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はらぺこサイクルキッチン<65>MTBマラソン世界選手権2016 「補給と一緒に元気を届ける」サポーター目線の舞台裏

by 池田清子 / Sayako IKEDA
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 先日、他のプロスポーツ選手の奥様方とお会いする機会がありました。競技は違えど「夫=アスリート」を支える上で共通することも多く、とてもいい刺激を受けました。海外遠征の同行に本連載やブログを参考にしてくださっているという嬉しいお声も頂きましたので、今回は先日行われたUCIマウンテンバイクマラソン世界選手権2016を例に、レースの舞台裏をご紹介したいと思います。

フィード/テクニカル ゾーン(補給/メカニックエリア)へのルートと場所を確認するため入念に試走。「ボトルの渡し方は今回もこんな感じで?」と確認 Photo: Sayako IKEDAフィード/テクニカル ゾーン(補給/メカニックエリア)へのルートと場所を確認するため入念に試走。「ボトルの渡し方は今回もこんな感じで?」と確認 Photo: Sayako IKEDA
フィードからフィードへの最適なルートを模索すべく試走していたら、夫に偶然遭遇。ナビだけでなく、最終的には足で情報を稼ぎます Photo: Sayako IKEDAフィードからフィードへの最適なルートを模索すべく試走していたら、夫に偶然遭遇。ナビだけでなく、最終的には足で情報を稼ぎます Photo: Sayako IKEDA
今回泊まったキッチン付きのコテージ。会場から3km離れた所に位置し、とても快適でした。日本人の宿泊者は初めてよ!と歓迎してくださいました Photo: Sayako IKEDA今回泊まったキッチン付きのコテージ。会場から3km離れた所に位置し、とても快適でした。日本人の宿泊者は初めてよ!と歓迎してくださいました Photo: Sayako IKEDA

サポーターも共に戦う

 私にとっては今回で3年目の世界選手権。フィードの要領が掴めてきたり、細かなルールがわかってきたりと、少しずつでも経験が積み重なっていることに気がつきました。一生懸命戦う選手と共に、すぐ側ではもう一つの戦いが-。選手を支えるサポーターにとって、少しでも参考になれば幸いです。

レース前日の夕方から始まるミーティングに、チームマネージャーとして一人で参加。フィード/テクニカル ゾーンに入る為の許可証も国ごとに呼ばれて受け取ります Photo: Sayako IKEDAレース前日の夕方から始まるミーティングに、チームマネージャーとして一人で参加。フィード/テクニカル ゾーンに入る為の許可証も国ごとに呼ばれて受け取ります Photo: Sayako IKEDA

 遠征先での主な私の役目は、食材調達、食事作り(可能な限りキッチン付きの宿を選択)、マッサージ、衣類の洗濯、そして入念な試走を重ねて車で回るフィード(選手への補給)。フィードの正確な場所はオフィシャルサイトに載っていないので、事前に大会スタッフに問い合わせ、教えてもらう座標が頼り。現地についてから本番を迎えるまで、連日分刻みのスケジュール。1日があっという間に感じられます。

世界のいろいろなところで調理することは、とても楽しいです。場所にもよりますが大抵のキッチンにはなんでも揃っています Photo: Sayako IKEDA世界のいろいろなところで調理することは、とても楽しいです。場所にもよりますが大抵のキッチンにはなんでも揃っています Photo: Sayako IKEDA

 レース前日はレジストレーション(受付)。日本代表選手は夫・池田祐樹、そして門田基志選手。今回私はチームマネージャーとなりました。チームマネージャーは夕方から始まるミーティングに参加し、フィードゾーンに入るためのパス(許可証)を受け取ります。

選手が試走する場所まで車で送るのも、仕事の一つ Photo: Sayako IKEDA選手が試走する場所まで車で送るのも、仕事の一つ Photo: Sayako IKEDA
リカバリー用のスポーツオイルを使ってマッサージ。全身で約1時間行いますので、私は汗だくです Photo: Sayako IKEDAリカバリー用のスポーツオイルを使ってマッサージ。全身で約1時間行いますので、私は汗だくです Photo: Sayako IKEDA

駐車スペースも取り合い

 当日オフィシャルフィードエリアに到着したら(それ以外の場所でのサポートは禁止されています)、なるべくフィードに近い場所に駐車して、補給ドリンクや食べ物、スペアホイール、工具を持ってダッシュ。タイム差があまり開いていない序盤は特に、駐車スペースも取り合いになります。補給を渡す一瞬で、前の集団とのタイム差や順位なども可能な限り伝えますよ。

本番でフィードを行う筆者。フィードとフィードの間が短い時は特に、時間との戦いです Photo: Yoshito TAKEUCHI本番でフィードを行う筆者。フィードとフィードの間が短い時は特に、時間との戦いです Photo: Yoshito TAKEUCHI

 宿を選ぶ際は、レース会場から近いことやスーパーマーケットが近隣にあるかどうかも大事なポイント。インターネット上の地図で調べることができるので、便利な時代ですね。

 大きな大会になると会場近くの宿はすぐに埋まってしまうのですが、キッチン付きはいい条件下でも空いていることがあります。今回はフランスの南部に位置するレサックという街が、レースの拠点となる会場。そこから約3kmのところに位置する戸建てのロッジを選びました。

 慣れないキッチンで少しでも快適に、効率良く調理をするために、日本から持参するものもあります。調理の基本となる包丁も、海外には使い慣れない形状のものが多く、持参するようにしています。ただ少しでも荷物を軽量化したい私は、旅には小さなフルーツ用のナイフを選んでいます。カバーもついているので安全面でもオススメです。

2〜3日に一度、買い出しへ。Bioのマークは、ヨーロッパではオーガニックの意。全食100%植物性の食事を作りました Photo: Sayako IKEDA2〜3日に一度、買い出しへ。Bioのマークは、ヨーロッパではオーガニックの意。全食100%植物性の食事を作りました Photo: Sayako IKEDA

 他に、すりおろし器、スライサーも野菜の切り方を変えるツールとして便利です。野菜の切り方が変わるだけで、例えば同じキャベツでもざく切りと千切りでは食感も味も変わり、調理のバリエーションも増えるのです。小さなすりおろし器があると、にんにくやしょうがをおろすのに便利です。

乾物は栄養価高く〝クッション代わり〟

日本から持って行った食材と調理器具 Photo: Sayako IKEDA日本から持って行った食材と調理器具 Photo: Sayako IKEDA

 日本から持参する食材は、なんといっても乾物がいいですね。軽くて、栄養価が高くて、スーツケースの中ではクッション代わりにもなります。今は色々な食材が世界中で手に入り易い時代ですが、乾物に限っては海外では手に入りにくいものが多いです。今回持参した乾物を例に挙げますと、昆布、干し椎茸、高野豆腐、大豆ミート、海苔。たったこれだけでも、持って行ってよかったと心から思いました。

ある日の夕食。手前の料理は持参の海苔にアボカドをのせ、醤油をかけただけのものでしたが、ご飯とよく合いとても美味しかったです。醤油は海外でも比較的手に入りやすい食材の一つです Photo: Sayako IKEDA ある日の夕食。手前の料理は持参の海苔にアボカドをのせ、醤油をかけただけのものでしたが、ご飯とよく合いとても美味しかったです。醤油は海外でも比較的手に入りやすい食材の一つです Photo: Sayako IKEDA

 他に持って行けばよかったと後悔したのが、ひじき、切り干し大根、鷹の爪。荷物の重量に余裕があれば、乾物ではありませんが味噌や梅干しも持参したかった食材です。日本の乾物は本当に優秀。今流行りの「スーパーフード」とも呼べるでしょう。

 新鮮な野菜はもちろん現地で調達。なるべく地元で生産されたものを選び、その土地に出来る作物を身体に取り込むことで、心身ともに現地に馴れるように心がけます。「水が合う」という言葉がありますが、時差も含め、いろいろなところで早く現地に馴染んだもの勝ちかなと思います。

売られている形状が違うので見つけにくいこともあるのですが、ヨーロッパとアメリカでは豆腐が比較的手に入りやすいのは助かります Photo: Sayako IKEDA売られている形状が違うので見つけにくいこともあるのですが、ヨーロッパとアメリカでは豆腐が比較的手に入りやすいのは助かります Photo: Sayako IKEDA
米と水で戻した高野豆腐を一緒に炊くと、高野豆腐が絹豆腐のようにツルツルとした食感に変身します Photo: Sayako IKEDA米と水で戻した高野豆腐を一緒に炊くと、高野豆腐が絹豆腐のようにツルツルとした食感に変身します Photo: Sayako IKEDA

 馴れた頃にレースが終わっていた、なんてことが無いように。食はダイレクトに体の中に取り込むので、いい意味で現地の影響を受け易いと考えています。その際も、なるべくオーガニック素材のものを選ぶようにしています。ヨーロッパではBioという表示がそれに当たり、普通のスーパーマーケットでもオーガニックコーナーがあるなど、割と種類が充実しています。ヨーロッパやアメリカでは、豆腐も比較的手に入ります。

 忙しくても、サポーター自身の体調をしっかり確保することも大事です。風邪を引いて選手にうつしてはいけません。予防としては、基本ですが手洗いうがい、そしてしっかり栄養のあるものを食べて、よく眠ることに尽きます。今回はレースが終わった後に気が抜けたのか、微熱が出ましたが、すぐに休ませてもらいました。数時間後には回復し大事には至りませんでしたが、少しでも嫌な兆候が見えた時には休む、ということもお互いにとって必要なことです。

フィニッシュ後、日本代表選手として出場した門田基志選手(TEAM GIANT、左)と池田祐樹(TOPEAK ERGON RACING TEAM USA、中央)。私もレースを一緒に乗り切った気持ちでした Photo: Sayako IKEDAフィニッシュ後、日本代表選手として出場した門田基志選手(TEAM GIANT、左)と池田祐樹(TOPEAK ERGON RACING TEAM USA、中央)。私もレースを一緒に乗り切った気持ちでした Photo: Sayako IKEDA

 選手と共に同じ目標に向かって歩み続けていると、無意識の内に自分もアスリートと同じ気分になっていると指摘されて驚いたことがありました。日本で鍼灸院の先生に身体を診てもらった際「あなたもアスリートの身体になってるよ。選手と一緒になって緊張しているでしょう。身体が硬いよ。側にいる人の波動は移るからね」と針をたくさん打たれました。その通りかもしれない、とハッとしました。選手をサポートしているみなさん、レースや大会前、体が硬くなっていませんか。もしそうなっていたら、少し肩の力を抜いてみましょう。逆に選手にもリラックスの波動が伝わって、よりいい状態で実力を発揮するかもしれません。

ヨーロッパの豆と日本の干し椎茸のコラボ。どちらからもいい旨味が出ます Photo: Sayako IKEDAヨーロッパの豆と日本の干し椎茸のコラボ。どちらからもいい旨味が出ます Photo: Sayako IKEDA
スライサーを使って人参を、ピーラーを使って紫キャベツを千切りにしたサラダを作りました。綺麗に細切りになるのと、調理時間も短縮されるのでオススメです Photo: Sayako IKEDAスライサーを使って人参を、ピーラーを使って紫キャベツを千切りにしたサラダを作りました。綺麗に細切りになるのと、調理時間も短縮されるのでオススメです Photo: Sayako IKEDA

 選手の体調不良を見逃さないことも経験として学びました。今回、スリランカのレースを終えた夫と再会した際に、口角が切れて赤く腫れていました。他にも睡眠が良く取れているか、便通はどうか、体のマッサージをしながらコリ、むくみ(ついでに外傷や治る速度)なども観察。疲労を超えた超疲労状態は、わかりやすいほどに身体にサインが現れます。口角炎が出ている時は食事でも酵素の多い生の野菜をサラダとして調理し、胃腸に負担がかからないように豆を柔らかくなるまで煮ました。

 一つのレースが終わったら、次に大事なのはきちんと休養を取ること。私も一緒に休むようにしています。サポーターにも、切り替えは必要です。

サラダの縁に並べたのは、日本でも人気が高まっているチコリという、見た目は白菜のミニ版のような野菜。レサックでは定番野菜の一つ。苦味があって、美味しいです Photo: Sayako IKEDAサラダの縁に並べたのは、日本でも人気が高まっているチコリという、見た目は白菜のミニ版のような野菜。レサックでは定番野菜の一つ。苦味があって、美味しいです Photo: Sayako IKEDA
柔らかくなるまでよく煮て、消化に負担がかかからないようにした豆のスープ Photo: Sayako IKEDA柔らかくなるまでよく煮て、消化に負担がかかからないようにした豆のスープ Photo: Sayako IKEDA

 最後に、私が思うサポーターとしての一番大きな役割をお伝えします。それは「選手にとって心の支えである」ということ。当然夫(選手)の方が慣れているし、一人でも何とかなるんです。けれどもサポーターが選手の側に居るだけで、選手を安心させ、その役割を既に果たしているといっても過言ではないのです。

池田祐樹、フィニッシュの瞬間 Photo: Sayako IKEDA池田祐樹、フィニッシュの瞬間 Photo: Sayako IKEDA

 サポーターが待つフィードやゴールは、選手にとってはとんでもなくキツイレースの中で唯一の光となり得えます。補給と一緒に、元気も届けましょう! 今回のレース結果は、104位と正直とても悔しいものとなりました。またこの舞台に戻ってくる日まで、また今日から選手とサポーターの二人三脚が再スタートです。そんな時、サポーターのモチベーションは、選手からの感謝の気持ちの言葉。何よりも嬉しいものです。以上、サポーター目線の裏舞台でした。

池田清子池田清子(いけだ・さやこ)

アスリートフード研究家。モデル事務所でのマネジャー経験を生かして2013年夏よりトピーク・エルゴンレーシングチームUSA所属ライダー、池田祐樹選手のマネージメントを始め、同年秋に結婚。並行して「アスリートフードマイスター」の資格を取得。アスリートのパフォーマンス向上や減量など、目的に合わせたメニューを日々研究している。ブログ「Sayako’s kitchen」でも情報を発信中。

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