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砂田弓弦の風を追うファインダー<22・終>ロードレースと切り離せない存在、チームカーのこと

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早口のアルジェンティーン

 イタリアのモレーノ・アルジェンティーンは、1980年代を代表する選手だった。狙ったレースは確実にものにする選手で、1985年からリエージュ~バストーニュ~リエージュで3連勝するという快挙を打ち立てている。

 引退後はイタリアとロシアの混成チーム「ロスロット・ZG」を立ち上げたが、ロシアからのマネーがストップして資金難に陥って空中分解。これが元で自転車界から足を洗ってしまった。

 今でもごく稀に自転車レースに姿を見せる。一度、ジロのゾンコランのステージが終わってスキーリフトで下まで降りるときにたまたま隣り合せとなった。ヴェネト地方のアクセントの強い早口で「仕事はうまくいっているかい」と声をかけてくれた。

イタリア屈指のワンデーレーサーとして活躍したモレーノ・アルジェンティーン(ジロ・デル・トレンティーノ1994) Photo: Yuzuru SUNADAイタリア屈指のワンデーレーサーとして活躍したモレーノ・アルジェンティーン(ジロ・デル・トレンティーノ1994) Photo: Yuzuru SUNADA

 このアルジェンティーンはアマチュア時代の1978年にトラックレースの団体追い抜きでイタリア・チャンピオンになっているが、そのときのメンバーの一人が、フレームメーカー「スカピン」の2代目、ステファノ・スカピンである。

 モスクワ五輪の代表にもノミネートされたスカピンは、アルジェンティーンと違ってゆっくりとしゃべる温厚な人だった。

 僕がなぜこの人を訪ねることになったかというと、雑誌の自転車工房の連載ものを持っていたときに、業界の人たちに聞いたら、評判が抜群に良かったからだ。

 「コルナーゴ、デローザ、ピナレッロなどと同じ1950年代の創業。もうちょっとうまくやっていれば、これらと同じくらいになっていたはず」というパイプメーカー社員の証言もあった。

 そして実際に訪問した時、一流の証である工房内の整理整頓が行き届いていた。

スポンサーの金額とその効果

 僕は現在、ブエルタ・ア・エスパーニャを取材中だ。このスカピンを思い出したのは、スタートに集まってくるファンを見たことがきっかけだ。

 ブエルタはグランツールの中でも規制が最もゆるく、ファンはスタートに集まるチームカーのところに入ることが比較的容易にできる。選手からサインをもらったり、並んでいる自転車を見てああでもない、こうでもないと言っている。

スタートで集まって自転車談義をする人たち Photo: Yuzuru SUNADAスタートで集まって自転車談義をする人たち Photo: Yuzuru SUNADA

 スカピンは1999年に1年間だけイタリアのプロチーム「バッラン」にフレームを供給した。会社を訪問した時、こうしたスポンサーになるのは、実際に差し出す金やフレームに見合うだけの価値があるのかどうかを聞いてみた。

 ちなみに今の相場はワールドチームで150万ユーロとフレームが150本から200本、その下のプロフェッショナル・コンチネンタルカテゴリーでグランツールに招待されるチームだったら20万から30万ユーロ+フレームがおそらく最低ラインだろう。

 一流チームのスカイになるとどのくらいになるのか興味があったので、ファウスト・ピナレッロに聞いてみた。なかなか教えてくれたなかったが、とうとう口を割ったときにはやはり金額の高さにびっくりしてしまった。ウーゴ・デローザが、「昔はチームが金を出して買ってったものだ」と怒るのももっともだ。

ロードレースにはチームカーが必要不可欠

 「たしかに宣伝効果はあった。自転車を満載したチームカーがレース会場に現れると、ファンの人たちが寄ってきて自転車を見る。そうしたことが、とても効果的」とスカピンは言った。

 日本でのロードレースの開催は、現状、警察の許可を得ることが非常に難しいし、そして開催できても、チームカーを走らせることは、多くのレースで不可能だ。

 だけど、ハイレベルのロードレースにはチームカーが必要不可欠なのだ。レースにはスタートとゴールがあり、審判もいる。そうしたことはルールブックに書かれた基本なのだけど、チームカーがつくことだって、ルールブックに記されている。つまり、選手だけで質の高いレースをやることは不可能なのだ。

 前出のスカピンの言葉を借りるまでもなく、チームカーはスポンサーにとって露出媒体の一つでもある。ボディには、金額によって大小さまざまな企業やブランドの名前が入れられる。積まれる自転車だって間接的には広告塔の役目を果たす。

現在のプロチームのキャリアは9台積みが主流だ Photo: Yuzuru SUNADA現在のプロチームのキャリアは9台積みが主流だ Photo: Yuzuru SUNADA

 ルーフのキャリアだって日進月歩だ。現在は9台積みが主流となっている。カナダのハミルトンで行われた2003年の世界選手権のとき、市販されている一般向けのキャリアが用意されたが、イタリアチームだけは本国からこのキャリアを送って、自転車搭載の数を増やした。もっとも優勝はスペインのアスタルロアだったが。

 オーストラリアで行われるツール・ダウンアンダーや、トルコのツアー・オブ・ターキーも、クルマこそレンタル会社やクルマ会社からのものだが、キャリアだけはちゃんとしたプロチームが使っているものを用意している。

日本のロードレースでもチームカーを

走りながら変速機の調整をしてもらう選手。チームカーはハイレベルのレースでは不可欠という認識が大切 Photo: Yuzuru SUNADA走りながら変速機の調整をしてもらう選手。チームカーはハイレベルのレースでは不可欠という認識が大切 Photo: Yuzuru SUNADA

 日本でのロードレースの開催は、想像を絶するくらいに困難を極める。関係者の努力はもうたいへんなものだ。だけど、前年がこうだったから今年も同じという、過去の踏襲をよしとする風潮が日本全体にあるのは否めない事実だ。

 今はたしかに警察の許可がおりないから難しいが、将来はこうしていきたいという理想像を持つことはとても大事で、これがあるのとないでは大きな違いが出てくる。

 チームカーを走らせるレースの開催がたとえ今は無理でも、将来は必ず必要と思って欲しい。これが、パンクや機材の故障といった不意の事故で勝機を失うことを最大限に防ぎ、そしてボディに入る宣伝効果で、チームに資金が入りやすくなる。当然、自転車メーカーにとっては格好の広告媒体になる。

 チームカーを走らせることは、日本の自転車業界全体に取って大きなプラスになるはずだ。(終わり)

砂田弓弦
砂田弓弦(すなだ・ゆづる)

1961年9月7日、富山市生まれ。大学卒業後にイタリアに渡り、1989年から自転車競技の取材・撮影に携わる。世界のメジャーレースで、オートバイに乗っての撮影を許されている数少ないフォトグラファーの一人。多くの国のメディアに写真を提供しており、ヨーロッパの2大スポーツ新聞であるフランスのレキップ紙やイタリアのガゼッタ・デッロ・スポルト紙にも写真が掲載されている。

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