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福光俊介の「週刊サイクルワールド」<154>新旧パヴェ巧者による激戦のパリ~ルーベ 定石通りには運ばないレースの特異性とは

by 福光俊介 / Syunsuke FUKUMITSU
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 4月10日に開催された“クラシックの女王”、パリ~ルーベは5選手による激しい争いの末、マシュー・ヘイマン(オーストラリア、オリカ・グリーンエッジ)の初優勝で幕を閉じた。同時に、2016年シーズンの“北のクラシック”は大盛況のもと完結。レース終盤の決死のアタック合戦から、最後はスプリントと、選手たちが見せた真っ向勝負は歴史に残るものとなった。そこで、今回はパリ~ルーベの持つ特性をいま一度確認するとともに、上位選手たちの声をもとに彼らが得た収穫を覗き見る。

37歳にして最大の勝利をつかんだマシュー・ヘイマン Photo: Yuzuru SUNADA37歳にして最大の勝利をつかんだマシュー・ヘイマン Photo: Yuzuru SUNADA

“勝ち逃げ”に有利に働く石畳

 序盤から逃げと吸収が繰り返された今年のパリ~ルーベ。一時は24選手が逃げグループを形成したかに思われたが、やがて吸収されるなど、各チームの思惑がスタート直後から見え隠れした。そして逃げ狙いの動きが決まったのは、スタートから80kmを過ぎてから。約20人が先行し、16人の先頭集団に落ち着く。優勝したヘイマンは、当初このグループ内で先を急いでいた。

最難関の石畳区間の一つ、アランベールで集団を牽引したトニー・マルティン Photo: Yuzuru SUNADA最難関の石畳区間の一つ、アランベールで集団を牽引したトニー・マルティン Photo: Yuzuru SUNADA

 しばらくして、トニー・マルティン(ドイツ、エティックス・クイックステップ)の強力牽引によって、この日2位となったトム・ボーネン(ベルギー、エティックス・クイックステップ)、3位のイアン・スタナード(イギリス、チーム スカイ)らがメーン集団から抜け出し、ヘイマンらのグループに合流。結果的に、これらの動きが「勝ち逃げ(優勝争いをすることになる先行グループ)」となった。

 どんなレースにおいても、その展開に“絶対”はなく、思わぬ流れで勝者が決まることはある。だが、サイクルロードレースのトップシーンにおけるレース展開の多くは、序盤に数人が逃げ、しばしその動きを容認していたメーン集団が中盤以降にペースアップして追走、終盤には逃げをキャッチし集団待機していたエースで勝負をするのがほとんどだ。もちろん、さらに細かく見ていけば勝負が決まるまでの過程にあらゆる要素が絡んではいるが、おおむね展開のパターンは似た形となる。

 しかし、今回は改めて「パリ~ルーベの特異性」をわれわれに再認識させてくれることとなった。これまでの逃げグループから優勝者が生まれるケースはあったが、今回の“勝ち逃げ”においては、スタートから最初のパヴェ(第27セクション・トロワヴィル)までの98.5kmの攻防で各チームのアシストがかなりの消耗を強いられたことや、追撃態勢に入ろうかというタイミングで有力選手がパヴェで落車したことなど、パリ~ルーベならではのレース進行やアクシデント、トラブルが大きく影響した。

優勝候補だった(手前から)ファビアン・カンチェッラーラとペテル・サガン Photo: Yuzuru SUNADA優勝候補だった(手前から)ファビアン・カンチェッラーラとペテル・サガン Photo: Yuzuru SUNADA

 もっとも、優勝候補最右翼に挙げられながら11位に終わったペテル・サガン(スロバキア、ティンコフ)がレース後、第10セクター「モン・サン・ペヴェル」でファビアン・カンチェッラーラ(スイス、トレック・セガフレード)が落車したシーンを振り返り、「ファビアンの落車で集団の勢いが失われ、レースが終わってしまった」と口にしたように、クラッシュによって有力選手間の協調体制が崩れてしまったことも、前方を走り続けた選手たちにはよい方向に転がったといえるだろう。

 また、数人の逃げグループであれば、このレース特有の激しい石畳を落ち着いてこなしていけるメリットもある。大集団の場合、道幅が狭いパヴェで選手たちがひしめき合い、走行ラインの確保がままならないばかりか、集団内で誰か1人でもアクシデントが発生すると、後方を走る大勢が巻き込まれてしまう。優勝したヘイマンによる「逃げがそのままフィニッシュまで到達するチャンスのあるレースだし、だからこそ逃げに入るのが難しいレースなんだ」との言葉は、序盤からのアタックでリスクをいとわず走ることで、可能性を引き寄せられることを意味している。

 何より、運にも味方されつつ、絶好のフィジカルコンディションでレースを進めたのが、最後まで優勝を争ったヘイマン、ボーネン、スタナード、セップ・ヴァンマルク(ベルギー、チーム ロットNL・ユンボ)、エドヴァルド・ボアッソンハーゲン(ノルウェー、ディメンションデータ)の5人であり、彼らが257.5kmの戦いにおいて特に強さを発揮した選手たちであったことは確かだ。

ヘイマン、ボーネンのベテラン勢に軍配

 優勝争いを繰り広げた5人のうち、ヘイマンは37歳、ボーネンは35歳と大ベテランの域に達している選手たち。一方で、スタナードとボアッソンハーゲンは28歳、ヴァンマルクは27歳。奇しくも、経験に勝る30歳代後半の2人が上位を占めることとなった。彼らの老獪さも勝敗を決定付ける一因となっていたのかもしれない。

 ヘイマンは当初、チームのエースであったイェンス・クークレール(ベルギー)を前方で待つために逃げグループに入っていた。クークレールが振るわなかったこともあり、勝負を託された結果、15回目の出場にして見事な初優勝。フィニッシュ直後は両手を挙げたものの、自身が優勝したことを確認するまで時間を要した姿が印象的だった。

 レース後の記者会見でも第一声は「信じられないよ」。2月27日のオムループ・ヘット・ニュースブラッド(ベルギー、UCI1.HC)では落車し、腕を骨折。4月に入り、スペインでレース復帰を果たしたが、戦線を離脱していた約5週間はホームトレーナーで調整していたという。自宅ガレージに設けたZWIFT(オンラインでの仮想サイクリングトレーニングサービス)で1000km以上乗り込むなど、レースから離れながらも工夫してトレーニングを行ってきた。

 ルーベのベロドロームでのスプリントについては、「ラスト200mでは不安だったが、スプリントをしてみると案外リラックスしていた」と振り返った。

力強さや石畳でのテクニックの高さを改めて見せたトム・ボーネン Photo: Yuzuru SUNADA力強さや石畳でのテクニックの高さを改めて見せたトム・ボーネン Photo: Yuzuru SUNADA

 敗れた選手たちも一様に収穫を見出している。前人未到の5勝目を手繰り寄せながらも、つかむことができなかったボーネンは、「先頭でスプリントを開始したかったが、マシューとセップにかわされてしまい、仕掛けるタイミングが遅れてしまった」と敗因を分析。昨年10月のアブダビ・ツアー(UAE、UCI2.1)で頭から地面に叩きつけられ、頭蓋骨を骨折。聴覚に後遺症が残るほどの負傷を乗り越えてのパリ~ルーベ2位には、「この時期にトレーニングを再開することになると医師からは言われていたんだ。それを思えばここまでの回復を喜ばなくてはいけないね」と明るい表情。年齢からくる衰えもあり、引退が噂されるが、「来年この場所へ戻ってこない理由が思い浮かばないよ」と話し、現役続行はもとより、もう一度優勝を目指す意欲を見せている。

 3位のスタナードは、「表彰台にあがることができてうれしい」とコメント。ヘイマンやボーネンらとのスプリントは避けたかったとしながらも、攻撃的な走りを貫いたことに充実感を見せる。第4セクションの「カルフール・ド・ラルブル」でアタックし、一時は10秒以上のリードで見せ場を作ったヴァンマルクは、「勝負するにはカルフールしかなかった。ただ、失敗に終わってしまったことで、ラスト1kmは成す術がなかった」。5位のボアッソンハーゲンは、「最後はスプリントに参戦できなかった。それでも自己最高順位だし、満足しているよ」とそれぞれ言葉を残した。

カンチェッラーラ「走り終えられたことがうれしい」

 5つ星パヴェのモン・サン・ペヴェルでの落車で優勝を諦めることとなったカンチェッラーラ。ルーベのベロドロームではファンの歓声に手を振って応えながら、ゆっくりとその感慨に浸った。「クラッシュしてしまったことは確かだし、それもパリ~ルーベだ」と結果を受け入れた。追走実らず2位に終わった4月3日のツール・デ・フランドルの方が受け入れがたかったとし、ルーベをフィニッシュした実感としては「レース内容はハッピーではないが、まずは走り終えられたことがうれしい」と話した。

 パリ~ルーベをもって、カンチェッラーラにとってキャリア最後となる“北のクラシック”は終了。今後のレーススケジュール発表が待たれるところだが、まずは休養し、次なる目標に備えることとなりそうだ。

アムステル・ゴールドレース展望

 春のクラシックシーズンは後半戦へと差し掛かる。その舞台は、オランダやベルギー南部・ワロン地方の丘陵地帯だ。UCIワールドツアー3連戦、通称「アルデンヌクラシック」の初戦としてアムステル・ゴールドレース(オランダ)が4月17日に開催される。

急坂とコーナーの多いアムステル・ゴールドレース Photo: Yuzuru SUNADA急坂とコーナーの多いアムステル・ゴールドレース Photo: Yuzuru SUNADA

 選手たちを苦しめるのが、立て続けに現れる急坂とコーナー。昨年同様に34カ所の上りが待ち受け、獲得標高は4000mを超える。また、コーナーは“1000のカーブ”と例えられるほど狭く曲がりくねった道が連続する。今回は248.7kmで争われる。

 大会の華である坂「カウベルグ」は、登坂距離1.2km、平均勾配5.8%、最大勾配12%。4回通過し、最後の1回はフィニッシュ直前のアタックポイントだ。カウベルグをクリアすると、フィニッシュまでは1.8kmの平坦区間。これまで、カウベルグでアタックに成功した選手の独走、アタックが決まらず集団スプリント、両ケースがあり、優勝争いは最後まで読めないのが特徴だ。

ミハウ・クフィアトコフスキーが制した2015年のアムステル・ゴールドレース Photo: Yuzuru SUNADAミハウ・クフィアトコフスキーが制した2015年のアムステル・ゴールドレース Photo: Yuzuru SUNADA

 前回、18人によるスプリント勝負を制したミハウ・クフィアトコフスキー(ポーランド、チーム スカイ)が2連覇をかけて参戦する。アレハンドロ・バルベルデ(スペイン、モビスター チーム)、ルイ・コスタ(ポルトガル、ランプレ・メリダ)、トニー・ガロパン(フランス、ロット・ソウダル)も優勝争いの中心に立つだろう。地元期待のトム・デュムラン(オランダ、チーム ジャイアント・アルペシン)、バウケ・モレマ(オランダ、トレック・セガフレード)にもチャンスがある。

 昨年のアルデンヌクラシックで大ブレイクしたジュリアン・アラフィリップ(フランス、エティックス・クイックステップ)、上れるスプリンターの代表格であるマイケル・マシューズ(オーストラリア、オリカ・グリーンエッジ)も強力。

 日本勢では、別府史之(トレック・セガフレード)の出場が発表されているほか、NIPPO・ヴィーニファンティーニからはリオ五輪のトラック競技・オムニアムの代表候補となった窪木一茂、22歳の小石祐馬がエントリー。

 心配なのが、前々回覇者のフィリップ・ジルベール(ベルギー、BMCレーシングチーム)。4月8日のトレーニング中、酒気帯び運転のドライバーとのトラブルに巻き込まれ、左手指の複数箇所を骨折し手術を受けた。本人は出場に意欲を見せているが、王座奪還に向け暗雲が立ち込めている。

今週の爆走ライダー-マシュー・ヘイマン(オーストラリア、オリカ・グリーンエッジ)

「爆走ライダー」とは…

1週間のレースの中から、印象的な走りを見せた選手を「爆走ライダー」として大々的に紹介! 優勝した選手以外にも、アシストや逃げなどでインパクトを残した選手を積極的に選んでいきたい。

 プロ17年目、37歳でつかんだクラシックレースの頂点。パリ~ルーベでの勝利は、キャリア通算5勝目、UCIワールドツアーでは初優勝。もちろん、キャリア最大の勝ち星だ。

アシストとして逃げに入ったマシュー・ヘイマン Photo: Yuzuru SUNADAアシストとして逃げに入ったマシュー・ヘイマン Photo: Yuzuru SUNADA

 長いプロ生活、そのほとんどをアシストとして過ごしてきた。ラボバンク、スカイ プロサイクリング(現・チーム スカイ)では、北のクラシック要員としてフアンアントニオ・フレチャ(スペイン)が全幅の信頼を寄せた。持ち前のスピードは、ひとたび石畳を離れればスプリントトレインの牽引役にもなる。

 バックボーンは10歳代の頃。1996年のジュニア世界選手権個人TTで銀メダル。オランダの競技ライセンスを持っていた1999年には、同国選手権アンダー23(23歳以下)ロードで優勝。ラボバンクの育成チームで走っていたことが、現在の走りに大きく生かされている。

 年齢が年齢ゆえ、どうしても「引退」の二文字が頭にちらつく。2014年にオリカ・グリーンエッジへ移籍したのも、「キャリアの最後は自国チームで迎えたかった」との思いからだった。「引退の時期については今のところ具体的には考えていない」とのことだが、いずれにせよルーベの勝利で白紙に。「しばらくはパリ~ルーベの勝利の余韻に浸りながら走ることにするよ」。

 2月下旬に負ったけがでレースから離れていた関係もあり、ルーベ後のレーススケジュールが幾分増えた。まずは、アルデンヌ前哨戦でもある4月13日のブラバンツ・ペイル(ベルギー、UCI1.HC)に出場。そして4日後のアムステル・ゴールドレースに臨む。両レースとも、ミッションはマシューズのアシストだ。

 チーム首脳陣からは「若い選手に経験を伝えてほしい」と言われているという。とはいえ、たとえアシスト業に戻ったとしても、パリ~ルーベを制した事実は色褪せない。きっと献身的にチームに尽くす姿こそ、彼の走りにさらなる彩りを加えることだろう。

福光俊介福光俊介(ふくみつ・しゅんすけ)

自転車ロードレース界の“トップスター”を追い続けて十数年、気がつけばテレビやインターネットを介して観戦できるロード、トラック、シクロクロス、MTBをすべてチェックするレースマニアに。2011年、ツール・ド・フランス観戦へ実際に赴いた際の興奮が忘れられず、自身もロードバイク乗りになる。自転車情報のFacebookページ「suke’s cycling world」も充実。本業は「ワイヤーママ徳島版」編集長。

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