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ツール・ド・フランスさいたまクリテリウムで花束を贈呈「生きてこの日を迎えられてよかった」 生体肝移植を受けた母、宮澤崇史の引退を見守る

by 上野嘉之 / Yoshiyuki KOZUKE
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 今季限りでの引退を表明し、10月25日の「ツール・ド・フランスさいたまクリテリウム」でラストランを飾った宮澤崇史(ヴィーニファンティーニ・NIPPO・デローザ)。その晴れ舞台を、母の純子さん(66)がコース脇から温かく見守っていた。純子さんは肝臓病を患って生体肝移植が必要と診断され、2001年に宮澤から肝臓の一部の提供を受けた。親子で紡いだ命の絆。宮澤の最後の走りを見つめながら、純子さんは「生きてこの日を迎えられてよかった」と語った。

ツールドフランスさいたまクリテリウムのレース後、宮澤崇史をねぎらう純子さん (上野嘉之撮影)ツールドフランスさいたまクリテリウムのレース後、宮澤崇史をねぎらう純子さん (上野嘉之撮影)

選手生命を賭けて母に臓器提供

 純子さんは宮澤が6歳のときに夫に先立たれ、女手ひとつで子育てに励んできた。経済的にも苦しかったが、宮澤が自転車競技を志したときには、自転車を借りてきて与えたという。

 しかし、宮澤が国内外のレースで順調に実績を重ねていく中、純子さんは肝臓の病状が悪化。宮澤は21歳のとき、自身の肝臓を切って母に提供することを決断した。純子さんは当時を振り返り、「崇史がレースに戻れるか心配でした。でも崇史の肝臓は少し大きめだったおかげで、手術後の回復も順調でした」と語る。

 選手生命を賭けて母に肝臓の一部を提供した宮澤は、その後競技に復帰し、全日本ロードやアジア選手権ロードで優勝するなど華々しい活躍を続けた。しかし純子さんは、Cyclistの取材にこう打ち明けた。

 「崇史の選手生命が終わるまで私が生きられるか、心配でした。私の前後に手術を受けた方は、もうほとんど生きていない。私は生きてこの日を迎えられてよかった」

 その言葉の裏には、臓器提供の負担を乗り越え、トップ選手として頑張っている息子に対し、自分が病気に負けてはいけないという強い意思が込められていた。

マイヨジョーヌと共に先頭を疾走

引退セレモニーに臨んだ(左から)宮澤崇史、妻の花菜子さん、母の純子さん (平澤尚威撮影)引退セレモニーに臨んだ(左から)宮澤崇史、妻の花菜子さん、母の純子さん (平澤尚威撮影)

 純子さんは、前週に宇都宮市で開かれたジャパンカップサイクルロードレースでも宮澤を応援したかったというが、体調を崩して入院し、現地に足を運べなかった。そしてこの日、さいたまクリテリウムを訪れた純子さんを待ち受けていたのは、引退セレモニーで息子に花束を渡すサプライズの大役だった。

マイヨジョーヌを着るヴィンチェンツォ・ニバリ(左)、山岳賞ジャージのラファウ・マイカ(右)を従えてトップを走る宮澤崇史 (平澤尚威撮影)マイヨジョーヌを着るヴィンチェンツォ・ニバリ(左)、山岳賞ジャージのラファウ・マイカ(右)を従えて先頭を走る宮澤崇史 (平澤尚威撮影)

 「ツール・ド・フランスを走りたい」と自転車競技を始めた宮澤は、現役選手としてその夢を実現することはできなかった。しかし最後に、ツール・ド・フランスの名を冠したさいたまクリテリウムで、ツールの総合リーダージャージ「マイヨジョーヌ」を着たヴィンチェンツォ・ニバリ(イタリア、アスタナ・プロチーム)、山岳賞ジャージを着た元チームメイトのラファウ・マイカ(スロバキア、ティンコフ・サクソ)らと共に逃げを打ち、大観衆の前で先頭を走ってみせた。その勇姿は、純子さんの瞳にしっかりと焼きついた。

 「本当は私、レース会場で大きな声を出してさわぐのが好き。自転車バカなんですよ」と笑う純子さん。宮澤の最後のレースでも、沿道から「もっと頑張れ!」と活を入れたという。

レース後、新城幸也(右)から花束を贈られる宮澤崇史 (上野嘉之撮影)レース後、新城幸也(右)から花束を贈られる宮澤崇史 (上野嘉之撮影)
レース後、ヴィーニファンティーニ・NIPPO・デローザのチームメイトとして走った(左から)山本元喜、秋丸湧哉、石橋学と握手を交わす宮澤崇史 (上野嘉之撮影)レース後、ヴィーニファンティーニ・NIPPO・デローザのチームメイトとして走った(左から)山本元喜、秋丸湧哉、石橋学と握手を交わす宮澤崇史 (上野嘉之撮影)

 レース後、宮澤に「お疲れ様」と声をかけた純子さん。「ツール・ド・フランスは走れなかったけれど、何位になったかよりも、自分なりに挑戦して走り続けてくれたことが嬉しいです」と息子の選手生活を称えた。そして「皆さんに支えられたおかげでここまでこられました」と、宮澤のファンや関係者全員に対する謝意を述べた。

息子の晴れ舞台を見届けて笑顔を見せる宮澤純子さん (上野嘉之撮影)息子の晴れ舞台を見届けて笑顔を見せる宮澤純子さん (上野嘉之撮影)

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2014ツール・ド・フランスさいたまクリテリウム チームNIPPO 宮澤崇史

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