スマートフォン版はこちら

サイクリスト

JTUフォーラムで安全対策を議論「突然死」の多さがデータで判明 サイクリング中の“悲劇”を防ぐためにできることは?

2016/03/13 17:00更新

  • 一覧
  • このエントリーをはてなブックマークに追加
「第5回JTUトライアスロン・パラトライアスロンフォーラム」で行なわれたローレンス・クレスウェル博士の基調講演 ©Satoshi Takasaki/JTU「第5回JTUトライアスロン・パラトライアスロンフォーラム」で行なわれたローレンス・クレスウェル博士の基調講演 ©Satoshi Takasaki/JTU

 日本トライアスロン連合(JTU)主催の「第5回JTUトライアスロン・パラトライアスロンフォーラム」が2月6、7日、東京都内で開催されました。テーマは、大会の安全対策構築。この中で、米国などでの「突然死」の現状や対策について基調講演が行なわれました。フォーラムに参加した歯科医師でJTUメディカル委員を務める塩田菜々さんが、講演の内容と感想を、JTUのメディカル委員会と事務局の意見も反映させつつレポートします。Cyclistコラムニストとして活躍してきた塩田さんは、自転車愛好者にも突然死について考えるよう呼びかけています。

◇         ◇

ローレンス・クレスウェル博士(右)と塩田菜々さんローレンス・クレスウェル博士(右)と塩田菜々さん

 第5回JTUトライアスロン・パラトライアスロンフォーラムのテーマは<Athletes’Safety First(選手の安全を第一に)>。基調講演では、アメリカ・ミシシッピ州のミシシッピ医療センター大学の教授で心臓外科医のローレンス・クレスウェル博士(米国トライアスロン連盟メディカル委員・トライアスリート)が、「突然死」について米国トライアスロン連盟が行った事故調査を基に現状を解説しました。これに続き、JTUメディカル委員長の笠次(かさなみ)良爾先生が日本の調査結果や現状を報告し、ライフセーバーや医師、メディア、大会運営者を囲んでの安全に関するパネルディスカッションも行われました。現場からの切実な声を聞いて思考を巡らせる、まさに”Safety”を真剣に考えた2日間でした。

突然死の平均年齢は46歳

 日本では昨年、トライスロンの競技中に不慮の死を遂げた数が6例を数え、深刻な状況が認識されたばかりです。そのなかには医師2名が含まれ、メディアの報道を通じて全国のスポーツ関係者の記憶に刻まれることになりました。

「第5回JTUトライアスロン・パラトライアスロンフォーラム」で講演するローレンス・クレスウェル博士 ©Satoshi Takasaki/JTU「第5回JTUトライアスロン・パラトライアスロンフォーラム」で講演するローレンス・クレスウェル博士 ©Satoshi Takasaki/JTU

 Cyclistのサイトをご覧になっているのは自転車愛好者が中心ですが、ここは競技の垣根を取り払って読んでいただきたいと思います。なぜなら、クレスウェル博士や笠次委員長ら、日米のスポーツ医学を牽引する医師が揃って「突然死は誰にでも起こりうる可能性がある」という結論を導いているからです。

 今から紹介するのは2011年に発表されたフランスの論文。スポーツに起因した突然死の内訳を調査した内容です。

 日本では年間1700人程度に起こると言われるスポーツ中の突然死。まずは日仏の共通項ですがそのほとんどは男性です。この論文によると、死亡者の平均年齢は46歳。

 想像してください。46歳といえば仕事が一番ノッているとき。公私共に周囲から頼りにされる存在です。そんな大切な人が亡くなったとき、勤め先の同僚、友人、そして何よりもご家族の悲しみは計り知れません。

 仕事の充実度に合わせるように、心身への負担は増加します。そして若い時の体力はいつの間にか低下している。さまざまな研究結果で、40~50代は突然死の数が多いのです。

 「大丈夫、自分は20代だから関係ない」。そう思う方もいるでしょう。しかし、突然死はすべての人に起こりうる可能性があります。この論文での最年少は10歳でした。

突然死が最も多い競技はサイクリング

 サイクリストの皆様に見ていただきたいのは、突然死の発生人数を競技別に分けたグラフです(E.Marijon et .al Sports RelatedSudden Death in The General Populaion より抜粋)。1位は何の種目ですか?

スポーツ競技別の突然死の発生件数 (E.Marijon et .al Sports-Related Sudden Death in the General Population より抜粋)スポーツ競技別の突然死の発生件数 (E.Marijon et .al Sports-Related Sudden Death in the General Population より抜粋)

 そうです。サイクリングです。

 この中に「トライアスロン」は入ってませんが、サイクリングがジョギングよりも事例が多いというのは、これまでの認識をくつがえすものでした。

【追記】グラフの数値(Nおよび横軸)は突然死をした人の実数で、赤い部分は女性の内数。百分率(%)は全サンプル数(820)に占める比率です(編集部)

サイクリングは突然のトラブルが多いことを認識しなければならない(写真はイメージ)Photo: Aki KARASAWAサイクリングは突然のトラブルが多いことを認識しなければならない(写真はイメージ)Photo: Aki KARASAWA

 ツール・ド・フランスの開催国でこのような調査結果が示されるのは、自転車を愛する人が多いということが理由の一つではあるでしょう。もちろん、統計や調査資料は実施詳細をみなければなりませんが、注意指標として貴重なものです。

 競技内容にかかわらず“明日はわが身”の可能性があるということです。

死亡例が出ると大会が継続できないケースも

 一方、トライアスロン中に突然死が発生しやすいのがスイムです。大勢の選手が泳ぐスイムでは、選手同志がぶつかり合うバトルが起きやすいため、選手たちはヘッドアップで前方確認をしたり、迂回して混乱を避けたりしながら泳ぐことが基本といわれています。

トライアスロン競技において、スイムパートの安全確保は大きな課題だ(写真はイメージ)Photo: Aki KARASAWAトライアスロン競技において、スイムパートの安全確保は大きな課題だ(写真はイメージ)Photo: Aki KARASAWA

 大会に参加する選手たちは、これらを理解し、了解して参加するものです。スイム競技中でも停止して小休止は許可されていて、足がつって水面で休憩をとることもあります。

 選手が体調不良になれば、ライフセーバーが救護し、陸に引き上げて病院へ搬送する流れとなります。ただ、スイムでの救護が難しいのは、選手がゴーグルをつけているので、陸上競技と違って表情から体調を判断しにくい点です。

 スイムでの完全な安全管理は、全選手に専属の監視員をつけることかもしれませんが、現実にできるはずはありません。そこで、監視を補うGPSなど最新機器の登場に期待したいところです。また、選手自身のペース配分は何より大事です。

 レース中に死亡事例が出てしまうと、選手たちはもちろん、大会を作り上げてきた主催者や、各都道府県に設置されている競技団体の関係者(多くがトライアスリートです)の落胆は大きく、また安全管理が問題となって翌年以降のレース存続が難しくなるケースがあります。ニュースで報道されるのは一時的かも知れませんが、取り巻く人々にはそれぞれ悲しみや葛藤が続きます。

 では、そんなケースを防ぐために何ができるでしょうか。

突然死を防ぐために アメリカの取り組み

 米国トライアスロン連盟(USAT)のウェブサイトには次のようなチェック項目があります。

□その大会や練習会は、自分の技量や体力に合っているものですか?
□心臓にトラブルがないか、医師に診てもらいましたか?
□練習中に胸の痛みや体調不良になったことがある場合は、医師に相談をしましたか?
□バイクはきちんと作動し、走りますか?

―などなど。自己判断に基づくチェックリストではなく、専門家に意見を求めて判断させる記述が目立ちます。それは、自分も突然死になる可能性を認識し、定期的に検診を受けて専門家のアドバイスを受けたアスリートが初めてスタートラインに立てるという事です。

 また、トライアスロンの経験が豊富であっても安全とは言い切れません。レース距離の長さや暑さだけがトラブルの絶対的な要因ともいえません。また、持病を持っている選手が必ずしも危険だともいえません。競技環境にマイナス面があれば、選手心理は、慎重に取り組もうと警戒心を強め、結果として、無事完走につながることもあります。

 選手たちが大会に臨むときの体調のよさや、いいところを見せてやろうという入れ込んだ気持ちが限界を超えさせてしまうことがあるようです。

 大会での突発事故には、はっきりとした因果関係を求めることはできないのですが、心臓に問題があれば、それが突発事象を引き起こす可能性は十分にあります。

 現に昨年、持病を持っていたフランスのオリンピアンの悲報が伝えられ、世界のトライアスロン界に衝撃を与えました。

 つまり、どのような立場の方であれ、無理は禁物です。例えば、寝不足でも強行出場することがある/レース前日にお酒を飲むのが好きだ/自分は何とかなると思っている/レースは自分の120%を表現する場であり、ゴールテープを切ったら倒れこんでいる…など。あなたのスポーツへの姿勢に思い当たるフシはありませんか?

 補足ですが、米国のトライアスロン大会で、バイクパートの途中でコースに進入したトラックに衝突した事故があったそうです。日本国内では外国と比べ、所轄警察の指導が浸透し、レース中は交通規制が徹底されてはいますが、突発的なクルマの進入がないとは言えません。そのため、バイク競技中の選手は、常に前方注意が求められます。エアロバーの使用で前かがみになるため、前方確認が疎かになりやりやすいことは要注意ポイントです。

トライアスロンのレースでバイクパートを走る塩田菜々さんの父、厚さん Photo: Nana SHIOTAトライアスロンのレースでバイクパートを走る塩田菜々さんの父、厚さん Photo: Nana SHIOTA

 引き合いにするわけではないですが、昨年、台湾で行われたトライアスロン大会に出場した「腰痛おやじ」でおなじみの父を応援に行ったとき、地元の方のクルマに乗せてもらってゴールへ先回りしようとすると、なんとバイクで走っている父親と同じ車線を並走することになりました…貴重な体験ですが、選手とクルマが並走する場面は恐ろしかったです。
 家族であり、トライアスリートの先輩でもある父には、毎回、笑顔でフィニッシュしてもらいたいと願っています。特にスイムの時は、いい年なこともありいつも心配してしまいます。

その時、あなたは何ができますか?

 突然死についてはっきり言えるのは、いつ、だれが倒れるかわからないことです。確かにあなたは大丈夫かもしれません。でも隣の人が倒れるかもしれない。もしかしたらパートナーかもしれない。その時、あなたは何ができますか?

レース中、目の前で他の選手が倒れる可能性もある(写真はイメージ)レース中、目の前で他の選手が倒れる可能性もある(写真はイメージ)

 私は3年前にトライスロンを始めて以来、疑問に感じていたことがあります。それは、選手や関係者から「突然死は怖いし、気を付けているけれど、そんな現場に出くわしたときはどうしていいのか…ねぇ」という声を聞くことです。

 トライアスリートやサイクリストの皆さんにお願いがあります。

 突然死を防ぐための知識を付けてください。

 心臓マッサージのやり方がわかっているだけで助かる命があることを知ってください。

 今年1月、東京駅で倒れた男性をライフセーバーの女性が救ったケースがありました。その女性は、男性が倒れた直後から心臓マッサージを開始し、AEDを操作しながら周りの人と協力して、結果的に急病人を救えました。新聞にも掲載された素晴らしいニュースです。

 もし、レースやサイクリング大会の途中で、目の前の人がもがき苦しみ始めたり、変な呼吸をして倒れたりすれば、あなたは目撃者であり第一発見者になります。「何も知らない、できない」といって見ているだけの自分を許せますか? アスリートやサイクリストが先頭に立って助け合えたらいいと思いませんか?

消防署で受けられる講習

「2016大阪国際女子マラソン」のボランティアを対象とした救命救急講習会でAEDの使い方を学ぶ参加者=2016年1月、大阪市西区「2016大阪国際女子マラソン」のボランティアを対象とした救命救急講習会でAEDの使い方を学ぶ参加者=2016年1月、大阪市西区

 私自身、心臓マッサージやAEDの使い方といった心肺蘇生法(CPR)の重要性・必要性を実感していて、皆さんにお伝えする機会を設けたいと奔走しているところです。大きな場所ではまだまだ受け入れてもらえないのが実情で、葛藤を感じていますが、自分の所属するJTUメディカル委員会の先生方と協力して、突然死の恐ろしさや最適な医療情報をアスリートの皆さんと共有できればいいなと思っています。

 また、身の回りのアスリートの中でも、ドクターや講習会を受けたアスリートがチームメンバーに教えている動きもあります。素晴らしい活動です。

 もし、どうして情報を入手していいかわからない場合、全国の多くの消防署には、なんと無償で講習を受けられる制度があるそうです。こうした機会を有効に活用して救命の知識や技術を身につけ、悲しい思いをする人を減らせればと思います。ついでにスポーツ仲間との交流も深められるといいですね

誰もが安心して楽しめるスポーツ環境を

 スポーツ中の突然死は、すべてが悲しい結果に終わってしまうもの。それを誰かのせいにするのは簡単ですが、「責務は選手・参加者個人、イベント主催者、競技団体のそれぞれが分かち合う必要がある」と、米国トライアスロン連盟の提言をローレンス博士が紹介していました。だから、それぞれが突然死を防ぐための努力をする必要があるのです。皆で考え、できることに取り組んでいけば、本質的な解決により近づけると強く感じます。

「第5回JTUトライアスロン・パラトライアスロンフォーラム」を熱心に聴講する参加者たち ©Satoshi Takasaki/JTU「第5回JTUトライアスロン・パラトライアスロンフォーラム」を熱心に聴講する参加者たち ©Satoshi Takasaki/JTU
トライアスロンの大会を楽しむ塩田菜々さんトライアスロンの大会を楽しむ塩田菜々さん

 Cyclistの読者の皆さんは、ほとんどが選手・参加者サイドでしょうから、まずはできることから始めましょう。検診を受けたり、心肺蘇生術を学ぶなど、選手・参加者としての責務を果たす努力をして、競技への取り組みを自己満足に終わらせるのではなく、誰もが安心して楽しめるスポーツ環境を作りましょう。

 広いようで狭いスポーツ界。一人ひとりの気の持ちようが変わるだけで、絶対に笑顔が増えると私は確信しています。

塩田菜々塩田菜々(シオタ・ナナ)

湘南生まれ、湘南育ち。2012年よりロードバイクに乗り始め、翌年には「バイシクルライド東京」「GREAT EARTH 富良野ライド」といったサイクリングイベントや「大磯ロングビーチ・ファミリートライアスロン」へ出場。2014年には「横浜トライアスロン」スプリントディスタンスを完走。2015年は「New York City Triathlon」を完走。2016年は「Ironman 70.3Miami」に出場予定。愛車は「デ・ローザ R848」(愛称デニーロ)。塩田歯科医院の副医院長として日々の臨床に携わりながら、東京医科歯科大学の大学院に所属し、スポーツ医歯学研究に従事している。公益社団法人日本トライアスロン連合メディカル委員。特技は英会話。好きなものは愛犬とおいしいパン、嫌いなものは採血と激坂。

関連記事

この記事のタグ

セーフティーライド トライアスロン

  • 一覧
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

新着ニュース

もっと見る

ピックアップ

知らないなんてもったいない! ツール・ド・フランスを楽しむ4ステップ

スペシャル

サイクルトーク

ドライバーや自転車に、シンプルに呼びかけたいことはありますか?
 「春の交通安全運動」が4月15日まで実施中です。今回の運動重点の1番には「自転車安全利用の推進」が挙げられました。 全国でさまざまな交通安全を啓発する活動が行…

続きを読む/投稿する

ソーシャルランキング

インプレッション

インプレッション一覧へ

連載