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猪野学の“坂バカ”奮闘記<3>坂バカ日本一の森本誠“師匠” 「山の神」たる所以

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 サイクリストの皆様なら、「森本誠」という名前をご存知の方も多いだろう。そう、我が師匠にして自他ともに認める「坂バカ日本一」。ヒルクライムをやる人間なら「山の神」と呼ぶ、Jプロツアーレーサーの森本選手だ。今年も乗鞍(全日本マウンテンサイクリングin乗鞍)を連覇し、富士ヒル(Mt.富士ヒルクライム)ではコースレコードもマークした、坂バカたちの憧れである。そんな森本師匠との出会いは、今から6年前の富士山国際ヒルクライムだった。

『チャリダー★』で森本師匠(右)に弟子入り!『チャリダー★』で森本師匠(右)に弟子入り!

“神”との遭遇

 ゴール地点の須走口五合目でプロたちのゴールを待ち構えていた。初めて見る生のプロの走り…真っ黒に日焼けした屈強な身体の持ち主がもの凄いテンションでもがいて上ってくるに違いない。胸をときめかせたのを今でも覚えている。

 先導バイクが見えた。いよいよプロのトップが現れるのだ。いったいどんな選手が見えてくるのか?

 …しかし、霧の奥から現れたのは…真っ白く細々としたお兄さんだった。

“山の神”こと「イナーメ信濃山形」の森本誠師匠“山の神”こと「イナーメ信濃山形」の森本誠師匠

 目には、トップ選手たちが使ってるカッコいいサングラスとかじゃなく、普通の四角い銀縁メガネ。特に呼吸が乱れるでもなく、まるで悟りを開いた禅僧の様な涼しげな表情で通り過ぎて行った。

 なんてこった。この人が日本のトップなのか。それが私の「神との遭遇」だった。

 それから坂バカ友達との話題は森本師匠一色だった。アマチュアなのにプロより速い…。それは痛快だったし、何よりビジュアルが素敵すぎた。色白、銀縁メガネ。私も目が悪ければ銀縁メガネにしたかった。

森本師匠と乗鞍のコースを試走!森本師匠と乗鞍のコースを試走!

 『チャリダー★』が立ち上がると聞いた時、まず思ったのは「坂バカ=メガネ」というイメージだった。普通のメガネ姿で飄々と走る森本師匠の姿に、少しでも近づけようと思ったのだ。スタッフも、メガネが曇ると「大変さ」が伝わるので良いと喜んでくれた。坂バカのメガネキャラは、実は森本師匠をモデルにしていたのである。

「俺のケツ筋目覚めろ!」

 それから数年経ち、番組で森本師匠と合宿をさせていただく事になった。その名は…「効率的坂バカ合宿」。東京大学出身の師匠だから、さぞかし理論的な内容なのかと期待して、三重へと向かった。

合宿で師匠の強さの秘密に迫ろうとするが…合宿で師匠の強さの秘密に迫ろうとするが…

 三重の山奥でロケ開始。青山高原山頂までの山岳コースだ。師匠はシーズンオフで自転車に乗ってないと言うが、それでも猛烈に速い。私のヒヨコの様な心拍はあっという間に最大値。「これはしごいて貰える!」ますます期待は膨らむ。

 しかしだ。師匠から出てくるコメントは「追い込めば心臓は大きくなりますよ!」とか「脂肪は百害あって一利なし!」とか「俺のケツ筋目覚めろ!」とか、かなりファンキー。ぜんぜん理論的な感じではない。正直言って、相当なレベルで自身を追い込んでいること以外は、師匠の速さの秘密はよくわからなかった。

 聞けば、師匠の東大時代の研究内容は「稲ワラの有効活用について」だそうだ。ちゃんと論理的な論文を書いたのだろうか。ちょっと心配になってしまった。

ピュアすぎる坂バカ

 そして、師匠の速さの秘密をあばく前に、空からパラパラと来やがった。そしてどしゃ降り。ロケが行われたのは12月下旬、師走。雨はどんどん酷くなり我々は真冬というのに全身びしょ濡れに。寒いなんてもんじゃない。こんなのロケをしている場合ではない、師匠が風邪をひいたら大変だ。

雨はやがて吹雪へと変わったが、特訓は続いた…雨はやがて吹雪へと変わったが、特訓は続いた…

 その時、師匠が雄叫びをあげた。

 「あーーーーーーーーーっ!!!」

特訓中、突然降り注いだ雹(ひょう)。"神"も思わず悶絶!特訓中、突然降り注いだ雹(ひょう)。"神"も思わず悶絶!

 これは放送に使われ、後に『チャリダー★』屈指の名シーンとなる。私は寒さに震えながら、ふと思った。師匠は純粋に走ることが楽しくて仕方ないのだ。キツければキツイほど、楽しくて仕方ないのだ。

 ためしに師匠を激坂で追い抜いてみる。すると、嬉々として抜き返してくる。「猪野さん速いですね〜」と笑いながら。そして私を抜いてしまうと、ふたたびスピードは落ちる。また抜き返すと、楽しそうに抜き返してくる。

降り注ぐ雹(ひょう)のえじきに…降り注ぐ雹(ひょう)のえじきに…

 コーナーの特徴を語るその顔がとてもピュアで楽しそうだ。こんな話、坂バカ以外には通じないに違いない。普通の人が聞いたら、師匠が何を嬉しがっているのか分からないに違いない。…その時 私は気付いた、この人は本当に坂が好きなのだと。どこまでもピュアに坂を愛することができる…これが「神」たる所以なのだ。

 しかしこの ピュアさは、迷える子羊をドン底に叩き落としたりもする。

 ある日 、神はさらりとこんなことを言った。

ローラー台の練習法も教わった!ローラー台の練習法も教わった!

 「自転車競技は95%はその人の資質、持って生まれたもので決まりますからね、ペダリングやフォームといった技術は残りの5%だけなんですよねぇ…」

 おぉ神よ! 何とも夢も希望もない話ではありませんか!?そんなの大手芸能事務所に所属しなければ売れる事は出来ないって言われているようなものです。神よ! これはトップ中のトップ、そこまで極めた人達に限っての話だと言って下さい…。

森本師匠は永遠の憧れ

今年の乗鞍で激走する森本師匠。『チャリダー★』でも11月19日(土)に放送予定今年の乗鞍で激走する森本師匠。『チャリダー★』でも11月19日(土)に放送予定

 さんざん三重の山を走り込んで宿へと戻った我々は、なぜか相部屋だった。大物俳優との相部屋とはまたちょっと違う緊張感…私はなかなか寝付けなかった。となりの師匠は物音も立てずに横になっている。私の肝っ玉は小せえなあ、このぐらいの緊張で寝られなくなっちゃうのか、と思いながら、朝を迎えた。

 朝食を食べながら、師匠に「緊張して眠れませんでした」と言ったら、「猪野さんグーグーいびきかいてましたけどね」と言われた。

 実は師匠、ほとんど眠れなかったらしい。師匠も人間だった。

 ファンキーで邪気のないピュアな存在、それが私にとっての森本師匠、神なのです。これからも永遠に そんな神に翻弄され、憧れ続けるのです。

 アーメン。

(写真提供:NHK/テレコムスタッフ)

猪野 学猪野 学(いの・まなぶ)

俳優・声優。自転車情報番組NHK BS1『チャリダー☆』(毎週土曜18:00~18:25)にレギュラー出演し、「坂バカ俳優」という異名で人気を博す。自転車の他、空手やスキーなども特技とするスポーツマン。俳優として舞台や映画、ドラマなどで活躍する一方、映画『スパイダーマン』のトビー・マグワイアの声優としても知られる。ウェブサイト「マナブログⅡ

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