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“自転車革命都市”ロンドン便り<37>ロンドンで開催中の特別展「サイクル・レボリューション」が発信する都市へのメッセージ

by 青木陽子 / Yoko AOKI
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 またまた自転車関係の印象的なニュースが流れたロンドンです。市交通局によると、自転車で市内を移動する人の数が、ついに地下鉄を利用する人の数の5分の1に達したというのです。自転車を「最も費用対効果の高い公共交通機関」と見て、その利用インフラを整備するとしている市交通局、10年後の2026年には現在の倍の150万トリップ(移動)/日を実現することを目標にしています。

77台の自転車とビデオなどで構成された「サイクル・レボリューション」。最新のカーボンバイクから1888年製造のセーフティ、新しいカーゴバイクまで幅広く扱い、自転車が人と都市にもたらしてくれるものを追っている Photo: James Harris77台の自転車とビデオなどで構成された「サイクル・レボリューション」。最新のカーボンバイクから1888年製造のセーフティ、新しいカーゴバイクまで幅広く扱い、自転車が人と都市にもたらしてくれるものを追っている Photo: James Harris
テムズ川南岸、カティサーク号などからもほど近い「デザインミュージアム」。この特別展示を最後に西ロンドンのケンジントンに移転予定 Photo: Aurelien Guichardテムズ川南岸、カティサーク号などからもほど近い「デザインミュージアム」。この特別展示を最後に西ロンドンのケンジントンに移転予定 Photo: Aurelien Guichard

 さてそんなロンドンの観光スポットのひとつでもある「デザインミュージアム」にていま、自転車をテーマにした特別展が開催されています。建築やプロダクト、グラフィックなどを主な分野としているミュージアムがなぜ自転車かというと、ここの創立者でもある「コンランショップ」のテレンス・コンラン卿の発案なのだとか。

 「自転車革命」で急激に増えている自転車はロンドンという都市の姿をも変えるパワーを持つ。自転車デザインの歴史と現在の自転車が持つ意味、そしてこれからの自転車と都市のあり方を探る、その名も「サイクル・レボリューション」(自転車革命と回転するホイールをイメージさせるダブルミーニング)というなかなか意欲的な展示でしたのでご紹介します。

名車が語る自転車の歴史

 ロードバイク専門誌の表紙のような美しい山岳ルートの大きな写真で始まる展示は、まずはスポーツとしての自転車の側面からスタート。エディ・メルクスの絶頂期にあたる1969年のコルナゴなどもファンとしてはたまらないですが、やはり力が入っているのは英国人スター選手たちのもの。クリス・ボードマンのアワーレコードなどを支えた「ロータス」のカーボンバイク、ロンドンオリンピックで“金メダル収集機”となったクリス・ホイらが乗る英国特製トラックバイク、まだ記憶にあたらしいブラッドリー・ウィギンスのアワーレコード車など歴史的な名車が並んでいます。

90年代にアワーレコード樹立、バルセロナオリンピック金メダル、そして引退後の活動で今日の英サイクルスポーツの大成功の基盤を作ってきたヒーロー、クリス・ボードマンのためにロータスが作った1992年のカーボンバイク「ロータス タイプ108」 Photo: James Harris90年代にアワーレコード樹立、バルセロナオリンピック金メダル、そして引退後の活動で今日の英サイクルスポーツの大成功の基盤を作ってきたヒーロー、クリス・ボードマンのためにロータスが作った1992年のカーボンバイク「ロータス タイプ108」 Photo: James Harris

 そしてMTBの先祖、1983年の「スペシャライズド・スタンプジャンパー」と30余年後の「S-Works スタンプジャンパー」(すごい進化ぶり!)。イギリスでは子どものスポーツとしても人気の高いBMXなどへ展開。ロンドンの下町でBMX教室を開くことで荒廃した地域の公園を活用し、不良に走っていた子どもたちもスポーツで元気に、そして半身不随になった元選手がペダルのないマシンでエクストリームなダウンヒルを見せる…といった、自転車のインクルーシブ(あらゆる人が参加できる)な側面を強調するビデオ上映もありました。チャリティ意識の高いイギリスならではの要素と言えそう。

次に注目すべきはカーゴバイク?

このかわいらしいミニチュアは、1956年、アレックス・モールトンがカウル付きの自転車を開発していたときの木製スケールモデルだとか。なんともおしゃれな感じだが、アルミシートのカウルは恐ろしいほどのノイズを立て、とてもではないけれど乗れたものではないとモールトン本人に言わせてこの案はボツになった Photo: Yoko Aokiこのかわいらしいミニチュアは、1956年、アレックス・モールトンがカウル付きの自転車を開発していたときの木製スケールモデルだとか。なんともおしゃれな感じだが、アルミシートのカウルは恐ろしいほどのノイズを立て、とてもではないけれど乗れたものではないとモールトン本人に言わせてこの案はボツになった Photo: Yoko Aoki

 そしてコーナーを曲がると都市ライドのセクションへ。現在の自転車の祖先になった19世紀の「セーフティ」などの自転車から、数々のシティバイクが展示されていますが、なかでも目を引くのは小径車の多さ! 考えてみれば、「モールトン」に「ビカトン」に「ブロンプトン」など、都市での便利さを追求した小径折り畳み自転車は英国車が多いのでした。1976年の、ブロンプトン創業者アンドリュー・リッチー氏が作ったプロトタイプブロンプトンなど、お宝車両も。

 オランダの新しい自転車ブランド「VANMOOF」(バンムーフ)、ロンドンの公共自転車「サイクルハイヤー」など、市民の毎日の足となるシティバイクの究極の姿を模索している車両の紹介を経て、展示はポーターバイクやカーゴバイクのコーナーに。ロンドンではカーゴバイクはまだ多くないし、そもそもシティサイクルの一種なのではと思うけれど、どうも当特別展のキュレーターさん、それともコンラン卿なのかもしれませんが、ミュージアムとしてはこちら方面に力を入れたかった匂いが漂っていました!

モールトンとブロンプトンの数々の名車が並ぶ都市ライドコーナー。中央上段右、メインフレームに切り返しがあるのがブロンプトンのプロトタイプ3台目 Photo: Yoko Aokiモールトンとブロンプトンの数々の名車が並ぶ都市ライドコーナー。中央上段右、メインフレームに切り返しがあるのがブロンプトンのプロトタイプ3台目 Photo: Yoko Aoki
自転車が、シティバイクからポーターバイクなどを経て子どもたちを何人も運べるような本格カーゴバイクに進化していくような展示 Photo: James Harris自転車が、シティバイクからポーターバイクなどを経て子どもたちを何人も運べるような本格カーゴバイクに進化していくような展示 Photo: James Harris

 ちょうどやはり先月ロンドン市交通局が、都心の一部でカーゴバイクを使った共同配達試験を導入し、都心での温暖化ガスの発生量を最大60%削減するテストを行うと発表していました。自転車を社会のインフラとして活用することを考える人は必ずカーゴバイクに目がいくわけで、つまりロンドンの自転車も一部の人はさらに次のステージを見据え始めているのでしょう。

20インチホイール、前後に長いフレームで重量物でも運びやすい英国生まれのセミカーゴバイク「donky」 Photo: Yoko Aoki20インチホイール、前後に長いフレームで重量物でも運びやすい英国生まれのセミカーゴバイク「donky」 Photo: Yoko Aoki
個人的にかなり惹かれたのが,、若い英国人がロンドン郊外の工房で作り始めたというPorterlightの「ブリングリー」プロトタイプ。細身の作りで比較的軽そう Photo: Yoko Aoki個人的にかなり惹かれたのが,、若い英国人がロンドン郊外の工房で作り始めたというPorterlightの「ブリングリー」プロトタイプ。細身の作りで比較的軽そう Photo: Yoko Aoki

都市と人間の幸せを向上させる自転車

 そして最後は、都市デザインと自転車のコーナー。世界各都市の自転車普及のための取り組みを紹介するインフォグラフィックや、サイクリストでもある著名な建築家ノーマン・フォスター氏らの自転車愛と、これからの都市と自転車のあり方についてのインタビューなどの展示が続きます。

イギリスもハンドビルドフレーム●の流行●が長く続いていて、若い作家的なビルダーも活躍している。老若のビルダーの工房紹介コーナーもできていた Photo: Yoko Aokiイギリスもハンドビルドフレームの人気が長く続いていて、若い作家的なビルダーも活躍している。老若のビルダーの工房紹介コーナーもできていた Photo: Yoko Aoki

 やはりこの特別展はただ自転車を愛でてほめたたえるためではなく、いかに自転車を普及させて都市と人間の幸せを向上させていくかというミュージアムからのメッセージであると痛感。

 自転車なんて子どもと一部の酔狂な大人の趣味のもの、あるいは貧乏人のもの、真面目に取り扱う必要はない…と考える「クルマ脳」な人がまだまだ多いロンドン。それでも、こういったメッセージで自転車が社会をよくするインフラであること、ひとりひとりの人生を豊かにするアートでさえあることを説明していくイニシアチブがあることに、イギリスらしい社会の成熟を思った日になりました。

 自転車が与えてくれる自由さは、自由を希求する人が集まる都市にこそぴったりの乗り物なのだと思います。この特別展は今年6月30日まで開催されています。ロンドンにおいでの際はぜひ!

『THE CYCLE REVOLUTION』

■場所:Design Museum
■住所:SHAD THAMES, LONDON SE1 2YD
■会期:~2016年6月30日まで
■開館時間:10:00〜17:45(入館〜17:15)
■入館料:大人£13.00
■電話: 020 7940 8790

青木陽子青木陽子(あおき・ようこ)

ロンドン在住フリー編集者・ジャーナリスト。自動車専門誌「NAVI」、女性ファッション誌などを経て独立起業、日本の女性サイトの草分けである「cafeglobe.com」を創設し、編集長をつとめた。拠点とするロンドンで、「運転好きだけれど気候変動が心配」という動機から1999年に自転車通勤以来のスポーツ自転車をスタート。現在11台の自転車を所有する。ブログ「yokoaoki.com」を更新中。

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