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つれづれイタリア~ノ<48>恋が始まる3秒間 表彰台を彩る美女たちの「ダブルキス」のテクニック

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 先月、イタリア人として少し恥ずかしいニュースがありました。観光で日本に滞在していたイタリア人の男が、電車内で面識のない女性に突然キスをしたとして、3月4日に和歌山県迷惑防止条例違反の容疑で現行犯逮捕されました。産経ニュースWESTの記事によれば、以前から周辺で似たような事件が続き、男は警察官に尾行されていたとのことです。男の苦しい言い訳は次の通りです。

 「キスはあいさつのつもりだった。日本の法律に触れるとは思わなかった」

 …困ったイタリア人ですね。イタリアでも知らない人にキスをしたり、体を触ったりすることは迷惑行為で、強制わいせつや暴行の容疑で逮捕されるに決まっています。この男が言っているのは嘘で、逮捕されて当然です。

イタリアのキスは3種類

互いのほほを近づける「あいさつのキス」(写真・砂田弓弦)互いのほほを近づける「あいさつのキス」(写真・砂田弓弦)

 イタリアではキスの文化は古く、さまざまな場面で使います。キスには3種類があります。1つは「あいさつのキス」があります。主に、久しぶりに会った親戚や親しい人たちの間で交わします。互いのほほを左、右と近づけながら(順番が決まっています)、口で「チュッ!」という音を軽く立てます。実際に顔に唇をつけることはありません。

 2つ目は「尊敬のキス」。教会に入ると、イエス・キリストや聖母マリアなどのご神体にキスをする人が多く見られます。これは神様への尊敬の意をもっています。個人的には、衛生的な行為ではないと思いますが、信ずるものは救われるのです。また、貴族の間では手の甲にキスをする習慣がありました。一部の地域ではまだ残っていますが、これはもはや絵画や映画、オペラの世界でしか見ることができません。

 第3には、もちろん恋する相手への「本物のキス」があります。ここで説明する必要はありません。

選手の背中側で手をつないで…

 スポーツの世界でも、キスはよく見られます。特にイタリアではプロの自転車レースにおいて、優勝者が美しい女性2人からダブルキスを受けます。「ポディウムガール」として知られるこの女性たちを、イタリアではシンプルに「ミス」と呼んでいます。彼女たちのキスは、もちろん優勝者への尊敬の証です。

表彰式でダブルキスを受けるマーク・カヴェンディッシュ(写真・砂田弓弦)表彰式でダブルキスを受けるマーク・カヴェンディッシュ(写真・砂田弓弦)

 ところで、お気づきでしょうか。ジロ・デ・イタリアの表彰式には毎ステージ2人のミスが登場します。そして、きれいにタイミングをそろえて優勝者にキスをするのです。

 ジロの運営母体であるRCS Sportはこの肝心なキスシーンについて、最近までルールを決めていませんでした。ジロの舞台裏を紹介するイタリア国営テレビの番組「TGIRO」(ティジロ)のインタビューに対し、2010年にミスを務めたヴィルジニア・ジャンマリアさんがそれを明かしました。現在ジャンマリアさんは、ジロのミスを選考・育成するインストラクターをしています。

表彰台に上がって選手にキスする2人。選手の背中に手を回しているのがわかりますか?(写真・砂田弓弦)表彰台に上がって選手にキスする2人。選手の背中に手を回しているのがわかりますか?(写真・砂田弓弦)

 ジャンマリアさんが言うには、キスするタイミングはとても大事です。2010年以前は規定がなく、現場のミスたちに任されていました。結果として、タイミングがばらつくことが多かったのです。そこでジャンマリアさんは、選手たちやテレビの放送時間、カメラマンの撮影時間に配慮して、キスするタイミングとキスそのものの長さを提案しました。それが採用され、現在のスタイルにつながっています。

 ミスは表彰台に上った選手に花束とスプマンテ(スパークリングワイン)のボトルを渡します。次に選手の背中側で手をつないでキスします。キスの長さは基本的に3秒。それ以上続くと、選手たちが困惑するそうです。キスをやめるタイミングも、手を使って相手に伝えます。キスの後は、正面にいるカメラマンに向かってスマイルを送ります。表彰台から降りる時も、手で合図を送っています。

ミスと“駆け落ち”した選手も

ジロは表彰式以外にもさまざまな仕事を担当しており、選手と恋に発展するケースがある(写真・砂田弓弦)ジロは表彰式以外にもさまざまな仕事を担当しており、選手と恋に発展するケースがある(写真・砂田弓弦)

 イタリアのテレビでは、選手たちに「プライバシー」という言葉はなく、選手とミスの恋物語がよく伝えられます。次の2つのエピソードは特に印象に残っています。

 ひとつ目は、1980年代に活躍したマルコ・グロッポという選手(当時チーム メタウロ・モビリ)のことです。ベルナール・イノーやフランチェスコ・モゼールといった強豪と同等に戦える強い選手でしたが、1983年のジロ期間中にミスと恋に落ち、“駆け落ち”のようにレースから逃げ出してしまいました。

 1990年に宇都宮で行われた世界選手権や、1996年のジャパンカップで来日した、甘いマスクのジャンニ・ブーニョもミスとの恋話がありました。チームポルティに所属していたブーニョは、1994年にアンジェラ・マリアというミスと知り合い、ジロ期間中に交際をスタート。当時、ブーニョは必死に関係を否定しましたが、交際は長く続いたようです。

 イタリアが生んだ最強スプリンター、マリオ・チポッリーニにも恋話が多く、彼とほかの選手の「恋の武勇伝」をまとめた本が今年になって発売されました。そのくらい、パパラッチと太陽の国イタリアでは恋愛話が好まれます。

 来月はいよいよジロ・デ・イタリアが始まるので、ミスたちの動きに注目してください。レース観戦がもっと楽しくなりますよ。

文 マルコ・ファヴァロ

マルコ・ファヴァロMarco FAVARO(マルコ・ファヴァロ)

イタリア語講師。イタリア外務省のサポートの下、イタリアの言語や文化を世界に普及するダンテ・アリギエーリ協会で、自転車にまつわるイタリア語講座「In Bici」(インビーチ)を担当する。サイクルジャージブランド「カペルミュール」のモデルや、Jスポーツへ「ジロ・デ・イタリア」の情報提供なども行なう。東京都在住。ブログ「チクリスタ・イン・ジャッポーネ

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