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はらぺこサイクルキッチン<56>「食を変えて、人生を変えた」 MTBライダー池田祐樹&フード研究家・清子 の“夫婦対談”

by 池田清子 / Sayako IKEDA
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 アスリートにとって「食」はどんな存在でしょうか。楽しみの一つであり、身体を強くする材料であり、モチベーションにつながるご褒美であり、時には減量時の誘惑であり、強いストレスにもなる存在です。

今回は「食」をテーマとした夫婦対談。普段から食に関する話題は尽きませんが、話す度に新たな発見があります今回は「食」をテーマとした夫婦対談。普段から食に関する話題は尽きませんが、話す度に新たな発見があります

 MTBプロライダーの池田祐樹(トピーク・エルゴンレーシングチームUSA)と結婚して2年が経ちました。人それぞれ食に対する考え方は異なりますが、彼の中でも食を「選ぶ」という行いに大きな変化がありました。そして、選ぶことが「作る」ことにつながり、キッチンに立つ回数も増えました。今回は、初めて“夫婦対談”を企画し、今までの食生活を振り返ってみました。「食を変える」ことは「人生を変える」と言っても過言ではない、と日々実感している私たちです。

挽肉に見えるのは大豆ミート。デトックス期間は野菜や豆などの植物性食材だけで調理します。この献立には、野菜のビタミンやミネラル、食物繊維や鉄分などの他、大豆ミート、煮小豆、豆腐、アボカドと、こう見えて多種類のタンパク質が入っています Photo: Sayako IKEDA挽肉に見えるのは大豆ミート。デトックス期間は野菜や豆などの植物性食材だけで調理します。この献立には、野菜のビタミンやミネラル、食物繊維や鉄分などの他、大豆ミート、煮小豆、豆腐、アボカドと、こう見えて多種類のタンパク質が入っています Photo: Sayako IKEDA

よく鍛え、よく食べて、よく寝る

清子:まずは、パフォーマンスを向上させるために普段からどんなことを意識しているのか聞かせて。

祐樹:とにもかくにも大事なのは、鍛錬・栄養・休養。よくトレーニングして、よく食べて、よく寝る。この繰り返しだし、いかにこの質を上げるかということに尽きるね。

清子:アスリートとして「食」について思うことは?

池田祐樹作の「アスリートサラダ」。食材は全て有機で、スーパーフードを盛り込んだ一品。お気に入りの、テンションが上がるサラダでもあります Photo: Sayako IKEDA池田祐樹作の「アスリートサラダ」。食材は全て有機で、スーパーフードを盛り込んだ一品。お気に入りの、テンションが上がるサラダでもあります Photo: Sayako IKEDA

祐樹:「食」に対していま感じていることは、食べるわれわれ消費者が強く、賢くならなければいけない時代だということ。先日の鶏肉の産地偽装で、多くの販売者は消費者の健康や気持ちよりも利益を優先していることが改めて証明された。ほかにも、小麦が良い例。海外で大量生産して日本に入ってくる小麦は品種改良が繰り返されて、グルテン含有量が増えたり、古来の成分とは大きく変わり、アレルギー症状が出る現代人が増えたりしている。

 改良だけでなく、長時間の輸送などの保存対策のために大量の薬品を使用するポストハーベストも問題になっている。消費者の健康よりも利益を明らかに優先している証拠。栽培方法・国産・有機栽培などの記載がない場合は、ほぼ同様の処理を経ていると言われている。このような食品が現代には蔓延しているのが、非常に悲しい現実。

清子:アスリートとしてという以前に、ここ最近「食」の安全性を脅かす出来事がニュースや事件になっているね。

食べ物のバックグラウンドまで考える

祐樹:もちろん、小麦もお肉も丹精込めて安心安全に育てている素晴らしい生産者さんもしっかりいる。自分はパンとか小麦製品が好きだし、お肉も好き。でも、食べるときは信頼できる人・食材に出会ったときだと思っている。地道なことかもしれないけれど、それが本物の生産者を助け、利益を優先した大量生産品を減らす活動につながると信じているから。

清子:そうだね。でも、安いから、知らないから、美味しく感じるように作られているからついつい「そっち」を購入してしまう現実もあるよね。

書物に囲まれる池田祐樹。中でも衝撃を受けたのは「葬られた第二のマクガバン報告(邦題)」(全3巻)。何度も読み返すバイブル的存在 Photo: Sayako IKEDA書物に囲まれる池田祐樹。中でも衝撃を受けたのは「葬られた第二のマクガバン報告(邦題)」(全3巻)。何度も読み返すバイブル的存在 Photo: Sayako IKEDA

祐樹:自分はいまアスリートという職業で、身体が資本だから、特に意識が変わったのかもしれない。強く、健康な身体作りが仕事であり、基本中の基本。身体は食べたものから作られている。さらに言えば、「食べたものが食べてきた、食べ物と環境」で自分たちの身体は作られている。

清子:バッググラウンドまで考える、ということだね。「安価な食品にはそれなりの理由がある」と消費者が「疑う」ことも大事。逆に手間ひまかけられた安全な食品には高くなってしまう理由があるし、それを払うだけの価値があれば払う。アスリートはもちろん、人間誰にとっても、健康は何にも代え難い大事なものだから。

ひどかったアマ時代の食生活

祐樹:逆説のようだけど、添加物がたくさん入った加工肉、保存料まみれの食品を食べていようと、強い志と適切なトレーニングを行っていればパフォーマンスは向上する。実際、自分がそうだったから。アメリカでプロを目指していたアマチュア時代の食生活はひどいものだった。

定期的に身体の写真を撮って、確認と記録をしています。オフシーズン中も大きく体重が増加することもなく、風邪を引くこともなく、トレーニングの成果を上げています Photo: Sayako IKEDA定期的に身体の写真を撮って、確認と記録をしています。オフシーズン中も大きく体重が増加することもなく、風邪を引くこともなく、トレーニングの成果を上げています Photo: Sayako IKEDA

 お金がないこともあったけれど、ジャンクフードは当たり前。「必要な栄養素さえ摂れていればいい」という考えで、作られたものの背景など何も気にせず食べていた。そして、パフォーマンスは向上していた。とても良い流れで! なぜなら必要な糖質、たんぱく質、脂質、ビタミンなどは十分に摂っていたから。毎年成績も上げて、優勝して現在の名門チームに入ることも実現した。

清子:25歳位からMTBを始めて、30歳位までのことだね。

祐樹:でも、健康面で気になることがいくつかあった。軽度の高血圧。家系がそうだから遺伝で仕方ないと思っていた。30歳くらいで喘息も発症したし、他にもアルコールアレルギー、花粉症が発症して、アレルギー体質になっていった。

清子:見た目ではわからないけれど、身体の中では色んなことが起こっていたんだね。

結婚から変わった食生活

祐樹:高血圧に関しては医師に「適度な運動を心がけてください」なんて言われたしね(笑)。でも結婚を機に清子が色々勉強してきてくれたり、バランスのよい食事やアレルギー改善の食事を作ってくれたりして、自分の食習慣が少しずつ変わっていった。そんな中、2013年ごろから海外のチームメートや周りのトップアスリート達の食生活にも目を向けたんだよね。

清子:海外遠征のたびに色々吸収したね。

節分に作った、イワシの梅干し煮。魚の持つ栄養素を余すことなくいただくため、出来るだけホールフーズ(丸ごと)で食べることを心がけています Photo: Sayako IKEDA節分に作った、イワシの梅干し煮。魚の持つ栄養素を余すことなくいただくため、出来るだけホールフーズ(丸ごと)で食べることを心がけています Photo: Sayako IKEDA

祐樹:そこには、オーガニック、ホールフーズ、グルテンフリー、ビーガン、ベジタリアン、スーパーフード、パレオなどなど、きりがないほど様々なヘルシーな食生活が存在していて、意識の高い選手たちはすでに実践していた。二人でいろいろ実践して、常にアンテナを張り、勉強するようになったね。

清子:まだ翻訳されていない英語の書物も読み込んでたね。私は「置いていかれる!」って不安になりそうだったよ。

祐樹:「健康に強くなりたい!」の一心だったから。

清子:色々実践したね。2年前は数カ月間ストイックに、グルテンフリー生活、そしてアスリート用オーガニックビーガン食生活の実践。見た目も大きく変わって、反響もすごかったね(菜食×トレーニングの体重推移)

とある日のランチ。プレートには、たくさんの有機野菜とグラスフェッドビーフのフィレミニョン。ゆっくりとよく噛んで、味わいながらいただくと、栄養吸収率も高まります Photo: Sayako IKEDAとある日のランチ。プレートには、たくさんの有機野菜とグラスフェッドビーフのフィレミニョン。ゆっくりとよく噛んで、味わいながらいただくと、栄養吸収率も高まります Photo: Sayako IKEDA
野菜だけで作ったカレー。ネパールで調達した数十種類のスパイスで煮込みました。身体が重く感じた時、デトックスしたい時には野菜だけの献立で、身体を整えます Photo: Sayako IKEDA野菜だけで作ったカレー。ネパールで調達した数十種類のスパイスで煮込みました。身体が重く感じた時、デトックスしたい時には野菜だけの献立で、身体を整えます Photo: Sayako IKEDA

祐樹:特に、約半年間実践したビーガン食生活の時の効果は顕著だった。そこで高血圧と喘息、花粉症にまさかの改善がみられたんだよね。しかも、その間にアメリカの100マイルのレースで優勝! まさに「健康に強くなり」、結果も出した。この成功体験は今でも忘れられない。

清子:今はゆるくグルテンフリーやビーガンを実践しているね。

祐樹:ビーガン食生活はすごく気に入ってはいたけど、遠征が続く環境では継続が難しかったり、たまに我慢が必要だったりする。動物性食品のメリットもあったからね。今は主に身体が重いと感じた時やデトックスの時期に取り入れているね。

清子:「バランス」ということに立ち戻るよね。

祐樹:うん、バランスに重きを置いて、何かのダイエットや食事法に偏らず、「食材」を大事にした食生活をしているね。この「食」への気づきは、自分の人生のターニングポイントとも言えるほど大きかった。あのまま何も知らずに、”安い、早い、うまい、栄養だけあり”的なものだけを口にしていたらどうなっていただろうか。内臓に負担がかかったり、アレルギーが出たり、選手寿命が短くなったり、ガンになったり、自分の子供に影響が出たり……。

既存のレシピにとらわれず、新しい野菜、食材にも挑戦して、素材を生かしながら美味しくいただいています。これは国産ビーツを使った、ピンクのカレー Photo: Sayako IKEDA既存のレシピにとらわれず、新しい野菜、食材にも挑戦して、素材を生かしながら美味しくいただいています。これは国産ビーツを使った、ピンクのカレー Photo: Sayako IKEDA

清子:アスリートに限らず、日常生活の活動レベルの人であっても同じこと、だね。そういえば年明けに始めた花粉症対策の食事も甲を奏したのか、3月に入っても私たち花粉症を発症していないね(花粉症知らずになるためのレンコンレシピ)。

祐樹:そう。ただ、アスリートの場合は筋肉量も活動量も多いし、食べ物を取り込む量が多くなるからよりシビアに影響すると思う。ましてや一瞬を競うレベルならなおさら。

清子:「食事がまず健康な身体を作り、それがパフォーマンスを支え、結果につながる」という順番だね。

祐樹:食だけでなく人生の様々な局面で言えることだけれど、大事なのは「自分の価値観、判断できる力を持つ」こと。これはパフォーマンスを上げるため、健康になるため、今の世の中を生き抜くために非常に大切な、そして必要な力だと強く感じているよ。

清子:「食」に関してはいくら話しても尽きないけれど、アスリートからの視点は私も日々刺激を受けながら勉強しています。生涯現役を目指して、二人で頑張りましょう!

◇         ◇

 ご静聴ありがとうございました。夫の大きな変化は、カロリーや栄養素だけで食を選ばなくなったこと、食材の背景まで考えて身体に取り込むものを選ぶようになったこと、身体の不調が改善されたこと、そして何より食に対して色々と知ることが大好きになったこと。隣で見ていても驚くほどの変化でした。

 少しでも強くなりたい、長く現役生活を続けたいというストイックな想いが、食の変化につながっていき、実際に家計の面でも優先順位が高くなりました。「結局は、高級なものを身につけたりモノを増やしてくよりも、健康であることが全ての資本だね」とよく話します。池田祐樹は「食を変える」ことで、現在だけでなくこの先の未来まで「人生を変えた」といえます。もし人生で何かを変えたければ、まず「食を変えてみる」といいかもしれません。

池田清子池田清子(いけだ・さやこ)

アスリートフード研究家。モデル事務所でのマネジャー経験を生かして2013年夏よりトピーク・エルゴンレーシングチームUSA所属ライダー、池田祐樹選手のマネージメントを始め、同年秋に結婚。並行して「アスリートフードマイスター」の資格を取得。アスリートのパフォーマンス向上や減量など、目的に合わせたメニューを日々研究している。ブログ「Sayako’s kitchen」でも情報を発信中。

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