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はらぺこサイクルキッチン<38>「SDA王滝100km」目前で倒れた池田祐樹 参戦への歩みと短期回復を支えたフード

by 池田清子 / Sayako IKEDA
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 前回の連載でレポートした長野県王滝村の復興イベントレース「みんな集まれ!王滝村へ!」で、出場したものの体調不良により棄権した夫でMTBプロアスリートの池田祐樹。あろうことか帰宅後急激に体調が悪化し、急性肺炎で入院となってしまいました。その後の詳しい検査でウイルスは検出されず、恐らく南米での疲労が原因とのことでしたが、日本で開催される最大の長距離MTBレース「セルフディスカバリーアドベンチャー(SDA)・イン・王滝 クロスマウンテンバイク」が5月24日と目前に迫る中での入院は、夫婦共々雷に打たれたようにショックでした。出場も危ぶまれたSDA王滝までの歩みをお伝えします。

回復後に参戦した「セルフディスカバリーアドベンチャー・イン・王滝 クロスマウンテンバイク」100kmフィニッシュ直後の池田祐樹選手の達成感にあふれた表情回復後に参戦した「セルフディスカバリーアドベンチャー・イン・王滝 クロスマウンテンバイク」100kmフィニッシュ直後の池田祐樹選手の達成感にあふれた表情

「故障しながら強くなる」 コーチの言葉に支えられて

6日間の入院中は基本的には病院食を食べていました6日間の入院中は基本的には病院食を食べていました

 ゴールデンウイーク明けの5月7日朝。祐樹さんは急に発熱し、40.4度もの高熱に。すぐさま駆け込んだ病院で体調はさらに悪化し、最後は車椅子にも自力で乗れなくなってしまうほど憔悴してしまいました。本人の代わりに私が診察室へ入ると、医師からレントゲンに写る白い影を見せられ「肺炎ですね」とのこと。そのまま入院でした。「5月24日に100kmのマウンテンバイクレースがあるので、それまでに治したいのですが…」という私に、先生は「やめといたほうがいいと思いますよ」と苦笑い。

 あぁ、なぜこんな大事な時期にこんなことになってしまったのでしょう。本人は落ち込む余力もないほど高熱と頭痛に苦しんでいたのですが、私は食事で回復を支えられなかったことがショックでした。「責任を感じる」という私に、中田尚志コーチ(Peaks Coaching Group Japan)がアドバイスをくれました。

 「一切のミスをせずに頂点へ行けるのかといえば、そんなことは絶対にない。選手は、故障しながら強くなるのです。それはもうしょうがない。手遅れにならないよう、早く復帰する手助けをするしかないのです」

 この状況をひとつの経験として、「体調が悪くなった時の対策を、食の面でも研究を重ねよう」と気持ちが前向きに切り替わりました。

入院直後の祐樹さん。高熱と頭痛でかなり苦しそうでした入院直後の祐樹さん。高熱と頭痛でかなり苦しそうでした
1日1600kcalに設定されていた病院食。入院2日目はカレー。味見をすると結構おいしかったです1日1600kcalに設定されていた病院食。入院2日目はカレー。味見をすると結構おいしかったです

 幸い入院後2日もすると薬が効き、熱も下がっていきました。普段から喘息改善のため乳製品を抜いているため、病院食でも乳製品を抜いてもらう以外は、出されるものは基本的に全て食べていました。体重や年齢から算出された摂取量は「1日1600kcal」。ご飯の量も一人ずつ計算されていました。普段から薄めの味付けの我が家に負けないほどの、薄い味付けだったそうです。

スペシャルメニュー“造血スムージー”も摂取

退院後の食事はクロロフィルが豊富なグリーンスムージーでスタートしました退院後の食事はクロロフィルが豊富なグリーンスムージーでスタートしました

 5月12日 — 入院は1週間から2週間と言われていましたが、先生も驚く速さで回復していきました。採血・採尿・レントゲンの結果も考慮した上で、入院から6日目のこの日、退院することができました。

 退院後も抗生剤を投与し、そして体に負担をかけない程度に野菜中心の食事に。本人の希望もあって、あまり動物性の食事はしませんでした。クロロフィルが豊富なグリーンスムージーや、造血作用のある赤いものをこれでもかと入れたスペシャルスムージーも作りました。

退院後、サラダをメインに食べたいというリクエストに応えて出したメニュー退院後、サラダをメインに食べたいというリクエストに応えて出したメニュー
抗酸化作用物質の多い緑の濃い葉野菜をスムージーにしました抗酸化作用物質の多い緑の濃い葉野菜をスムージーにしました
ビーツパウダー、アサイー、パプリカなどをたっぷりと。貧血が治りますようにビーツパウダー、アサイー、パプリカなどをたっぷりと。貧血が治りますように
“造血スムージー”を飲む祐樹さん“造血スムージー”を飲む祐樹さん

 5月18日 ― 退院から6日後。再検査で訪院をすると、血液・尿検査の結果はほぼ正常値に戻っていました。入院時に14.7あったヘモグロビンの値は、退院時に13.0(下限値13.6)、今回は13.6へ回復。免疫反応に関係し、生体防御に働く白血球の値(一般的な下限値は3500、上限値は9700)は、入院時に25960まで上昇していましたが、再検査では3670に下がっていました。いかに体の中で免疫システムが戦っていたかが分かります。

 ただ、赤血球(RBC)とヘマトクリットの数値がほんのわずか平均値に届かず、軽い貧血状態でした。この日から運動の許可は出ましたが、引き続き「血を増やす食事」を意識しました。王滝レースまで、あと6日。回復までの時間が短すぎる――焦りが募ります。

退院後、今後の計画についてアメリカ在住の中田尚志コーチとテレビ電話ミーティングを行いました退院後、今後の計画についてアメリカ在住の中田尚志コーチとテレビ電話ミーティングを行いました

 5月19日 ― 中田コーチとテレビ電話ミーティングを行い、アルパックアタック6日間のレースでのパワー数値やTSS(トレーニングストレススコア)値の分析結果を話し合いました。アルパックアタックでTSSの1日平均値は246――これはつまり、“1時間で行う個人TT約2.5回”の強度を6日連続! 昨年最も強度の高かったオーストラリアのクロコダイルトロフィー9日間(TSSの1日平均値は220)のデータと比較しても、かなりのハイスコアとなっていました。最も高い日は325ですから、体調を崩してもおかしくない高いストレスがかかっていたことが分かります。それを、こうして表にしてもらうと改めて実感できました。

 中田コーチによれば、「アルパックアタック前のコンディションに戻すまで、5~6週間はかかるとみておきましょう。それでも、一度上げているので短い方です。今は、昨年のヤックアタック後のしんどかった時と同じくらい」という分析でした。

野菜だけで作った餃子。きのこ、キャベツなどで満腹感もありました野菜だけで作った餃子。きのこ、キャベツなどで満腹感もありました
リクエストの野菜食。この日はサルサとトルティーヤチップス!リクエストの野菜食。この日はサルサとトルティーヤチップス!

 王滝に関しては、「棄権した方がよいのではないかと思う」としながらも、「どうしても走るなら、いろんなことを覚悟して出ないといけない。病気して難しいのは、その間は“休養”にはなっていないということ。ダメージを受けたあとに積み上げていくのはとても体力を使うし、調子を戻したはいいが疲れが溜まるということもある。まずは強度を上げずに距離を伸ばすトレーニングから。もし王滝レースに出られそうであれば、水・木を軽めに乗って、土曜に多少多めにレースに向けてもがいてください」とアドバイスをいただきました。レース当日まであと5日。そう、約1カ月のブランクを経て、3日間のライドで本番を迎えることになるのです。

一番いい笑顔でゴール

レース2日前。國井敏夫選手(右)と宿のご主人の食事に舌鼓を打ちましたレース2日前。國井敏夫選手(右)と宿のご主人の食事に舌鼓を打ちました

 王滝の会場では前日から、アルパックアタック優勝の祝福、体調を崩したことへの労いなど、たくさんの方々から声をかけていただきました。ありがとうございました。そして肝心の出場については「今のコンディションに合わせた走りをする」ことを誓い、途中棄権も覚悟の上で予定通り100km出場を決意しました。

会場に到着してまず立ち寄ったのが御嶽山を望む献花台。立ち上る白煙と山腹に残る灰が目に映りました会場に到着してまず立ち寄ったのが御嶽山を望む献花台。立ち上る白煙と山腹に残る灰が目に映りました
レース前日から御嶽山登山口である田の原が解禁され、体力と相談しながら田の原を目指す祐樹さんレース前日から御嶽山登山口である田の原が解禁され、体力と相談しながら田の原を目指す祐樹さん
スタート直前。松本駿選手(左)と談笑する祐樹さんスタート直前。松本駿選手(左)と談笑する祐樹さん

 トレーニングらしいトレーニングはほとんどしていない状態でしたので、前日はヒルクライムをメインに2時間ほど身体に刺激を入れました。「走れるけど、速さが出ない」ともどかしい感想でした。

 大会当日は、私の手作りドリンクで走ることにしました。クエン酸、天然ナトリウムが豊富な材料を揃えましたよ。国産オーガニックレモン2個を絞り、練り梅、甜菜糖と合わせ、お腹が冷えないように水ではなくお湯で作りました。日が高くなるにつれてかなり気温が上がりましたが、「お湯でよかった」とのこと。他には、フラスコにジェルを6つ、バーを1つ持参。レース中はいつもより体力の低下と走行時間が延びたこともあり、出場以来初めてエイドステーションで止まり、大会の用意するバーを1つ食べました。

100kmを5時間14分03秒、14位でフィニッシュしました100kmを5時間14分03秒、14位でフィニッシュしました
私たち夫婦の地元、東京・青梅から初参戦の皆さんと私たち夫婦の地元、東京・青梅から初参戦の皆さんと
フィニッシュ後、優勝した國井敏夫選手(中央)を5位入賞の山中真選手と称える祐樹さんフィニッシュ後、優勝した國井敏夫選手(中央)を5位入賞の山中真選手と称える祐樹さん

 結果は、総合14位の5時間14分でフィニッシュ(スタート前、本人は「6時間位かも」と言っていました)。完走すら危ぶまれていた状況から考えると、驚異的な回復力! 今までで一番いい笑顔で帰ってきたのは気のせいでしょうか。「マウンテンバイクは本当に楽しい。再びMTBに乗れる喜びをかみ締めていた」と、泥だらけの顔で満足そうな祐樹さん。多くの方が称えてくださり、病み上がりのレースは、いつも以上にたくさんの方に支えられた一戦だったと改めて感じました。長い競技人生において、こういった状況で学ぶこともたくさんあるのですね。無駄にしたくはありません。

※詳細なレースレポートは、池田祐樹オフィシャルブログ「Yuki’s Mountainbike Life」でご覧ください。

◇         ◇

 さて、これからの課題。6月27日にイタリア・ドロミテで行われるMTBマラソン世界選手権に向けて始動します。あと1カ月。中田コーチの「回復まで5~6週間はかかる」という見解もありますが、世界選手権はあと約4週間後に迫っています。間に合うかどうか! 食事の面でのサポート、環境作りに徹します。

池田清子池田清子(いけだ・さやこ)

アスリートフード研究家。モデル事務所でのマネージャー経験を生かし2013年夏よりトピーク・エルゴンレーシングチームUSA所属ライダー、池田祐樹選手のマネージメントを開始、同秋結婚。平行して「アスリートフードマイスター」の資格を取得。アスリートのパフォーマンス向上や減量など、目的に合わせたメニューを日々研究している。ブログ「Sayako’s kitchen」にて情報配信中。

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