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“自転車革命都市”ロンドン便り<21>物語のある一台を 老舗・新世代を巻き込み盛況のハンドメイド・バイシクルショウ「ビスポークト」

by 青木陽子 / Yoko AOKI
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 イギリス版の自転車フレームビルダーの祭典「ビスポークト2015 ~UKハンドメイド・バイシクルショウ」が4月17日から19日、英国南西部の街ブリストルで開かれました。ブリストルは、このショウがスタートした場所で、国内ではじめての自転車専用道が誕生した自転車フレンドリーな街。学生やアーティストも多くインデペンデントな気風のこの街にこそ、インデペンデントなハンドメイドバイクのショウが似合う気がします。

「ビスポークト2015」へ日本からチタンのフルサスダウンヒルバイクを持ち込んだ「ウェルドワン」の小西栄二さんのバイクに、「すげぇ」「モンスターだ」「超キテる」と注目する来場者「ビスポークト2015」へ日本からチタンのフルサスダウンヒルバイクを持ち込んだ「ウェルドワン」の小西栄二さんのバイクに、「すげぇ」「モンスターだ」「超キテる」と注目する来場者

若手も老舗も総力を挙げて出店

英人建築家のクライアント自身のリクエストで、第一次大戦で軍艦などにほどこされたダズル・カモフラージュをモチーフにしたペイントを施されたドンヒューのロード。チュービングはコロンバスSCr英人建築家のクライアント自身のリクエストで、第一次大戦で軍艦などにほどこされたダズル・カモフラージュをモチーフにしたペイントを施されたドンヒューのロード。チュービングはコロンバスSCr

 鉄道駅舎として世界に現存する中でもっとも古い建物のひとつとされている会場「ブルネルズ・オールド・ステーション」に足を踏み入れてすぐの位置にブースを構えていたのが「ドンヒュー・バイシクルズ」。最優秀賞をとった2011年の初回以来、毎年出店しています。今年の目玉は、大胆な白黒ペイントが印象的なロードバイク。英国人建築家のオーダーで、このペイントは第一次大戦の英米海軍で使われたダズル・カモフラージュにインスピレーションを得たものだとか。チュービングはコロンバスのステンレスXCrで、ヘッドチューブにはドンヒューのアイコン、2羽のツバメが遊ぶ手刻みのヘッドバッヂが輝いています。

 一時は死にたえるかと思われた歴史ある英国のハンドメイド・スチールフレーム界にあらわれた、若い新世代ビルダーたちの顔とも言えるトム・ドンヒューさん。「いつも作業場に閉じこもって自転車を作っているから、年に1回ここで仲間やファンに会えるのは本当に楽しみ」とのこと。「ショウは毎年規模が大きくなっているし、みんな手ぶらでは参加できない、新しい何かを見せつけなくちゃと努力して来るから、すごく刺激を受けますね」

広告代理店→ゴビ砂漠を自転車で横断する長い旅→フレームビルダーという経歴のトム・ドンヒューさん。「少し高くてもきちんと作られたいいものにお金を出したいと考える人が増えてきていると思います」広告代理店→ゴビ砂漠を自転車で横断する長い旅→フレームビルダーという経歴のトム・ドンヒューさん。「少し高くてもきちんと作られたいいものにお金を出したいと考える人が増えてきていると思います」
今回とにかく多かったステンレスチュービングを多用したフレーム。ステンレスの美しい色合いも楽しもうと、このようにクリア塗装仕上げを含んだグラフィックも多かった今回とにかく多かったステンレスチュービングを多用したフレーム。ステンレスの美しい色合いも楽しもうと、このようにクリア塗装仕上げを含んだグラフィックも多かった
ステップスルー(スタッガード)フレームに騙されてはいけない。「男子がうらやましがるハイテク自転車を」という女性クライアントの希望で、レイノルズ953ステンレスチュービング、ミドルバーンのフロントシングルにアルテグラ11s、ディスクブレーキという豪華仕様ステップスルー(スタッガード)フレームに騙されてはいけない。「男子がうらやましがるハイテク自転車を」という女性クライアントの希望で、レイノルズ953ステンレスチュービング、ミドルバーンのフロントシングルにアルテグラ11s、ディスクブレーキという豪華仕様

 向かいのブースは、ウィギンスなどを支えてきたロンドンの老舗プロショップであり、ローディーはもちろんメッセンジャーやフィクシー乗りからも厚い信頼を得ている「コンドル・サイクルズ」。なんと二代目社長のグラント・ヤングさん自らブースに立っていました。

泣く子も黙るロンドンの名プロショップ、コンドル・サイクルズの二代目グラント・ヤングさん。オーダーメイドのみのアッチャーイオ・ステンレスの真っ赤な塗装は、米人クライアントのカスタムカラー泣く子も黙るロンドンの名プロショップ、コンドル・サイクルズの二代目グラント・ヤングさん。オーダーメイドのみのアッチャーイオ・ステンレスの真っ赤な塗装は、米人クライアントのカスタムカラー

 日本ではジャパンカップの勝利でも知られるJLTコンドル(旧ラファ・コンドルJLT)のオーナーでもあり、レジェーロなどカーボンフレームも人気が高いコンドルですが、イタリアで造られるハンドビルドの鉄フレームもとても評判が高いもの。今回はオーダーメイドオンリーの「アッチャーイオ・ステンレス」を旗艦に、やはりコロンバスXCrチュービングをシートステーとチェーンステーに使い、肩の平たいフォーククラウンなどヴィンテージなディテールの「クラシコ・ステンレス」、長期ツーリングからレースまでこなせるベストセラーの「フラテッロ」という製品群でこのショウに参戦。

 この道45年のグラントさん曰く、「90年代前半にアルミフレームが人気になり、カーボンが出てきてアルミが下火になり――という激動の中でも、ウチはいつもスチールの需要を感じていたから、作るのをやめたことはない」とのこと。作家性の高い小さなビルダーとは趣を異にするコンドルだが、ある程度の数を手がけるからこそ可能になっているコロンバスの特注チュービング、溶接やペイントの信頼感の高さなどハンドビルドスチールのいいとこどりをできると言えそうです。もちろんヘッドチューブにはあのコンドルのバッヂが。

英国第6の都市ブリストル、その歴史ある駅舎を使った展示場で開かれた「ビスポークト2015 ~UKハンドメイド・バイシクルショウ」。規模拡大にともない昨年ロンドンに移ったが、今年はまたブリストルに戻った英国第6の都市ブリストル、その歴史ある駅舎を使った展示場で開かれた「ビスポークト2015 ~UKハンドメイド・バイシクルショウ」。規模拡大にともない昨年ロンドンに移ったが、今年はまたブリストルに戻った

欧州各国からの参加も急増

 和菓子のような雲形定規のようなリアドロップアウトやユニークな色使いが印象に残った「フィールド・サイクルズ」は、ビルダー、デザイナー、ペインターの仲良し3人組がユニット展開しているこだわりまくりの工房。ビルダーのハリーさんは“鉄の街”シェフィールドがベースならではの鉄加工を得意としています。

フレームビルダー、デザイナー、ペインターの3人の専門家がユニットで動き、こだわりまくりのバイクを作ってくれるフィールド・サイクルズのレイノルズ953を使ったロードフレームビルダー、デザイナー、ペインターの3人の専門家がユニットで動き、こだわりまくりのバイクを作ってくれるフィールド・サイクルズのレイノルズ953を使ったロード

 くだんのドロップアウトは、甲板上でジェット戦闘機をひっかけるフックに使われる超高強度の鉄合金にステンレスを組み合わせてCNC加工で切り出しているのだとか。「僕たちは納得がいくまで追求するから、あまり納期は気にしないでネ」とチラッと言っていた言葉が気になりつつも、自分がお願いしたらどんなバイクが仕上がるんだろう…と夢が膨らむ工房でした。

フィールド・サイクルズの雲型定規のようなドロップアウト。ユニークで美しいペイントワークのキレのよさにもうっとりしてしまうフィールド・サイクルズの雲型定規のようなドロップアウト。ユニークで美しいペイントワークのキレのよさにもうっとりしてしまう
2014年に創業75年を迎えたイタリアはトスカーナの老舗ショップ・メーカーのダッコルディ。三代目頭首のジュゼッペ・ダッコルディさんも登場2014年に創業75年を迎えたイタリアはトスカーナの老舗ショップ・メーカーのダッコルディ。三代目頭首のジュゼッペ・ダッコルディさんも登場

 鉄フレームが下火だったカーボン全盛期にも、コロンバスの生産中止になったチュービングをたくさんストックしていて注文に応じてくれるということで評判だったイタリアの「ダッコルディ」の旗も。「ビスポークトは去年が初めての参加だったが、反応がよくて今年も期待している」と三代目オーナーのジュゼッペ・ダッコルディさん。細身のコロンバス・ニオビウムSLのフレームはペイントとともに80年代後半の香り濃厚で、通にはたまらない。

ロンドンの有名な自転車カフェ「ルック・マム・ノー・ハンズ(LMNH)」も出張、ドリンクや軽食を担当ロンドンの有名な自転車カフェ「ルック・マム・ノー・ハンズ(LMNH)」も出張、ドリンクや軽食を担当

 もともと英国のビルダーがほとんどだったビスポークトですが、今回このダッコルディのようにヨーロッパ内からの参加が急増中でした。北米は「NAHBS」(北米ハンドメイド・バイシクルショウ)、ヨーロッパはビスポークト、ということになっていくのでしょう。

ジュエリー作家や家具製作作家が自転車の世界へ

「ベスト・ユーティリティ・バイシクル」賞を受けた、今回が初出展の女性ビルダー、カレン・ハートリーさん(右)のファットバイク。ブリッジやシートチューブ上端がアシンメトリーな山並みを彷彿させる意匠に「ベスト・ユーティリティ・バイシクル」賞を受けた、今回が初出展の女性ビルダー、カレン・ハートリーさん(右)のファットバイク。ブリッジやシートチューブ上端がアシンメトリーな山並みを彷彿させる意匠に

 スタート当初からのショウの精神にもとづき、新人ビルダーにも積極的に門戸を開いているビスポークト。会場には特設のエリアが設けられていました。

 ロンドンをベースに活動を始めた「ハートリー」のカレン・ハートリーさんは彫金などをするジュエリー作家だったとか。けれど日々乗っているうちに自転車があまりにも好きになってしまい、同じ金属加工でなじみもあるということで、自転車作家の道へ。ピレネー山中に暮らす注文主にちなんで山並みを模したフォーククラウン、ところどころに輝く裸のステンレスはたしかにジュエリーを彷彿させる魅力があり、今回の「ベスト・ユーティリティ・バイシクル」を受賞していました。

 同じ新人エリアには弱冠20歳のビルダー、ロブ・ファレールさんも、レイノルズ853のハードテイル1台だけの小さなブースを作っていました。ハンドルバーのボタンひとつでサッとシートが下がる油圧ドロッパー・ポスト、オフセットされたBBでシングル化も可能な29er。「フロント角が68°と寝ていて、チェーンステーが410mmでウィリーもしやすいんですよ!」と目を輝かせて語るロブさん。今後もこだわりのハンドビルドMTBに特化していきたいそうです。

カレン・ハートリーさん曰く、「冬には雪も積もるピレネーで、重いカメラ機材(発注主はカメラマン)を載せて走れるように、けれどエレガントにしたかったので、サンジェのポーターバイクをヒントに設計した」とのことカレン・ハートリーさん曰く、「冬には雪も積もるピレネーで、重いカメラ機材(発注主はカメラマン)を載せて走れるように、けれどエレガントにしたかったので、サンジェのポーターバイクをヒントに設計した」とのこと
フレームビルディングを初めたのは2年前というまだ20歳のロブ・ファレールさんと、自身の手になるハードテイル29er。MTBにもスチール回帰のトレンドが来ているようだフレームビルディングを初めたのは2年前というまだ20歳のロブ・ファレールさんと、自身の手になるハードテイル29er。MTBにもスチール回帰のトレンドが来ているようだ
無垢材とベニア加工を駆使して造られるフランス「ケイム」の木製フレーム。木製であることもさりながら、その造形の美しさに注目が集まっていた無垢材とベニア加工を駆使して造られるフランス「ケイム」の木製フレーム。木製であることもさりながら、その造形の美しさに注目が集まっていた

 混雑していた会場でもひときわ分厚い人だかりができていたのが、木製フレームのバイクを展示していたフランスの「ケイム・サイクルズ」。家具製作のバックグラウンドを持つ2人組のプロジェクトで、ホワイトアッシュ(タモ)の削りだし無垢材や多層のベニア圧着加工でモノコックのフレームを作成。「カーボンフレームよりもいい乗り心地」を実現しているとのことでした。コンテンポラリーな造形美も印象的。

 ほかにも3歳児用カーボン(!)キックバイクから、お湯をわかすガス以外のエネルギーはすべて脚でまかなう「走るコーヒースタンド」まで、型にはまらないからこそのハンドメイドなだけにさまざまな自転車が展示されていました。ともあれ全体として目についたのは、(1)ステンレスチュービング、(2)ロードはディスクブレーキ、(3)街乗り車はベルトドライブ、(4)キレキレなグラフィックペイント…だったといえそうです。

ロンドンベースのラスビー・サイクルズのベルトドライブ・コミューター。ほぼメンテナンスフリーのモダンなベルトドライブを採用しつつ、レイノルズの853をわざと古風なラグでとめているのは遊び心ロンドンベースのラスビー・サイクルズのベルトドライブ・コミューター。ほぼメンテナンスフリーのモダンなベルトドライブを採用しつつ、レイノルズの853をわざと古風なラグでとめているのは遊び心
これは…本物のビンテージでは?と思わされかけたスヴェン・サイクルズのレイノルズ953ロード。Mafacのブレーキキャリパーとストロングライトのクランクだけヴィンテージ品だが、あとはすべて新品これは…本物のビンテージでは?と思わされかけたスヴェン・サイクルズのレイノルズ953ロード。Mafacのブレーキキャリパーとストロングライトのクランクだけヴィンテージ品だが、あとはすべて新品
ミニチュアのブロンズバイクで出展していたブロンズ・サイクルのヘッド・バッヂ。19世紀の詩人W・B・イェイツの「イニスフリー島へ」に感化されて作ったというまさに工芸品ミニチュアのブロンズバイクで出展していたブロンズ・サイクルのヘッド・バッヂ。19世紀の詩人W・B・イェイツの「イニスフリー島へ」に感化されて作ったというまさに工芸品
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 平日の金曜日だったにもかかわらず、14時の一般公開が始まった途端、ドッと人がなだれこんできて自転車が見えにくくなるほどの大盛況になったビスポークト。この数年、「そうはいってもこの鉄フレームブームはいずれ落ち着いてしまうのでは?」とどこかで斜めに見ていたのですが、どうもそんな気配はまったくない模様でした。トム・ドンヒューさんが言っていた「いま人々の物の買い方が変わってきていますよね、長く使えるもの、地元で作られたもの、物語のあるものを選ぶとか。自転車もその流れの中にあるんだと思います」というひとことに、はっきりとした答えが含まれているような気がしています。

今回登場したビルダー・ショップ一覧

●Keim: www.keim-edition.com
●Ogre: www.geocities.jp/konishioff/cycle.html
●Donhou Bicycles: www.donhoubicycles.com
●Condor Cycles: www.condorcycles.com
●Field Cycles: fieldcycles.com
●Daccordi: daccordicicli.com
●Look Mum No Hands: www.lookmumnohands.com
●Hartley Cycles: www.hartleycycles.com
●Farrer: www.farrercycles.co.uk
●Rusby Cycles: rusbycycles.co.uk
●Sven Cycles: www.svencycles.com
●Cloud 9 Cycles: www.cloud9cycles.com
●Gerald Gilbert (Bronze Cycle Co): www.bronzecycle.co.uk
●Velopresso: www.velopresso.cc
●Middle Of Nowhere: www.middleofnowhere.cc
●Quoc Pham: quocpham.com

青木陽子青木陽子(あおき・ようこ)

ロンドン在住フリー編集者・ジャーナリスト。自動車専門誌「NAVI」、女性ファッション誌などを経て独立起業、日本の女性サイトの草分けである「cafeglobe.com」を創設し、編集長をつとめた。拠点とするロンドンで、「運転好きだけれど気候変動が心配」という動機から1999年に自転車通勤以来のスポーツ自転車をスタート。現在11台の自転車を所有する。ブログ「Blue Room」を更新中。

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