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“自転車革命都市”ロンドン便り<16>ロンドンを貫く新自転車道は全長29km 2016年6月完成をめざす建設案が理事会で可決

by 青木陽子 / Yoko AOKI
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 うれしいニュースです! 2015年2月4日、ロンドンの自転車事情は大きなマイルストーンを通過しました。当コラムの第7回でもレポートした「自転車クロスレイル(現時点での仮称:東西サイクルスーパーハイウェイ※)」を含む、2本の「隔離された」自転車専用レーンの建設が、ロンドン市交通局の理事会で可決されたのです。

東西路線の東寄りの一部、タワーヒル近辺の完成予想図。左手に見切れているのが世界遺産のロンドン塔。拡大すると、バス停の処理なども細かく見られます ©TfL東西路線の東寄りの一部、タワーヒル近辺の完成予想図。左手に見切れているのが世界遺産のロンドン塔。拡大すると、バス停の処理なども細かく見られます ©TfL

※「自転車クロスレイル」「東西サイクルスーパーハイウェイ」は同じものです。まだ正式名称が確定していないため両方使われています。

 自らもしばしば自転車通勤しているボリス・ジョンソン市長はこの計画を推進してきましたが、どんなに市長が躍起になっても、市交通局の理事会を通らないことには着工できないので、ロンドンの自転車派はこの日の理事会のストリーミング中継を固唾を呑んで見守っていました。理事会が終了したと同時にツイッター上には明るい声が飛び交い、現場で傍聴していた人の中には目を赤くしていた人もいたとか。

総延長29kmの自転車だけの道

ロータリーでは、自転車レーンが車道レーンと歩道レーンの間に隔離されてつくられることに。今回の敷設で自動車にとっては右左折できない箇所が増えたのは事実 ©TfLロータリーでは、自転車レーンが車道レーンと歩道レーンの間に隔離されてつくられることに。今回の敷設で自動車にとっては右左折できない箇所が増えたのは事実 ©TfL

 なにがそんなに感激するほどのポイントだったかというと、今回決まった経路のひとつ、東西に延びるレーンはなんと総延長29kmもの計画だからです。東京でいえば直線距離で、東京湾に面した葛西臨海公園から内陸で西部に位置する三鷹市あたりまでをつなぐということです。これはす・ご・い規模だと思います! 来月3月にも工事に着工し、2016年6月に完成予定とか。このスピードもイギリスにしてはめちゃ早いです。

 その理事会の中でも流された、東西路線の完成予想鳥瞰アニメがYouTubeにアップされていますのでぜひご覧ください(動画リンクはこちら)。

 この新しい隔離された(セグリゲーテッド、と言われています)自転車レーンは、ほぼ全区間で対面通行。いちおう一方向で2台並走できる幅がとられるようです。道路の片側にまとめる対面通行には自転車派からはやや不満が出ていましたが、コストなどを考えてこれに落ち着いたようです。慣れるまではどこで曲がるか少し混乱しそうですが、とくに上でご紹介した鳥瞰アニメを見ると早く走ってみたくなりますね。

南北路線が敷設されることになった、大規模ラウンドアバウトのあるエレファント&カースル。交通量が多く、左折大型車に自転車が巻き込まれる死亡事故も発生している南北路線が敷設されることになった、大規模ラウンドアバウトのあるエレファント&カースル。交通量が多く、左折大型車に自転車が巻き込まれる死亡事故も発生している
ロンドン都心に現存する、数少ない隔離された自転車レーン。対面通行にするには狭すぎてかなり怖い。さらに写真に見られるように動線の取り回しが混乱をきたす箇所もロンドン都心に現存する、数少ない隔離された自転車レーン。対面通行にするには狭すぎてかなり怖い。さらに写真に見られるように動線の取り回しが混乱をきたす箇所も

自転車人口の増加と多発する事故

死亡事故が発生した箇所で、自転車が安全に走れるレーンの敷設を求めてダイインをする人たち。今年に入ってすでに3人が命を落とし、事故の増加がハイペースになっていることを感じる死亡事故が発生した箇所で、自転車が安全に走れるレーンの敷設を求めてダイインをする人たち。今年に入ってすでに3人が命を落とし、事故の増加がハイペースになっていることを感じる

 ここまで大型のインフラ敷設を後押ししたのは、言うまでもなく自転車人口の増加です。2014年9~12月期の自転車の交通量は、2013年の同時期比10%増で、年間を通しては12%増になるだろうとロンドン市交通局が発表していました。この増加傾向は四半期で5期連続で続いているとのこと。

 ロンドンの都心には、交通量を減らす目的でタクシーやエコカー以外のクルマはその中に入るだけで1日2千円弱課金される「混雑税エリア」があります。市交通局が去年からその中の自転車交通量の計測を始めたところ、自転車は車両全体の16%を占めていることがわかりました。これはラッシュアワーには25%に跳ね上がります。

 もうひとつは、自転車に乗っていてクルマと接触するなどして大けがを負ったり、命を落としたりするケースが急増していることも大きな理由です。これは英国全土の統計ですが、2014年9月の統計だと、死者数が前年比で8%も増加、2005~2009年の平均と比べると38%も増加しているのだとか。

 自転車に乗る人が増えているといっても、他のすべての交通モードの死者・重傷者は微減の傾向にある中、異常事態と言えるでしょう。ロンドンでは今年すでに3人のサイクリストが、ダンプトラックやトレーラーに巻き込まれて命を落としており、そのたびに数百人のサイクリストが事故現場に集まり、追悼と抗議のダイ・インをして、行政や社会に「これ以上の犠牲はたくさん。早く安全な環境整備を」とアピールすることが繰り返されています。

理事会でジョンソン市長が熱弁

ロンドン市交通局の理事会の中継ストリーミングの様子。モニタ中央に座っているのがジョンソン市長。この様子は録画動画で今も見られます(リンク:http://www.london.gov.uk/webcasts/39903/asx)ロンドン市交通局の理事会の中継ストリーミングの様子。モニタ中央に座っているのがジョンソン市長。この様子は録画動画で今も見られます(リンク:http://www.london.gov.uk/webcasts/39903/asx)

 そんな中でようやく隔離された自転車レーンの建設が決まったわけですが、例の理事会はすんなり満場一致というわけではありませんでした。9月にこの建設案が発表されて以降、いくつかの不動産ディベロッパーやタクシー協会、商工会議所などが強力なアンチキャンペーンを繰り広げ、それに対抗してマイクロソフトやユニリーバ、大手銀行のRBSなど170の私企業が自転車レーン支持の声明を出すなど、かなりの議論になっていたのです。これは和をもって尊しとなす日本ではまずお目にかからない光景。アツいロンドンです。

 この理事会の中でも、理事のひとりで長距離バス運行会社の理事長でもある人物が「自転車事故の第一原因は自転車乗り自身だ」と発言したり(これは翌日の新聞などで叩かれましたが)、この決定についてタクシー協会会長がラジオで「ロンドンの自転車乗りは危ない。過激だ、まるでISISの戦闘員だ」と発言したり(翌日新聞記者に正されても撤回せず)、歯に衣着せないイギリス人といえどもさすがに乱暴で荒んだ空気が流れていました。これら反対派は、工事の差し止めや案の変更を求めて裁判に訴えるとしています。

 一方で、これまで自転車推進派からは「口ばかりでちっとも政策が実現しない」と評判がいまひとつだったジョンソン市長ですが、今回は大活躍だったといえましょう。そういった自転車反対派や懐疑派が何人もいる理事会の議長として、自転車を推進することがロンドン市民のクオリティ・オブ・ライフ(QOL)を上げ、経済にもプラスになることを力説。「このプランを進めたい!」という気迫が感じられました。

まじめに走ったら危険すぎる、狭すぎる自転車レーン。最近はさすがにここまで狭いところは減ってきたけれど、これがロンドンの自転車レーンの現実ですまじめに走ったら危険すぎる、狭すぎる自転車レーン。最近はさすがにここまで狭いところは減ってきたけれど、これがロンドンの自転車レーンの現実です
東西路線が通ることになる国会議事堂前の大規模ラウンドアバウトの現状。向こうから来た右折自転車は、このかすれた右折レーンを頼りに、圧迫感ある2階建てバスや気の荒いタクシーに対峙しなければならない東西路線が通ることになる国会議事堂前の大規模ラウンドアバウトの現状。向こうから来た右折自転車は、このかすれた右折レーンを頼りに、圧迫感ある2階建てバスや気の荒いタクシーに対峙しなければならない

 また、パブリックコメントがきちんと機能しているのも見てとれました。東西路線についてはトータルで1万4000通の意見が寄せられ、8割超が賛成していたなど、詳細な結果もサイトで発表されています。また、それに対応して変更された箇所も発表されています。

変化の原動力は、市民

おまけ。歩道上に色分けだけで作られた自転車レーンに、さらに無慈悲な鉄柱が…。こんな洒落にならない自転車レーンの写真を集めたサイトもあるおまけ。歩道上に色分けだけで作られた自転車レーンに、さらに無慈悲な鉄柱が…。こんな洒落にならない自転車レーンの写真を集めたサイトもある

 けれども何よりやっぱり、この変化を引き起こした原動力は、ロンドン市民だと感じています。以前少しご紹介しましたが、自転車にとってきわめて走りにくい道路状況でも果敢に自転車通勤を始め、ロンドンの交通環境を自転車を活用して改善しようと謳う市長を支持し、自転車の安全を求める大小のデモをたびたび開催し、パブコメが募集されれば多くの人が時間を割いて意見する。今回はそのひとつの成果が実ったわけです。

 理事会後、ジョンソン市長の交通問題ブレーンでジャーナリストのギリガン氏が「この自転車レーンが開通すれば、(反対派が言うような)交通のメルトダウンなどは起きず、ロンドンがこれで破綻することもなく、むしろ未来に向かう道が開いたとロンドンのみなさんが気づくことを期待しています」とコメントしていたのが印象的でした。熾烈な舞台裏だったのでしょう。まだ油断は禁物ですが、まずはみなさん、おつかれさまでした。

青木陽子青木陽子(あおき・ようこ)

ロンドン在住フリー編集者・ジャーナリスト。自動車専門誌「NAVI」、女性ファッション誌などを経て独立起業、日本の女性サイトの草分けである「cafeglobe.com」を創設し、編集長をつとめた。拠点とするロンドンで、「運転好きだけれど気候変動が心配」という動機から1999年に自転車通勤以来のスポーツ自転車をスタート。現在11台の自転車を所有する。ブログ「Blue Room」を更新中。

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