スマートフォン版はこちら

サイクリスト

title banner

“自転車革命都市”ロンドン便り<18>ウェットな冬を逃れ南方の島へ 英ロードバイクファンがリードする自転車合宿産業

by 青木陽子 / Yoko AOKI
  • 一覧
ロードレースチーム「ティンコフ・サクソ」がお気に入りのグラン・カナリア島で、「セレニティ(静かさの意味)」という愛称の道。人気のあるサイクリングコースのひとつで、9~13%の勾配が続くロードレースチーム「ティンコフ・サクソ」がお気に入りのグラン・カナリア島で、「セレニティ(静かさの意味)」という愛称の道。人気のあるサイクリングコースのひとつで、9~13%の勾配が続く

 よく日本の方に「ロンドンは寒いでしょう?」と聞かれますが、メキシコ湾流を直接受けているイングランドのとくに南半分は高緯度のわりに温暖で、氷点下になる日は数えるほどです。東京とあまり変わらないのです。でも多いのが、雨。冬はジトジトと細かい雨が続き、路面は毎日のようにウェット。自転車乗りにとってはどうにもつらい季節です。

 そこで! 最近こちらのロードバイク乗りの間で大流行し始めているのが、プロ選手たちの冬期合宿をまねた、「避寒地で1週間程度の冬期トレーニング」…もとい自転車三昧休暇なのです。

ロードレーサーに人気の飛行先は?

英ロードレース週刊誌「サイクリング・ウィークリー」に掲載されたプロチーム冬期合宿マップ記事(右)と、グラン・カナリアを走るサクソバンクのウエア柄を話題にした記事(左下)英ロードレース週刊誌「サイクリング・ウィークリー」に掲載されたプロチーム冬期合宿マップ記事(右)と、グラン・カナリアを走るサクソバンクのウエア柄を話題にした記事(左下)

 もちろん以前から冬期にスペインなどでトレーニングをするハイアマチュアはいたようですが、この数年イギリスでロードレース人気が急騰。ホビーロードレーサーも急増したことで、一気に市場が活気づいている模様です。

 元プロレーサーが指導する特訓キャンプを提供する自転車ツアー会社や、「自転車を部屋に置けます」と謳う宿が次々に登場。Easyjetなどの飛行機会社も自転車を含むスポーツ用品の預入れに関するページを充実させるなど、自転車合宿インダストリーが成立し始めていることを感じます。

 イギリスではこのロードバイクブームをして「サイクルスポーツは新しいゴルフだ」とよく形容されるのですが、30~50代のビジネスパーソンたちが高価なバイクボックスを携えていそいそと空港に集合している姿はまさにちょっと前までのゴルファーそのものですね。

テナリーフ島のテイデ山、舗装路最高地点近くで。路面の「VELO VELO」という落書きはまさにこのブームに乗ってトレーニング合宿ツアーを販売している会社のロゴ。ニクい宣伝だテナリーフ島のテイデ山、舗装路最高地点近くで。路面の「VELO VELO」という落書きはまさにこのブームに乗ってトレーニング合宿ツアーを販売している会社のロゴ。ニクい宣伝だ
大西洋に浮かぶカナリア諸島ならではのシーフードも楽しめる大西洋に浮かぶカナリア諸島ならではのシーフードも楽しめる

 人気の飛行先は、もちろんプロチームがよく行くところです。自転車専門誌も、今年はどこのプロチームがどこで冬期キャンプをしているかを報じるし、選手たちもツイッターでいまどこで練習しているかを頻繁に発信しています。例えば次のツイートは、「アスタナ プロチーム」のラルス・ボーム(オランダ)のもの。

 1~2月の厳寒期に人気なのは地中海のマヨルカ島(スペイン)、アンダルシアやバレンシア(スペイン)、やはりスペイン領のカナリア諸島など。3月に入るとバルセロナのあるカタルニア(スペイン)、ニースやモナコ(フランス)、サンレモ(イタリア)などに北上してきます。暖かいだけでなく、適度に山があって舗装の行き届いた道があることなども選ばれる条件です。

同じ道を走ってわかるプロのすごさ

アスタナが準備をしていたところに図々しくおじゃま。おしゃべりしてくれたこの人はほぼ間違いなくラルス・ボーム(オランダ)! 「標高2200mの山頂にあるパラドールに泊まっているよ」と教えてくれました。けれども翌日、UCIのアスタナ制裁が発表され、それ以降姿を見なくなってしまった…アスタナが準備をしていたところに図々しくおじゃま。おしゃべりしてくれたこの人はほぼ間違いなくラルス・ボーム(オランダ)! 「標高2200mの山頂にあるパラドールに泊まっているよ」と教えてくれました。けれども翌日、UCIのアスタナ制裁が発表され、それ以降姿を見なくなってしまった…

 わたしも先月、友人たちと去年に続いてカナリア諸島に1週間行ってきました。今年はテナリーフ島。中央に富士山とほぼ同じ高さの3718mの休火山があり、舗装路でも2300mまで一気にのぼることができます。ここはとくに、ツール・ド・フランスで総合優勝(2012年)をしたブラッドリー・ウィギンス(イギリス)が高地順応訓練をしたことを明かしたため、いっそう人気になった島です(英メディアによるウィギンスの動画はこちら)。

 去年行ったお隣のグラン・カナリア島はロードレースチーム「ティンコフ・サクソ」お気に入りの島。けれどもアルベルト・コンタドール(スペイン)とは1週違いで出会えなかったので、今年のテナリーフこそは「誰かプロがいるかね~?」と期待半分で出かけたのですが、大当たりでした。

2014年に訪れたグラン・カナリア島の山腹のレストラン。同じように自転車休暇で訪れている人たちであふれ、実質“自転車カフェ”となっていた2014年に訪れたグラン・カナリア島の山腹のレストラン。同じように自転車休暇で訪れている人たちであふれ、実質“自転車カフェ”となっていた

 晩御飯のたびに、同行の友人たちから「アスタナがいたよ」「赤いBMCもいるね」「カチューシャっぽいウエアで嘘みたいに速い奴がひとりいる」などなど目撃情報が。わたしも会えるかなと思っていたら、翌日からはほぼ連日で路上ですれ違ったり追い越されたりの日々に。中には追い越しながら話しかけてくれる選手も。いわば、毎日ジャパンカップの古賀市林道状態です!

 同じ道を走っていると、プロのすごさが如実にわかります。まず二列で走っている姿がピタリと崩れなくて美しいし、山道ではその人のまわりだけ重力がないかのように(わたしには巨大な重力がかかっているのに)すぅぅぅっとのぼっていってしまう。思わず自分のペダルにも力が入ります。「あんなふうにきれいに走りたい」と練習をする気持ちも俄然アップ!

ミーハー心も満たされる!?

 山腹のカフェでお茶をしていたら、隣の席にやってきた「BMCレーシングチーム」の選手たちがランチをとり始めたことも。コーヒーなどドリンクはお店のものを飲んでいましたが、サンドイッチはサポートカーからとってきたものをそれぞれ食べていました。あまりにジロジロ見ていたのがバレたのか、お昼が終わるとひとりの選手が「ほしい?」とボトルまでくれました。いやぁ、うれしかったです。マヌエル・クインツィアート(イタリア)でした。

BMCの選手たちについて行きたいけれど、無理だなぁという諦めオーラを背負った同行の友人たち。ちなみに今回同時期に滞在していた選手には、ホアキン・ロドリゲス(スペイン)、ダニエル・オス(フランス)らがいて、未確認ながらサミュエル・サンチェス(スペイン)とフィリップ・ジルベール(ベルギー)もいたらしいBMCの選手たちについて行きたいけれど、無理だなぁという諦めオーラを背負った同行の友人たち。ちなみに今回同時期に滞在していた選手には、ホアキン・ロドリゲス(スペイン)、ダニエル・オス(フランス)らがいて、未確認ながらサミュエル・サンチェス(スペイン)とフィリップ・ジルベール(ベルギー)もいたらしい
以前ニースに女性だけの自転車トレーニングに行った際、一緒に走ってくれた現スペシャライズド・ルルレモンのティファニー・クロムウェル(オーストラリア)。マドン峠にて。自転車トレーニング専門のツアーに参加すると、第一線の選手がこうやって同行してくれることもある。贅沢!以前ニースに女性だけの自転車トレーニングに行った際、一緒に走ってくれた現スペシャライズド・ルルレモンのティファニー・クロムウェル(オーストラリア)。マドン峠にて。自転車トレーニング専門のツアーに参加すると、第一線の選手がこうやって同行してくれることもある。贅沢!

 ロードレースファンなら、練習とリフレッシュができてミーハー心も満足させられるという一粒で3つおいしい冬期トレーニング休暇。日本からだとやや遠いのが難点ですが、手軽に本場の雰囲気が味わえて、オフシーズンでリラックスしている選手たちの姿を見ることができるという意味で、検討の価値はあるかもしれません。

青木陽子青木陽子(あおき・ようこ)

ロンドン在住フリー編集者・ジャーナリスト。自動車専門誌「NAVI」、女性ファッション誌などを経て独立起業、日本の女性サイトの草分けである「cafeglobe.com」を創設し、編集長をつとめた。拠点とするロンドンで、「運転好きだけれど気候変動が心配」という動機から1999年に自転車通勤以来のスポーツ自転車をスタート。現在11台の自転車を所有する。ブログ「Blue Room」を更新中。

関連記事

この記事のタグ

“自転車革命都市”ロンドン便り

  • 一覧

新着ニュース

もっと見る

ピックアップ

ショップナビ

スペシャル

ソーシャルランキング

インプレッション

インプレッション一覧へ

連載