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福光俊介の「週刊サイクルワールド」<192>ボーネン、ジルベールらタレントがひしめく クイックステップフロアーズ 2017年シーズン展望

by 福光俊介 / Syunsuke FUKUMITSU
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 UCI(国際自転車競技連合)ワールドチームを中心に、戦力分析を行うシーズン展望。今回はベルギーの雄、クイックステップフロアーズを見ていきたい。長年の“チームの顔”であるトム・ボーネン(ベルギー)のほか、今シーズンは同国もう1人の英雄であるフィリップ・ジルベールが加入。強力なメンバー構成で、クラシックを中心とするシーズン前半で勝利量産をもくろんでいる。

トレーニングキャンプで集団走行を行うクイックステップフロアーズの面々 © BrakeThrough Mediaトレーニングキャンプで集団走行を行うクイックステップフロアーズの面々 © BrakeThrough Media

ボーネンは有終の美を飾ることができるか

 チームのトピックとして、まずはボーネンの動向を押さえておきたい。

トレーニングキャンプでフィリップ・ジルベールと並んで走るトム・ボーネン(左)。ベルギー自転車界の至宝が揃い踏み © BrakeThrough Mediaトレーニングキャンプでフィリップ・ジルベールと並んで走るトム・ボーネン(左)。ベルギー自転車界の至宝が揃い踏み © BrakeThrough Media

 このところ同年代の名選手たちが次々とプロトンを去り、おのずとボーネンにも引退時期の憶測が飛び交っていたが、今シーズンの北のクラシックをもって現役を退くことを正式に表明。昨年10月に36歳となり、ここ数年の走りは全盛期には及ばないとはいえ、狙ったレースでの集中力は高いことを示してきた。

 その証拠に、昨シーズンは2勝を挙げ、パリ~ルーベでは優勝を逃したものの2位。キャリア最後として臨んだUCIロード世界選手権ではベルギー代表のエースを務め、チームの強い団結力もあって3位。2005年以来のマイヨアルカンシエルには届かなかったが、表彰台返り咲きとなる好走を見せた。

北のクラシックで有終の美を飾りたいトム・ボーネン © BrakeThrough Media北のクラシックで有終の美を飾りたいトム・ボーネン © BrakeThrough Media

 引退までのカウントダウンがすでに始まっているが、最後のターゲットはもちろん、自国最大のレースであるツール・デ・フランドル、そして2012年以来の優勝を目指すパリ~ルーベだ。

 1月23~29日のブエルタ・ア・サンフアン(アルゼンチン、UCI2.1)でシーズンインを予定。ここでは、フェルナンド・ガヴィリア(コロンビア)のスプリントアシストとして臨む公算だが、3月下旬から4月上旬に控える“本番”に向けて徐々に調子を上げていくことだろう。注意したいのは、落車などが起因となるフィジカル面でのトラブル。ここ数年はクラッシュによって北のクラシック出場を逃したケースや、2015年には頭部を強打し聴力が下がるといったことも経験した。

2012年には「北のクラシック4冠」を達成したトム・ボーネン =パリ~ルーベ2012、2012年4月8日 Photo: Yuzuru SUNADA2012年には「北のクラシック4冠」を達成したトム・ボーネン =パリ~ルーベ2012、2012年4月8日 Photo: Yuzuru SUNADA

 フランドルやルーベを最後に制した2012年は、E3ハーレルベーケ、ヘント~ウェヴェルヘムでも優勝し、「北のクラシック4冠」を達成した。キャリアの終幕にその再現なるか。また、フランドルでは3度、ルーベでは4度の優勝を誇るが、これはともに最高タイ記録。ここで優勝記録を積み重ねて、単独トップに立つことができるか。

 21歳だった2002年のルーベで3位となり、彗星のごとくトップシーンに躍り出てから15年。いよいよボーネンのキャリア最終章が始まる。有終の美を飾り、長いキャリアを祝福することができるか、全世界の注目と期待が集まる。

ジルベールとアラフィリップの共闘でアルデンヌへ

 ベルギーを代表するチームとあって、自国を舞台とするクラシックレースへの注力度はどのライバルチームよりも高い。ボーネンをはじめとする選手たちが北のクラシックで活躍してきたが、近年は4月中旬から下旬にかけて開催されるアルデンヌクラシックでも目立っている。

ジュリアン・アラフィリップ © BrakeThrough Mediaジュリアン・アラフィリップ © BrakeThrough Media

 その原動力となっているのが、ジュリアン・アラフィリップ(フランス)だ。24歳の若きクラシックハンターは、2015年にラ・フレーシュ・ワロンヌ、リエージュ~バストーニュ~リエージュで連続2位となり、その存在を知らしめると、昨年もラ・フレーシュ・ワロンヌで2位。最後の勝負どころである「ユイの壁」を激坂ハンターと並んで勝負する姿に、多くのファンや関係者が頼もしさを覚えた。

 今年はアラフィリップ初優勝への期待が膨らむが、もう1人、ビッグライダーがチーム躍進の請負人として加わった。アルデンヌスペシャリストのジルベールだ。

2011年にアルデンヌ3連勝を果たしたフィリップ・ジルベール =リエージュ~バストーニュ~リエージュ2011、2011年4月24日 Photo: Yuzuru SUNADA2011年にアルデンヌ3連勝を果たしたフィリップ・ジルベール =リエージュ~バストーニュ~リエージュ2011、2011年4月24日 Photo: Yuzuru SUNADA

 ジルベールは2011年、アムステル・ゴールドレースを含むアルデンヌクラシック3連勝を達成。翌年、アムステルと同地で行われたUCIロード世界選手権では、最後の仕掛けどころである急坂「カウベルグ」で圧倒的なアタックを見せ、マイヨアルカンシエルを獲得した。そのほか、アムステルでは2010年と2014年、秋に行われるイル・ロンバルディアでは2009年と2010年に優勝している。

 昨年まで5シーズン所属したBMCレーシングチームでは、フレッヒ・ヴァンアーヴルマート(ベルギー)と共闘するレースが多かったが、今度はアラフィリップとダブルエースとして春のクラシックシーズンを迎えることだろう。このところの勢いではアラフィリップが上回っている感もあるが、アムステルではジルベールが、その後の2レースはアラフィリップが狙うといった具合に、それぞれ得意なレースで勝ちを狙いにいくスタンスを取る可能性もある。もっとも、ジルベールの経験はチーム内でも群を抜いており、それらを若い選手たちに伝える役割も担っている。

力のあるペトル・ヴァコッチがアルデンヌクラシックではアシストに控える © BrakeThrough Media力のあるペトル・ヴァコッチがアルデンヌクラシックではアシストに控える © BrakeThrough Media

 この2人がアシストに恵まれている点も見逃せない。自身もエースを務めるだけの力を持つペトル・ヴァコッチ(チェコ)、ダビ・デラクルス(スペイン)、ピーテル・スライ(ベルギー)らは、昨年のアルデンヌでアラフィリップを支えた経験がある。いずれも登板力のみならずスピードにも長けており、選手層の厚さで勝負できるあたりも見ものとなりそうだ。

ガヴィリアがジロでグランツールデビュー

 これから先、チームの顔となる可能性を秘めているのが、コロンビアが生んだスピードスターであるガヴィリア。2015年シーズン序盤のツール・ド・サンルイスではナショナルチームで出場。マーク・カヴェンディッシュ(イギリス、当時エティックス・クイックステップ)を2度にわたって撃破し、一躍注目を集めたスプリンターだ。

注目のスピードスター、フェルナンド・ガヴィリア =ティレーノ~アドリアティコ2016第3ステージ、2016年3月11日 Photo: Yuzuru SUNADA注目のスピードスター、フェルナンド・ガヴィリア =ティレーノ~アドリアティコ2016第3ステージ、2016年3月11日 Photo: Yuzuru SUNADA

 昨年チームに加入したが、バックボーンであるトラックに集中し、リオデジャネイロ五輪へと臨んだ。狙っていたオムニアム(複合競技)での金メダル獲得はならなかったが、一定の成果を残し、満を持して今シーズンからロードに専念する。

 昨年は7勝(チームタイムトライアルは除く)を挙げたが、レース数を制限しながらの数字だけに、今シーズンはどの程度勝利数を伸ばすか。初出場だったミラノ~サンレモでは最終局面で絶好のポジションを確保しながら落車し涙を流したが、その雪辱として、クラシック初制覇への期待がかかる。

 また、ジロ・デ・イタリアでのグランツールデビューも決まっている。スプリントチャンスは6ステージにとどまるが、初勝利はもとより快走連発となるか。上りへの適性もあるだけに、フィニッシュに向かって下るレイアウトとなる中級山岳ステージでもメイン集団に残ることができれば勝機が増える。

 まずは、ボーネンらとともに参戦するブエルタ・ア・サンフアンでお手並み拝見といきたい。

タレントぞろいで高いチーム力を発揮

 今年から、ベルギーの床材メーカーであるクイックステップ社が唯一のタイトルスポンサーとなった。近年は同国の薬品メーカーであるオメガファルマ社とともにチームを支えてきたが、6年ぶりに1社体制となる。チーム名こそ変わるものの、戦力に劇的な変化はない。むしろ、タレントぞろいのチームでありながら、各選手の棲み分けがなされている点に、高いチーム力を発揮する要素があると見ることができる。

 2年前の体調不良を乗り越え、移籍初年度に復調したマルセル・キッテル(ドイツ)は、引き続きエーススプリンターとして君臨する。昨年は個人で12勝を挙げ、ツール・ド・フランスでもステージ勝利を挙げた。また、UCIロード世界選手権ではチームタイムトライアルで優勝に大きく貢献するなど、存在感を取り戻した1年でもあった。

 もちろん、今年もステージ優勝を目標にツールに参戦することになるだろう。グランデパール(開幕地)が自国であるのも、大きなモチベーションになるはずだ。ここ数年は、ミラノ~サンレモをはじめとするクラシックレースへの出場を希望しながら、それが叶わずにいるが今年はどうか。同じスプリンターであるガヴィリアとの役割分担が必要となる。

昨シーズン復活を遂げたマルセル・キッテル =ツール・ド・フランス2016第4ステージ、2016年7月5日 Photo: Yuzuru SUNADA昨シーズン復活を遂げたマルセル・キッテル =ツール・ド・フランス2016第4ステージ、2016年7月5日 Photo: Yuzuru SUNADA

 北のクラシックでは、2014年のルーベ覇者であるニキ・テルプストラ(オランダ)や、ズデニェック・シュティバル(チェコ)、マッテーオ・トレンティン(イタリア)らが控える。これまでチーム方針としてボーネンがAプランで、テルプストラらがBプランとなる戦い方が多かったが、マークが集中するボーネンに代わって優勝を狙えるだけの力は十分。“ポスト・ボーネン”の方向性を定めるシーズンとなるだろう。

グランツール路線の中心となるダニエル・マーティン © BrakeThrough Mediaグランツール路線の中心となるダニエル・マーティン © BrakeThrough Media

 グランツール路線では、ダニエル・マーティン(アイルランド)を筆頭に、デラクルスとボブ・ユンゲルス(ルクセンブルク)が総合エース候補。昨年は、ジロでユンゲルスが総合6位、ツールでマーティンが同9位、ブエルタでデラクルスが同7位と、グランツールすべてでトップ10入り。ユンゲルスとデラクルスに至ってはリーダージャージを着用するなど、総合優勝争いを賑わす立場にもなった。

 引き続きこの3人が各グランツールで中心人物になるとみられるが、どのレースをターゲットにするのかが見ものとなる。ジロで新人賞のマリアビアンカを獲得したユンゲルスは、今年も新人賞対象であることから、ツールへとシフトすることも考えられる。そうなれば、マイヨブランの有力候補となるだろう。

2016年のジロ・デ・イタリアで新人賞を獲得したボブ・ユンゲルス =2016年5月29日 Photo: Yuzuru SUNADA2016年のジロ・デ・イタリアで新人賞を獲得したボブ・ユンゲルス =2016年5月29日 Photo: Yuzuru SUNADA
2016年のブエルタ・ア・エスパーニャで総合7位と活躍したダビ・デラクルス © BrakeThrough Media2016年のブエルタ・ア・エスパーニャで総合7位と活躍したダビ・デラクルス © BrakeThrough Media

 ほかには、アラフィリップやジャンルーカ・ブランビッラ、移籍加入のエロス・カペッキ(ともにイタリア)もステージレースでのリザルトが見込める選手たち。彼らもグランツールで好結果を残す可能性を秘めている。

 なお、チームはスペイン・カルペでトレーニングキャンプを行い、シーズンインに備える。UCIワールドツアー初戦のツアー・ダウンアンダー(オーストラリア、1月15・17~22日)、ブエルタ・ア・サンフアン、両開幕戦のメンバーもこのほど発表した(以下参照)。

ツアー・ダウンアンダー:ヴァコッチ、ブランビッラ、カペッキ、ジャック・バウアー(ニュージーランド)、ドリス・デヴェナインス(ベルギー)、エンリク・マス(スペイン)、マルティン・ヴェリトス(スロバキア)

ブエルタ・ア・サンフアン:ボーネン、ガヴィリア、ピーテル・スライ(ベルギー)、レミ・カヴァニャ(フランス)、ティム・デクレルク(ベルギー)、マキシミリアーノ・リケーゼ(アルゼンチン)

クイックステップフロアーズ 2016-2017 選手動向

【残留】
ジュリアン・アラフィリップ(フランス)
トム・ボーネン(ベルギー)
ジャンルーカ・ブランビッラ(イタリア)
ダビ・デラクルス(スペイン)
ローレンス・デプルス(ベルギー)
フェルナンド・ガヴィリア(コロンビア)
ボブ・ユンゲルス(ルクセンブルク)
イイヨ・ケイス(ベルギー)
マルセル・キッテル(ドイツ)
イヴ・ランパールト(ベルギー)
ダニエル・マーティン(アイルランド)
ダヴィデ・マルティネッリ(イタリア)
マキシミリアーノ・リケーゼ(アルゼンチン)
ファビオ・サバティーニ(イタリア)
ピーテル・スライ(ベルギー)
ズデニェック・シュティバル(チェコ)
ニキ・テルプストラ(オランダ)
マッテーオ・トレンティン(イタリア)
ペトル・ヴァコッチ(チェコ)
マルティン・ヴェリトス(スロバキア)
ジュリアン・ヴェルモート(ベルギー)

【加入】
ジャック・バウアー(ニュージーランド) ←キャノンデール・ドラパック プロサイクリングチーム
エロス・カペッキ(イタリア) ←アスタナ プロチーム
レミ・カヴァニャ(フランス) ←クレインコンスタンティア
ティム・デクレルク(ベルギー) ←トップスポルトヴラーンデレン・バロワーズ
ドリス・デヴェナインス(ベルギー) ←イアム サイクリング
フィリップ・ジルベール(ベルギー) ←BMCレーシングチーム
エンリク・マス(スペイン) ←クレインコンスタンティア
マキシミリアン・シャフマン(ドイツ) ←クレインコンスタンティア

【退団】
マキシム・ブエ(フランス) →フォルトゥネオ・ヴィタルコンセプト
ロドリゴ・コントレラス(コロンビア) →コルデポルテス・クラロ
ニコラス・マース(ベルギー) →ロット・ソウダル
トニー・マルティン(ドイツ) →チーム カチューシャ・アルペシン
ジャンニ・メールスマン(ベルギー) →引退
ギヨーム・ヴァンケールスブルク(ベルギー) →ワンティ・グループゴーベル
スティーン・ヴァンデンベルフ(ベルギー) →アージェードゥーゼール ラモンディアル
ウーカシュ・ヴィシニオウスキ(ポーランド) →チーム スカイ

今週の爆走ライダー-ジャック・バウアー(ニュージーランド、クイックステップフロアーズ)

「爆走ライダー」とは…

1週間のレースの中から、印象的な走りを見せた選手を「爆走ライダー」として大々的に紹介! 優勝した選手以外にも、アシスト や逃げなどでインパクトを残した選手を積極的に選んでいきたい。

 2009年からしばらくはベルギー北部の街・ヘントを拠点とし、プロ入りの夢、北のクラシックへの情熱を追い求めてきた。それが縁となり、同国が誇るビッグチーム入りを果たした。2015年のツールでは集団落車に巻き込まれ大腿骨を骨折、昨年はシーズンイン早々に落車で手首を痛め、2年続けて不本意なシーズンを送った。それでも自身を高く評価し続けてくれたチームを、新天地に選ばない理由はなかった。

1月6日のニュージーランド選手権個人TTで優勝したジャック・バウアー © Bruce Jenkins Photography1月6日のニュージーランド選手権個人TTで優勝したジャック・バウアー © Bruce Jenkins Photography

 高いモチベーションで今シーズンを迎えたわけだが、早速結果を残してみせた。1月6日のニュージーランド選手権個人タイムトライアルで優勝。最初の目標としていたチャンピオンジャージをしっかりと獲得。2日後のロードレースは7位に終わり、2冠とはならなかったが、チーム・自身双方に幸先のよいスタートとなった。

 得意とするタイムトライアルや、北のクラシックでのアシスト、ビッグレースの逃げなど、チームからの期待は大きい。まずはダウンアンダーで、チームの主力となるべき選手であることを証明しなくてはならない。仕事人としての姿を見せたいところだ。

 ちなみに、プロとして契約したのは24歳だった2010年のこと。それまではニュージーランドで学生生活を送っており、その後プロを目指したという経緯がある。年齢的には遅咲きといった趣きがあるが、同時にプロへの道筋は人それぞれであることを意味づけるキャリアの歩み方であるともいえそうだ。

得意のタイムトライアルや北のクラシックでの働きが期待されるジャック・バウアー © BrakeThrough Media得意のタイムトライアルや北のクラシックでの働きが期待されるジャック・バウアー © BrakeThrough Media
福光俊介福光俊介(ふくみつ・しゅんすけ)

サイクルジャーナリスト。自転車ロードレース界の“トップスター”を追い続けて十数年、今ではロード、トラック、シクロクロス、MTBをすべてチェックするレースマニアに。現在は国内外のレース取材、データ分析を行う。自転車情報のFacebookページ「suke’scycling world」も充実。UCIコンチネンタルチーム「キナンサイクリングチーム」メディアオフィサー。ウェブサイト「The Syunsuke FUKUMITSU

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