スマートフォン版はこちら

サイクリスト

title banner

“自転車革命都市”ロンドン便り<47>「ツアー・ダウンアンダー」でポディウムガールが廃止 時代とともに変わるべきサイクルスポーツ

by 青木陽子 / Yoko AOKI
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

 先週、自分のフェイスブックやインスタグラムなどのSNSに、英語圏の自転車友だちや知人の「めでたい!」「ついに!」「遅かったけど進歩だ!」という歓喜のポストが続々踊ったニュースがありました。そのニュースとは、サイクリストにとっては新年を感じるおなじみのレース「ツアー・ダウンアンダー」でポディウムガールが廃止されるという件。ステージ優勝者やリーダージャージホルダーに花束を進呈したり、両側から挟んでチュッとキスするあの美女たちがいなくなるというものです。

ポディウムガールを使うのはもう止めるべきだという意識が高まるにつれ、英語圏の自転車情報誌や中継番組ではポディウムガールがあまり写っていないカットを選んだり、表彰台の中継をやめてインタビューに時間を割く傾向も出てきている(写真はツアー・ダウンアンダー2016の第5ステージで優勝したリッチー・ポート) Photo: Yuzuru SUNADAポディウムガールを使うのはもう止めるべきだという意識が高まるにつれ、英語圏の自転車情報誌や中継番組ではポディウムガールがあまり写っていないカットを選んだり、表彰台の中継をやめてインタビューに時間を割く傾向も出てきている(写真はツアー・ダウンアンダー2016の第5ステージで優勝したリッチー・ポート) Photo: Yuzuru SUNADA

「時代錯誤」圧倒的な廃止支持の声

 これまでポディウムガールのスポンサーであった南オーストラリア州政府が、拒食症などに苦しむ若い女性たちのためになっていないとして、スポンサーの継続をしない決定をしたのだそうです。

 ツアー・ダウンアンダーの主催者は、今後はサイクリストを目指している地元の子どもたちにこの役をお願いするとのこと。テニスやサッカーの表彰式などでは子どもたちが憧れの選手たちに会える機会にもなっているので、あのスタイルを考えているのでしょう。


オーストラリアのテレビ局SBSの自転車番組アカウントは「ようやく! ツアー・ダウンアンダーがポディウムガールを廃止」とツイート

 ひとりの女性サイクリストとして、プロサイクリングのファンとして、自転車レースの表彰台にポディウムガールが出てきて選手にお祝いのキスをする、そこでカメラのフラッシュがバチバチバチとまたたく、というあの状況は本当におかしい、どういう時代錯誤だと思っていました。なのでメジャーなツアー・ダウンアンダーからの一報にはスマホの前で小さくガッツポーズをしてしまったほどです。


「@UCI_cyclingへ。ポディウムガールを使うのをやめませんか。わたしの子どもたちによくないメッセージになってしまっています」という子どもを持つ男性からのUCIへのツイート。ポディウムガール反対の声は、ハッシュタグ#nopodiumgirlsでも見ることができます

 もちろん予想通り、「ポディウムガールは自転車レースの伝統だ」「ポディウムガールをやりたい女性がいるんだから何の問題もない」「ポディウムガールは成功の機会を奪われた」「行き過ぎたポリコレだ」といった反論は、SNSでもニュースサイトのコメント欄などでもたくさん見ます。でも、冒頭のような「ようやくサイクルスポーツも21世紀のスポーツにふさわしくなってきたか」と喜ぶ声のほうが圧倒的に多い状態といえるでしょう。

もはや「伝統」ではなく歴史の「残滓」

 ポディウムガールの是非については、英語圏ではもう久しく議論の的になってきています。そして女子レースの注目度が高まるほどに、レーパン姿の女子選手にボディコンハイヒールのポディウムガールが寄り添っている様子が微妙すぎると感じる人が増え、では平等にしましょうと2016年「ヘント〜ウェベルヘム」女子レースでは「ポディウムミスター」が用意されました。


「UCI 1.1の女子レース『フランダース・ダイアモンドツアー』の表彰台。@LottoCyclingCupは恥を知るべきです!」というツイートは元プロ選手のマリン・デヴリーズさんから。たしかにいったい何が起きているのか……という図

 たしかに清潔感のある若いイケメン揃いで、一瞬「あらぁ」と舌なめずりしたわたしのような低俗な観客がいなくはなかったと思いますが(笑)、あの試みはむしろ、じゃあゲイやバイセクシュアルの選手には表彰台の裏で「ポディウムガールとポディウムミスターとどちらがご希望ですか」と聞くのか? という疑問を引き出したし、そもそも表彰台で性的な要素をご褒美やエンターテイメントとして用意することこそがおかしいね、という認識を広める効果があったように思います。

PODIUM BOYS!!! ???????? #cycling #equality #abouttime #gentwevelgem thanks @jeaninelaudy ????

Nicole Grimm-Hewittさん(@nicolegrimmhewitt)が投稿した写真 –


「ポディウムボーイズ!!」2016年3月のヘント〜ウェベルヘム女子レースで登場した、「ポディウムミスター」たちが紹介されたインスタグラム。たしかにイケメンではあったが……

筆者の知り合いが70年代前半アマチュアレーサーとして活躍していた頃のスナップ。当時フランスでは街ごとの商店会が主催するクリテリウムが庶民の娯楽として盛んで賞金も悪くなく、転戦して賞金稼ぎをするセミプロのようなチームがしのぎを削っていた。ポディウムガールは大抵が街の美人コンテストで勝った女性で、「この街はこんな美人がいます」と宣伝するエンターテイメントの一部だった Photo: D Gabellini筆者の知り合いが70年代前半アマチュアレーサーとして活躍していた頃のスナップ。当時フランスでは街ごとの商店会が主催するクリテリウムが庶民の娯楽として盛んで賞金も悪くなく、転戦して賞金稼ぎをするセミプロのようなチームがしのぎを削っていた。ポディウムガールは大抵が街の美人コンテストで勝った女性で、「この街はこんな美人がいます」と宣伝するエンターテイメントの一部だった Photo: D Gabellini

 サイクルレースの歴史を振り返れば、ボクシングなどと似て、労働者階級に生まれた男の子が一発当てるために飛び込むけっこう荒くれた世界だったわけで、ポディウムガールは20世紀初めにサイクルレースが一般的になった初期からすでに存在していたのだそうです。 

 そう思えば今のポディウムガールも伝統、歴史の残滓と思えなくもないですが、きれいな女性がセクシーな服装で価値を高め、いちばん強い男にご褒美として与えられる図というのはやはり今の時代にはもうおかしいと思います。

 この図が繰り返されている限りは、女性は男性を喜ばせるもの、女性は見た目が大切、女性は脇役、女子レースはおまけ……というような変わっていくべき価値観がなかなか変わらない。

 ツアー・ダウンアンダーの後、2017年以降の各メジャーレースがどう変わっていくのか、期待しています。

青木陽子青木陽子(あおき・ようこ)

ロンドン在住フリー編集者・ジャーナリスト。自動車専門誌「NAVI」、女性ファッション誌などを経て独立起業、日本の女性サイトの草分けである「cafeglobe.com」を創設し、編集長をつとめた。拠点とするロンドンで、「運転好きだけれど気候変動が心配」という動機から1999年に自転車通勤以来のスポーツ自転車をスタート。現在11台の自転車を所有する。ブログ「yokoaoki.com」を更新中。

関連記事

この記事のタグ

“自転車革命都市”ロンドン便り Q&A(女性向け)

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

新着ニュース

もっと見る

ピックアップ

わたしらしく自転車ライフ

スペシャル

SBAA動画

ソーシャルランキング

インプレッション

インプレッション一覧へ

連載