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Cyclist的エンタメ観戦記リアルな感情表現で自転車ロードレースの根源的魅力に迫る映画『疾風 スプリンター』

by 米山一輝 / Ikki YONEYAMA
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 本格自転車ロードレース映画『疾風 スプリンター』が公開された。香港アクション映画の名匠ダンテ・ラム監督が、自転車ロードレースの世界を舞台に、プロ選手たちの夢と友情、栄光と挫折を描く。早速鑑賞することができたので、その魅力をお伝えしよう。ロードレースファンであれば、断然オススメといえる作品だ。

『疾風 スプリンター』

© 2015 Emperor Film Production Company Limited All Rights Reserved© 2015 Emperor Film Production Company Limited All Rights Reserved

 公開日:2017年1月7日(土)
 上映館:新宿武蔵野館ほか全国公開
 上映時間:125分
      ◇         ◇
 監督・脚本:ダンテ・ラム
 出演:エディ・ポン
    チェ・シウォン
    ショーン・ドウ
    ワン・ルオダン
 原題:『破風』
 製作国:香港・中国合作
 配給:エスパース・サロウ
 2015/香港・中国/北京語、広東語、英語、韓国語

勝利への渇望とその先に

 「偉大なるフィクション」―それが映画を見終えて、まず頭に浮かんだフレーズだ。

友情で結ばれたライバル、ミン(左)とティエン。上腕の「自転車焼け」にも注目 © 2015 Emperor Film Production Company Limited All Rights Reserved友情で結ばれたライバル、ミン(左)とティエン。上腕の「自転車焼け」にも注目 © 2015 Emperor Film Production Company Limited All Rights Reserved

 舞台となるのは台湾のプロロードレースチーム。レースが台湾と中国なので、プロといってもコンチネンタルレベルか、もしかしたらクラブチームレベルかも知れない。

 選手は自分たちで自転車の整備をするし、お互いの脚をマッサージしたり、アシストの選手はウエイターの仕事を掛け持ちだったりする。アジアツアーの現場では見慣れた光景だ。そして夢見る―「このチームでエースになって勝利して名を上げ、いつか本場ヨーロッパのプロになる!」―と。

 勝利に対する貪欲な渇望を見せるのが、主人公のチウ・ミン。若く才能と活力にあふれたスプリンターで、次第に成功をつかんでいくのだが、同時に周囲との摩擦が絶えなくなってしまう。そのライバルとして描かれるチウ・ティエンは、やや内向的なクライマー。さらにオールラウンドな実力を持つ誇り高きエース、チョン・ジウォン。この3人と、ヒロインのシーヤオを中心に、2時間のストーリーは進んでいく。

描かれる選手の“リアル”

 描かれる要素としては、アシストの喜びと反骨精神、栄光と勝利の美酒、エースの誇り、勝利の重圧と孤独、スポンサーとチームの関係、不正への誘惑、ロードレーサーの恋愛の困難、肉体的な障壁、そしてレースがもうとにかくキツいものであるということ…などなどなど。

 詳しくはネタバレになるので避けるが、よくもまあこれだけ詰め込んだなと思うくらい、ロードレースを「やる側」のシチュエーションと心情が、良いも悪いも描かれている。突っ込みどころが無いといえばウソになるが、描かれる心情のリアルさが完全にそれを上回る。決して良いことばかりではないが、それも全て合わせて我々を惹きつける「これがロードレース」という内容だった。

ロードレースに渦巻くさまざまな感情が鮮やかに映し出される © 2015 Emperor Film Production Company Limited All Rights Reservedロードレースに渦巻くさまざまな感情が鮮やかに映し出される © 2015 Emperor Film Production Company Limited All Rights Reserved

 …というのはかつてロードレースを「やる側」だった記者の感想だが、公開初日のトークショーで鈴木真理選手(宇都宮ブリッツェン)が全くそのまま同じことを話していたので、実際にそうなのだと思う。見る人の立場属性によって感じることは異なると思うが、「選手から見て頭を抱えるくらいリアル」という目線で見ると、また面白い見方ができるのではないだろうか。

 これまで日本に持ち込まれた(あるいは日本で作られた)自転車映画のパターンは、3つに大別できたと思う。1つは完全なドキュメンタリー、もう1つは実話をベースにした再現もの、そして自転車マンガの映画化だ。『疾風 スプリンター』はこのどれにも当てはまらず、完全に独立したフィクションとして作ることで、自転車レースとは何かという根源的な部分を、むしろ的確に表現してみせた作品だといえるだろう。

身体を張った撮影で迫力のレースシーン

 さて、現実のロードレースと明らかに異なる点を挙げるとすれば、主役級の3人がそろって超イケメンアジアンだという点だろうか。ミン役のエディ・ポンは、ジム・キャリーとワン・カンポ(香港の元トップ自転車選手)を合わせて野生的にした感じで、とても魅力的。ティエン役のショーン・ドウは品の良さを漂わせるイケメン。ジウォン役のチェ・シウォンは韓流アイドル風だと思ってたら、実際に韓流アイドルスターなのだそう。

アクション映画らしく(?)クラッシュシーンが何度も登場。またエンドロールではNG集ならぬ「本当のクラッシュ集」が付く © 2015 Emperor Film Production Company Limited All Rights Reservedアクション映画らしく(?)クラッシュシーンが何度も登場。またエンドロールではNG集ならぬ「本当のクラッシュ集」が付く © 2015 Emperor Film Production Company Limited All Rights Reserved

 素晴らしいのは、3人ともちゃんと運動ができそうな体つきで、実際に自転車のトレーニングを積んだ上で、スタント無しでレースシーンのアクションに挑んでいる点。3人とも撮影中の落車によるけがを経験し、撮影全体での負傷者は80人を超えたという。これは数多のアクション映画を手がけたダンテ・ラム監督にしても「新記録」だったそうだ。

 その甲斐もあってレースシーンは素晴らしい迫力と美しさに仕上がっている。いかにも東アジアらしい街並みを駆け抜けるクリテリウムや、山岳、海沿いのリゾート、果ては砂漠まで、実際に行って走ってみたいとも思わせる映像は、現実の自転車レースの魅力にもつながるものだった。

実在の欧州トップ選手も登場

 香港映画らしい(?)点としては、とにかく展開が早く、ロマンスや笑えるシーンも矢継ぎ早に織り交ぜられていて、2時間飽きさせないところ。ちなみに原題の『破風』は、風を破って進む者、すなわちアシストのことだという。アシストの物語―そう考えると、ラスト近くのやりとりも、より納得できるかも。

 ラスト近くでは世界チャンピオンジャージを着たルイ・コスタ(ポルトガル、当時ランプレ・メリダ)をはじめ、本場ヨーロッパのトッププロ選手本人が画面に登場する。今や懐かしいあの人やこの人もいるので、マニアの人はニヤニヤしながら見てみよう。

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