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つれづれイタリア~ノ<67>実は間違っている“日本のイタリア語” 海を越えて独り歩きする言葉たち

by マルコ・ファヴァロ / Marco FAVARO
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2013年のロード世界選手権で観衆が振るイタリア国旗 Photo: Yuzuru SUNADA2013年のロード世界選手権で観衆が振るイタリア国旗 Photo: Yuzuru SUNADA

 日本に来て、言葉にも慣れ始めてからさまざまな新発見がありました。特にカタカナで表記されている外来語。日本語では特に英語、フランス語、ドイツ語が文字で表記しづらいことに気づきました。そして、フランス語も英語も話せる私でさえ、理解困難な言葉が多いと気付きました。「ムッシュ」という言葉に出会った時の衝撃は今も忘れません。フランス語の「Monsieur(~さん)」だとわかるまで2日間かかりました。私の想像力と理解度を大幅に越えていたのです。

 幸いなことにイタリア語、スペイン語といったラテン系の言葉は、カタカナで簡単に表記できることがわかり、一安心しました。それでもいまだに間違っている言葉が多いです。そして、言葉の意味も本来の意味から離れて独り歩きしてしまうことも発見しました。今日は言葉の独り歩きと正しい使い方について書きたいと思います。イタリアの自転車選手や、そのスタッフたちと接する機会がある方は必見です。

「セラ」はイタリア語で「夕日」

 自転車ショップには、たくさんの魅力的なサドルが置かれていますが、その多くはイタリア製です。フィジーク、プロロゴ、セライタリア、セラサンマルコ、セラ・ロイヤル…。

トラック世界選手権のファイナリストたちのサドル =2016年3月 Photo: Yuzuru SUNADAトラック世界選手権のファイナリストたちのサドル =2016年3月 Photo: Yuzuru SUNADA

 驚いたのが「セラ」のカタカナ表記です。イタリア語表記では「Selle Italia」「Selle Sanmarco」「Selle Royal」と書いてあります。サドルの複数形で、つまり「セラ(sella)」ではなく「セッレ(selle)」が正しい発音です。どうがんばっても「セラ」とは読めません。

 イタリアの自転車ショップに入って「セライタリアが見たい」と言ってしまえば「イタリアの夕日が見たいの」となりますので、相手によってデートに誘われているのではと勘違いする人がいるかもしれませんのでご注意ください。今日から「セッレイタリア」「セッレサンマルコ」「セッレロイヤル」と正しく言いましょう。

「ジロ・デ?イタリア」

 イタリア、フランス、スペインには自転車レース最高峰のグランツールがあります。イタリアは5月、フランスが7月、スペインは8月。日本語に直訳すると「イタリア周遊大会」、「フランス周遊大会」、「スペイン周遊大会」。現在とは異なり、かつてはまさに線で引いた周遊コースでした。現代の日本では、それぞれも言葉の発音に基づき、名前が表記されています。

フランス:ツール・ド・フランス ◎
スペイン:ヴエルタ・ア・エスパーニャ ◎
イタリア:ジロ・デ・イタリア ×

「ジロ・デ・イタリア2015」の表彰式でコンタドールの総合優勝を祝福するティンコフ・サクソの選手たち Photo : Yuzuru SUNADA「ジロ・デ・イタリア2015」の表彰式でコンタドールの総合優勝を祝福するティンコフ・サクソの選手たち Photo : Yuzuru SUNADA

 この中で、イタリアだけは謎の「ジロ・デ・イタリア」になっています。本当の発音は「ジロ・ディタリア」です。イタリア語表記は「Giro d’Italia」になっています。このD’Italiaの意味は「Di Italia(イタリアの)」の省略表記です。発音は「ディ・イタリア」。イタリア語の特徴ですが、「di(の)」の次の言葉が母音で始まると、形を変える性質があります。ですので「ジロ・デ・イタリア」の表記は正しい発音でもなければ、正しい文法でもありません。謎の表記です。イタリア人が首をかしげるので「ジロ・ディタリア」にしましょう。(ここだけの話ですが、「Cyclist」編集部も私の表記をいつも「デ」に修正しています…)

インターネットの情報にも誤り

 ここでまた“謎の一人歩き”をする言葉があります。「グルペット」です。インターネットで検索しますと、次のように書かれています。

ジロ・デ・イタリア2014 逃げの小集団 Photo : Yuzuru SUNADAジロ・デ・イタリア2014 逃げの小集団 Photo : Yuzuru SUNADA

 「グルペット(仏: grupetto) とは、自転車ロードレースの山岳コースで、タイムアウトにならない程度にゆっくり走るために作る集団。元々はイタリア語で「小集団 (gruppetto)」の意。日本ではフランス語の「グルペット」、もしくはイタリア語の「グルッペット」の両方の表記が使われる」(Wikipediaより抜粋)

 やはりインターネットの情報は鵜呑みにしてはいけないという、代表的なケースの一つです。まずは「グルペット」はフランス語ではありません。どこを探してもフランス語には「grupetto」という言葉は存在しません。フランスを代表するラルッス出版の最新オンライン辞典検索サービスでさえ見つかりませんでした。Gruppettoは「小さな集団」でしかありません。Gruppo(集団)+etto (小さい)が合わさった表現です。「逃げ集団」「先頭集団」「追い集団」など、小人数で構成された集団ならば何でも当てはまります。

 そもそもなぜこのような誤解が始まったか。イタリア人選手がよく叫ぶ「facciamo gruppetto(みんなで協力しましょうよ)」から生まれました。たまたま遅れている集団の中でこの話題を取り上げた2006年のイタリアの新聞記事が、ウイキペディアに貼られ、いつの間にか情報が一人歩きしてしまいました。Jスポーツで生中継をなさっているスポーツコメンテーター様も、そろそろ改めて欲しいものです。

「パニーニ1つ」は誤り

合宿でパニーニを作る選手たち Photo: Marco FAVARO合宿でパニーニを作る選手たち Photo: Marco FAVARO

 私の大好きな食べ物です。固めのパンにハムやチーズをはさみ、低価格でボリュームのあるあの食べ物「パニーノ」。イタリア人はレース中にも食べます。

 しかし、なぜか日本では「パニーニ」。すっかり複数形での呼称が浸透しています。カプチーノやエスプレッソはちゃんとした単数形で呼ばれるに、パニーノだけが謎の複数形…。イタリア旅行の最中に1つしか食べたくなければ「パニーニ」という言い方を控えましょう。本当に2つのパニーノが来ます。食べきれません。

イタリア人も恥ずかしい発音

 正しい発音問題は日本人に限った問題ではありません。実はイタリア人も新しく現れる外国人選手の名前に苦戦しています。

NIPPO・ヴィーニファンティーニの山本元喜 Photo: NIPPO Vini FantiniNIPPO・ヴィーニファンティーニの山本元喜 Photo: NIPPO Vini Fantini

 クリストファー・フルーム(イギリス、チームスカイ)の活躍が目立ち始めた2011年にはイタリア人のテレビコメンテーターは「フローメ」、または「フロウメ」と発音していました。そしていまだに山本元喜(NIPPO ヴィニ・ファンティーニ)の名前を正しく言える人は少なく、彼を知らない人は誤って「ジェンキ」と呼んでいます。

 確かにすべての言葉の正しい発音を覚えることは無理ですが、日本語には「フリガナ」という素晴らしい文化があるので、せめて正しく振ってもらいたいものです。ということで今日から正しい発音を使いましょう。

マルコ・ファヴァロMarco FAVARO(マルコ・ファヴァロ)

イタリア語講師。イタリア外務省のサポートの下、イタリアの言語や文化を世界に普及するダンテ・アリギエーリ協会で、自転車にまつわるイタリア語講座「In Bici」(インビーチ)を担当する。サイクルジャージブランド「カペルミュール」のモデルや、Jスポーツへ「ジロ・デ・イタリア」の情報提供なども行なう。東京都在住。ブログ「チクリスタ・イン・ジャッポーネ

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