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つれづれイタリア~ノ<68>「迂回路に高速道路」と即断 ロードレースの安全を支えるイタリア警察の機動力

by マルコ・ファヴァロ / Marco FAVARO
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 今回は3月19日に行われた「ミラノ・サンレモ」の1シーンを紹介します。ミラノ・サンレモは、春に行われる最初のクラシックレース。イタリアのファッションの本山であるミラノをスタートし、「カンツォーネフェスティバル」で有名なサンレモ市まで走ります。距離は約300㎞ととにかく長い。歴史も古く、今年で107回目の開催を迎えたイタリア国内外でも人気のレースです。歴代優勝者にはフィリッポ・ポッツァート(イタリア、サウスイースト・ヴェネズエラ)、ファビアン・カンチェッラーラ(スイス、トレックセガフレード)、マーク・カヴェンディッシュ(イギリス、チーム・ディメンションデータ)ら錚々たるメンバーが名を連ねています。

第107回「ミラノ・サンレモ」 Photo : Yuzuru SUNADA第107回「ミラノ・サンレモ」 Photo : Yuzuru SUNADA

警察と主催者の素早い連携プレー

 そのミラノ・サンレモで、今年は未曽有の事態が起きました。レースの中盤にあるアレンツァーノ市で落石が発生し、大量の土石が道を塞いだのです。

土砂崩れの現場(RCS Sport提供)土砂崩れの現場(RCS Sport提供)

 幸い、グルッポ(集団)が通過する前だったことと、交通規制のため国道の両側は駐車が禁止されていたことによって、被害はけが人が出た程度で大惨事に至りませんでした。一方、レースはというと道が塞がってしまったにも関わらず、引き続き決行! 最後はアルノー・デマール(フランス、エフデジ)が優勝を飾りました。

土砂崩れの現場(RCS Sport提供)土砂崩れの現場(RCS Sport提供)

 ミラノ・サンレモを主催するRCSスポルト社の最高責任者、マウロ・ヴェーニ氏によれば、土砂崩れの情報が入ったのが午前10時45分。グルッポが14時ごろにその地点を通過する予定でした。リグリア州の地形は荒々しく、落石はよく発生します。道が狭いため、広い国道以外は抜け道もありません。事態を重く見たジェノヴァ県警が次のように言いました。

土砂崩れのあった場所(RCS Sport提供)土砂崩れのあった場所(RCS Sport提供)

 「高速道路があるので使ってみてはどうでしょうか?」

 国道を並走する高速道路の使用を提案したのです。ヴェーニ氏は全チームにコース変更を伝え、ジェノヴァ県警が緊急に警察援助部隊も出動させ、新しいコースの安全確保に努めました。9㎞に渡って高速道路も封鎖。このような素早い連携プレーがレースを救ったのです。

アマチュアレースにも警察が出動

 ミラノ・サンレモの長い歴史では、高速道路を使うのは今回が初めてではありません。近年では、2003年にも度重なる土砂崩れの影響でコースの一部が高速道路に変更されました。

3月20日に発行された地元新聞(www.ilSecoloxix.itより)3月20日に発行された地元新聞(www.ilSecoloxix.itより)

 リグリア州は土砂崩れ多発地帯。そのため、警察は大会の安全な運営を最優先に考え、常に柔軟に対応する態勢をとっています。つまりイタリアでは警察の交通機動隊がロードレースを支える組織で、大会の安全な運営に欠かせない存在となっています。それはジュニア、アマチュアロードレースも例外ではなく、公道で行う大会で参加者と地域住民の安全を守ることが警察の役割なのです。

 イタリアでも公道の利用を伴うイベントを企画する場合、たくさんの書類を自治体に提出する必要があります。大会開催日の30日前までに管轄の市役所、または県庁の交通課に大会概要の書類や道路使用許可申請書を提出する必要があります。

レースの最後尾、交通規制解除を知らせる自動車(FCI提供)レースの最後尾、交通規制解除を知らせる自動車(FCI提供)

 市の担当者がコースの安全性を確認してから、警察の交通機動隊の出動を要請します。大会が重複したり、何らかの理由で出動できなかったりする場合は開催許可が下りません。

 一方、ロードレース大会の安全な運営に関する法的整備は1928年に始まったため、歴史が古く、イタリア警察と大会運営団体との良好な関係を構築することにつながりました。その結果、イタリアでは「レース開催=警察が手伝ってくれるもの」という認識が一般的に広がっているのです。

元選手らによる自転車競技大会援助隊

 さらに大会の規模に応じて、交通機動隊のほか「scorta tecnica」(スコルタ・テクニカ)と呼ばれる自転車競技大会援助隊も出動します。

交通機動隊に所属しない警察の中でもスコルタ・テクニカ部隊を編制交通機動隊に所属しない警察の中でもスコルタ・テクニカ部隊を編制
スコルタ・テクニカ隊員(FCI提供)スコルタ・テクニカ隊員(FCI提供)

 スコルタ・テクニカは免許制で、主に元選手で構成されています。自転車競技大会援助隊員になるには、運転免許証の所持のほかにイタリア自転車連盟が各地で開催する研修コースを受けなければなりません(講座9時間+試験)。試験に合格した人は5年間の許可証を受け取り、期間が過ぎたら免許を更新するために再び講習を受けなければなりません。

スコルタ・テクニカのロゴが光るスコルタ・テクニカのロゴが光る

 チームの監督にも選手たちにも安全性に関する高い意識が求められます。そのため年に一度、安全性に関する講習を受けなければなりません。このようにイタリアでは事故に対する意識が非常に高いため、スペイン、フランスなどと比べてレース中の事故が少ないのです。

 最後に、ちょっと“粋”なビデオを紹介します。2013年にイタリア警察が自ら作成したもので、全編イタリア語ですが、イタリア交通機動隊が誇らしげに選手たちの安全性を守っているという雰囲気が十分に伝わると思います。

マルコ・ファヴァロMarco FAVARO(マルコ・ファヴァロ)

東京都在住のサイクリスト。イタリア外務省のサポートの下、イタリアの言語や文化を世界に普及するダンテ・アリギエーリ協会や一般社団法人国際自転車交流協会の理事を務め、サイクルウエアブランド「カペルミュール」のモデルや、欧州プロチームの来日時は通訳も行う。日本国内でのサイクリングイベントも企画している。ウェブサイト「チクリスタインジャッポーネ

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