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サイクリスト

2012 JAPAN CUP プレイバック宮澤とサガンが牽引したトップ3 ジャパンカップの帰趨を決めた決定的シーン

by 上野嘉之 / Yoshiyuki KOZUKE
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9周目の後半、単独で先頭に立ったNIPPOのアレドンド(写真・早坂洋祐)9周目の後半、単独で先頭に立ったNIPPOのアレドンド(写真・早坂洋祐)

 9周目に入ると、レース展開は激動を迎えた。それまで先行していた内間康平(チームNIPPO)、井上和郎(チームブリヂストン・アンカー)の日本人2選手を、外国人選手を中心とする集団があっという間に飲み込んだ。そしてNIPPOのクライマー、ジュリアン・アレドンドがアタック。スルスルと抜け出し、後続に20秒の差をつけた。遅れた追走グループにも欧州のプロ4チームのメンバーが入り、虎視眈々とチャンスをうかがっている。

 その頃、さらに後方の集団にいた宮澤崇史(サクソバンク・ティンコフバンク)は、迷っていた。前方の追走グループに、チームメイトのヤロスラフ・マリチャが加わっている。セオリー通りならば、追う必要はないだろう。しかしチームの戦術は、いま自分と並んで走っているラファル・マイカをエースとして勝負させることだった。

 先行するマリチャにトップ争いを委ねるべきか、それとも、マイカと共に前を追うべきか? 活性化しつつある集団の中で、宮澤はマイカに声をかけた。「どうする?」

 「行こう」。マイカの回答はシンプルだった。宮澤は瞬時に状況を分析し、いま自分が果たすべき役割をのみ込んだ。

 先行しているマリチャは、前日のクリテリウムを制するなど好調ではあるが、このアップダウンが激しいコースで足が残っているのはマイカの方だ。彼の登坂力ならば、アタックをかけて先頭に追いつくこともできるだろう。しかし、周囲にはイヴァン・バッソ(リクイガス・キャノンデール)、ダニエル・マーティン(ガーミン・シャープ)といった他チームのエース格がいる。マイカが不用意に動き、ライバルを引き連れて足を削られるようなことがあっては台無しだ。

集団を猛然と引いた宮澤崇史。サガンがピッタリとマークした(写真・砂田弓弦)集団を猛然と引いた宮澤崇史。サガンがピッタリとマークした(写真・砂田弓弦)

 宮澤は集団の先頭に立って、一気にペースを上げた。マイカの足を残しつつ、集団をふるいにかけ、前方の追走グループに追いつく作戦だ。すかさず、バッソを引き連れたペテル・サガン(リクイガス・キャノンデール)が宮澤に食らいつく。その様子が会場のモニターやラジオ中継で伝えられると、大観衆がどよめき、沿道は熱狂に包まれた。

 実は宮澤自身、9月末にヨーロッパのレースで落車し、ジャパンカップの1週間前まで歩くのにも支障があるほどのけがを負っていた。この体調では、ゴール争いに加わることはできない。ならば、ここが勝負所だー。

 1分、2分と集団を引き続け、トップとの差はみるみる縮まった。しかし、時間とともに宮澤の表情は苦悶に歪んでいった。10周目に突入した後、宮澤は一緒にいたもう1人のチームメイト、ジョナサン・キャントウェルに託して、静かに集団を離脱した。

チームメイトのキャントウェルに牽引役を託して離脱する宮澤崇史(右)。後方のマイカを含む3人が表彰台に立った(写真・早坂洋祐)チームメイトのキャントウェルに牽引役を託して離脱する宮澤崇史(右)。後方のマイカを含む3人が表彰台に立った(写真・早坂洋祐)

 マイカは思惑通り集団を抜け出して先行グループに追いついた。サガンが死力を尽くしてアシストしたバッソも、少し遅れて先頭争いに加わった。激しい駆け引きの末、最後はゴールスプリントにもつれこみ、バッソ、マーティン、マイカの順でフィニッシュ! 表彰台に立った3人は、いずれも宮澤やサガンが第3グループから引き上げたメンバーだ。

 疲労困憊の宮澤は、トップから6分以上遅れてゴール。サガンは、フィニッシュゲートを見ることなく棄権した。

◇        ◇

 バイクを降りた宮澤は、休む間もなくサイン会に臨み、ファンや子どもたちに1時間以上もサインと握手を続けた。その後、記者がレース展開についてたずねると、宮澤は逆に「最後はどうなったんですか?」と問い返した。

 「マイカはいい走りで3位に入った。宮澤さんのおかげです」。記者の言葉を聞くと、「それならよかった…」と、ようやく安堵の表情を浮かべた。
 

写真 砂田弓弦、早坂洋祐(産経新聞社)

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