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福光俊介の「週刊サイクルワールド」<74>有力選手の好不調がくっきり ブエルタ・ア・エスパーニャ第1週を振り返る

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 ブエルタ・ア・エスパーニャは、9月1日に1回目の休息日を終え、2日から第2週目の戦いが始まります。9日間にわたるこれまでの戦いでは、難関山岳ステージこそ2つだったものの、総合争いを混沌とさせるに十分なドラマがありました。また、好調なスプリンターの存在や、新鋭の登場なども、今後の戦いに期待を持たせています。そこで、第1週目の結果を分析し、残り2週の展開を探ってみたいと思います。

コンタドールがブエルタ出場を決めるまでの経緯

 ブエルタをJ SPORTSの中継でご覧になっている方であれば、8月31日の第9ステージに解説者として出演した中野喜文さん(ティンコフ・サクソマッサー)が語った、アルベルト・コンタドール(スペイン、ティンコフ・サクソ)の出場経緯を聞いて驚いたことだろう。

けが明けのレースとなったブエルタで快調な走りを見せるアルベルト・コンタドール(ブエルタ・ア・エスパーニャ2014第5ステージ)<砂田弓弦撮影>けが明けのレースとなったブエルタで快調な走りを見せるアルベルト・コンタドール(ブエルタ・ア・エスパーニャ2014第5ステージ)<砂田弓弦撮影>

 ツール・ド・フランスで落車・負傷し、リタイアした後のコンタドールの動静については、いくつかのリーク情報があったものの、経験豊富なジャーナリストでさえその真偽を確かめることができないまま、ブエルタを迎えていた。

 しかし中野さんによると、コンタドールはツールをリタイアしてすぐにブエルタ出場の意思を固めていたそうだ。治療に努めていた期間も、ホームトレーナー(ローラー)を使って片足だけのトレーニングを進めるなど、できる限りコンディション調整を図っていたという。

 レース復帰への障害として懸念されたのは、骨折した右ひざ下の頚骨よりも、深い裂傷だったという。傷口がなかなかふさがらず、急きょスイスの自宅に呼び寄せたスペイン人医師の診断の結果、傷の中に砂などの異物が入り込み、それが違和感の原因だったことが判明。未だ傷口の抜糸はしていないようだが、ダンシングができるまでに回復し、晴れてブエルタ参戦が実現した。

 こうした情報は、現地(ヨーロッパ)のジャーナリストでも得られなかったはずで、選手を間近で見ているスタッフだからこそ知り得た、一種の“特ダネ”といえるだろう。

“化かし合い”の様相を呈するブエルタ

 近年のサイクルロードレースは、大会の規模が大きくなればなるほど「情報戦」の趣が強くなる。

 例えば、あるビッグネームが早くからツール出場を明言すると、他の有力どころも1人、また1人と追随する傾向にある。また有力選手は、出場レースや大まかなトレーニング進捗状況を隠すのではなくオープンにし、自身のクリーンさを証明すると同時に、ライバル、さらにはファンに対して存在感をアピールをしている向きがある。プロスポーツである以上、レースを外から盛り上げる要素も重要であり、こうした動きこそトッププロの証であるともいえる。

 一方で、こと勝負の行方を左右する事象になると、“化かし合い”の雰囲気が漂う。選手たちにとって、勝つか負けるかは人生を左右する一大事であるからこそ、定の線引きのもとで「オープン」と「クローズ」を使い分ける。これができることも、トッププロに必要な資質かもしれない。

 ビッグネームがひしめく今回のブエルタは、とにかく“化かし合い”となっている。前述のコンタドールの出場経緯もそうだが、ここ数日の最たる例としては、ダブルエース態勢のモビスター チームが挙げられる。

アレハンドロ・バルベルデは総合3位に後退しながらも、マイヨロホはチームメートのキンタナへ(ブエルタ・ア・エスパーニャ2014第9ステージ)<砂田弓弦撮影>アレハンドロ・バルベルデは総合3位に後退しながらも、マイヨロホはチームメートのキンタナへ(ブエルタ・ア・エスパーニャ2014第9ステージ)<砂田弓弦撮影>

 総合首位の証であるマイヨロホを第3ステージと第7~9ステージまで着用したアレハンドロ・バルベルデ(スペイン)が「エースは(ナイロアレクサンデル・)キンタナだ」と言えば、そのキンタナは「どちらかが勝てればOKだ」と口にする。結局、どちらが第1エースなのかが見えてこない。

 第9ステージを終えて、マイヨロホはキンタナへと移ったが、当人は総合トップに立っても従来のコメントを崩さない。バルベルデも「まずチーム内でマイヨロホを留められたことが一番。実際に着用するのはどちらでも構わない」と、マスコミやファンを煙に巻く。2人の実力と、現在の調子を勘案すれば“2人立て”で総合上位を狙うことは大いに可能だが、1つのミスで共倒れになってしまう危険性も否定できない。今後どう戦うかが見ものである。

 これらの例に限らないが、選手やチーム首脳陣のコメントですべてを図ることは、このブエルタにおいては特に難しいようだ。結局のところ、その真意と真偽を知る術は、レースを観ることしかないだろう。

浮き彫りになった“ビッグ5”のコンディション

 戦いが3週間にも及ぶグランツールの場合、第1週目は各選手とも様子を見ながら走るというのが従来の常識だった。近年では序盤戦から激坂ステージや、難易度の高いコースが用いられることも増えているが、それでも有力選手が重要視するのは「ライバルから後れをとらないこと」。しっかりとメーン集団をキープし、ステージ優勝をせずとも好位置でゴールすることが求められる。

 その観点で今回のブエルタを見ていくと、第1週目をしっかりまとめたのはコンタドールだろうか。いや、彼にとって「大成功の週」と言えるだろう。

アタックしたコンタドール(中央)がタイムを稼ぎ、ロドリゲス(左)とキンタナも食らいついた(ブエルタ・ア・エスパーニャ2014第9ステージ)<砂田弓弦撮影>アタックしたコンタドール(中央)がタイムを稼ぎ、ロドリゲス(左)とキンタナも食らいついた(ブエルタ・ア・エスパーニャ2014第9ステージ)<砂田弓弦撮影>

 けがからの回復が順調、というだけではない。勝負に焦点を絞って見ても、第1ステージのチームタイムトライアルで失ったタイムを、2つの山岳ステージ(第6、第9ステージ)でほぼ取り戻した点は非常に頼もしい。そして何より、好調であることを証明した。第9ステージでは、勾配が最も厳しくなるポイントで渾身のアタック。その後、ゴールにかけて幾分失速したことから、完調とは言い難いが、戦いが残り2週間あることを考えれば、日々調子を上げていくことは容易に想像できる。

3週目にかけて尻上がりに山岳での強さを見せるナイロアレクサンデル・キンタナ(ブエルタ・ア・エスパーニャ2014第5ステージ)<砂田弓弦撮影>3週目にかけて尻上がりに山岳での強さを見せるナイロアレクサンデル・キンタナ(ブエルタ・ア・エスパーニャ2014第5ステージ)<砂田弓弦撮影>

 続くのは、キンタナか。決して劇的な走りを見せたわけではない。第6ステージではライバル達から若干の遅れを喫し、横風分断が起こった第8ステージでは一時後方に取り残される場面もあった。上りでの爆発力がまだ鳴りを潜めているほか、平地でのライディングに苦心している様子も見受けられる。第9ステージを終えてマイヨロホを着ているとはいえ、ここまでギリギリの線で踏みとどまってきた印象はある。

 とはいえ、ひとまずは大きな浮き沈みなく走ってきたともいえる。キンタナの魅力は、尻上がりに調子を上げる点だ。山岳が険しくなる第2週目以降で力を発揮してくることだろう。マイヨロホを獲得した第9ステージ終了後のインタビューで「最大のライバルはコンタドール」と述べるなど、今後の戦いをしっかりと見据えている。

第1週は無難に終えたホアキン・ロドリゲス(ブエルタ・ア・エスパーニャ2014第4ステージ)<砂田弓弦撮影>第1週は無難に終えたホアキン・ロドリゲス(ブエルタ・ア・エスパーニャ2014第4ステージ)<砂田弓弦撮影>

 比較的静かな第1週目となったのは、ホアキン・ロドリゲス(スペイン、チーム カチューシャ)。第6ステージではアタックに失敗したが、第9ステージでコンタドールを追い上げた様子を見る限り、状態は上向きか。第10ステージの個人タイムトライアルを終えた段階で、その後に控える山岳ステージでのプランを練ることになるだろう。

 第9ステージを終えて総合3位ながら、レースが大きく動いたこのステージで苦しんだバルベルデ。ステージごとの浮き沈みが総合成績にどう影響するか。求められるのは、取りこぼしを防ぐことだ。爆発的なアタックを持つライバルに対して、どのように対応するかがカギとなる。また、チームメイトのキンタナとの関係も注目されるところだ。

コンディションが不安視されるクリストファー・フルーム(ブエルタ・ア・エスパーニャ2014第9ステージ)<砂田弓弦撮影>コンディションが不安視されるクリストファー・フルーム(ブエルタ・ア・エスパーニャ2014第9ステージ)<砂田弓弦撮影>

 そして気がかりなのはクリストファー・フルーム(イギリス、チーム スカイ)の状態だ。コンタドールらから後れをとった第9ステージは、それまでの猛暑から冷雨へとコンティションが急変したことが影響したのかもしれない。そして、これはあくまでも筆者の視点ではあるが、上りで有力選手がペースアップを図るとポジションを下げがちになる点や、中間スプリントポイントや上りゴールでタイム差稼ぎのスプリントにたびたびトライする点などは、気になった点として挙げておきたい。特にスプリントに関しては、「上りでライバルに差を広げられない分、別の形でタイムを奪おうとしているのではないか」と捉えることもできよう。考えすぎだろうか。

 いずれにせよ、第10ステージの個人タイムトライアル(36.7km)でその力関係を把握することができるだろう。個の力が試されるステージで、各選手のコンディションがよりはっきりするはずだ。その後の戦いにも直結することは間違いない。

ダークホースは? 台頭が期待される選手たち

独走でプロ初勝利を挙げたウィナーアンドルー・アナコナ(ブエルタ・ア・エスパーニャ2014第9ステージ)<砂田弓弦撮影>独走でプロ初勝利を挙げたウィナーアンドルー・アナコナ(ブエルタ・ア・エスパーニャ2014第9ステージ)<砂田弓弦撮影>

 総合優勝争いの中心となる“ビッグ5”に風穴を開けるような新勢力の台頭にも期待がかかる。その筆頭格には、第9ステージで見事な逃げ切り勝利を飾ったウィナーアンドルー・アナコナ(コロンビア、ランプレ・メリダ)を推していいだろう。

 8月上旬のツアー・オブ・ユタ(アメリカ、UCI2.1)で総合3位。ブエルタ2連覇がかかっていたチームメートのクリストファー・ホーナーのアシストを務めてのリザルトである。当初はブエルタでもホーナーの山岳アシストを務める予定だったが、そのホーナーが大会直前に離脱。急きょアナコナにエースの役割が回ってきた。

 第8ステージでは、横風分断により後方へと取り残されてしまったが、その分の遅れを取り戻す翌日の快走。トップから9秒差の総合4位へと浮上し、第2週目はマイヨロホ争いに加わる。

 総合トップから2分以内に16選手が名を連ねており、どの選手も展開次第では総合でのジャンプアップがり得る。百戦錬磨の選手たちに並んで総合10位につけるワレン・バルギル(フランス、チーム ジャイアント・シマノ)や、初のグランツールながら総合12位と健闘しているヨアンエステバン・チャベス(コロンビア、オリカ・グリーンエッジ)らも、大きく飛躍するチャンスを迎えている。

大会2勝目を挙げたナセル・ブアニ(左)。マイケル・マシューズ(右)は第3ステージで勝利している(ブエルタ・ア・エスパーニャ2014第8ステージ)<砂田弓弦撮影>大会2勝目を挙げたナセル・ブアニ(左)。マイケル・マシューズ(右)は第3ステージで勝利している(ブエルタ・ア・エスパーニャ2014第8ステージ)<砂田弓弦撮影>

 平坦ステージは残り2つとなっており、スプリンターにとっては出る幕が限られてきてしまっているが、ジョン・デゲンコルプ(ドイツ、チーム ジャイアント・シマノ)、ナセル・ブアニ(フランス、エフデジ ポワン エフエル)、マイケル・マシューズ(オーストラリア、オリカ・グリーンエッジ)が引き続きスプリントでの中心的存在に。3選手ともに、ブエルタ後の世界選手権では母国ナショナルチームのエーススプリンターを担う可能性が高く、ブエルタはコンディション調整も兼ねつつの戦いとなるようだ。

シャヴァネルが復活優勝 GPウエストフランス・プルエー

 UCIワールドツアーは、夏から秋にかけてのクラシックシーズンを迎えている。ブエルタの盛り上がりをよそに、フランスではGPウエストフランス・プルエー(229km)が開催された。

シルヴァン・シャヴァネルが少人数スプリントを制した(GPウエストフランス・プルエー2014)<©Elen Rius>シルヴァン・シャヴァネルが少人数スプリントを制した(GPウエストフランス・プルエー2014)<©Elen Rius>

 終盤にメーン集団から抜け出した7人によるスプリントを制したのは、シルヴァン・シャヴァネル(フランス、イアム サイクリング)。移籍1年目となる今シーズン、狙いを定めていた北のクラシック、ツール・ド・フランスともに不発に終わっていたが、ここへ来ていよいよエンジンがかかってきた印象だ。

 この勝利もあり、世界選手権に向けた期待も高まっているようだ。スペイン・ポンフェラーダのコースはアタックや独走力が魅力のシャヴァネル向きでもあり、順調にいけばフランス代表のエースを務めることとなるだろう。

 また、新城幸也(チーム ヨーロッパカー)、別府史之(トレック ファクトリーレーシング)も参戦。新城は2秒遅れのメーン集団でゴールし47位。ジャコモ・ニッツォーロ(イタリア)のアシストをこなした別府は1分13秒遅れの100位でレースを終えている。

今週の爆走ライダー … ヨアンエステバン・チャベス(コロンビア、オリカ・グリーンエッジ)

「爆走ライダー」とは…

1週間のレースの中から、印象的な走りを見せた選手を「爆走ライダー」として大々的に紹介! 優勝した選手以外にも、アシストや逃げなどでインパクトを残した選手を積極的に選んでいきたい。

 これまでスプリントやチームタイムトライアルで勝利を量産してきたオリカ・グリーンエッジだが、このブエルタでは24歳のコロンビア人ライダーをエースとして送り込んでいる。

 チームにとって、チャベスを迎え入れることは賭けでもあった。チームコロンビアに所属した2013年シーズン、2月のトロフェオ・ライグエリア(イタリア)で大クラッシュ。6カ所を骨折したほか、肺も損傷し、シーズンを完全に棒に振ってしまっていた。

 それでも、彼にはアンダー23時代に築いた豊富な実績があった。「未来のツール・ド・フランス」と呼ばれる若手の登竜門、ツール・ド・ラヴニールで2011年に総合優勝、2012年にはブエルタ・ア・ブルゴスでトッププロと堂々渡り合い、その後の世界選手権U23では6位。いずれはトップチームで走るだけの力を持つ選手だと言われ続けていた。

グランツール初出場ながら総合上位につけるヨアンエステバン・チャベス(ブエルタ・ア・エスパーニャ2014第6ステージ)<砂田弓弦撮影>グランツール初出場ながら総合上位につけるヨアンエステバン・チャベス(ブエルタ・ア・エスパーニャ2014第6ステージ)<砂田弓弦撮影>

 大けがもあって、獲得に動いたのは現チームのみ。だからこそ、期待に応える走りがしたいと意気込んだ。5月のツアー・オブ・カリフォルニアで第7ステージを制すると、翌月のツール・ド・スイスでは第8ステージで優勝。センセーショナルなデビューで関係者を驚かせた。

 スイス以降は、ブエルタに向けてみっちりトレーニング。レース出場も控えた。そして迎えた本番では、山岳で積極的に集団前方を走る姿が見られる。第1週を終えて総合12位。今後のコンディション次第では、“大物食い”を果たしても不思議ではない。

 過去のけがの心配はもう必要ない。いまや一大勢力となったコロンビア勢の一角として、ビッグネームを脅かす存在となるのは時間の問題だ。それがいつになるのか。もしかすると、このブエルタがその時かもしれない。身長164cmの小さな体に秘められた大いなる可能性から目を離してはならない。

文 福光俊介

福光俊介福光俊介(ふくみつ・しゅんすけ)

自転車ロードレース界の“トップスター”を追い続けて十数年、気がつけばテレビやインターネットを介して観戦できるロード、トラック、シクロクロス、MTBをすべてチェックするレースマニアに。2011年、ツール・ド・フランス観戦へ実際に赴いた際の興奮が忘れられず、自身もロードバイク乗りになる。自転車情報のFacebookページ「suke’s cycling world」も充実。本業は「ワイヤーママ徳島版」編集長。

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