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かつてない自転車ノンフィクションロードレースの劇的な逃げ切り勝利を丹念に取材 佐藤喬著「エスケープ」

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佐藤喬著「エスケープ ~2014年全日本選手権ロードレース~」佐藤喬著「エスケープ ~2014年全日本選手権ロードレース~」

 本書は昨年6月に岩手・八幡平で開かれた2014年の全日本選手権ロードレースの模様を、最初から最後まで詳細に追ったノンフィクションだ。涙の初優勝を飾った佐野淳哉(那須ブラーゼン)をはじめ、有力選手10人以上を丹念に取材。それぞれの視点を時系列につなげることで、221.2km、5時間41分におよぶレースの詳細な展開、そして劇的な結末に至ったポイントを浮かび上がらせる。

「エスケープ ~2014年全日本選手権ロードレース~」
著者:佐藤喬
出版社:辰巳出版
版型:B6
価格:本体1,500円+税

処女作にして渾身の一冊

 著者は近年、サイクルロードレース関連書籍の企画・編集を多数手がけているが、自身の名義での著書は本書が初めてだという。そして日本国内のロードレースにおいて、この類の書籍が出版されることも、おそらく初めてだろう。

 「エスケープ(逃げる)」というタイトルの通り、レース序盤から大逃げを打った「逃げ屋」たちの心情を中心につづられている。優勝した佐野をはじめ、2位の井上和郎(ブリヂストンアンカー サイクリングチーム)、3位の山本元喜(ヴィーニファンティーニ・NIPPO:当時)は、いずれも名だたる「逃げ屋」だ。実際に自身で勝つことは少ない彼らが、いかにして勝利を引き寄せようとするかの駆け引きは、本書の大きな見どころの一つだ。

2014年の全日本選手権ロードレースで、何度も雄叫びを上げてゴールした佐野淳哉 =6月29日、岩手県八幡平市(米山一輝撮影)2014年の全日本選手権ロードレースで、何度も雄叫びを上げてゴールした佐野淳哉 =6月29日、岩手県八幡平市(米山一輝撮影)

 そして本書のもう一人の主人公と呼べるのが、逃げを追うメーン集団で走って4位に入った清水都貴(ブリヂストンアンカー サイクリングチーム:当時)だ。ひそかな決意とともに、最高のコンディションで優勝を狙って参戦した清水の思いや葛藤を通してレースを見ると、いかにロードレースで「勝つこと」が難しいか、そしていかに勝利することが素晴らしいことであるかが実感できる。

 ほかにも、数多くの選手の視点や思惑が描かれ、レースを彩っていく。100人以上のさまざまな立場や性格の選手が、ときには争い、ときには協調し、同じゴールを目指してペダルをこぐ。サイクルロードレースはしばしば「人生」に例えられるが、本書を通してレースを追体験することで、そのことをより深く感じ取ることができるだろう。

(米山一輝)

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