国内のプロコンチネンタルチームが自動的にジロに参加でき、今回はバルディアーニがそれにあたります。

 一方、選ばれなかったイタリアチームにはNIPPO・ヴィーニファンティーニのほか、20年の歴史を誇るアンドローニ ジョカットリという強豪チームもあります。

 この2チームがジロに出場できないと伝わり、イタリア中の自転車競技ファンから驚きの声が一斉にあがりました。ほとんどの人が両チームの実績と活動を称え、RCSスポルトに対する非難の嵐が起こりました。一部の人は、NIPPO・ヴィーニファンティーニおよびアンドローニ ジョカットリのジロへの参戦を訴えるネットキャンペーンを立ち上げました。

(tuttobiti.webより)(tuttobiti.webより)

 tuttobici.web(イタリアの有名自転車メディア)での、発表直後のコメントを要約しました。(上から)「1.恥ずかしい:ルールは平等ではない」「2.恥すべき:NIPPOはワールドツアーと同等のメンバーを持っている。ポーランドのチームは1ステージも優勝できないかも。お金でも払ったか」「3.信じられないワイルド・カード:ドーピングに対する対策を無視し、お金が勝ったのか。選ばれたチームはジロに出る資格がない」「4.みっともない:イタリアのチームを招待しないなんて! 強いコロンビア選手もいるので、ジロはきっと刺激的になるはずだ」…以下、不適切な表現も含む、かなり大胆な発言が続きました。

 実はこの2年の間、NIPPO・ヴィーニファンティーニに対するファンの変化は驚くべきものです。2015年にNIPPO・ヴィーニファンティーニが初めてジロに出場すると伝えられたときは、真逆の反応がありました。「なぜこんなチームが出るのか。クネゴ以外は強い選手がいない。裏があるのでは?」といった意見が相次いでいました。しかし、今回はNIPPO・ヴィーニファンティーニを支持する意見は後を絶ちません。ファンたちがNIPPO・ヴィーニファンティーニの進化と実績をよく理解しているためです。

2016年のジロで、13ステージの長きにわたり、ブルーの山岳賞ジャージをキープしたダミアーノ・クネゴ(NIPPO・ヴィーニファンティーニ) Photo: Yuzuru SUNADA2016年のジロで、13ステージの長きにわたり、ブルーの山岳賞ジャージをキープしたダミアーノ・クネゴ(NIPPO・ヴィーニファンティーニ) Photo: Yuzuru SUNADA

 ファンの明確な意識の変化は昨年にジロの最中に起こりました。13ステージにわたり、キャプテンのダミアーノ・クネゴ選手が山岳賞ジャージをキープできたことで、彼の活躍を支えたチームに注目が集まりました。さらにジロの最終ステージにけがをしていたエドワルド・グロス選手がステージ優勝を飾りそうになったことが強烈な印象を与えました。結果ばかりを重んずるメディアに対し、成熟したファンたちがチームの努力と成長をきちんと見極めていることが、イタリアのファンの大きな特徴です。

実績より戦略的なアプローチが影響

 さて、イタリアチーム以外、残りの2つの参加枠はガスプロム・ルスヴェロ(ロシア、2回目)と、CCC・スプランディ・ポルコウィチェ(ポーランド、2回目)に割り当てられました。それでは、なぜRCSスポルトはあえて海外のチームを選んだのでしょうか。

ポーランドのオレンジ軍団、CCC・スプランディ・ポルコウィチェ =2016年世界選手権チームタムトライアル Photo: Yuzuru SUNADAポーランドのオレンジ軍団、CCC・スプランディ・ポルコウィチェ =2016年世界選手権チームタムトライアル Photo: Yuzuru SUNADA

 チームの選出には様々な基準があります。UCIポイント、チームの実績と経済力、ドーピング対策やチームへの期待度などです。今回、東ヨーロッパのチームが選ばれたのが特徴的です。この裏にはRCSスポルトが意識した「グランデパール」という言葉があります。グランデパールとはグランツールをスタートする最初のステージのことです。

 ジロもツール・ド・フランスもたびたび海外からスタートしています。今年のツール・ド・フランスはドイツから、ブエルタ・ア・エスパーニャはフランスからスタートします。この10年開催されたジロの動きを見てみますと、5回も海外からスタートしました。その背景として誘致に多額のお金が動いていることがあります。

最近10年間のジロのグランデパール

2008年 パレルモ(イタリア) 総合優勝:アルベルト・コンタドール(アスタナ)
2009年 ヴェネツィア(イタリア) 総合優勝:デニス・メンショフ(ラボバンク)
2010年 アムステルダム(オランダ) 総合優勝:イヴァン・バッソ(リクイガス)
2011年 トリノ(イタリア) 総合優勝:ミケーレ・スカルポーニ(ランプレ・ISD)(コンタドールの失格により繰り上げ)
2012年 ヘアニング(デンマーク) 総合優勝:ライダー・ヘシェダル(ガーミン・バラクーダ)
2013年 ナポリ(イタリア) 総合優勝:ヴィンチェンツォ・ニーバリ (アスタナ)
2014年 ベルファスト(UK) 総合優勝:ナイロ・キンタナ(モビスター チーム)
2015年 サン・ロレンツォ・ア・マーレ(イタリア) 総合優勝:アルベルト・コンタドール(ティンコフ・サクソ)
2016年 アペルドールン(オランダ) 総合優勝:ヴィンチェンツォ・ニーバリ (アスタナ プロチーム)
2017年 アルゲロ(イタリア)

2016年のジロはグランデパールから3ステージをオランダ国内で開催した Photo: Yuzuru SUNADA2016年のジロはグランデパールから3ステージをオランダ国内で開催した Photo: Yuzuru SUNADA

 2016年はジロがオランダ・ヘルダーラント州からスタートしました。3つのステージが開催され、100万人の観客が駆け付けました。ヘルダーラント州がRCSスポルトに払った金額は400万ユーロ(4億8000万円)に上りますが、経済効果はその2倍の8.90万ユーロ(10億円以上)だったと、ヘルダーラント州スポーツ課の担当者のヤン・マルキン氏が伝えています。グランデパールには開催する側も誘致する側も無視できない経済的効果があるのです。

 そしてRCSスポルトの動きを分析してみますと、グランデパールの見込みのある地域や国のチームを招待する傾向があります。2015年のNIPPO・ヴィーニファンティーニが初めて招待された際には、ジロが日本からスタートするのではないかという話があったことは記憶に新しいです。今回のポーランドとロシアのチームの招待から、近いうちにワルシャワ、またはモスクワからジロがスタートするのではと、RCSスポルトの関係者やイタリアのメディアからささやかれています。

 また、CCC・スプランディ・ポルコウィチェのチームに関していえば、2015年RCSスポルトが所有するガゼッタ・デッロ・スポルト紙に多額の広告費を払った実績もあり、今回も広告掲載が予想されます。またこちらはイタリアチームですが、ウイリエール トリエスティーナの場合は、確かに際立って強い選手はないものの、イタリア国内で多くの市民大会のスポンサーを務め、社会的な支援が評価されたと思われます。

 つまり、ジロ出場チームの選出にはチームの実績より、RSCスポルトが経営的に有利となるチームを重視して選んでいるということなのです。

ジロ出場の可否は死活問題

ジロ出場常連だったアンドローニ ジョカットリだが、出場を逃してチーム存続の危機に =2013ジロ・チームプレゼンテーション Photo: Yuzuru SUNADAジロ出場常連だったアンドローニ ジョカットリだが、出場を逃してチーム存続の危機に =2013ジロ・チームプレゼンテーション Photo: Yuzuru SUNADA

 イタリアではテレビ放映がジロに集中している関係で、国内のチームとしてジロへの出場は死活問題です。ジロ選出を逃したアンドロー二 ジョカットリのメインスポンサーは、イタリア国内市場に拠点をおいている玩具メーカー、アンドロー二 ジョカットリ社です。ジロへの不参加に失望し、同社のオーナーであるマリオ・アンドローニ氏が、今シーズン限りでスポンサーシップをとりやめると宣言しました。チーム自体が解散に追い込まれる事態になりました。

 NIPPO・ヴィーニファンティーニの存続を救っているのが、スポンサーたちがチームに課したミッション。すなわち若手選手の発掘や、2020年の東京オリンピックで活躍できる日本人選手の育成です。この点ではジロへの不参加はチームにとって大きな影響はなさそうです。

 いまだにRCSスポルト責任者のマウロ・ヴェーニ氏から今回の選考方法に関して客観性のある具体的なコメントがないうえ、イタリア自転車競技連盟に再選したばかりのレナート・ディロッコ氏のコメントもなく、イタリアの熱い国民感情もあってか関係者とファンの間では不満が爆発しています。それだけイタリア国内ではジロへの参加は大きな関心事です。

 そして大ニュース。1月20日午後、ジロの誘致問題は国会の議論にも上りました。

 イタリア最大与党、民主党のマッシモ・カレオ議員は、RCSスポルトの選択は「イタリアの自転車競技文化を屈辱した」として、イタリア自転車競技連盟およびイタリアオリンピック協会の責任者を国会に呼ぶと発言。事実を確認したうえで、スポーツ大臣とともにRCSスポルトに対し参加枠の拡大を可能にするよう議論が行われるそうです。

 これからの動きが気になります。

マルコ・ファヴァロMarco FAVARO(マルコ・ファヴァロ)

東京都在住のサイクリスト。イタリア外務省のサポートの下、イタリアの言語や文化を世界に普及するダンテ・アリギエーリ協会や一般社団法人国際自転車交流協会の理事を務め、サイクルウエアブランド「カペルミュール」のモデルや、欧州プロチームの来日時は通訳も行う。日本国内でのサイクリングイベントも企画している。ウェブサイト「チクリスタインジャッポーネ

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