スマートフォン版はこちら

サイクリスト

title banner

“自転車革命都市”ロンドン便り<39>自転車移動に必要なのは道だけではない ロンドンに見る駐輪の“お手本”

by 青木陽子 / Yoko AOKI
  • 一覧

 先月久しぶりに日本に帰国し、以前東京に住んでいたときのように、用事はほぼすべて自転車で移動して足していました。けれど久しぶりに東京都心部を走って痛感したのは、自転車を駐輪できるスペースが「極端に少ない」ことです。オリンピックに向けて自転車の活用を促進するという東京都のこと、どこかに駐輪場が整備されつつあるのかもしれませんが、たまにしか自転車に乗らない人や旅行者にわかりにくい状態では存在しないも同じことです。

住宅街にポツンとある酒屋さんと、その前に1つだけ敷設されている駐輪ラック。そこに用がある人がいそうなところに駐輪スペースを、というポリシーの実践例 Photo: Yoko Aoki住宅街にポツンとある酒屋さんと、その前に1つだけ敷設されている駐輪ラック。そこに用がある人がいそうなところに駐輪スペースを、というポリシーの実践例 Photo: Yoko Aoki
駐輪設備に特化した企業「サイクルフープ」が製造運営している、乗用車を形どったフレームに自転車ラックを合わせた可動式の自転車ラック。乗用車1台のスペースで自転車なら10台が駐輪可能、商店街により多くのお客を呼び込める可能性があるというアピールにもなる Photo: Yoko Aoki駐輪設備に特化した企業「サイクルフープ」が製造運営している、乗用車を形どったフレームに自転車ラックを合わせた可動式の自転車ラック。乗用車1台のスペースで自転車なら10台が駐輪可能、商店街により多くのお客を呼び込める可能性があるというアピールにもなる Photo: Yoko Aoki

 打合せでカフェに入りたい、家電量販店で買い物をしたい…というときに、褒められないような場所に後ろ暗い気持ちで駐めなければならず、戻ってきて撤去されていないことにホッとする、ということばかりでした。これでは自転車に乗るなと言われているようなものです。サイクルレーンが整備されても(そのサイクルレーンの出来はともかくとして)、目的地で安心して駐輪できないのでは移動手段として自転車を使う人は増えないでしょう。

「駐輪スペースは使いやすいところに」

 ロンドンも昔は街中の駐輪スペースが少なくて苦労したのですが、この連載でご紹介してきているいわゆる「自転車革命」の中で駐輪スペースの整備にも目が向けられ、みるみる改善してきていることを感じます。自転車の数が目に見えて増えてきた2008年頃、ロンドン市が「自転車の利点は、目的地のすぐ近くまで行けて、さっととまって用事を足せること。この利点を最大にしなければいけない」という認識を示したことを印象的に覚えています。

イギリスの駐輪スペースの最もスタンダードなのが、写真の「シェフィールド型」で下向きコの字の鉄パイプ。英の自転車の多くはシティサイクルでもスタンドがついていないので、これに立てかけてロックで固定する。歩道上の車道寄りに敷設されていることが多い Photo: Yoko Aokiイギリスの駐輪スペースの最もスタンダードなのが、写真の「シェフィールド型」で下向きコの字の鉄パイプ。英の自転車の多くはシティサイクルでもスタンドがついていないので、これに立てかけてロックで固定する。歩道上の車道寄りに敷設されていることが多い Photo: Yoko Aoki
シェフィールド型以外にも、いろいろなタイプの駐輪スペースがある。これは既存の街頭の支柱に自転車ロックをあとづけしたタイプ。ロンドン誌交通局のあのロゴとどこか似ているが、これもよくみると「サイクルフープ」製だった Photo: Yoko Aokiシェフィールド型以外にも、いろいろなタイプの駐輪スペースがある。これは既存の街頭の支柱に自転車ロックをあとづけしたタイプ。ロンドン誌交通局のあのロゴとどこか似ているが、これもよくみると「サイクルフープ」製だった Photo: Yoko Aoki

 このポリシーを掲げて市交通局は2008〜2012年に8万台分の駐輪スペースを整備。そして今年度中までにさらに8万台分の敷設を完了する予定だとか。イギリスの駐輪スペースは「シェフィールド型」と呼ばれる下向きコの字の頑丈な鉄パイプラックが最も一般的で、とくにこの数年はこのシェフィールド型が「お、こんなところにあったっけ?」「あ、ここにも!」という感じで身近な商店街などににょきにょきと生えてきています。

 ロンドン市ハックニー区が公表している駐輪スペースの設置基準はこんな感じです。

駐輪スペースは便利で使いやすい場所に設置されるべきである。自転車でない人の便利も考慮しつつ、原則として以下のような条件で設置するものとする

●最終目的地(商店やオフィスや駅)にできるだけ近い
●1つの短時間利用目的地(商店、郵便局など)のための駐輪スペースなら15m以内
●2つ以上の短時間利用目的地のための駐輪スペースなら25m以内
●長時間利用目的地のためなら50m以内
●目的地の出入り口の近くなど便利なロケーションであること
●サイクルレーンや自転車用横断レーン、歩道段差を低くした場所などがあればその近く
●大型の自転車(カーゴバイクなど)も駐輪できる形態

 とはいえ、正直なところこれがどこでも完璧に実現されているわけではまったくないし、区によっては市から各区への駐輪スペース増加の要請を理由をつけて実質無視してきたようなところもあります(他区に遅れて最近ようやく設置を始めましたが)。

 全体的には、富裕層住民やビジネス、オールドマネーを多く抱える区は議会もコンサバでまだまだ道路はクルマ優先、労働者階級や若い人口が多い区は自転車施策に積極的という傾向がはっきりと見てとれます。ロンドンも若い世代はクルマ離れがはっきりしているのです。

英高級紙「ガーディアン/オブザーバー」本社地下にある駐輪場。リベラルなガーディアンでは役員も自転車通勤の人が多いとか。駐車場スペースはもっぱらお客様用になっているという Photo: Yoko Aoki英高級紙「ガーディアン/オブザーバー」本社地下にある駐輪場。リベラルなガーディアンでは役員も自転車通勤の人が多いとか。駐車場スペースはもっぱらお客様用になっているという Photo: Yoko Aoki
都心の駅改札脇に設置された駐輪ラック。金融機関を多数抱えるリッチなシティ区は、駐輪ラックもステンレスでなんとも豪勢! Photo: Yoko Aoki都心の駅改札脇に設置された駐輪ラック。金融機関を多数抱えるリッチなシティ区は、駐輪ラックもステンレスでなんとも豪勢! Photo: Yoko Aoki
東京以上に地価も家賃も高いロンドン、自宅に自転車を置くスペースがなくて自転車通勤ができない市民のために、年間6000円ほどで借りられる路上駐輪スペース「サイクルハンガー」。これも「サイクルフープ」が製造運営 Photo: Yoko Aoki東京以上に地価も家賃も高いロンドン、自宅に自転車を置くスペースがなくて自転車通勤ができない市民のために、年間6000円ほどで借りられる路上駐輪スペース「サイクルハンガー」。これも「サイクルフープ」が製造運営 Photo: Yoko Aoki

自転車移動の魅力を高める「サイクルパーキングハブ」

 こんな状況に加え、3月にロンドン市交通局が、主要ターミナル駅のひとつ、ウォータールー駅に5000台収容の自転車駐輪場を2018年にオープンさせると発表しました。カーゴバイクやハンドサイクルのスペースもあり、カフェやメンテナンスワークショップも併設するとか。去年の当連載でレポートしたユトレヒトの大型駐輪場などがモデルだそうです。

3月にロンドン市交通局が発表した、ウォータールー駅に2年後にオープン予定の「サイクルパーキングハブ」の完成予想図。カフェや修理スタンドなどもあり、自転車の周辺を快適にすることで自転車の魅力を高めようという意図が感じられる Picture: TfL3月にロンドン市交通局が発表した、ウォータールー駅に2年後にオープン予定の「サイクルパーキングハブ」の完成予想図。カフェや修理スタンドなどもあり、自転車の周辺を快適にすることで自転車の魅力を高めようという意図が感じられる Picture: TfL
当連載で去年レポートした、オランダはユトレヒト駅前に完成した収容台数4200台の駐輪場。ロンドンのサイクルパーキングハブはまさにこれなどをお手本にしている Photo: Yoko Aoki当連載で去年レポートした、オランダはユトレヒト駅前に完成した収容台数4200台の駐輪場。ロンドンのサイクルパーキングハブはまさにこれなどをお手本にしている Photo: Yoko Aoki

 東京で言うなら、新宿駅や東京駅に相当するウォータールー駅。そこに夜間安心して自転車を置いておける大型駐輪場を作るということは、郊外から電車で来る主には通勤者に、そこから職場などまで自転車で通えるようにしようということなのでしょう。東京のそれに近い地下鉄の阿鼻叫喚ラッシュアワーや慢性的な渋滞対策、そして市民のQOL(生活の質)向上にプラスになると期待できます。

 しかしそれにしても日本や東京の場合、自転車への行政の認識が低いこともさりながら、駐輪スペースに関しては放置自転車の問題も大きいわけで、それはほぼイコール“激安低質自転車”の問題なのだろうなぁと思います。安いから質が低い。早くダメになる。見た目もカッコよくない。乗り味も悪く自転車が好きにならない。「ゲタ」などと呼ばれる。愛着がわかないから手入れをする気になれず、これは使い捨ててまた新しいのを買えばいいやとなる…の繰り返し。この間違った常識のせいで、ちゃんとしたシティサイクルも日本ではしばしば手荒に扱われていてかわいそうになります。

 通勤用のシティサイクルが6万円くらい〜、5万円以下の新車がほとんど販売されていないイギリスでは、自転車は「大切にする価値のあるモノ」。中古市場もしっかりしているので、その分盗難が非常に多いのが問題なのですが、放置自転車問題は実質ロンドンでは存在していません。これが、自転車好きとしてはあるべき姿だと思うのです。

青木陽子青木陽子(あおき・ようこ)

ロンドン在住フリー編集者・ジャーナリスト。自動車専門誌「NAVI」、女性ファッション誌などを経て独立起業、日本の女性サイトの草分けである「cafeglobe.com」を創設し、編集長をつとめた。拠点とするロンドンで、「運転好きだけれど気候変動が心配」という動機から1999年に自転車通勤以来のスポーツ自転車をスタート。現在11台の自転車を所有する。ブログ「yokoaoki.com」を更新中。

現在募集中のイベント情報

関連記事

この記事のタグ

“自転車革命都市”ロンドン便り

  • 一覧

新着ニュース

もっと見る

ピックアップ

イベント情報:御神火ライド

スペシャル

ソーシャルランキング

インプレッション

インプレッション一覧へ

連載