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“自転車革命都市”ロンドン便り<20>ボルボ発の安全対策に自転車乗りが猛反発 自転車も服も光らせる反射塗料は“責任転嫁”?

by 青木陽子 / Yoko AOKI
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ボルボが配布した「ライフペイント」は、自転車はもちろん洋服や鞄にも吹き付けられる ©Volvo Car UKボルボが配布した「ライフペイント」は、自転車はもちろん洋服や鞄にも吹き付けられる ©Volvo Car UK

 先日、スウェーデンのクルマメーカー「ボルボ」が、反射材をほぼ何にでもスプレーできる「ライフペイント」という塗料のテストサンプルをロンドンで配布しました。新しい「XC90」という車種の広告宣伝の一環として、ボルボの安全に対する積極的な姿勢をアピールする狙いだったようです。発表されるやいなや、2000本用意されたというサンプルがあっという間にはけた一方で、ロンドンなどの自転車利用を推進する人たちからは意外にも(?)猛烈な反発が起きました。この件について、速報的にレポートします。

日中は見えず、洗えば落ちる反射塗料

 ライフペイントは、ボルボがスウェーデンの反射塗料メーカー「ALBEDO 100」とのコラボレーションで発表したスプレー。水溶性で無色透明な接着基材によって、光を反射するマイクロビーズを固定します。自転車本体はもちろん、ヘルメットやバッグ、洋服にも吹き付けることができます。水溶性なので洗えば落ちるし、自然にも剥がれていくとのこと。

 無色透明なので吹きつけたことがわかりにくく、自転車や服のデザインを損なわないのはたしかに面白いし魅力を感じます。何を隠そう、わたしもタダなら欲しいと思ったのですが、わずか数日で配布終了してしまいました。苛烈なロンドンの交通環境のなかで日々サバイバルしている自転車乗りの反応は、非常によかったと言えそうです。

スプレーを吹き付けた自転車 ©Volvo Car UKスプレーを吹き付けた自転車 ©Volvo Car UK
ボルボが配布したスプレー「ライフペイント」 ©Volvo Car UKボルボが配布したスプレー「ライフペイント」 ©Volvo Car UK

 ボルボといえば安全への取り組みに熱心で、とくに最近では「2020年までに新しいボルボ車での死者や重傷者をゼロに」という理念を掲げています。周囲の車両や歩行者などをレーダーやカメラなどで感知し、ドライバーが気づくのが遅れた場合は自動的にブレーキが作動するシステムも搭載済みです。すでに定評のある乗員安全性だけでなく、クルマの外側にいる人の安全性も守る取り組みをしています。

 ですが、「サイクリストや歩行者のためにこんな安全対策商品を開発するなんて、さすがはボルボ」と考えるのは、ちょっとナイーブすぎる発想なのかもしれません。ボルボは肯定的に評価してもらえると確信して発表したのでしょうけれど…。

「自転車乗りが責められる」

 「サンキューボルボ、こうやってまた、自転車に乗っていた被害者が責められる要素を増やしてくれて。反射材まみれじゃない格好で自転車に乗っていたらクルマに見落とされても自己責任、ってね!」

 「こんなスプレーを発表するより先に、クルマメーカーなんだから自分のクルマにスプレーすると表面がムクムクスポンジになって、引っ掛けた自転車や歩行者がやわらかく包まれて助かるスプレーを出してくれよ」

リュックなどに吹き付けておくと、後ろからはこのように見える ©Volvo Car UKリュックなどに吹き付けておくと、後ろからはこのように見える ©Volvo Car UK

 「ボルボが歩行者や自転車の安全を本気で考えていたら、歩行者や自転車がそばにいても時速何十kmも簡単に出せるクルマのあり方をなんとかするはずでしょ」

 「世界で毎年120万人を殺している犯人(クルマ業界)が、被害者(歩行者や自転車)に“これをひっかぶってもっと俺たちの注意を引いとけ”だと?」

 というのはフェイスブックや自転車ニュースサイトの記事コメント欄に集まった、膨大な意見のごく一部。落ち着いて考えれば、どの意見も一理あると言えそうです。当連載で以前「ヘルメット義務化の是非論」についてレポートしましたが、今回のスプレーとヘルメットは似たポジションにあります。

スプレーを吹き付けても、日中や明るい所では目立たない ©Volvo Car UKスプレーを吹き付けても、日中や明るい所では目立たない ©Volvo Car UK

 ヘルメットもスプレーも、自転車に乗る人の安全性向上にはおそらくプラスになると推測されます。けれど、クルマと自転車の事故があった際、「サイクリストの怪我が重大になったのはヘルメットをかぶっていなかったからだ」「ヘルメットをかぶっていなかったサイクリストにも責任はある」と解釈するのは、ひどい考え違いだということがおわかりいただけると思います(自転車を歩行者に置き換えてみればわかります)。

 こういう考え方をしてしまう人が世の中に増えないようにしないと、自転車の普及は難しくなってしまう。実際、ヘルメット義務化の記事でも紹介した、BBCの番組にヘルメットなし・反射ジャケットなしで出演したボードマン氏に批判が殺到したように、すでにイギリスもこういう世論が増えつつあります。自転車の社会環境に関心をもつ自転車乗りは、敏感になっているのです。

クルマメーカーが得意気に配るものではない

 自転車政策のご意見番、自転車NGO(非政府組織)のCTCとLCCもライフペイントについて、以下のような懸念コメントを発表しました。

①ライフペイントに限らず蛍光色や反射材ウエアがサイクリストの安全性アップに貢献するという確実なデータはまだ世の中になくボルボも持っていないこと

②クルマドライバーの負担を減らすためにサイクリストや歩行者に装備の負担を転嫁しようとするのはおかしいこと

③事故を減らすにはこういったデータの不確かな工夫などより先に、クルマのスピードの出しすぎをなくし、クルマの量を減らし、道路インフラを整備し、ドライバーの教育をする、など正当的な方法に取り組むのが先だ

 もし今回ボルボがサイクリストに提供したのがヘルメットだったら?と考えても、なぜこのスプレーに強い反発が集まったかが見えてくると思います。ヘルメットはいいものだけれど、クルマメーカーが得意気に配るものではないですよね。

 反発したロンドンのサイクリストたちも、ほとんどの人はこのスプレーそのものに怒っているわけではないと思います。ただここで手放しで喜んでスプレーを自分に吹き付けるようでは正義が負けてしまう。「問題解決のための正当な方法を見失うな」「優先順位を忘れてはいけない」と差し戻すための、市民としての健康な声なのです。

(文 青木陽子 / Yoko Aoki )

青木陽子青木陽子(あおき・ようこ)

ロンドン在住フリー編集者・ジャーナリスト。自動車専門誌「NAVI」、女性ファッション誌などを経て独立起業、日本の女性サイトの草分けである「cafeglobe.com」を創設し、編集長をつとめた。拠点とするロンドンで、「運転好きだけれど気候変動が心配」という動機から1999年に自転車通勤以来のスポーツ自転車をスタート。現在11台の自転車を所有する。ブログ「Blue Room」を更新中。

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