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ヨーロッパを手本にアットホームな運営アマチュアの本格ステージレース「2days race in 木祖村」 工夫と愛情で“最高”の大会に

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 国内最大のステージレース「ツアー・オブ・ジャパン」(TOJ)が5月18~24日に開かれていた裏で、5月17、18日に、国内“最高”のステージレース「2days race in 木祖村」が開催された。2日間とはいえ、初日に8.5kmの個人タイムトライアルと75kmのロードレース、2日目に120kmのロードレースという、合計3ステージ・総距離203.5kmを走ることができる、本格的なステージレースだ。10回目の開催となった今年は、激戦のすえ高岡亮寛(イナーメ)が個人総合優勝を果たした。
(レポート 岩佐千穂)

雪山をバックに走る集団。2days race in 木祖村のフォトポイントの一つ雪山をバックに走る集団。2days race in 木祖村のフォトポイントの一つ

標高1100mの湖畔が舞台

ステージ2のスタート。4色のリーダージャージが集団を華やかにするステージ2のスタート。4色のリーダージャージが集団を華やかにする

 プロの選手たちが出場する国内のステージレースはいくつかあるが、アマチュア選手が出場できるものはほぼない。TOJなどに出場する機会のないアマチュア選手たちにもステージレースの楽しさを味わってもらいたいと、UCI(国際自転車競技連合)国際審判員の藤森信行さんがこのレースを主催する。自転車の本場ヨーロッパを手本にし、タイムトライアルでのチームカー伴走や迅速な表彰式、スプリント賞やボーナスタイムがつく周回賞など、レースを楽しめる要素がいっぱい詰まっている。

 タイムトライアル、ロードレースともに、長野県木祖村の山奥にある味噌川ダムを一周する9kmのコースが舞台となる。標高1100mに位置する味噌川ダムは、多目的ダムとしては日本最高地にあり、この大会も日本最高地点での周回ロードレースと言えるだろう。今年は35チーム160人が参戦。今年から総合上位10人に全日本選手権ロードレースへの出場資格が与えられるようになったことと、開催日程が1週早まり大学生のレースと重ならなくなったことで、出場者は昨年の88人からほぼ倍増した。

コースの味噌川ダムを目の前に下っていく集団コースの味噌川ダムを目の前に下っていく集団
今年は大学生の参戦も多かった。学生と社会人が対等に戦える、数少ないステージレースだ今年は大学生の参戦も多かった。学生と社会人が対等に戦える、数少ないステージレースだ

「劇場版」の秘密とは?

 このレースでは国際レースと同様に、チームとしての出場が義務付けられている。他のチームからのレンタル選手もOKなので、この日のために選手を集めた混成チームでの出場も少なくない。

アベンジャーズをイメージしたポーズを決める「劇場版駒澤大学」のメンバー。違う大学での混成チームだが、すっかり馴染んでいたアベンジャーズをイメージしたポーズを決める「劇場版駒澤大学」のメンバー。違う大学での混成チームだが、すっかり馴染んでいた

 今年参戦した「劇場版駒澤大学」も、混成チームのうちのひとつ。なぜ劇場版なのか聞いてみたところ、「普段違うチームで自分たちは走っているんですが、きょう木祖村に宇宙から敵が来るということで、チームの枠を超えて力を合わせて走るために、劇場版駒澤大学を結成しました」と、周りに冷やかされながら答えてくれた。つまりは、このレースに出場するために慶應義塾大学、東京工業大学、立教大学、駒澤大学の4大学から5選手が集まり、ノリで作ったらしい。宇宙の敵とは、全国各地から集まる強豪選手たちのことだ。

 「まじめな話、一昨年先輩たちが出ていて、国内ではステージレースがあまりないので面白いなと思って、今年劇場版を結成しました。チーム名はどこの大学名にしようかってことで、駒澤が2人いたので駒澤になりました。合宿とか一緒にして普段からみんなで集まって練習しているメンバーです。この大会のために集まった劇場版なんです。期待してください!」とキャプテンの渡邊雄太が説明してくれた。メンバーは1人を除き、木祖村には初めての出場とのこと。普段とは違うチームで出場できるのもこの大会ならではだ。

ビール箱で手づくり感満載のTTスタート台。費用はかけなくてもちゃんとしたレースはできるビール箱で手づくり感満載のTTスタート台。費用はかけなくてもちゃんとしたレースはできる
法政大学自転車競技部の選手にVICTOIRE広島のチームカーがつく。木祖村の個人TTでは、不正防止のため別のチームが伴走車を走らせ、そこに出走選手のチームスタッフが乗車しサポートを行う法政大学自転車競技部の選手にVICTOIRE広島のチームカーがつく。木祖村の個人TTでは、不正防止のため別のチームが伴走車を走らせ、そこに出走選手のチームスタッフが乗車しサポートを行う

迅速な運営を支える人力集計

今年は2日間で12回のシャンパンファイトが行われた今年は2日間で12回のシャンパンファイトが行われた

 表彰式で本物のシャンパンファイトがあるのも、この大会の特徴の一つだ。今年も協賛の「五一わいん」から、表彰式用に12本のスパークリングワインが提供され、多くの選手が初めてのシャンパンファイトを体験した。選手も観客も笑みがこぼれ、飛び散ったスパークリングワインの甘い香りが、ジロ・デ・イタリアなど世界のビッグレースと同じように、勝利の味わいを増幅させるのだ。

 またこの大会のこだわりとしては、表彰式の早さがある。ゴールしたらすぐさま表彰対象の選手は表彰台横に待機させられ、選手全員がゴールする前に表彰式が始まる。なかなか表彰式が始まらない国内レースが多いが、これはツール・ド・フランスにも引けをとらないくらい早い。

 このスピード表彰式を実現するため、チップセンサーを使わずに、審判団の目視とビデオ判定で全ての順位が判定される。自動ではなく手動で全ての成績が出されているのだ。そのため苦労もあるが、逐一計算することによって、表彰対象の上位選手はゴールと同時にほぼ決定し、すぐさま表彰式が行われる。獲得したボーナスタイムでの暫定成績など、計算を要する詳しい情報はレース途中に会場アナウンスで伝えられるので、展開が手に取るようにわかるのもメリットだ。

中井唯晶(京都産業大学)の走りを撮るチームスタッフ。TTでは車内からの応援もOK。チーム関係者がコースを車で回ることができる貴重なレースだ中井唯晶(京都産業大学)の走りを撮るチームスタッフ。TTでは車内からの応援もOK。チーム関係者がコースを車で回ることができる貴重なレースだ
補給地点でチームスタッフからの補給を受ける。補給地点にはレース状況を知らせるアナウンスが届く補給地点でチームスタッフからの補給を受ける。補給地点にはレース状況を知らせるアナウンスが届く

初日ロードは京産大が表彰台独占

 そんな2days race in 木祖村、例年に劣らず今年も面白いレース展開となった。まず、初日に行われたステージ1aの個人タイムトライアル(TT)で優勝したのは、昨年このステージ2位だった中村龍太郎(イナーメ)。レースが始まる頃まで降っていた雨のせいで、パンクが多いタイムトライアルとなった。この種目で2年連続優勝していたチームメートのポール・ソールズベリーが今回パンクでタイムを落としたため、中村が初めてトップに立った。中村は初体験のシャンパンファイトに、ドキドキの様子だった。

ステージ1aで11分31秒41のトップタイムを出した中村龍太郎(イナーメ)ステージ1aで11分31秒41のトップタイムを出した中村龍太郎(イナーメ)
個人TTを制した中村は人生初のシャンパンファイト。緊張するもこぼれる笑顔がハッピーだ個人TTを制した中村は人生初のシャンパンファイト。緊張するもこぼれる笑顔がハッピーだ

 同日に行われるステージ1bのロードレースでは、個人TTのタイム順で大体のスタート位置が決められる。これは力量差のある選手を分けるための措置で、無理な走りによる落車などのトラブルを減らすことができる。ステージ1bは81km(9km×9周)で争われ、スプリントポイントが4回と、ボーナスタイムが懸かる周回賞が2回ある。レース前には木祖村の圃中登志彦副村長から、「10回目の大会になりますが、いままで水しぶきをあげた選手はいません。まだダムの水は冷たいですから、皆さん安全に走ってください」とのコメントがあり、会場を和ませた。

チームメートのアシストを受け単独でアタックした間瀬勇毅(京都産業大学)。ゴール後にガッツポーズチームメートのアシストを受け単独でアタックした間瀬勇毅(京都産業大学)。ゴール後にガッツポーズ

 レースは、9人の逃げに3人を送り込んだ京都産業大学が、完璧なチームワークを発揮。最後は間瀬勇毅が単独で飛び出して優勝した。2、3位には中井路雅、唯晶の兄弟が並んでゴールし、ステージ3位までを京都産業大学が独占した。京産大はホワイト(U23)とグリーン(スプリント)の2つのリーダージャージも獲得したが、イエローの総合リーダージャージは、TTでの成績でリードしていた宇田川陽平(WALKRIDE)の手に渡った。

 京産大の秋田謙監督は、「OBたちが来てくれていたので、勝たなければいけなかった。リーダーのチームより目立っているので、全チームが敵にならないか心配ですね。今日逃げに入らなかった後ろの2人、安田と須堯も中村君(リーダージャージの中村龍太郎)相手にいいレースをしていたので、アクシデントがなければいい成績になること間違いないと思っています」と初日の好成績に喜びいっぱいだった。

表彰台を独占した京都産業大学。(左から)2位の中井路雅、優勝の間瀬勇毅、3位の中井唯晶表彰台を独占した京都産業大学。(左から)2位の中井路雅、優勝の間瀬勇毅、3位の中井唯晶
1bステージ優勝した間瀬勇毅(右、京都産業大学)と秋田監督1bステージ優勝した間瀬勇毅(右、京都産業大学)と秋田監督

僅差の争い、秒差での大逆転劇

ステージレースならではの各賞ジャージ。リーダーたちが前列に並んでステージ2が始まるステージレースならではの各賞ジャージ。リーダーたちが前列に並んでステージ2が始まる

 2日目のステージ2では、120kmのロードレースが行われ、チーム力のある京産大がリーダージャージを奪取できるか否かに注目が集まった。レース中盤から、総合トップを狙う総合2位の京産大・間瀬や、3位のイナーメ・高岡がボーナスタイムを稼いで、リーダージャージの宇田川とのタイム差を徐々に縮めていく。

 ラスト3周で才田直人(Gruppo Acqua Tama)ら2人が集団から飛び出し、1分差をつけ最終周には才田が単独になった。才田はステージ優勝をほぼ確定させてからも、ゴールタイム次第では総合3位にジャンプアップの可能性があることから、最後まで力を振り絞ってゴールした。

逃げの先頭を引く高岡亮寛(イナーメ)、総合優勝を狙い積極的に走る逃げの先頭を引く高岡亮寛(イナーメ)、総合優勝を狙い積極的に走る
イエローのリーダージャージを着る宇田川陽平(WALKRIDE)イエローのリーダージャージを着る宇田川陽平(WALKRIDE)
「トレーニングのつもりでアタックした」という才田直人(Gruppo Acqua Tama)は、いいペースで集団との差を広げた「トレーニングのつもりでアタックした」という才田直人(Gruppo Acqua Tama)は、いいペースで集団との差を広げた

 イエロージャージ勝負がかかる集団は、高岡が3位、間瀬が4位でゴールに飛び込んだ。宇田川は少し遅れてゴールしたため、総合首位から陥落。高岡か間瀬か? きわどい争いだったが、最終的に総合優勝に輝いたのは、前日総合3位だった高岡。最後にゴールでのボーナスタイム4秒を獲得したことで、間瀬を2秒上回っての逆転優勝だった。わずかなボーナスタイムが勝敗を左右するのは、ステージレースならでは醍醐味。そして、このレースならではの楽しさと言えるだろう。

本来レモネード・ベルマーレに所属の才田は、今回レンタル選手としてGruppo Acqua Tamaで出場し、ステージ優勝を飾った本来レモネード・ベルマーレに所属の才田は、今回レンタル選手としてGruppo Acqua Tamaで出場し、ステージ優勝を飾った
最後の力を振り絞り集団の2番手でゴールした高岡。間瀬も粘ったがあと一歩及ばず。見ごたえのあるゴール勝負だった最後の力を振り絞り集団の2番手でゴールした高岡。間瀬も粘ったがあと一歩及ばず。見ごたえのあるゴール勝負だった

選手も関係者も笑顔で「また来年!」

レースを支える審判団。彼らのチームワークで迅速な表彰式やスケジュールどおりの運営が行われている。昔ながらの手動計算方法など、審判にとっても色々な経験が詰める貴重なレースだ。主催の藤森信行さんは前列左から3人目レースを支える審判団。彼らのチームワークで迅速な表彰式やスケジュールどおりの運営が行われている。昔ながらの手動計算方法など、審判にとっても色々な経験が詰める貴重なレースだ。主催の藤森信行さんは前列左から3人目

 レース後、主催の藤森信行さんに話を聞いた。

 「最後の2周、とっても神経がすり減りました。逃げを容認してから、集団とのタイム差が難しかった。審判団はとっても悲鳴を上げました。個人総合は、(集計を)すぐにやれたのが良かったです。秒単位の争いが審判団もお客さんも把握できていたと思います」

 少しの違いで成績が変わる接戦のため、総合成績の判断が難しかったようだ。

 そして、「今年は全日本の出場権が取れる大会に格上げされたので、このレースで出場権が得られた選手もいたと思います。来年もみんなで明るく楽しいレースになればいいな」と、無事にレースを終えたことに感謝していた。

ボーナスタイムで逆転総合優勝となった高岡亮寛(中央、イナーメ)、鹿の角や毛皮など、このレースならではの賞品が贈られる。総合2位は間瀬勇毅(左、京都産業大学)、総合3位は風間博之(右、サイクルフリーダム)ボーナスタイムで逆転総合優勝となった高岡亮寛(中央、イナーメ)、鹿の角や毛皮など、このレースならではの賞品が贈られる。総合2位は間瀬勇毅(左、京都産業大学)、総合3位は風間博之(右、サイクルフリーダム)
各賞リーダージャージ。(左から)ひときわ目立つピンクのO-40リーダージャージ、通称「おやじジャージ」を獲得した高橋伸成(桜台レーシングチーム)、総合優勝の高岡、木祖村初出場でグリーンのスプリント賞を獲得した川田優作(Honda栃木)、惜しくも総合は逃してしまったが、ホワイトのU23賞は獲得した間瀬勇毅(京都産業大学)各賞リーダージャージ。(左から)ひときわ目立つピンクのO-40リーダージャージ、通称「おやじジャージ」を獲得した高橋伸成(桜台レーシングチーム)、総合優勝の高岡、木祖村初出場でグリーンのスプリント賞を獲得した川田優作(Honda栃木)、惜しくも総合は逃してしまったが、ホワイトのU23賞は獲得した間瀬勇毅(京都産業大学)

 今年の大会では、規定枠いっぱいの35チームが参加。初日は途中15分の休憩を挟むも1分おきに160人の個人TTをスタートさせ、1時間足らずですぐ次のロードレースが始まるという、かなりタイトなスケジュールとなった。しかし、このレースのために各地から集まる審判団は、見事なチームワークでこれを乗り切り、2日目も総合成績がゴール順位により大きく変わるため判断が難しい状況のなか、迅速に総合上位を決定して表彰式を行った。

 レースに対しての愛情がいっぱい詰まったこのレースは、参加する選手もレースに携わる関係者も最後は笑顔で「また来年!」と言ってしまうほど、虜にする要素が多い。参加するもよし、観戦するもよし、ぜひ一度行ってみればその面白さが分かる、日本“最高”のステージレースなのだ。

2日目の午前中には、前日リタイアした選手が参加できる「残念レース」があり、ジュニアとの混走で72kmを走れる。リタイアしても残念レースでリベンジできるのが、このレースのいい所。優勝したのは澤野敦志(竹芝サイクルレーシング)2日目の午前中には、前日リタイアした選手が参加できる「残念レース」があり、ジュニアとの混走で72kmを走れる。リタイアしても残念レースでリベンジできるのが、このレースのいい所。優勝したのは澤野敦志(竹芝サイクルレーシング)
残年レース優勝の澤野敦志(中央、竹芝サイクルレーシング)、2位齋藤和輝(左、多摩ポタ.mode)、3位浅野直輝(飯田風越)残年レース優勝の澤野敦志(中央、竹芝サイクルレーシング)、2位齋藤和輝(左、多摩ポタ.mode)、3位浅野直輝(飯田風越)

ステージ1a結果
1位 中村龍太郎(イナーメ) 11分31秒41
2位 浦佑樹 (東京大学自転車競技班) +13秒 
3位 ジェイソン・バラド(NEILPRYDE-南信スバルCYCLING TEAM)+13秒 
4位 宇田川陽平(WALKRIDE)+15秒
5位 ブルノ・ゲゼ(NEILPRYDE-南信スバルCYCLING TEAM)+18秒

ステージ1b結果
1位 間瀬勇毅(京都産業大学) 1時間56分18秒
2位 中井路雅(京都産業大学) +5秒
3位 中井唯晶(京都産業大学) +5秒
4位 高岡亮寛(イナーメ)+8秒
5位 風間博之(サイクルフリーダム)+8秒

ステージ2結果
1位 才田直人(Gruppo Acqua Tama) 3時間04分30秒
2位 風間博之(サイクルフリーダム) +54秒
3位 高岡亮寛(イナーメ) +54秒
4位 間瀬勇毅(京都産業大学) +54秒
5位 河賀雄大(VICTOIRE広島) +54秒

個人総合時間
1位 高岡亮寛(イナーメ)  5時間13分42秒
2位 間瀬勇毅(京都産業大学) +2秒
3位 風間博之(サイクルフリーダム) +10秒
4位 才田直人(Gruppo Acqua Tama)+15秒
5位 宇田川陽平(WALKRIDE) +24秒

総合優勝:高岡亮寛(イナーメ)
スプリント賞:川田優作(Honda栃木)
O-40賞:高橋伸成(桜台レーシングチーム)
U23賞:間瀬勇毅(京都産業大学)

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