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U23世界戦出場に向けてUCIポイント獲得標高3500mのステージレース 「ツアー・オブ・チンハイレイク」でNIPPO勢が活躍

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 中国内陸部の高地を舞台とするUCIアジアツアー「ツアー・オブ・チンハイレイク」が、7月6~19日の14日間にわたって開催された。日本からはヴィーニファンティーニ・NIPPO・デローザが参戦し、4人の日本人選手も出場。チームとしてスプリントでのステージ優勝を狙ったほか、U23(23歳未満)の若手選手によるUCIポイント獲得も大きな目標とされた。休息日1日を挟んだ13ステージで総走行距離は2205km、しかも標高3500mの峠を何度も越えるという、極めて過酷なレースを追った。(レポート 田中苑子)

第6ステージ序盤、壮大な岩山の中を走り抜ける © Aaron Lee / 7cycling第6ステージ序盤、壮大な岩山の中を走り抜ける © Aaron Lee / 7cycling

“アジアツアー最高峰”は文字通りの高山ステージレース

 今年で13回目となるツアー・オブ・チンハイレイク。同大会はUCIアジアツアー最高峰となる超級カテゴリーのステージレースであり、中国内陸部の西寧を起点にして、青海湖(チンハイレイク)を一周し、天水、蘭州などの地方都市を回る壮大なレースだ。近年、徐々に開催期間を延長し、同時期に開催されているツール・ド・フランスに挑むようにしてアジア最大のレースに成長した。

第2ステージ、ゴール地点に集まったたくさんの観客たち第2ステージ、ゴール地点に集まったたくさんの観客たち
荘厳な寺院の前を通過する選手たち荘厳な寺院の前を通過する選手たち
ゴール地点の観戦に訪れた親子。青海湖周辺の少数民族の街にてゴール地点の観戦に訪れた親子。青海湖周辺の少数民族の街にて
岩山の上からレースを観戦する男性と女児 © Aaron Lee / 7cycling岩山の上からレースを観戦する男性と女児 © Aaron Lee / 7cycling

 そして最大の特徴は、平均で海抜2265mという高地で開催されること。青海湖は標高約3200m地点にあり、その周囲で選手たちは標高3500mを超える峠を何度も越える。つまり、標高だけで言うなら、富士山の山頂付近で繰り広げられるようなレースだ(昨年は4800mを超える山岳も登場したのだとか…)。

レース前にマッサージを受ける宮澤崇史レース前にマッサージを受ける宮澤崇史

 一般的に、高山病は標高2400mを超えると人によって発症すると言われている。レースのスタート地点となる西寧はちょうど海抜2400mに位置する。酸素の薄い高地に身体を慣らすため、どのチームもレース開始2日前には現地入りし、強度の低いトレーニングライドをしながら、ゆっくりと過ごした。主催者によるメディカルチェックを受けてスタートラインに立ったが、やはり選手によっては、通常よりもパフォーマンスを発揮しにくく、頭痛など高山病のような症状を訴える関係者も少なくなかった。とはいえ、特に標高の高いエリアは前半だけ。第5ステージで青海湖のある高地エリアから離れると、海抜2000m前後の街まで下ったため、関係者たちはホッと胸をなでおろした。

青海湖の名物は羊の放牧。毛を刈られて少し寒そうな羊たちの横を選手たちが通過する © Aaron Lee / 7cycling青海湖の名物は羊の放牧。毛を刈られて少し寒そうな羊たちの横を選手たちが通過する © Aaron Lee / 7cycling
厳しい山岳ステージを終えた黒枝士揮。酸素の薄い高地であるため、思うようなパフォーマンスを発揮できない厳しい山岳ステージを終えた黒枝士揮。酸素の薄い高地であるため、思うようなパフォーマンスを発揮できない
たくさんの羊毛を積んで出荷の途中にレース観戦するモンゴル系民族たくさんの羊毛を積んで出荷の途中にレース観戦するモンゴル系民族
第8ステージで逃げる石橋学第8ステージで逃げる石橋学
ゴール後に子どもと一緒に記念撮影に応じる石橋学ゴール後に子どもと一緒に記念撮影に応じる石橋学

実力が拮抗するチーム同士の熱い戦い

 出場したのは、5つのプロコンチネンタルチームを筆頭にした22チーム、全182選手。同じアジアの超級ステージレース、ツール・ド・ランカウイ(マレーシア)には、シーズン初めの2月ということもあってワールドツアーチームが5、6チーム出場するが、それに比べると参加チームのレベルは下がる。しかし、5つのプロコンチネンタルチームに加え、ディフェンディングチャンピオンのミルサマ・ポルセイエディゴラゴール(イラン)擁するタブリーズ・ペトロケミカルや、日本のヴィーニファンティーニ・NIPPO・デローザ、フランスのラポム・マルセイユなど、実力の拮抗するコンチネンタルチームが競り合う形となり、総合優勝争い、ステージ争いともに日々熱戦が繰り広げられた。

青海湖畔、菜の花が咲く草原を駆け抜ける © Aaron Lee / 7cycling青海湖畔、菜の花が咲く草原を駆け抜ける © Aaron Lee / 7cycling
第10ステージではリーダージャージを着るイリヤ・ダビデノック(カザフスタン、アスタナコンチネンタル)がゴールスプリントを制した第10ステージではリーダージャージを着るイリヤ・ダビデノック(カザフスタン、アスタナコンチネンタル)がゴールスプリントを制した

 総合優勝したのは、イリヤ・ダビデノック(カザフスタン、アスタナコンチネンタル)。登坂でもスプリントでも抜きん出た強さを誇り、チームワークも抜群だった。第10ステージは、最後のラインレースとなり、途中で2つのカテゴリー山岳を越える難易度の高い223km。総合成績を左右する最後のステージとみられていたが、ダビデノックはライバルたちに隙を与えず、少人数に絞られた先頭集団でのゴールスプリントを制して、総合リーダーのイエロージャージを着ながらステージ優勝。最終的に総合2位のミカイロ・コノネンコ(ウクライナ、コルス)と42秒の僅差ながら、チーム一丸となってリードを守り切った。

日本人U23選手に課せられたUCIポイント獲得の使命

 ヴィーニファンティーニ・NIPPO・デローザは、今年5月のツアー・オブ・ジャパンでポイント賞を獲得したグレッガ・ボレ(スロベニア)、21歳のエドワード・グロス(ルーマニア)、そして宮澤崇史らスプリンター中心の布陣で臨み、ステージ優勝を目指した。第6ステージでボレとピエールパオロ・デネグリ(イタリア)がワンツーフィニッシュ、第12ステージではグロスがステージ優勝するなどの活躍を見せた。その一方で、黒枝士揮、石橋学、小石祐馬のU23カテゴリー3選手には、チームでの仕事だけでなく、U23世界選手権への日本選手出場枠確保に向けて、UCIポイントを獲得するという使命が課せられた。

第6ステージでボレとデネグリがワンツーフィニッシュを決めたヴィーニファンティーニ・NIPPO。勝利の裏には石橋学の好アシストがあった第6ステージでボレとデネグリがワンツーフィニッシュを決めたヴィーニファンティーニ・NIPPO。勝利の裏には石橋学の好アシストがあった
第6ステージ、ワンツーフィニッシュを決めて喜び合うヴィーニファンティーニ・NIPPOの選手たち第6ステージ、ワンツーフィニッシュを決めて喜び合うヴィーニファンティーニ・NIPPOの選手たち
スタート前に緊張した面持ちでサングラスをかける黒枝士揮スタート前に緊張した面持ちでサングラスをかける黒枝士揮
レースを終えた宮澤崇史が水分補給をする。平地では真夏のような暑さにレースを終えた宮澤崇史が水分補給をする。平地では真夏のような暑さに

 6月25日付けのUCI国別ランキング(U23)で日本は9位(16ポイント)に付けており、U23世界選の出場枠が与えられる7位まで5ポイント差という位置。世界選手権の出場枠は8月15日付けのランキングで決まり、UCIアジアツアーでは、ツアー・オブ・チンハイレイクが期限までの最終レースとなるため、ここでのポイント獲得がラストチャンスになる可能性が高い。

 超級カテゴリーのステージレースの場合、各ステージ上位8位までにUCIポイントが与えられ、1位で20ポイント、8位で2ポイントと順位に応じたポイントが設定される。他のライバル国の獲得ポイントはわからないが、日本にとって、最低でも5ポイント差を埋めないかぎり、世界選手権出場枠を獲得できる可能性は途絶えてしまうのだ。

 U23カテゴリーの若手選手にとって、ジャパンカップと同じ超級カテゴリーでの上位入賞は決して容易な目標ではない。大会前半は標高3500m級の険しい山々が登場するため力を温存し、青海湖を下ってから後半の平坦ステージに、黒枝でゴールスプリントを狙う作戦を立てた。そして休息日明けの第9ステージで黒枝がステージ7位に入り、念願のUCIポイントを4ポイント獲得した。

山岳ステージをグルペットでこなす黒枝士揮山岳ステージをグルペットでこなす黒枝士揮
メカニックの作業を興味津々に見守る回族の男性や子どもたちメカニックの作業を興味津々に見守る回族の男性や子どもたち
チームが滞在するホテルにて、従業員の女性が写真を撮るチームが滞在するホテルにて、従業員の女性が写真を撮る
第8ステージ、超級山岳の山頂に向けて逃げる石橋学ら7選手 © Aaron Lee / 7cycling第8ステージ、超級山岳の山頂に向けて逃げる石橋学ら7選手 © Aaron Lee / 7cycling
第9ステージ、ステージ7位でゴールした黒枝士揮第9ステージ、ステージ7位でゴールした黒枝士揮
標高が高いため、晴れると強烈な日差しに見舞われる。毎朝念入りに日焼け止めを塗る標高が高いため、晴れると強烈な日差しに見舞われる。毎朝念入りに日焼け止めを塗る

 ただ、喜べたのも束の間だった。4ポイントでは逆転できないため、さらなるポイントが必要だったが、チャンスに恵まれないまま、第11、第12ステージと狙っていた平坦ステージも過ぎ、ついに最終日の第13ステージを迎えてしまった。「大門監督からも、ナショナルチームの浅田監督からもポイントを取るように言われた。このままでは帰れない…」。3選手の表情に悲壮感が漂う。しかし、プレッシャーをはねのけてこそ、真のスプリンター。黒枝がラストチャンスの第13ステージで見事に6位となり、この日だけで5ポイントを加算。U23の日本人3選手はこのステージレースで計9ポイントを獲得した。

最終日、第13ステージで黒枝士揮が6位でゴール最終日、第13ステージで黒枝士揮が6位でゴール
最終ステージを終え、無事に課題であったUCIポイントを獲得したU23カテゴリーの日本人3選手最終ステージを終え、無事に課題であったUCIポイントを獲得したU23カテゴリーの日本人3選手
第12ステージのスタートラインに立つ黒枝士揮。プレッシャーのなかでのレースが続いていた第12ステージのスタートラインに立つ黒枝士揮。プレッシャーのなかでのレースが続いていた

 「プレッシャーのかかるレースでしたが、我慢して、そして最後にチャンスが巡ってきたときに無事にポイントを取ることができて良かったです。ただ、勝ちたい一方で、ポイントを取らないといけないとも考え、少し守りの走りになってしまったように思います。いつもゴールスプリントでは前で勝負できていたので、今後このクラスの大会では自信をもって勝ちを狙いにいきます」

 そう語る黒枝をはじめ、4人の日本人選手にとって収穫のある大会となった。小石祐馬も積極的にアタックに反応し、急きょ参戦が決まった石橋学も強力に集団をコントロールするなどして、チームから高い信頼を得ていた。

 宮澤崇史も全日本選手権では不調に見舞われたが、中国に入ると調子は上向いた。第1ステージで5位に入賞した後、苦手な寒い雨の山岳ステージを乗り切り、日々コンディションを上げていった。「成績だけでなく、自分の調子が上がっていると実感できることが嬉しい」と話した宮澤。黒枝が7位に入賞した第9ステージでは、リードアウトを務めてポイント獲得に貢献し、その後もチームの勝利のために活躍するシーンが多く見られた。

第10ステージ、出走サインをする宮澤崇史第10ステージ、出走サインをする宮澤崇史
ヴィーニファンティーニ・NIPPOの9選手とスタッフたち。通訳とドライバーの現地スタッフがバックアップしたヴィーニファンティーニ・NIPPOの9選手とスタッフたち。通訳とドライバーの現地スタッフがバックアップした

絶景や異国情緒に満ちた魅力的なステージレース

 大会が開催されたのは、中国の内陸部にある青海省を中心としたエリアで、国土面積、人口ともに世界最大を誇る中国のちょうど中央部にある。このエリアは多くの少数民族が住む場所で、私たちが思い浮かべる“中国”らしい風景とは少し印象が異なる。青海湖周辺にはモンゴル系民族が多く住み、ゆったりと広がる草原で羊やヤクの放牧をして生計を立てている。そして中国最大の塩湖にして、中国でもっとも美しい湖と言われる青海湖の周りには、菜の花畑が広がり、チベット仏教のカラフルな布があちらこちらでたなびき、人々の幸せで豊かな生活を願っている。

チベット仏教の縁起担ぎ。カラフルな布一枚一枚に願い事が書かれている © Aaron Lee / 7cyclingチベット仏教の縁起担ぎ。カラフルな布一枚一枚に願い事が書かれている © Aaron Lee / 7cycling
沿道で観戦場所まで歩く地元の小学生たち。民族衣装を身につけ、みな楽しそうに歩く沿道で観戦場所まで歩く地元の小学生たち。民族衣装を身につけ、みな楽しそうに歩く
ゴール地点で選手たちの到着を待つチベット系民族の家族。穏やかな印象を受けるゴール地点で選手たちの到着を待つチベット系民族の家族。穏やかな印象を受ける

 青海湖を下ると、今度はチベット系民族や回族と呼ばれるイスラム教を信仰する民族の小さな街が点々とする。沿道では、腰まである髪の毛を編み上げている男性がにこやかにレースの訪れを待ち、中東や中央アジアを思わせる荘厳なモスクが茶色の荒々しい山に囲まれてそびえ立つ。大都市では中国特有の霞んだ空の下、数えきれないほどのオートバイや車両が慌ただしく駆け抜け、強風によって砂漠から砂嵐が飛んでくるような場所もあった。

壮大なモスクの前を選手たちが通過する © Aaron Lee / 7cycling壮大なモスクの前を選手たちが通過する © Aaron Lee / 7cycling
森林限界を越えているため草原が広がる超級山岳を選手たちが下っていく森林限界を越えているため草原が広がる超級山岳を選手たちが下っていく
山岳ステージでは、手に野花を持って応援する山岳ステージでは、手に野花を持って応援する

 刻一刻と変わるのはそんな風景だけでなく、気候もそうだ。雨の山岳ステージでは気温は10℃以下となり、選手たちは凍えながら峠を下ったが、平坦ステージでは30℃を超える灼熱に見舞われる。なんともめまぐるしく、選手にとっては過酷さを極めるレースだが、どこに行っても沿道には多くの観客が集まり、レース関係者は好奇心の対象となりながらも温かい歓迎を受けた。国際メディアの受け入れがないなど課題は多いが、ツール・ド・フランス一色に染まる7月のレースシーンにスパイスを効かせる、美しくエキサイティングなレースだった。

沿道に駆け付けた回族の人たち。中国にイスラム教徒は2000万人以上いると言われている沿道に駆け付けた回族の人たち。中国にイスラム教徒は2000万人以上いると言われている
スタート地点で披露されていた伝統舞踊スタート地点で披露されていた伝統舞踊

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