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猪野学の“坂バカ”奮闘記<4>忍耐力と頭脳を持ち合わせた最強のコーチ 「ドクター竹谷」の“ダメ出し百烈拳”

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 私が出演中の番組NHKBS『チャリダー★』で、視聴者の様々なお悩みに答えるのが、“ドクター竹谷”こと竹谷賢二氏だ。アテネオリンピックMTB日本代表で、現在も世界大会に出場する現役トライアスリートでもある。番組当初から私はその竹谷氏から指導を受けている。ドクター竹谷は心身ともにトップアスリートだ。本人も言い訳を一切言わない代わりに、人の言い訳も聞かない。「舞台で1カ月自転車に乗れなくて」とか「腰を悪くして」とか言っても、まったく聞いてくれない。そして「何故ダメだったのか?」「何処が悪いのか?」という問題点をとことん炙り出し、バッサリ裁かれる。

「ドクター竹谷」と不肖の弟子(筆者)「ドクター竹谷」と不肖の弟子(筆者)

知恵熱が出そうなドクターの理論的指導

竹谷検事の「ダメ出し百裂拳」。毎回放送される以外にも膨大なダメ出しがある竹谷検事の「ダメ出し百裂拳」。毎回放送される以外にも膨大なダメ出しがある

 そんな番組スタジオでのドクター竹谷による総評を、私はひそかに「裁判」と呼んでいる。竹谷「検事」のチャリダー裁判。“ダメ出し百烈拳”を受ける本人はけっこう凹んでいたりするのですが、視聴者からのお手紙によると、これがけっこう楽しいらしいから、気持ちはフクザツだ。

 ドクターのすごいところは、厳しさだけではない。

 「骨盤は、立てた方がいいのか? 寝かした方が良いのか?」などと質問すると、骨盤の形状説明から始まり、体幹、それに付随し連動する筋肉の動き、と延々と30分も続いてゆく。つまりは「一番のパフォーマンスを発揮できるフォームをとった時に、骨盤は立ってる人もいれば寝ている人もいる」らしいのだが、あまりに理論的過ぎて途中から私は知恵熱が出る。本当に頭が良いし、情熱の塊のような人なのだ。

「ドクター竹谷」こと竹谷賢二氏「ドクター竹谷」こと竹谷賢二氏

 そのドクター竹谷がまず最初に私に出した指示は、「フォーム修正」だった。当時の私は、体幹が使えず、肩に力が入ってしまっていた。おまけに、もがき出すと上半身が左右にブレてしまう。これがいくら指摘されても直らない。

ドクターの教えに背き、ブレていた時代

 半年経っても直らない私のブレブレ走法は全国に知れ渡り、レースに出ると「ブレてるよ!」とイジられる現象が起こった。実を言うと、ブレブレで走る事が「ムダ」だということが当時はよく分からなかった。

あまりに激しい筆者のブレに映像も…?あまりに激しい筆者のブレに映像も…?

 激坂を走るとき、普通に漕いでもまったく進まないので、右のペダルを踏む時には右脚に体重を乗せる。次に左のペダルを踏むので、左脚に体重を乗せる。これを繰り返すと、上体は左右にブレるというわけだ。体全体を使ってペダルを漕ぐ…これが悪いことなのだろうか?

 ブレを直すために、番組は様々なトレーニングを計画してくれた。体幹トレーニングに始まり、ブレを客観的に見るトレーニング、などなど。しかし直らなかった。そりゃそうだ、ブレないと速く走れないと心のどこかで思っているのだから、直るわけがない。

富士山国際のレース直前、「何もかもフォゲット」した筆者富士山国際のレース直前、「何もかもフォゲット」した筆者

 番組の「ブレ克服プロジェクト」が始まって1年が経ち、ふたたび我が心のふるさと・富士あざみラインを走るヒルクライムに挑戦することになった。最大勾配は22%…ブレずに走って、自己ベストが出るわけがない。思い余って、私はドクター竹谷の教えを完全忘却することにした。名付けて「何もかもフォゲット作戦」。…思い出すだけでお恥ずかしい次第だし、結果は先輩俳優の筒井道隆さんに惨敗した。もう何にもわからない。私の脳内は「五里霧中」だった。

富士山国際ヒルクライムで筒井道隆さんに惨敗富士山国際ヒルクライムで筒井道隆さんに惨敗

「自転車で付いた癖は自転車から離れないと直らない」

 そんな私の「半信半疑」をドクター竹谷は知っていたのだろうか。次に勧めてくれたのが、「SUP」(スタンドアップパドルボード)だった。サーフボードの上に立ち、オールを漕いで進む競技。これはボードの上にたってバランスをとるだけで、無意識に体幹が鍛えられる。

SUPではひたすら水没…しかしこの経験がブレ解消に繋がったSUPではひたすら水没…しかしこの経験がブレ解消に繋がった

 この「SUP」は私の心をぶっ壊した。この競技では、体幹を使えないとお話にならないほど漕げないのだ。そしてそのSUPで掴んだ「体幹を軸にして漕ぐ」感覚を持って激坂を上ってみると…なんとブレブレ時よりも速く走れたのだった。よく考えれば、走る時にブレている人なんて見たことがない。左右の脚に体重をかける時、上体をブラさずに体重は十分に乗る。そのことにようやく気付かされたのだ。

美味しい食事とお酒をこよなく愛するドクター竹谷 美味しい食事とお酒をこよなく愛するドクター竹谷

 そんな私にドクターは優しくこう言った。「自転車で身に付けた癖は、自転車から離れないと直りませんからね」と…この辺りから、ようやく私はドクター竹谷を信じ始めた。番組が始まって、2年の時が経とうとしていた。

 何度思い返しても、自分は不出来な生徒だと思う。そしてドクター竹谷は忍耐力と頭脳を持ち合わせた最高のコーチだとつくづく思う。いつの日か、ドクター竹谷に表彰台に乗った姿を見せて、喜ばせたい。そして、あのドクターの能面のようなおそろしいダメ出しを卒業したい。

 そんな日を夢見て今日も心拍を上げるのです。

(写真提供:NHK/テレコムスタッフ)

猪野 学猪野 学(いの・まなぶ)

俳優・声優。自転車情報番組NHK BS1『チャリダー☆』(毎週土曜18:00~18:25)にレギュラー出演し、「坂バカ俳優」という異名で人気を博す。自転車の他、空手やスキーなども特技とするスポーツマン。俳優として舞台や映画、ドラマなどで活躍する一方、映画『スパイダーマン』のトビー・マグワイアの声優としても知られる。ウェブサイト「マナブログⅡ

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