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つれづれイタリア~ノ<2015うつのみや〜の編>ジャパンカップの舞台裏 日本とイタリアをつなぐNIPPO・ヴィーニファンティーニの3日間

by マルコ・ファヴァロ / Marco FAVARO
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 昨年に続き、“イタリア式”「ジャパンカップサイクルロードレース」をレポートします。シーズン終盤の重要な大会ですが、一年間の疲労が溜まり全力を出せない選手もいれば、初優勝を逃すまいとがんばる選手もいて、さまざまな思惑が交錯していました。ジャパンカップは海外強豪チームが参加できる数少ない国内大会だけあって、年々観戦者が増えています。

 今回、私はUCIプロコンチネンタルチームのNIPPO・ヴィーニファンティーニの専属通訳として3日間ずっと一緒に行動しました。一緒にいないと見えない選手たちの入念な準備、スタッフのサポート、そして監督の働きぶり。刺激的で忙しい毎日でした。今回のテーマは「インサイド・ザ・チーム」でお届けします。最後までお付き合いください。

ジャパンカップに参戦し、レースやイベントに参加したNIPPO・ヴィーニファンティーニ。漫画「弱虫ペダル」は選手たちにとって気になる存在のようです Photo: Marco FAVAROジャパンカップに参戦し、レースやイベントに参加したNIPPO・ヴィーニファンティーニ。漫画「弱虫ペダル」は選手たちにとって気になる存在のようです Photo: Marco FAVARO

前日から興奮に包まれる宇都宮

宇都宮の街中を走ったダミアーノ・クネゴ Photo: Marco FAVARO宇都宮の街中を走ったダミアーノ・クネゴ Photo: Marco FAVARO

 ジャパンカップは、宇都宮市で10月17、18日に開かれました。私は前日、16日の昼12時に宇都宮入りしました。選手たちはすでに宇都宮に入っており、トレーニングを始めていました。選手の宿泊先や大会本部になっているホテルには、すでに多くのファンが集まっており、どのチームが来るか、どの選手が現れるかと、首を長くして待っていました。トレーニングから帰ってくる選手、機材を預かるメカニック、資料を運ぶスタッフ、あちらこちらと歩き回る通訳。すでに雰囲気は興奮に包まれています。

 私の初めての仕事は、NIPPOのチームマネジャーであるフランチェスコ・ペロージ氏と行動を共にすることです。チームマネジャーの活動は多岐にわたります。イメージ戦略を考えること、スポンサーを見つけること、資料を作ること、選手たちの面倒を見ること、チームのスケジュールを管理すること…などなど。裏方としてチームの全体的な運営を担う人です。この日は大会本部で情報を聞いたり、監督の指示を各選手に伝えたりしながら、チームが時間通りに動くよう神経を尖らせていました。

東武百貨店で行われたNIPPO・ヴィーニファンティーニの選手たちがサイン会とワイン即売会 Photo: Marco FAVARO東武百貨店で行われたNIPPO・ヴィーニファンティーニの選手たちがサイン会とワイン即売会 Photo: Marco FAVARO

 午前中の練習を終えた選手たちは、午後2時から東武百貨店宇都宮店で、スポンサーであるヴィーニファンティーニのワイン即売会とサイン会に出席しました。スタッフの一部と、専属のレポーターも同行。ここで選手たちの真剣さが見られました。駆けつけたファンにていねいにあいさつしたり、購入されたワインにサインをしたりと、さまざまなファンサービスに努めました。

丁寧にファンとのコミュニケーションを図る選手たち Photo: Marco FAVARO丁寧にファンとのコミュニケーションを図る選手たち Photo: Marco FAVARO
NIPPO・ヴィーニファンティーニのサイン会とワイン即売会ファン Photo: Marco FAVARONIPPO・ヴィーニファンティーニのサイン会とワイン即売会ファン Photo: Marco FAVARO

慣れない食べ物は口にしない

 そして夕方には次の大仕事、食事が待っています。食事は選手たちにとって、第2の仕事です。第1は、自転車に乗ること。そして第2は、食事を通して体を作ること。

 さて、選手たちの食事がどんなものか見てみると、驚いたことに、あまり多くは食べていません。ジャパンカップサイクルロードレースはアップダウンの続く厳しいコースとして知られていますが、ヨーロッパで行われる春のクラシックレースなどと比べて距離は短いので、多く食べる必要はないようです。

 食事内容は自由ですが、イタリアから持ってきたツナ缶、パルメザンチーズ、エクストラバージンオリーブオイルは欠かせません。体調を整えることが最重要課題ですので、ジャパンカップが終わるまでは慣れない食べ物は口に運びません。

質素な晩御飯。イタリアから持ち込んだツナ缶、オリーブオイル、乾パンが食卓を飾る Photo: Marco FAVARO質素な晩御飯。イタリアから持ち込んだツナ缶、オリーブオイル、乾パンが食卓を飾る Photo: Marco FAVARO

 この食事の場で、またチームの素顔が見えてきました。イタリア人が中心のチームだけあって、とにかく食べながらみんな明るく喋ります。日本人の山本元喜もそれに感化されたように、イタリア語でのコミュニケーションをとっていました。

 一方、多国籍の選手で構成された他チームの様子を見ていると、言葉を交わすことが少なく静かでした。NIPPOと同じように盛り上がりたい気持ちはあるのでしょうが、食事が終わると同時にみんなスマートフォンを触り始めました。共通語である英語が苦手な選手にとって、コミュニケーションは大きな壁のようです。プロチームの場合はレースで一年間の半分以上家を空けることが普通ですので、互いのコミュニケーションはとにかく大事です。

イタリア人が驚いた「ファンとの一体感」

 食事が終わると、この日の最後のイベントへ。宇都宮市内にあるオリオン広場で行われたチームプレゼンテーションです。ここでイタリア人選手たちは、スケジュール管理とプレゼンテーションの方法に驚かされました。

日本流のチームプレゼンテーションを楽しんだNIPPO・ヴィーニファンティーニ Photo: Naoi HIRASAWA日本流のチームプレゼンテーションを楽しんだNIPPO・ヴィーニファンティーニ Photo: Naoi HIRASAWA

 選手が移動するためのシャトルバスが、会場とホテルとの間を秒刻みで運行されていたのですが、これはイタリアにありません。さらに会場ではインタビューのほか、ファンサービスの時間も設けられていました。「ファンと選手の一体感を生み出すこんな演出を、イタリアでももっと行ってほしい」と初めてジャパンカップに参加した選手が言っていました。

 ホテルに戻ったチームは、体調を整えるため、最後の大仕事である睡眠を取ります。時差や疲れ、筋肉のリカバリー。しかし、スタッフやメカニックの仕事はまだ続きます。結局、すべての作業が終わったのは深夜2時でした。

クネゴ、カンチェッラーラ、アイゼルがいる食事風景

 クリテリウムが行われた17日の朝7時前、選手たちがホテル内の食堂に集合しました。この食堂は一般の宿泊客にも開放されているので、自転車競技を知らない人たちが選手に交じって普通に食事をしています。自転車ファンなら鼻血が出る状況です。しかも不思議な光景ですが、ダミアーノ・クネゴらNIPPOの選手たちと、ファビアン・カンチェッラーラやバウケ・モレマ(ともにトレック ファクトリーレーシング)、ベルンハルト・アイゼル(チーム スカイ)といった、これから戦うライバル同士がみんな同じ部屋で食事をしています。まるで自転車の合宿所のようです。

 私も少し余裕ができたので、各選手の朝ごはんを観察してみました。やはりどの選手も質素なものでした。今日予定されているイベントは、朝のフリーランとクリテリウムだけです。やはり翌日の本戦に向けて体重を増やさないように選手たちは気を使っています。パンにジャムや蜂蜜を塗り、ヨーグルトとスクランブルエッグを少々。そして時差ボケ対策にコーヒー。

ローラー台で汗を流すダミアーノ・クネゴ(右)と山本元喜 Photo: Marco FAVAROローラー台で汗を流すダミアーノ・クネゴ(右)と山本元喜 Photo: Marco FAVARO

 7時50分になると、ワールドツアーのチームは宇都宮市森林公園で行われるフリーランに参加するため、ホテルを後にしました。プロコンチネンタルチームの場合、任意で参加します。雨が降っていたため、NIPPOのメンバーたちはホテルの駐車場でローラー台を使って脚を回しました。戻ってきた選手たちは昼食も控えめでした。

スタッフの仕事は深夜まで続く

 そして、いよいよクリテリウムの時間が近づいてきました。レース直前にNIPPO・ヴィーニファンティーニのスポンサーが登場。なんと、イタリアからヴィーニファンティーニのヴァレンティーノ・ショッティ社長と、デ・ローザのクリスティアーノ・デローザ社長が駆けつけました。実に面白い、対照的な二人でした。ショッティ社長は物静かで物事をゆっくり観察する人で、後者は、マリオ・チポッリーニのような雰囲気が漂うバイタリティーにあふれる人でした。二人ともジャパンカップは初めてで、大会運営のよさに舌を巻いていました。

ヴィーニファンティーニのヴァレンティーノ・ショッティ社長らがクリテリウムを観戦 Photo: Marco FAVAROヴィーニファンティーニのヴァレンティーノ・ショッティ社長らがクリテリウムを観戦 Photo: Marco FAVARO

 チームにとってクリテリウムの結果はまずまずでしたが、本番は翌日のレース。過去2回の優勝経験があるキャプテンのクネゴは、ジロ・デ・イタリアで受けたけがが完治し、優勝を狙いたいと自信を見せていました。

 夕方に早目の夕食。前日と異なったのは、パスタの量が2倍に増えたことです。エネルギーを蓄えるカーボローディングでしょう。選手たちが早い時間に部屋に戻ったものの、スタッフは一日の出来事をまとめ、ウェブサイトの更新などの作業で忙しく、深夜まで仕事が続きました。でも一番忙しいのは、きっとメカニックでしょう。自転車を入念に準備していて、この日はいつ寝たのか、私もわかりません。

深夜まで働くメカニック Photo: Marco FAVARO深夜まで働くメカニック Photo: Marco FAVARO
ピカピカに磨かれた自転車 Photo: Marco FAVAROピカピカに磨かれた自転車 Photo: Marco FAVARO

優勝候補のクネゴが落車リタイア

 さて、18日はいよいよクライマックスであるロードレースの開幕です。選手たちにはスタート前まで余計な緊張を与えないように、スタッフはできる限り別行動をします。そのため、スタッフは特別に用意されたバスで森林公園に向かいました。選手たちはチームカー、または自走で会場に向かいます。これは気分次第です。

 朝10時にレースがスタートしますが、どのチームもスポンサーが設けた出展ブースに足を運び、集まったファンたちに顔を見せました。この日はNIPPOの水島和紀会長もレース観戦に訪れました。そしていよいよ10時にレースがスタートしました。

宇都宮市森林公園のブース前で選手たちとチーム関係者が記念写真 Photo: Marco FAVARO宇都宮市森林公園のブース前で選手たちとチーム関係者が記念写真 Photo: Marco FAVARO
レース前にできる限りサインに応じる選手たち Photo: Marco FAVAROレース前にできる限りサインに応じる選手たち Photo: Marco FAVARO
レースがスタートし、補給ポイントに向かうスタッフ Photo: Marco FAVAROレースがスタートし、補給ポイントに向かうスタッフ Photo: Marco FAVARO

 スタートして20分が経った頃、思いがけない電話がチームスタッフのもとに入ってきました。2周目の下りでクネゴが落車。優勝候補だったキャプテンに加え、アシストのジャコモ・ベルラート選手も同時に負傷してしまいました。それでも監督は冷静さを失わず、チームのすべてのメンバーに適切に指示を出しました。私に下されたのは、負傷した選手の通訳を救急車や病院で務めること。

日本の医師が絶賛したイタリアの手術の正確さ

 宇都宮市内の病院に向かった2人は直ちに精密検査。幸いなことに骨折は免れていました。CTとレントゲンを撮った二人は、医師と画像を見ながら、けがの状態についてていねいに説明を受けました。

 ジロの落車で骨折したクネゴ選手の鎖骨の治療方法と完治具合を見て、当直の医師もイタリアの手術の正確さとレベルの高さを絶賛。クネゴ選手の故郷、ヴェローナには、ボルゴ・トレント病院というスポーツ選手専門病院があり、イタリア中から選手たちが訪れます。それを聞いたクネゴ選手も初めて安堵の表情を見せ、落車のショックがやっと和らぎました。

キャプテン不在の中でも、アントニオ・ニバリ、山本元喜、ピエールパオロ・デネグリがファンサービス Photo: Marco FAVAROキャプテン不在の中でも、アントニオ・ニバリ、山本元喜、ピエールパオロ・デネグリがファンサービス Photo: Marco FAVARO

 しかし選手たちは、まだ病院を後にできません。イタリアの自転車連盟に提出するため、治療に使ったすべての薬のリストをもらわなくてはいけないからです。2人が病院を出たのは午後1時でした。チームマネジャーに付き添われ、ゆっくりとホテルに向かいました。私がレース会場に戻った時には、すでにレースが終わっていました。

 今回、内側から大会のさまざまな顔を見ることができました。選手を頂点として、彼らの活躍を支えるために何十人もの組織が忙しく動き回ります。そして、この組織を支えるスポンサーやファンがいます。みなさん、レースを見に行く時には大会運営にも目を向けてみてください。きっと面白い世界が見えてきます。

マルコ・ファヴァロMarco FAVARO(マルコ・ファヴァロ)

イタリア語講師。イタリア外務省のサポートの下、イタリアの言語や文化を世界に普及するダンテ・アリギエーリ協会で、自転車にまつわるイタリア語講座「In Bici」(インビーチ)を担当する。サイクルジャージブランド「カペルミュール」のモデルや、Jスポーツへ「ジロ・デ・イタリア」の情報提供なども行なう。東京都在住。ブログ「チクリスタ・イン・ジャッポーネ

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