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“自転車革命都市”ロンドン便り<36>自転車雑誌の表紙は女性ばかり? メディアで扱われる女性サイクリスト像をパネルディスカッション

by 青木陽子 / Yoko AOKI
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パネラーは、左から自転車ジャーナリストのおふたり、ブロガー兼テレビレポーター兼自転車アパレル広報、自転車マーケッターという顔ぶれ Photo: Yoko AOKIパネラーは、左から自転車ジャーナリストのおふたり、ブロガー兼テレビレポーター兼自転車アパレル広報、自転車マーケッターという顔ぶれ Photo: Yoko AOKI

 「女性&サイクリングはメディアで正しく扱われているか」(How is women’s cycling portrayed in the media?)――そんな地味(?)なお題のパネルディスカッションが、ロンドンで人気の自転車カフェ「ルック・マム・ノー・ハンズ(LMNH)」で開かれると聞き、これは行かねばとひとっ走りしてきました。

自転車業界全体に漂う女性の存在感の“ねじれ”

 主宰したのは、以前に当コラムでもご紹介した自転車「自炊」修理スペース「ロンドンバイクキッチン(LBK)」。LBKでは以前から2週間に1度程度、女性やジェンダーマイノリティな人のための自転車メンテナンス教室を開いてきました。女性には、メカは苦手と自分で思い込んでいる人が多かったり、(女性はメカが苦手と上から目線で信じ込んでいる)男性と一緒だと気おされて学びにくいという声があり、それに応える形で設けられた時間なわけです。今回は、このクラスの発展イベントとしてのディスカッションでした。

「今晩のパネルディスカッション メディアで女性のサイクリングはどう描かれているか?」と書かれた案内看板。今回のイベントは、自転車カフェLMNHのスタッフも企画に参加したそう Photo: Yoko AOKI「今晩のパネルディスカッション メディアで女性のサイクリングはどう描かれているか?」と書かれた案内看板。今回のイベントは、自転車カフェLMNHのスタッフも企画に参加したそう Photo: Yoko AOKI

 パネラーは、自転車ジャーナリストが2人、自転車業界のマーケッター、司会に自転車テレビ番組のレポーターもつとめる自転車アパレル広報&ブロガーという4人。開始時間には用意された席はすべて埋まって、立ち見も出てきていました。

 まずは自己紹介とそれぞれの自転車業界全体に漂う女性の存在感の薄さとねじれについての問題意識に簡単にふれて、話題はストレートに自転車メディアや主流大メディアの中の自転車×女性像に。会場からとくに「あーこれこれ!」という声と失笑が上がったのが、2015年10月にコルナゴの公式アカウントが炎上して翌日謝罪するはめになった、レーパン姿の女の子がお尻をつきだした写真に「週末に乗る用意はいい?」というメッセージが添えられたツイート。

2015年の自転車マーケティングの失敗の筆頭といえそうなコルナゴ公式アカウントの「週末に乗る用意はいい?」ツイート。内情を知るパネリストによると、さすがにコルナゴ自身が用意した写真ではなく、ファンが送ってきたものをツイッター担当者が使ってしまったという経緯だとか Photo: Yoko AOKI2015年の自転車マーケティングの失敗の筆頭といえそうなコルナゴ公式アカウントの「週末に乗る用意はいい?」ツイート。内情を知るパネリストによると、さすがにコルナゴ自身が用意した写真ではなく、ファンが送ってきたものをツイッター担当者が使ってしまったという経緯だとか Photo: Yoko AOKI

 そして、日本で言うならミニスカポリスのような格好をした女性たちを広告に使っているアメリカのMTBタイヤブランドに対して、パネリストのひとりが「おたくのタイヤは好きだけれど、そんな広告を続けるならもう買わない」という記事を書いてそれが大きな支持を呼んだ一方で、集まった声の3分の1は「何が悪い?」「黙れババアのくせに」系だったという話、自転車雑誌やイベントの中に女性の姿が極端に少ない例などとその原因などが分析されていきました。

イギリスでは女子レースも積極的に報道

女性のための自転車修理の場「WAGナイト」のリーフレット。パンク修理をしようとしていたら「直してあげようか?」「偉いね自分で直せるの? 大丈夫?」と聞かれたことが星の数ほどある自分としても、この必要性はよーくわかります Photo: Yoko AOKI女性のための自転車修理の場「WAGナイト」のリーフレット。パンク修理をしようとしていたら「直してあげようか?」「偉いね自分で直せるの? 大丈夫?」と聞かれたことが星の数ほどある自分としても、この必要性はよーくわかります Photo: Yoko AOKI

 イギリスでは、少なくとも出版放送業界などはジェンダー差別をなくすための意識は高くなってきていて、女子レースを積極的に報道したり、レポーターに(男性目線を狙ったセクシーさを感じさせない)女性を登用したりと、日本に比べればだいぶマシな、心やすらぐ状態にはあります。そんな今でも、指の間からこぼれ落ちるように性の対象として広告に描かれたり、そもそも女性の姿が薄く見えなくなっているのが現状だということを痛感します。

 そしてこういった自転車のイメージにまとわりつくジェンダー差別こそが、自転車をこれから始めるかもしれない女性を「男性のスポーツかな」「危なくてわたしには無理そう」と遠ざけていて、街中での女性による自転車利用促進の伸びを押さえつけているし、いまいちばん伸びているのは女性のスポーツサイクリング市場なのに自転車業界のためにもなっていないという指摘もありました。

 自転車関連製品の女性用ラインを作る際、男性の開発担当者が「ピンク色にしてサイズを小さくしておけばいいだろう」と安易に考えがちな現象は、すでに「Pink it, shrink it!(ピンキッ、シュリンキッ!)という韻を踏んだ揶揄表現で批判されて久しいのですが、これも差別とまではいかないけれど、きちんと女性を取り込めていないことがビジネス的な損失にすらなっている例としてこの日のイベントでも話題に上りました。

会場の100人が「そうだそうだ!」

 けれども変化は始まっている、いい傾向もたくさん出てきていると、トークは明るい方向に! そのひとつの例として紹介されたのが、ウォータープルーフの靴下や手袋が人気のシールスキンズが作ったビデオ。ボーイフレンドからのDVに苦しんでいた女性が、兄の薦めでMTBを始めて自由と自信を取り戻していくまでの、胸がキュッとするような様子が描かれています。“女性のストーリー”ではなく「人間」が主役のストーリーなのです(動画はコチラ)。

男性も着たくなるチームキットを揃えた、おそらく初めての女性プロチーム「キャニオン・スラム レーシング」のビジュアルも好ましい変化のひとつ ©Canyon Bicycles // Tino Pohlmann男性も着たくなるチームキットを揃えた、おそらく初めての女性プロチーム「キャニオン・スラム レーシング」のビジュアルも好ましい変化のひとつ ©Canyon Bicycles // Tino Pohlmann

 今年発足したプロチーム「キャニオン・スラム レーシング」の話題も。ラファが供給するチームウェアとそのイメージ戦略も、男性プロチームの焼き直しではなく、女性サイクリングがひとつ階段をのぼったと思わせるクオリティーで、うれしい変化として紹介されていました。

 そしてこのディスカッションの間、100人を優に超えていた会場の意識が「うんうん」「そうだそうだ!」とほぼひとつになっていたのも、当然といえばそうでしょうが印象的でした。LBKが主宰したさまざまなトークイベントの中でも最大の集客だったそうです。

 最後はパネリストからの「わたしたちのハートに近い自転車なのだから、おかしいと思ったら黙っていないこと」「SNSもあるので、どんどん声を届けよう」「わたしたちのお財布に語らせよう」という言葉と、それが自転車まわりにかぎらず社会全体をよくしていくためにも必要だという話で大きく合意をみてまとめに至りました。

■パネルディスカッションの動画(抜粋)

◇         ◇

 日本も少しずつよくなってきているとは思うけれど、自転車雑誌の表紙が女性ばかりだったり、若い女性だけを紹介する連載ページがあったり、ビキニ姿の女性モデルがパンク修理をしていたり…と、痛い状況もチラホラ。男性はきれいな女性の姿を見たいノダ、というのは構わないんです。それが短期的には収益をもたらすかもしれないのもわかります。でもそれはどこか別のところでやるべきなのではないでしょうか。女性も半数いるべきな自転車のまわりでやるのは、結局自分たちのためにならないから変えていこうという話なのです。

青木陽子青木陽子(あおき・ようこ)

ロンドン在住フリー編集者・ジャーナリスト。自動車専門誌「NAVI」、女性ファッション誌などを経て独立起業、日本の女性サイトの草分けである「cafeglobe.com」を創設し、編集長をつとめた。拠点とするロンドンで、「運転好きだけれど気候変動が心配」という動機から1999年に自転車通勤以来のスポーツ自転車をスタート。現在11台の自転車を所有する。ブログ「Blue Room」を更新中。

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