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“自転車革命都市”ロンドン便り<40>乗り方指導から交通ルールまで 自転車利用を底上げする“トレーニングライド”

by 青木陽子 / Yoko AOKI
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 まだ吐く息が白くなる朝もある4月上旬のロンドンの朝、集合場所には15人ほどのカップルや親子の姿がありました。ロンドン都心にも近いイズリントン区が無料で開催しているトレーニングライドに参加してみたのです。イズリントン区民はもちろん区内で働いている人も対象で、区の特設サイトから申し込み、自分の自転車でその日時に集まるだけ。身分証明の確認などもなしで簡単でした。

公共自転車「サイクルハイヤー」で参加した女性。自転車にはまだ不慣れでやっと乗っているという感じだったけれど、やる気満々! Photo: Yoko Aoki公共自転車「サイクルハイヤー」で参加した女性。自転車にはまだ不慣れでやっと乗っているという感じだったけれど、やる気満々! Photo: Yoko Aoki

多種多様な顔ぶれの参加者

朝の集合場所でさっそく車検。この女の子の自転車はホイールハブが歪んでいるようでいまひとつなコンディション。なんとか走れる状態に修理できたところ Photo: Yoko Aoki朝の集合場所でさっそく車検。この女の子の自転車はホイールハブが歪んでいるようでいまひとつなコンディション。なんとか走れる状態に修理できたところ Photo: Yoko Aoki

 名前を確認したら、インストラクターが参加者のバイクを「念のため見せてくださいねー」と受け取って、ブレーキやホイールなどをとざっと確認。いちおう自転車には乗れるけれどまだひとりで路上は自信がない、というレベルの人たちが主な対象のレッスンなので、物置で眠らせていた真っ赤に錆びた自転車にまたがって登場する人もいる。車検をするインストラクターはチェーンオイルやポンプ、工具一式持参で、ちょっとした不調はその場で直してあげるのだそう。

 今日のコースのざっくりした説明と、ライドリーダーを追い越してはいけないこと、できるだけ二列縦隊を保つことといった軽いブリーフィングを受けて、9歳から50代までの一団は出発。時速10〜13km前後で12kmほどの裏通りルートを2時間弱かけて走ります。途中には大きな公園があり、そこのカフェでお茶休憩も予定されています。

 走りながら他の参加者に今日の参加動機を聞いてみました。子どもたちを連れたお父さんはやはり「子どもたちに道路をどう走るか学んでほしい」と。「自分も何十年かぶりの自転車で自分ひとりでは子どもたちに教える自信がないから」というお父さんも。「こういうグループでいろんな人と走ることで、楽しさも子どもに感じてもらえたら」という意見にはナルホドと思わされました。

娘ふたりを連れてきたお父さん。イギリスの子どもたちは最初のバイクがBMXということが多い Photo: Yoko Aoki娘ふたりを連れてきたお父さん。イギリスの子どもたちは最初のバイクがBMXということが多い Photo: Yoko Aoki

 50代のカップルはこのライドにはすでに何度も参加していて楽しい、と。ひとりで公共バイクで登場した30代の女性は、「自分ひとりではまだ走れる自信が全然ないのよ、来て本当によかったわ!!!」と、ヨロめきつつも張り切っている様子。自信がついたら、ブロンプトンを買って自転車通勤をしたいのだそうです。

初心者にうれしい自転車無料貸し出し

 イズリントン区ではこの公道でのレッスンライドの他、大人と子どもそれぞれに向けてのゼロからの自転車トレーニングを3段階ほどに分けて提供しています。どれも無料。小学校によっては学校ごとの自転車レッスンもあるようですが、ない学校もあるので、個人でも申し込めるようになっているようです。

インストラクターの人たちが、ブルベ&ツーリングタイプ(左の人)、ピスト系(右)、通勤スペシャル仕様系、お気楽ママチャリ系…と多種多様だったのも個人的には注目ポイントだった Photo: Yoko Aokiインストラクターの人たちが、ブルベ&ツーリングタイプ(左の人)、ピスト系(右)、通勤スペシャル仕様系、お気楽ママチャリ系…と多種多様だったのも個人的には注目ポイントだった Photo: Yoko Aoki

 今回のようなグループトレーニング以外に、インストラクターから1対1で受けられる個人トレーニングも2回まで無料。交差点やラウンドアバウト(ロータリー式交差点)が苦手、手信号がわからないなど、個人的な弱点を克服するのにおすすめとされています。また、小さな子どものいるファミリー単位、事業所単位でグループトレーニングを申し込むこともできるとか。

交差点ごとに、自転車自然発生デモの「クリティカルマス」もかくやというスタイルのコーキング(体を張ってクルマを止めること)で参加者を守ってくれるインストラクターたち Photo: Yoko Aoki交差点ごとに、自転車自然発生デモの「クリティカルマス」もかくやというスタイルのコーキング(体を張ってクルマを止めること)で参加者を守ってくれるインストラクターたち Photo: Yoko Aoki

 感心するのは、とくに自転車にまったく乗れない人のコースでは自転車も借りられること。たしかに、自転車を買ったところで自分には乗りこなせなくて無駄になってしまうのでは、ウチの子どもは乗りたがらないのでは、どんな自転車を買えばいいのかわからない、と購入を躊躇する人は少なくないはず。まずは借り物で始められるようにする、多くの人に自転車を試す機会を提供するというのは、自転車の活用を推進する行政としてはとてもいいサービスだと思います。実際、公共自転車の導入後、自転車の楽しみを思い出した人が多かったのか、自転車の売上台数が増えたそうです。

小学生を対象に自転車利用を促すイベントも

 今回はイズリントン区を例にとって紹介していますが、これらのサービスはロンドン市内ではだいたい同じレベルで提供されているようです。乗り方を教えるインストラクターは多くがフリーランスで、市から委託を受けてこの日のようなライドをリードしたり、学校で子どもたちにレッスンをしたりしているとか。この日に話をしたインストラクターのひとりは、ロンドン市交通局が行っているトラックやタンクローリー車ドライバーの自転車に対する安全教育プログラムを手伝うことも多いと言っていました。

小学校単位で行われている路上レッスンの例。子どもたち8人程度にインストラクター2人がついている Photo: Yoko Aoki小学校単位で行われている路上レッスンの例。子どもたち8人程度にインストラクター2人がついている Photo: Yoko Aoki
学校単位やクラス単位で参加し、自転車通学の数を競う「ザ・ビッグ・ペダル」。資金提供は自転車業界団体、運営はNGOと民間のイベントで、イギリス中の公立・私立小学校に参加を呼びかけている Photo: Yoko Aoki学校単位やクラス単位で参加し、自転車通学の数を競う「ザ・ビッグ・ペダル」。資金提供は自転車業界団体、運営はNGOと民間のイベントで、イギリス中の公立・私立小学校に参加を呼びかけている Photo: Yoko Aoki

 そして今週は「ザ・ビッグ・ペダル」という、イギリス国内のどの学校の生徒がいちばんたくさん自転車通学をしたかを競うイベントも開催されています。学校全体やクラス単位で参加でき、一定の人数が自転車通学をすると、自転車駐輪ラックや自転車が当たったり表彰されたりするというもので、学校の自転車通学促進担当者がツールとして使えるように設計されています。10歳ですでに3人に1人が肥満という統計も上がってきているイギリス、このあたりは力が入っていることを感じます。

青木陽子青木陽子(あおき・ようこ)

ロンドン在住フリー編集者・ジャーナリスト。自動車専門誌「NAVI」、女性ファッション誌などを経て独立起業、日本の女性サイトの草分けである「cafeglobe.com」を創設し、編集長をつとめた。拠点とするロンドンで、「運転好きだけれど気候変動が心配」という動機から1999年に自転車通勤以来のスポーツ自転車をスタート。現在11台の自転車を所有する。ブログ「yokoaoki.com」を更新中。

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