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“自転車革命都市”ロンドン便り<14>年季の入った自転車はキューバ庶民の大切な足 三輪自転車タクシーの運転も体験

by 青木陽子 / Yoko AOKI
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 ロンドンの自転車事情をご紹介している当連載「“自転車革命都市”ロンドン便り」。今回は少々脱線して休暇で旅をしたキューバで見た自転車事情をお届けします。

ハバナの街にはホイールが何か変な感じの自転車タクシーも多い。寸法がまちまちで、かなり乗りにくそう・漕ぎにくそうで心配になるものもハバナの街にはホイールが何か変な感じの自転車タクシーも多い。寸法がまちまちで、かなり乗りにくそう・漕ぎにくそうで心配になるものも

古そうなスチール製自転車だらけ

おしゃれで目をひいた男性。けっこうきれいな自転車は「フライング・ピジョン」という中国で大量に生産されていた大衆車。年代不明とのことおしゃれで目をひいた男性。けっこうきれいな自転車は「フライング・ピジョン」という中国で大量に生産されていた大衆車。年代不明とのこと

 米国との国交正常化のニュースが飛び出した旬なキューバですが、ハバネロ(ハバナの人)たちにその話題を振ると、「そりゃあもう期待してますとも! 長年待ちわびていたからね!」。それでなくてもニコニコ楽しそうな表情がさらに明るくなっていました。一緒に喜ばしく思いながらも、欧米でお馴染みのブランドロゴがほとんど目に飛び込んでこないハバナの街に、金色のMの字や緑色の人魚が現れるのも時間の問題かもしれないなぁと、ちょっと寂しく思ったりしました。

 とはいえ長年の経済制裁と厳しい禁輸措置の影響は想像以上で、庶民の質素な足である自転車にすらそれが見てとれるほどでした。まず、街を行く自転車のほぼすべてがロッド式ブレーキなのです。滞在中に1台だけ見かけた比較的新しそうなロードバイクはワイヤー式でしたが、それだけ。

 外国人観光客向けのMTBジャングルツアーなどではそこそこの車両が用意されているようですが、それは庶民とは別世界の話。新しい自転車はもちろん、パーツすら正規には国に入ってこないらしく、自転車ショップなども存在しないようです。自分では手に負えない修理は「よろず乗り物修理人」的な人のところに持っていくとか。

自転車タクシーを路上で修理中のお兄さん。サビサビで質素きわまりない工具でなんでも直してしまう自転車タクシーを路上で修理中のお兄さん。サビサビで質素きわまりない工具でなんでも直してしまう
こちらはスタッガードフレーム。やはりロッド式ブレーキ、コッタークランクという懐かしい様式。そういえば女性サイクリストは1人も見かけなかったこちらはスタッガードフレーム。やはりロッド式ブレーキ、コッタークランクという懐かしい様式。そういえば女性サイクリストは1人も見かけなかった

 見かける自転車の大半はかなり古そうなスチールフレーム。パーツ名は目を凝らしてもほとんど読み取ることができず、ヴィンテージバイクファンならお馴染みのパーツメーカー「ワインマン」のレバーを見かけたくらいでした。手作りらしきパーツも多く、消耗品にいたるまですべてのものが大切に大切に修理されつつ使われているのが見てとれました。

手に入る材料で作られた自転車タクシー

経済制裁による慢性的な大不況で、壮麗だった20世紀前半の建物はどこもボロボロ。そんな中庭に自転車タクシーのガレージもあったりする経済制裁による慢性的な大不況で、壮麗だった20世紀前半の建物はどこもボロボロ。そんな中庭に自転車タクシーのガレージもあったりする

 さて、そんな中でも目を引いたのは、たくさん走っている自転車タクシー。観光客はもちろんですが、庶民の日々の足として使われています。2人乗りの客席を引っ張る三輪車で、スタイルとしてはインドのリクシャーなど世界に多くある自転車タクシーと同じです。

 話を聞こうと乗せてもらった自転車タクシーの運転手ロケさんによると、キューバに自転車タクシーが導入されたのは70年代。中国人が持ち込んだのだそうです。「いまではもちろんキューバで生産されているよ!」とのこと。

 けれどもこの物資不足。見れば、オートバイ用の重そうなホイールだったり、客席は長距離バスや列車のもの、屋根の骨組みはコンクリートに入れる鉄筋。運転手の座席もすでにサドルでなく、鉄筋枠に透明な縄跳びロープをハンモック状に結びつけたものだったり。どうやらバイクタクシーとしての設計規格らしいものはまったくなく、手に入るものを集めては1台作るという具合のようです。

リアアクスル上の分厚い円盤(洗濯機のフライホイール?)と、リーフスプリングらしき板バネの摩擦で止まるディスクブレーキ。チェーンのテンションも古チューブで自作リアアクスル上の分厚い円盤(洗濯機のフライホイール?)と、リーフスプリングらしき板バネの摩擦で止まるディスクブレーキ。チェーンのテンションも古チューブで自作

 せっかくなので、ロケさんにお願いしてわたしも少し運転させてもらうことに。平坦な道だったけれど、シングルギア、後ろに1人乗せた状態でゼロからの発進はかなり重い! 立ち漕ぎでよいしょーっとペダルを踏んでようやく転がり始める感じでした。

 それに加えて三輪なので、ただでさえ強烈な穴ぼこだらけのハバナの裏道ではかなりハンドルがとられるのも恐怖。ブレーキは後輪の車軸(アクスル)に直付けされたオリジナルのディスクブレーキをフットペダルで引くしくみになっています。客席に座っている分にはけっこう快適だったけれど、運転にはそれなりの熟練が必要なようです。

 以下の動画はハバナの観光名所、旧市街近くを走る自転車タクシー。自転車タクシーを試乗する様子もご覧ください(漕ぎ手はわたしのパートナー)。

営業車は国のもの 修理は自力で

 そしてロケさんが運転していた車両はロケさんのものではなく、国のものだそう。共産主義国なので自転車タクシーも国営なのです。

 この車両で営業するために、ロケさんは月に300キューバペソ(およそ1400円)を払っています。また自転車タクシーのお値段は、600CUC(外国人用通貨、およそ7万円)もするのだとか。ロケさんは、「だいたいの修理は自分たちでできるけれど、出費がかさむのはタイヤ交換。1本30CUC(3600円)くらいするから大切に使うしかない」と話していました。

写真右が生粋のハバネロ(ハバナ人)、ロケさん。39歳というけれど、引き締まったからだつきでだいぶ若くみえる。7歳と6歳の女の子がふたりいるとか写真右が生粋のハバネロ(ハバナ人)、ロケさん。39歳というけれど、引き締まったからだつきでだいぶ若くみえる。7歳と6歳の女の子がふたりいるとか
ロケさんの自転車タクシー。コッタークランクにいまどきなフラットペダル。向こうに見える横棒がブレーキを引くロッドロケさんの自転車タクシー。コッタークランクにいまどきなフラットペダル。向こうに見える横棒がブレーキを引くロッド

 お世辞にも高性能とはいえない手作り三輪自転車タクシー。ほとんどの車両は前後ともライトはありません。夜は、街灯や自動車のライトを頼りに走っています。それでも事故はあまりないといいます。道を行くほかの車両には、50年代に名を馳せた大きなアメ車がまだまだ多いし、都市間を結ぶ主要道路でもなければ、ハバナの道路の平均速度は時速20kmをようやく超えるくらい。バスもクルマも自転車も、仲良くわらわらと混ざって走っているのです。

今回見かけた唯一のワイヤー式ブレーキ装備車というか、唯一のちゃんとしたロードバイク。外国との繋がりが強い人と思われる今回見かけた唯一のワイヤー式ブレーキ装備車というか、唯一のちゃんとしたロードバイク。外国との繋がりが強い人と思われる

 スポーツカーが手に入らないのか、日本とほぼ同じ値段のガソリンが高すぎるのか、クルマで威張るという資本主義的な虚栄心がないのか、その全部なのか――いずれにせよ、道路事情ひとつからもいろいろ考えさせられました。

 自転車タクシーでは、旧市街までの1kmちょっとを乗りました。話を聞かせてもらったお礼も含めて、相場より多めの3CUC(360円)をロケさんに気持ちよく払ったけれど、地元の人たちはその10分の1、20分の1、もしかしたらもっと低い料金で乗っているのかもしれません。ここまで観光客価格と地元民価格が激しく乖離しているところを旅したのは初めてだったけれど、国の内外でひどい貨幣価値差がついていて、国の外貨獲得源がほぼ観光しかないキューバの事情を考えれば仕方ないと思ったのでした。

◇         ◇

 最後に、ハバナの自転車事情について検索をかけていて見つけたショートフィルム「Havana Bikes」をご紹介します。わたしの見たハバナの自転車やその文化もまさにこれだったのです。

 グレードの高いコンポーネントを買い求めては、外したパーツを下手したら捨ててしまう…というような、自転車に対する自分たちの態度を思わずにはいられません。今回の旅が、いわば初心に戻って自転車をもっと愛しく大切に楽しむきっかけにもなった気がしています。

青木陽子青木陽子(あおき・ようこ)

ロンドン在住フリー編集者・ジャーナリスト。自動車専門誌「NAVI」、女性ファッション誌などを経て独立起業、日本の女性サイトの草分けである「cafeglobe.com」を創設し、編集長をつとめた。拠点とするロンドンで、「運転好きだけれど気候変動が心配」という動機から1999年に自転車通勤以来のスポーツ自転車をスタート。現在11台の自転車を所有する。ブログ「Blue Room」を更新中。

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