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つれづれイタリア~ノ<73>「海賊」「人食い人間」「サメ」…選手の“あだ名”は強者の証 

by マルコ・ファヴァロ / Marco FAVARO
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 先日、都内で開催された『パンターニ~海賊と呼ばれたサイクリスト~』のDVDとブルーレイ発売を記念したトークショーに出演し、今中大介さんとかなり熱く語りました。夜21時からのスタートと大雨だったにも関わらず、多くの方が聞きに来てくれて、改めてマルコ・パンターニの人気のすごさを感じました。

個性的な風貌やキャラクターが、海賊を連想させた(ジロ・デ・イタリア1998) Photo: Yuzuru SUNADA個性的な風貌やキャラクターが、海賊を連想させた(ジロ・デ・イタリア1998) Photo: Yuzuru SUNADA

 私はマルコ・パンターニの友達でなければ、直接会ったこともないのに語る資格がないと思っていました。しかし、彼に直接会った関係者に電話をして話を聞いてみたり、当時の新聞を読んだり、恥をかかないようにいろいろと調べたりしました。その中で、彼のあだ名である「イル・ピラータ」(海賊)が誕生した驚きのエピソードを知り、その秘話をトークショーで話したところ、かなり盛り上がりました。ということで、今回は選手たちの“あだ名”についてお話ししたいと思います。

“あだ名”は名誉の中の名誉

 ヨーロッパでは、古くからあだ名をつける習慣があります。優秀な芸術家や君主、政治家、または勇敢な軍人につけるものでした。ルネッサンスの巨匠の「ジョルジョーネ」や、第一次世界大戦に活躍した有名なドイツ人パイロット「レッド・バロン」もあだ名です。

エディ・メルクス 提供: steel-vintageエディ・メルクス 提供: steel-vintage

 スポーツの世界も例外ではありません。とくに自転車競技では、チャンピオン級の選手たちに呼び名をつける習慣がまだ根強く残っています。力士における四股名とは異なり、風格、大胆さ、レース展開、さまざまな要因がそろったときにしかあだ名は生まれません。あだ名は真のヒーローの証だからで、数人にしか与えられない名誉の中の名誉なのです。

 さて、歴代選手たちのあだ名の旅へようこそ。

「ザ・カニバル」(人食い人間)」

 エディ・メルクス(ベルギー)のことです。1960~70年代に活躍した史上最強のロードレーサー、エディ・メルクスはレースに勝ちたい貪欲さから、この異名が付けられました。グランツールやクラシックレースだけでなく、どんなに小さくローカルな大会でもとにかく勝ちたい!とても恐れられている存在でした。

「エル・ディアブロ(ザ・悪魔)」

クラウディオ・キアプッチ(ツール・ド・フランス1992) Photo : Yuzuru SUNADAクラウディオ・キアプッチ(ツール・ド・フランス1992) Photo : Yuzuru SUNADA

 永井豪作『デビルマン』を連想させる恐ろしい名前で、日本でも多くのファンがいる、1990年代に活躍したクルウディオ・キアプッチのあだ名です。南米でロードレースに参加した時に、彼の容赦ないアタックを見た現地のジャーナリストが実況中継中に付けたあだ名です。実はあだ名は実況中継の中で生まれていることが多いのです。当時、イタリアでスペイン語がブームとなっていたこともあり、スペイン語の呼び名が採用されました。

「イル・ピラータ(ザ・海賊)」

 ご存知、マルコ・パンターニ(イタリア)のあだ名です。2004年に若くして亡くなった悲劇のヒーローとして、イタリア人の誰もが知っているロードレーサーです。グループの中にいると姿が見えなくなるくらい体格は小さかったのですが、恐れを知らないアタックと、大胆さとその風貌からこの名前がつけられました。「イル・ピラータ」が誕生した背景には、彼の大きな悩みがありました。脱毛です。

 若くして脱毛に悩まされていた彼は思い切った行動に出ました。髪の毛を完全に剃ってしまい、鼻と耳にピアス、そして自転車競技に存在しなかったバンダナとあご鬚を登場させました。バンダナの使用も偶然でした。頭が小さかったマルコはどのサイクリングキャップをかぶってもぶかぶかで、母親の勧めでバンダナをつけたところ、「イル・ピラータ」のイメージにぴったりだったというわけです。偶然の出来事も大事ですね。

「ライオン・キング」

2002年ミラノ・サンレモで優勝したマリオ・チポッリーニ Photo : Yuzuru SUNADA 2002年ミラノ・サンレモで優勝したマリオ・チポッリーニ Photo : Yuzuru SUNADA

 サヴァンナをさまよう最強の肉食動物ライオンは、イタリア最強のスプリンター、マリオ・チポッリーニ(イタリア)のあだ名です。身長189㎝に体重80kg、風貌、力強さ、大胆さ、言動、このコラムで書けない夜の武勇伝の数々、すべてがライオン級!吠えたら、ジャーナリストも黙ります。すごい選手でした。

「ピッコロ・プリンチペ(リトル・プリンス)」

トークショーに出演したダミアーノ・クネゴ(写真:NIPPO・ヴィーニファンティーニ・デローザ提供)トークショーに出演したダミアーノ・クネゴ(写真:NIPPO・ヴィーニファンティーニ・デローザ提供)

 ダミアノ・クネゴ(イタリア、NIPPO ヴィニ・ファンティーニ)のことです。小柄でありながら、ジロ・ディタリア総合優勝、ジロ・ディ・ロンバルディア優勝、ジャパンカップ優勝などで輝かしい成績を残しています。34歳になった今も童顔で天使のような目をしています。ファンの前でいつも優しく振舞うので、この名前が付けられました。

「エル・ピストレロ(銃を操る人)」

アルベルト・コンタドール(クリテリウム・ドゥ・ドーフィネ2016)Photo : Yuzuru SUNADAアルベルト・コンタドール(クリテリウム・ドゥ・ドーフィネ2016)Photo : Yuzuru SUNADA

 パンパン!強盗だ!!と叫びたくなる名前ですが、実はアルベルト・コンタドール(スペイン、ティンコフ)のあだ名です。ジロ・ディタリア、ツール・ド・フランス、ブエルタ・ア・エスパーニャ、グランツールをすべて制覇した最強のスペイン人ロードレーサーです。ゴールするときのポーズ、ピストルを撃つ独特な仕草が、彼のあだ名を決めました。

「スパルタクス」

 古代ローマに勇敢でイケメンな剣闘士がいて、ローマ帝国の女性たちを虜にしたカリスマ的な存在でした。それがファビアン・カンチェッラーラ(スイス、トレック・セガフレード)に与えられたあだ名です。

ファビアン・カンチェッラーラ(ジロ・ディタリア2016) Photo : Yuzuru SUNADAファビアン・カンチェッラーラ(ジロ・ディタリア2016) Photo : Yuzuru SUNADA

 身長186㎝、体重86㎞。体格がよく、盛んにアタックする。ワンデーレースとタイムトライアルを得意とする大型選手。イタリアの血を引くスイス人としてイタリアでも愛されています。しかし、言葉少なく鋭い眼差しがこのあだ名の決め手になりました。2010年のツール・ド・フランスでマイヨ・ジョーヌが落車した際、カンチェッラーラの一言でグループが減速し、マイヨ・ジョーヌが戻るまで誰もが逃げませんでした。歴史に残る名シーンです。

「ロ・スクアロ・デッロ・ストレット(海峡のサメ)」

ジロ・デ・イタリア2016で2度目の総合優勝を飾ったヴィンチェンツォ・ニバリ Photo: Yuzuru SUNADAジロ・デ・イタリア2016で2度目の総合優勝を飾ったヴィンチェンツォ・ニバリ Photo: Yuzuru SUNADA

 「この人に注意!噛みます!!!」というイメージのあだ名ですが、実はヴィンチェンツォ・ニバリ(イタリア、アスタナ プロチーム)の呼び名です。サメとほど遠い性格ですが、一度敵に噛みついたら、絶対に離れない。そして盛んにアタックを繰り返すこと、イタリア南部、メッシーナ海峡の前で生まれたことでこの名前がつきました。ジロ・ディタリア2016年総合優勝!やはりサメがまだまだ強い!

 不思議なことに、クリス・フルーム(イギリス、チームスカイ)、イヴァン・バッソ(イタリア)、ブラッドリー・ウィギンス(イギリス、チーム・ウィギンス)はこういったあだ名がありません。やはり、細長い選手たちにはあだ名がなかなかつかないもののようです。

 さて、そろそろツール・ド・フランスの足音が聞こえてきました。どんな新しいチャンピオンが登場するか、そしてどんな新しいあだ名が誕生するのか、楽しみです。

マルコ・ファヴァロMarco FAVARO(マルコ・ファヴァロ)

東京都在住のサイクリスト。イタリア外務省のサポートの下、イタリアの言語や文化を世界に普及するダンテ・アリギエーリ協会や一般社団法人国際自転車交流協会の理事を務め、サイクルウエアブランド「カペルミュール」のモデルや、欧州プロチームの来日時は通訳も行う。日本国内でのサイクリングイベントも企画している。ウェブサイト「チクリスタインジャッポーネ

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