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サイクリスト

死の恐怖を乗り越えリハビリの日々交通事故で両脚骨折、切断の危機 BMXライダー朝比奈綾香「復活」への挑戦<前編>

by 後藤恭子 / Kyoko GOTO
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 14歳で全日本BMX選手権大会の準優勝に輝き、その後も数多くの大会で優勝・入賞を果たしてきたBMXライダー、朝比奈綾香さん(関西BMX競技連盟)。エリート女子クラスでいよいよ世界へ羽ばたこうとしていた矢先の2015年7月、突然の交通事故に遭い、両脚骨折などの大けがを負った。生命の危機を乗り越え、脚の切断も免れたものの、状態は極めて深刻だ。それでもあきらめずリハビリに励み、2016年はレース復帰に向けて立ち上がろうとしている。朝比奈さんの復活への取り組みを2回に渡ってレポートする。

=「これでも良くなったんですよ」と両脚に目をやる朝比奈さん Photo: Kyoko GOTO

「自転車に乗りたい!」 叫びながら救急処置室へ

 昨年7月2日、「全日本BMX選手権大会」に出場するため茨城県ひたちなか市を訪れ、会場での練習を終えて自転車で帰途についたそのときだった。1台の車が車線を大きく外れて突っ込んできた。正面衝突だった。

 倒れても意識を失っていなかったが、一緒に走っていた仲間からとっさに目を手で塞がれた。「見るな!」

 そのとき、右脚は脛の骨が2本折れ、皮膚を突き破っていた。左脚も膝の骨が飛び出す開放骨折。そして大腿部骨折、顔面挫傷という重傷だった。

 自分の脚が変な方向に曲がっていることはわかった。救急搬送されている間、ずっと「痛い、痛い!」と“怒って”いた。痛みよりも何よりも、大会に向けて今まで積み重ねてきた努力が無になることが悔しく、辛かった。

 「あかんねん、もう自転車乗られへんねんや」

 そんな思いが胸にこみ上げ、病院の救急処置室に入る直前まで「自転車乗りたい!」と叫び続け、その後意識を失った。

4日間に及んだ大手術

 その日までは、順風満帆の競技人生を送ってきた。10才でBMXを始め、11才から日本全国へ遠征。2011年以降は海外のレースにも参戦し、実力を磨いてきた。2014年度はJBMXFジュニア・エリートウーマンランキング1位、全日本BMX選手権3位、伊豆BMX国際3位。2015年の全日本BMX選手権では、もちろん初優勝を狙っていた。

 しかし、突然のアクシデントがすべてを奪い去ろうとしていた。

 茨城での事故後、搬送先の病院では手術ができないほどの状態だったため、地元・大阪の病院に転送され、緊急手術を受けた。一時、出血多量で生命の危険にもさらされたが、内臓や脳の損傷はなく、輸血で命をつなぎとめた。

 両脚手術、大腿骨手術、そしてひざ下の創外固定器具の装着と、手術は4日間に及んだ。骨折した両脚は最悪の場合「切断」という判断を迫られるほどの状態だったが、手術は成功し、どうにか難を逃れた。

術後間もなくの左脚。腫れがひいておらず、痛みも強かった(提供写真)術後間もなくの左脚。腫れがひいておらず、痛みも強かった(提供写真)
包帯がとれた後の左脚。切開部分が縫合されている状態(提供写真)包帯がとれた後の左脚。切開部分が縫合されている状態(提供写真)

「私、死ぬんかな」

 ただ、心の傷は深かった。術後3週間ほどはショックのあまり食事もとれず、栄養剤を鼻から注入。痛み止めの薬も点滴で投与していた。

 「けがで口が開けにくかったというよりも、精神的に何も食べられなかった。薬さえも飲みたくなかった」

固定器具は事故後4カ月間装着。骨折した部分の固定はもちろん、立ったときに負担がかからない。「つけてるときは本当に足が元に戻るのか不安でした」と朝比奈さん(提供写真)固定器具は事故後4カ月間装着。骨折した部分の固定はもちろん、立ったときに負担がかからない。「つけてるときは本当に足が元に戻るのか不安でした」と朝比奈さん(提供写真)

 その間、自転車に乗っている夢を頻繁に見た。レースに出場するが追いつけず、自分だけがとり残されていったり、気が付くと脚を引きずっていたり…そんな悪夢を見る日々が続いた。

 起きている間も、常に何かに怯えていた。「怖かった。私、死ぬんかなって。あれが一番の極限状態だった」と当時の心境を振り返る。

 2016年夏のリオデジャネイロ五輪出場を目指し、エリートクラスの選手として世界の舞台へ羽ばたこうとしていたまさにそのとき、折れてしまった両脚。翼を失った鳥のように、失意のどん底に落ちた。

「また乗れるようになるよ」で取り戻した希望

 しかしその後、驚異的な回復力を見せる。術後約1カ月が経過した8月。集中治療室から一般病棟へと移ったとき、容態を見た主治医から「大丈夫。普通の脚に戻れるよ。また自転車乗れるから頑張って治そう」と告げられた。その言葉で、BMXライダーとしての希望を取り戻した。

朝比奈綾香さん。顔に傷痕が少し残るも、トレードマークの笑顔は健在 Photo: Kyoko GOTO朝比奈綾香さん。顔に傷痕が少し残るも、トレードマークの笑顔は健在 Photo: Kyoko GOTO

 「また自転車に乗れるようになるとわかって、すごくうれしかった。絶対に乗りたいから、やるしかないなって思いました」

 その日から、復活に向けてリハビリの日々が始まった。

→<後編>を読む 

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