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“自転車革命都市”ロンドン便り<35>オープンしたてのサイクルスーパーハイウェイへ リッチなインフラで“自転車が大切”アピール

by 青木陽子 / Yoko AOKI
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 パリが花の都、ロンドンは霧の都とかつて呼ばれたりしていましたが、霧の正体はしばしばスモッグでした。まだ石炭が発電や暖房によく使われていた1950年代には、ひと冬で1万人以上が呼吸器障害で死亡するほどひどかったようです。近年はそこまでの被害はなくなったものの、今も大気汚染は深刻で、市交通局のレポートによると年間4000人ほどが亡くなっていると推測されています(ちなみに喫煙の影響は8000人)。

ヴォグゾール駅前に新しく完成した隔離式サイクルスーパーハイウェイ(CS5)で信号待ちをする出勤中の人たち。オランダのような光景に興奮で鳥肌が立ちました Photo: Yoko AOKIヴォグゾール駅前に新しく完成した隔離式サイクルスーパーハイウェイ(CS5)で信号待ちをする出勤中の人たち。オランダのような光景に興奮で鳥肌が立ちました Photo: Yoko AOKI

市交通局が推進する自転車専用レーン

 なぜこれを市交通局がレポートしているかというと、現在の大気汚染はディーゼル車などクルマの排ガスが主な原因だからです。先日は、ロンドン市内の複数箇所で、新年スタートからたった7日でEUが定める年間のNOx(ノックス、窒素酸化物)濃度規制を破ってしまったというニュースが流れていました。この問題ひとつをとっても、行政としてはもはや人々が移動の足として自転車を使うことを促進しないわけにはいかないのです。

 ロンドン市などが進める自転車のための取り組みはこの連載では過去に何回かレポートしてきていますが、去年の今頃大きな朗報としてご報告した、車道から隔離されたオランダやデンマークスタイルの自転車専用レーンが姿を現しはじめ、一部は正式に稼働しはじめたので見に行ってきました!

隔離式サイクルスーパーハイウェイ(CS5)のヴォグゾール駅前の信号から都心に向かってテムズ川にかかる橋を渡りはじめる。街路樹があるので変な形だが、自転車レーン内に右折レーンなどがあるのにご注目 Photo: Yoko AOKI隔離式サイクルスーパーハイウェイ(CS5)のヴォグゾール駅前の信号から都心に向かってテムズ川にかかる橋を渡りはじめる。街路樹があるので変な形だが、自転車レーン内に右折レーンなどがあるのにご注目 Photo: Yoko AOKI
隔離式サイクルスーパーハイウェイ(CS5)を都心に向かってテムズ川にかかる橋。ロンドンの人たちは自転車に乗る時には蛍光ジャケットにヘルメットにとかなり本格的な格好をする人が多い。当連載第15回でご紹介したアムステルダムの人たちとは服装からしてかなり違う Photo: Yoko AOKI隔離式サイクルスーパーハイウェイ(CS5)を都心に向かってテムズ川にかかる橋。ロンドンの人たちは自転車に乗る時には蛍光ジャケットにヘルメットにとかなり本格的な格好をする人が多い。当連載第15回でご紹介したアムステルダムの人たちとは服装からしてかなり違う Photo: Yoko AOKI

 先月オープンした「CS5」(サイクルスーパーハイウェイ5)は、テムズ川の南の地下鉄駅オーヴァルから都心ターミナル駅のヴィクトリア駅を南北につなぐルート。とくに途中のヴォグゾール駅周辺の道は車線が多いジャンクションになっていて、自転車乗りにとってはいつも身がすくむ難所でした。実際、数年前には自転車の男性がひとり大型車に巻き込まれて命を落としています。

安心して走れる道に集まるサイクリスト

 ようやく明るくなる朝8時半、ヴォグゾール駅前にあったのは、まさにアムステルダムもかくやという光景でした! 大勢のサイクリストが新設された自転車レーンの専用信号が青に変わるのを待っています。その向こうからもひっきりなしに自転車の人が続いてきます。興奮で鳥肌が立ちました!

 ロンドンのカムデン区の自転車インフラ担当者さんがブログで「道を自転車が走りやすいように整備するとその区間の自転車交通量が急激に増えることを確認した。自転車がいなければニーズがないのではなく、危ないから自転車が走れないだけかもしれない」と言っていましたが、自転車乗りのひとりとしてまさにそうだと思います。安心して走れる道があれば自転車に乗ってみようと思っている人はとても多いのでしょう。

グーグルストリートビューから拝借した、ヴォグゾール駅高架下。一方通行で5レーンと高速道路のような仕立てで、以前は自転車もこの中でバスや大型トレーラーに混ざり、左端のレーンから中央の右折レーンまで移動しなければならなかった。ここでひとり自転車の男性が亡くなっている Photo: Googleグーグルストリートビューから拝借した、ヴォグゾール駅高架下。一方通行で5レーンと高速道路のような仕立てで、以前は自転車もこの中でバスや大型トレーラーに混ざり、左端のレーンから中央の右折レーンまで移動しなければならなかった。ここでひとり自転車の男性が亡くなっている Photo: Google
ヴォグゾール駅高架下は、この写真の右手奥。今回の工事で1レーン減らされ、上りの自転車レーンが設置された。下りの自転車レーンは手前の歩道トンネルを半分使って設置されている Photo: Yoko AOKIヴォグゾール駅高架下は、この写真の右手奥。今回の工事で1レーン減らされ、上りの自転車レーンが設置された。下りの自転車レーンは手前の歩道トンネルを半分使って設置されている Photo: Yoko AOKI

 アムステルダムと違うのは、まだまだ男性が多く、隔離レーンの中でも自転車の流れが速いこと。これから女性や子ども、高齢者、子どもを同乗させた人などが増えれば自然とスピードも落ち着いていくだろうけれど、どうなっていくか気になります。まだロンドンの自転車は路上でクルマに伍して負けないように走らないとならない部分があるけれど、その文化もやわらかく変わっていくのだろうと思います。

走ってみて分かる快適・安全性

中サイズのラウンドアバウトに、まだ半周だけだけれど、オランダなどでよく見かける自転車専用レーンがついた交差点 Photo: Yoko AOKI中サイズのラウンドアバウトに、まだ半周だけだけれど、オランダなどでよく見かける自転車専用レーンがついた交差点 Photo: Yoko AOKI

 やはり過去10年ほどの間に4人ほどのサイクリストが亡くなっているブラックフライアーズ橋北詰、3年ほど前に1人が死亡しているエレファント&カースルという2点をつなぐ南北サイクルスーパーハイウェイ(CS6)も、まだ正式な開通前ながらほぼ完成しているので走ってみました。

 こちらも自転車レーンは対面交通式ながら、一方向の幅が2m、両方で4mほどの幅があり、かなり走りやすそうです。車道と自転車レーンの間に幅の広い緩衝帯があり、この幅がもったいないのではないかと最初思ったのですが、車道のクルマが右左折して自転車レーンを横切る際に一時停止するスペースとして、反対に自転車が進路を変更して車道に合流する際などに一時停止する空間を確保するのに必要なのだということが走ってみてわかりました。

自転車専用レーンがついた交差点を備えたラウンドアバウトの完成予想図。ほぼその通りに完成しつつある Photo: TfL自転車専用レーンがついた交差点を備えたラウンドアバウトの完成予想図。ほぼその通りに完成しつつある Photo: TfL
花崗岩の縁石、ぜいたく~♪ できたての舗装もなめらかでとても快適 Photo: Yoko AOKI花崗岩の縁石、ぜいたく~♪ できたての舗装もなめらかでとても快適 Photo: Yoko AOKI
幅の広い緩衝帯がないと、とくにスピードのついているクルマが自転車レーンにいきなり鼻を突っ込みかねない。このようにクルマ、自転車2種類の交通が交差し合うときの一時停止スペースにも使われる Photo: Yoko AOKI幅の広い緩衝帯がないと、とくにスピードのついているクルマが自転車レーンにいきなり鼻を突っ込みかねない。このようにクルマ、自転車2種類の交通が交差し合うときの一時停止スペースにも使われる Photo: Yoko AOKI

 そしてこの隔離式のサイクルスーパーハイウェイは、予定通りかなりリッチな仕立てで、自転車レーンの左右の縁石は御影石(花崗岩)。個人的にはこんなところにお金をかけずにもっと他に…と思うけれど、市の「自転車インフラだからこそリッチにして、自転車が大切に扱われるべきだというメッセージを発したい」という意図はなかなかの彗眼なのかもしれません。自転車のペダルが当たらないように縁石の角がとられているのも当然といえば当然ですが、うれしい。

 デンマークでは、自転車通勤をする人が多いために人々の健康度がアップし、職場の病欠が全国で年間100万日ほど減らせているという推計も出ているとか。日本の人口はデンマークの20倍なので、単純に日本にあてはめれば2000万日。平均年間所定労働日数250日で割ると、8万人分勤労パワーが増えているのに等しいとも言えます。自転車は社会に貢献するのです!

青木陽子青木陽子(あおき・ようこ)

ロンドン在住フリー編集者・ジャーナリスト。自動車専門誌「NAVI」、女性ファッション誌などを経て独立起業、日本の女性サイトの草分けである「cafeglobe.com」を創設し、編集長をつとめた。拠点とするロンドンで、「運転好きだけれど気候変動が心配」という動機から1999年に自転車通勤以来のスポーツ自転車をスタート。現在11台の自転車を所有する。ブログ「Blue Room」を更新中。

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