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つれづれイタリア〜ノ<52>職人技が光るフレーム塗装 バッソやサガンが虜になったイタリアの小さな工房

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沿道で熱狂する観客たちもツールを彩る魅力のひとつ(ツール・ド・フランス2014)<写真・砂田弓弦>沿道で熱狂する観客たちもツールを彩る魅力のひとつ(ツール・ド・フランス2014)<写真・砂田弓弦>

 もうすぐ世界最高峰のレース、ツール・ド・フランスが始まります。約200人のライダーが参加しますが、その数の何百倍もの関係者、メディア、ボランティアを巻き込んでいます。そして道に溢れるファンが、この大会の魅力でしょうか。数万人単位で各ステージが盛り上がっています。

 ツールだけでなくジロ・デ・イタリア、ブエルタ・ア・エスパーニャといった歴史ある自転車の祭典において、多くのファンを魅了するのが、特殊なデザインのカスタマイズバイクやヘルメット。UCI(国際自転車競技連合)の規定では、ジャージの色、バイクの形状、重さなどが厳しく制限されていますが、バイクやヘルメットなどのカラーリングは比較的まだ自由です。この自由な部分に、選手たちの強いこだわりや、遊び心が光っています。

 そこで今回はイタリア国内外で強い人気を集めている塗装工房「Tony Spray」(トニー・スプレー)を紹介します。

ティンコフ・サクソから発注された迷彩フレームティンコフ・サクソから発注された迷彩フレーム

ティンコフ・サクソの迷彩バイクをデザイン

「トニースプレー」のエンブレム「トニースプレー」のエンブレム

 イタリアで自転車王国と言われている地域があります。それは水の都、ヴェネツィアと隣接するトレヴィーゾ市。ピナレロ、SIDI、GSGなどの大手自転車メーカーやアパレルメーカーがあります。そして、小さな工房であるトニー・スプレーがプロやアマチュアのライダーから熱い注目を浴びています。

 アルベルト・コンタドール(スペイン)らティンコフ・サクソの選手たちが2015年のトレーニングキャンプで使用した迷彩柄のスペシャライズドのバイクは、この工房で塗装されました。

 仕上げのよさ、ディテールの細かさなど、まれに見る職人技に、ティンコフ・サクソのイヴァン・バッソ(イタリア)やペテル・サガン(スロバキア)らも、キャノンデール(当時)在籍時代から虜になっています。この工房のオーナー、アントニオ・タバリン氏にインタビューしました。彼の職人魂は日本に通ずる部分が多いです。

「トニー・スプレー」のオーナー、アントニオ・タバリン氏「トニー・スプレー」のオーナー、アントニオ・タバリン氏
塗装作業中のアントニオ・タバリン氏塗装作業中のアントニオ・タバリン氏

“クレイジー”なリクエストでもOK

遊び心のあるシクロクロスバイク遊び心のあるシクロクロスバイク

――いつからバイクの塗装を仕事にしようと考えましたか。

タバリン氏「20年前からです。もともと家業だった自転車職人の父を手伝い、その後、近所の腕のいい塗装職人に弟子入りしました。当時は何も教えてくれなくて、まさに『見て盗む』時代が続きました。イタリアの古い職人たちはみんなそうです。技を盗まれたくない思いもありますが、弟子が本当にやる気があるかどうかを見極めるためです」

――現在はどんな仕事が中心ですか。

 「主にSARTO(サルト)という自転車ブランドの塗装を担当しています。そして個人客も多く、カーボンフレームのカスタマイズやスチールバイクの塗装復元を引き受けています」

ジロ・デ・イタリア用にポール・スミス風の塗装を施したフレームジロ・デ・イタリア用にポール・スミス風の塗装を施したフレーム

――お客さんの注文にどのように応えますか。

 「作業を始める前に、まずは意志疎通を測ります。工房でエスプレッソ・コーヒーを飲みながら、お客さんのどんなにクレイジーなリクエストでも読み取り、デザインの草案を作ります。デザインが細かければ細かいほど燃えます」

――作業完了までどれくらいかかりますか。

 「バイクとデザインによりますね。新品のカーボンフレームの場合、マスキングテープを貼る作業、塗装をし、乾燥したらマスキングテープを剥がし、また新しいパターンを張る。この作業の連続ですね。塗装作業そのものよりも、デザインについてお客さんが納得するまでの時間がかかります」

 「しかし、一番時間がかかるのが塗装復元です。古いフレームの塗装復元には、まったく異なるアプローチを行います。フレームが作られた年代を見極めることがとても重要です。塗装の質はまったく異なるからです。色だけでなく、オリジナルロゴなどを見つけるには時間がとられます。

ヴィンテージバイクのカラー復元ヴィンテージバイクのカラー復元

コッピら偉大なチャンピオンのバイク塗装を復元

――どんな塗装が一番心に残っていますか。

 「どんな作品も好きですが、やはり何時間も格闘した塗装ですね。そしてフィオレンツォ・マーニとファウスト・コッピといったグランツールチャンピオンのバイク塗装の復元。それらはベッルーノ県チェシオ・マッジョーレ市の自転車博物館で展示されています(記事掲載時)」

最終ステージに「トニー・スプレー」で塗装されたバイクで登場したペテル・サガン(ツール・ド・フランス2012)<写真・砂田弓弦>最終ステージに「トニー・スプレー」で塗装されたバイクで登場したペテル・サガン(ツール・ド・フランス2012)<写真・砂田弓弦>

――多くのチャンピオンやプロのチームから特殊な塗装が求められるようになりました。

 「はい。近年はツール・ド・フランスのためにキャノンデールから注文があり、今年もティンコフ・サクソから注文が入っています。過去の例で言うと、バッソはシンプルなデザインが好きで、ジロで2回目に総合優勝した時の記念塗装を頼まれました。バイクの色には彼の性格が反映されています。他のプロだと、サガンとムリーロ・フィッシャー(ブラジル、エフデジ)からも注文を受けています。サガンがツール・ド・フランスで披露したオールグリーンのバイクは私が担当しました」

イヴァン・バッソの記念塗装はマットな黒にピンクの線。バッソはシンプルでクールなデザインが好きイヴァン・バッソの記念塗装はマットな黒にピンクの線。バッソはシンプルでクールなデザインが好き
ピンクのラインにイヴァン・バッソがジロ・デ・イタリアを制した2006、2010年をピンクのラインにイヴァン・バッソがジロ・デ・イタリアを制した2006、2010年を

――話が変わりますが、トレヴィーゾ県はどんな場所ですか。

アントニオ・タバリン氏アントニオ・タバリン氏

 「自転車愛好家にとって最高の場所です。私自身も自転車で走っています。特にヴェロドロームで行うレースが大好きで、ヴィンテージバイクのイベント『エロイカ』も大好きです。トレヴィーゾはモンテグラッパの長い上りもあれば、プロセッコワイン生産地区のアップダウンも有名です。ドロミティも遠くありません。ここで練習をすると、多くのプロにも出会えます」

――日本人のお客さんもいますか。

 「現在はいませんね。おそらくサルトを購入した人は、私のデザインに触れています。facebookに公式のページがありますので、コンタクトを取りたい方はぜひ、ここからアクセスしてください。日本語は話せませんが(笑)」

文 マルコ・ファヴァロ

マルコ・ファヴァロMarco FAVARO(マルコ・ファヴァロ)

イタリア語講師。イタリア外務省のサポートの下、イタリアの言語や文化を世界に普及するダンテ・アリギエーリ協会で、自転車にまつわるイタリア語講座「In Bici」(インビーチ)を担当する。サイクルジャージブランド「カペルミュール」のモデルや、Jスポーツへ「ジロ・デ・イタリア」の情報提供なども行なう。東京都在住。ブログ「チクリスタ・イン・ジャッポーネ

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