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はらぺこサイクルキッチン<49>功を奏した食中毒対策 ネパールのレース「ヤックアタック」で本場のダルバートを体験

by 池田清子 / Sayako IKEDA
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 MTBプロアスリートの夫・池田祐樹(トピーク・エルゴンレーシングチームUSA)は3度目、私は初めてのネパール。ヒマラヤ山脈を舞台とする8日間のステージレース「ヤックアタック」へ行ってきました。私にとっては見るもの聴くもの全てが新鮮でしたが、夫の目にも例年と違って映る街の姿がありました。

ヤックアタック初日のスタート前には、ネパール式のお祝いをして、選手たちの無事を祈ってくれました Photo: Sayako IKEDAヤックアタック初日のスタート前には、ネパール式のお祝いをして、選手たちの無事を祈ってくれました Photo: Sayako IKEDA

地震の影響で燃料不足 シンプルな食事に「申し訳ない」

レース後の空き時間に、私も街を散策。食材を売っているお店が気になります。写真はベシサハーという街。観光客が減っているのは一目瞭然でした Photo: Sayako IKEDAレース後の空き時間に、私も街を散策。食材を売っているお店が気になります。写真はベシサハーという街。観光客が減っているのは一目瞭然でした Photo: Sayako IKEDA

 まず、到着して空港からホテルに向かう車中で夫が言ったのは「クルマの交通量が例年に比べてかなり少ない」ということでした。実際ドライバーに聞いたところ、ハイシーズンにも関わらず交通量はいつもの3~4分の1以下とのこと。その理由は、まず地震による影響で観光客が減ったこと。第2に、政治的な問題でガスや石油などの燃料がネパールに入ってこないこと。

 現地の方は口を揃えて、燃料不足が今最も深刻な問題だと言っていました。ドライバーは「きのうは正規ルートでのガソリン入手に約8時間並んだよ。闇ルートの価格は5倍する」とか。ガスを入手するための長い列は、道中何度も目にしました。普段は「ビュッフェスタイルの朝食を出す」という滞在先のホテルも「燃料不足で限られた食事しか提供できなくて申し訳なく思っている」といった言葉がメニューに添えられていて、トーストに卵といった朝食でした。ホテルに限らず、レストランではメニューを2、3品に限定したり、休業したりしている店もありました。

ダルは豆のスープ、バートはご飯の意味でダルバート。向かって右は、野菜カレー。全体的に辛さはなく、個々で生の唐辛子を加えて調整します Photo: Sayako IKEDAダルは豆のスープ、バートはご飯の意味でダルバート。向かって右は、野菜カレー。全体的に辛さはなく、個々で生の唐辛子を加えて調整します Photo: Sayako IKEDA
どこのキッチンでも、スパイスはもちろん必須アイテム。キッチンに入ると、スパイスのいい香りが漂います Photo: Sayako IKEDAどこのキッチンでも、スパイスはもちろん必須アイテム。キッチンに入ると、スパイスのいい香りが漂います Photo: Sayako IKEDA
タトパニでのランチタイム。美人姉妹が料理の説明をしてくれました Photo: Sayako IKEDAタトパニでのランチタイム。美人姉妹が料理の説明をしてくれました Photo: Sayako IKEDA

現地食をガマンし続け…初ダルバートに感激

日本から持参した保存食は数種類の味があったので、飽きずに食べられました Photo: Sayako IKEDA日本から持参した保存食は数種類の味があったので、飽きずに食べられました Photo: Sayako IKEDA

 前回お伝えしたように、私たち夫婦は現地に到着した日から、食中毒のリスクを回避するために日本から持参した保存食を食べていました。本来はやはり、出来立ての現地の食事を食べたいものです。特にレースが始まると、皆が食べているダルバートやプレート料理がとにかく美味しそうで。とても苦しい我慢となりました。

 しかしながら結果からいうと、保存食の選択は大成功でした。残念ながら食中毒になり、レースを途中棄権した選手が続出。DNF(途中棄権)とはならなくとも、体調を崩してフィニッシュするのがやっとという選手もいました。

11月7日、初日。レースはネパールの首都カトマンズからスタート。8ステージの旅が始まった Photo: Sayako IKEDA11月7日、初日。レースはネパールの首都カトマンズからスタート。8ステージの旅が始まった Photo: Sayako IKEDA
ステージ4のフィニッシュ地点での“初ダルバート”の味に「幸せーーー!」ここまで我慢した甲斐がありました Photo: Sayako IKEDAステージ4のフィニッシュ地点での“初ダルバート”の味に「幸せーーー!」ここまで我慢した甲斐がありました Photo: Sayako IKEDA

 「勝つために来た」という夫の想いを2人で叶えるべく、とにかく体調を整えておくことは私たちを支えてくれている人に対しても、最優先にしたいこと。予定通り、ステージ4のフィニッシュ地点であるチャミという街に到着したときから、現地の食事を食べ始めました。

 チャミの標高は2650m。午後3時の時点で気温は0℃またはそれ以下というように高地は気温が低いため、食中毒のリスクも減るという見込みです。夕方チャミに到着したときには吐く息が白く、標高が一気に上がったことを体感しました。気温が30℃以上あったステージから考えると、違う国へ旅してきたような感覚です。

 そしてそこで初めて食べたダルバートは、「これが噂のダルバートか~!」と全身の細胞が震えるほど美味しかったです。日本でネパール料理店へ行ったことはありましたが、まるで違うものでした。夢中で食べて、お代わりもしました。体が冷え切っていたのですが、スパイスが体を温め、心身ともにホッとしました。

チャミのホテルキッチン。たくさんの豆は、ダルバートの大事な主原料。すぐに手の届く、特等席が定位置 Photo: Sayako IKEDAチャミのホテルキッチン。たくさんの豆は、ダルバートの大事な主原料。すぐに手の届く、特等席が定位置 Photo: Sayako IKEDA
チャミの美味しいダルバートを作ってくれていたのは、こちらのお母さん。ランチの後はすぐにディナーの準備に取り掛かっていました。大忙し! Photo: Sayako IKEDAチャミの美味しいダルバートを作ってくれていたのは、こちらのお母さん。ランチの後はすぐにディナーの準備に取り掛かっていました。大忙し! Photo: Sayako IKEDA
レースが終わったら陽が出ている内にすぐに洗濯。目の前の景色が良すぎて、凍るように冷たい水での洗濯もなんのその。贅沢な気分になりました Photo: Sayako IKEDAレースが終わったら陽が出ている内にすぐに洗濯。目の前の景色が良すぎて、凍るように冷たい水での洗濯もなんのその。贅沢な気分になりました Photo: Sayako IKEDA

ダルバート時々カップラーメン

ヌワコットでのロッヂジでのランチプレート。とっても美味しそう Photo: Sayako IKEDAヌワコットでのロッヂジでのランチプレート。とっても美味しそう Photo: Sayako IKEDA

 それからは、昼・夜とダルバートの日々が始まりました。どのホテルでも鍋を持ったスタッフが「お代わりはどうだ」と歩きまわって次から次へと注いでくれました。おかず別にお代わりができるため、好きなものをたくさん食べたい選手に好評でした。野菜カレーかチキンカレーを選ぶことができ、私は終始野菜カレーを選んでいました。全く物足りなさを感じさせないコクのある味でした。食事会場にはベジタリアンが数名いましたが「ここでは選択肢が必ずあるので、ストレスを感じない」と言っていました。

ネパール出身のアジェ・パンディット・チェトリ選手とラクシミー・マガー選手。ダルバートは普段からのパワーの源、家でも作る愛用食 Photo: Sayako IKEDAネパール出身のアジェ・パンディット・チェトリ選手とラクシミー・マガー選手。ダルバートは普段からのパワーの源、家でも作る愛用食 Photo: Sayako IKEDA
たくさんのスパイスとハーブを入れた紅茶とミルクで、人気のマサラティーを作っているところ Photo: Sayako IKEDAたくさんのスパイスとハーブを入れた紅茶とミルクで、人気のマサラティーを作っているところ Photo: Sayako IKEDA
「ダルバートはちょっと飽きちゃった」と、スパゲッティをオーダーしたキム・キジュン選手。海外選手のため、洋食も選択できるという大会側の心配り Photo: Sayako IKEDA「ダルバートはちょっと飽きちゃった」と、スパゲッティをオーダーしたキム・キジュン選手。海外選手のため、洋食も選択できるという大会側の心配り Photo: Sayako IKEDA

 レース前からダルバートを食べていた選手の中には、少々飽きもきて、パスタを注文する様子も見られました。私も正直なところ、キム・キジュン選手から貰った韓国のカップラーメンを、おやつに2回食べました。

 食後は予防でサプリメントを飲用していました。最終的に、帰国まで食中毒は回避できました。これは自分にとって、とても価値のある体験となりました。ただし、「どこのホテルの食事が一番美味しかったか」というアンケートを取ったところ、聞いた全員が「ステージ1のホテル!」と答えたので、これはまたいつか食べに戻らないといけませんね。

初日のフィニッシュ時点、ヌワコットのロッヂジて。スタッフの方がとても親切で、食事も「一番美味しかった!」と選手からの人気No.1でした! Photo: Sayako IKEDA初日のフィニッシュ時点、ヌワコットのロッヂジて。スタッフの方がとても親切で、食事も「一番美味しかった!」と選手からの人気No.1でした! Photo: Sayako IKEDA
「ネパールの飲食店ではこうやって水を回し飲みするんだよ」と教えてくれました。高いところから器用に口を付けずに飲んでいました! Photo: Sayako IKEDA「ネパールの飲食店ではこうやって水を回し飲みするんだよ」と教えてくれました。高いところから器用に口を付けずに飲んでいました! Photo: Sayako IKEDA
マナンのホテルにてダルバートの昼食。各ホテルで味が違うのも、味わう楽しみの一つ Photo: Sayako IKEDAマナンのホテルにてダルバートの昼食。各ホテルで味が違うのも、味わう楽しみの一つ Photo: Sayako IKEDA

食べる側・作り手に質問!

みんなで朝食。雪を被った山を見ながら外で食べるもの、また一段と美味しく感じます Photo: Sayako IKEDAみんなで朝食。雪を被った山を見ながら外で食べるもの、また一段と美味しく感じます Photo: Sayako IKEDA

 初めてネパールを訪れた選手やスタッフの多くは、ダルバートを食べるのも初めて。彼らにネパール料理の印象についてインタビューしてみました。

 アメリカから来た医療スタッフの女性は「ワンプレートにいろいろな味のおかずが盛り付けられているのが魅力。私は毎日食べても飽きないと思う!」と大変お気に入りの様子。スウェーデン出身の選手は「今までライド後にカレーを食べるということを人生で体験したことがなかったし、スパイシーな料理もあまり食べたことがなかったけれど、とてもグッド。家に帰ったらまずは大きなハンバーグが食べたいけど、今回料理も楽しめてよかった」と言っていました。

マナンのホテルキッチンにて。ここでは若いお兄さんがメインシェフでした! Photo: Sayako IKEDAマナンのホテルキッチンにて。ここでは若いお兄さんがメインシェフでした! Photo: Sayako IKEDA
平均年齢が67歳というネパールで、可愛らしい84歳のおばあちゃんも現役で料理のための薪を運んでいました。笑顔が素敵です Photo: Sayako IKEDA平均年齢が67歳というネパールで、可愛らしい84歳のおばあちゃんも現役で料理のための薪を運んでいました。笑顔が素敵です Photo: Sayako IKEDA
私もちょっぴり、お手伝い。コーン油とひまわり油で、ポテトを揚げています Photo: Sayako IKEDA私もちょっぴり、お手伝い。コーン油とひまわり油で、ポテトを揚げています Photo: Sayako IKEDA

 各ホテルで微妙に味付けが違うのも楽しいポイントです。シェフたちは口を揃えて「数種類のスパイスは料理に欠かせないよ!」と言い、スパイスとダル(豆)は必ず手の届きやすい場所に設置していました。そして同じくスパイスの効いたチャイのような飲み物、マサラティーは私の大のお気に入り。機会があれば、ぜひ本場で味わっていただきたいです!

 昨年、祐樹さんが訪れたマナンのベーカリーショップとカグベニの「ヤクドナルド」を私も訪ねることができました。写真で見た場所に実際に立つというのは、感慨深いものがありました。ヤックチーズ、マサラティー、シナモンロール、ヤックステーキなどを堪能しました。特に脂肪が少ない赤身の肉、ヤックのステーキは、新鮮なものは標高が高い場所でしか食べられない貴重なもの。味も旨みがあり、美味しかったです。いい経験をさせてもらいました。

カグベニの「ヤクドナルド」にて。選手も大勢集結し、もはやレース後にここへ来るのは鉄則のよう。私も仲間入りできて、嬉しい Photo: Sayako IKEDAカグベニの「ヤクドナルド」にて。選手も大勢集結し、もはやレース後にここへ来るのは鉄則のよう。私も仲間入りできて、嬉しい Photo: Sayako IKEDA
調理前に見せてくれたヤックの肉。赤身が多く脂肪が少ない Photo: Sayako IKEDA調理前に見せてくれたヤックの肉。赤身が多く脂肪が少ない Photo: Sayako IKEDA
ネパール人選手と夕食前にヤックの肉を食べに来ました。薪の火でネパールの伝統的なお酒「ジャイカテ」を作ってくれているところ Photo: Sayako IKEDAネパール人選手と夕食前にヤックの肉を食べに来ました。薪の火でネパールの伝統的なお酒「ジャイカテ」を作ってくれているところ Photo: Sayako IKEDA

 ほかにも、レース中にバースデーを迎えた選手が2人いて、ルームメイトが滞在したホテルにケーキを作ってもらってサプライズのお祝いをしたり、レース後に現地のお酒「ジャイ カテ(Jhwai Kate)」――お米とバターを溶かして作る「ギー」とアルコールを鍋で煮たもの――を選手と飲みに行ったりと、レースを離れたところでも食を囲みながら仲間との時間を楽しみました。

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◇         ◇

 さて次回は、レースの模様にも触れますね。「勝つために来た」池田祐樹に思いもよらないアクシデントが発生し、やはり一筋縄ではいかない波乱のレースとなりました。一方、私はヒマラヤ山脈9時間のハイキングで「食べたくても食べられない」極限状態を体験。MTBに乗るだけでなく、標高順応、サバイバル、環境順応…全ての要素が盛り込まれているヤックアタック、恐るべし。

池田清子池田清子(いけだ・さやこ)

アスリートフード研究家。モデル事務所でのマネージャー経験を生かし2013年夏よりトピーク・エルゴンレーシングチームUSA所属ライダー、池田祐樹選手のマネージメントを開始、同秋結婚。平行して「アスリートフードマイスター」の資格を取得。アスリートのパフォーマンス向上や減量など、目的に合わせたメニューを日々研究している。ブログ「Sayako’s kitchen」にて情報配信中。

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