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福光俊介の「週刊サイクルワールド」<60>危惧されるプロトン内での鎮痛剤「トラマドール」の乱用 安全なレースシーンを目指す動き

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 2014年シーズンは、春のビッグクラシックが終了し、グランツールをはじめとしたステージレースへと大きくシフトしていきます。各地からステージレースの結果や出走情報が舞い込み、活性化するシーズンですが、サイクルロードレース界ではここ数カ月、心配なニュースが飛び交っています。今回は、ある薬品を取り巻く、プロトン内での動きをピックアップしてみます。

激しいクラッシュの陰に存在するのは鎮痛剤「トラマドール」か?

 サイクルロードレースには落車がつきものだが、年々激しいクラッシュが増えてきている印象だ。そのいくつかでは優勝候補に挙げられるようなビッグネームが巻き込まれ、レースをリタイア、打ちどころが悪ければ骨折や何らかの損傷により、長期離脱を余儀なくされるケースも。

 こうした向きは、レースを観る者だけでなく、関係者の間でも心配される事象だ。

北のクラシックではクラッシュが多発(パリ~ルーベ2014)北のクラシックではクラッシュが多発(パリ~ルーベ2014)

 ロット・ベリソルのチームドクター、ヤン・マチュー氏は4月上旬、今年の北のクラシックで多発した大規模クラッシュの要因が、「トラマドール」と呼ばれる強力な鎮痛剤の使用にあるのではないかとの見解を述べた。

 これにより一躍注目を集めることとなった「トラマドール」。いったいどのような薬品なのだろうか。

 トラマドールは一般的名称として「トラマドール塩酸塩」と呼ばれ、効能・効果として慢性的な痛みを鎮痛する作用があると言われる。命にかかわるような重篤な副作用や、心身の依存性が少ないことから、ごく一般的な薬品として用いられている。

 重篤な副作用は少ないとはいえ、そのような事例がまったくないわけではない。慎重に扱わなければならないのは他の薬品と同様だ。軽微な副作用としては、便秘や吐き気のほか、傾眠(うとうとした状態)、めまい、倦怠感などが挙げられている。

 マチュー氏が問題に挙げたのは、トラマドール服用後の副作用として現れる傾眠やめまいといった症状だ。これにより、一部のライダーが集中力を欠き、落車を引き起こしているのではないかというのだ。

 つまりは、トップライダーたちの間で、落車や故障の痛みを和らげるために、トラマドールの使用が常態化していることを意味していると言えるだろう。

「トラマドール」の危険性を指摘する声は2013年から

 ガーミン・シャープのチーフドクター、プレンティス・ステファン氏は過去の救急救命室での勤務経験から、トラマドールの危険性を指摘。昨年2月には、反ドーピング活動を推進するフランスの団体M.P.C.C.に対し、同品の使用禁止をWADA(世界アンチ・ドーピング機構)に呼びかけるようロビー活動を行った。

 その甲斐あってか、M.P.C.C.では加盟チームに対しトラマドールの使用を止めるよう指示。WADAとは違い、任意団体であることから強制力は発生しないが、加盟チームは自発的に使用を控えている。

元ライダー、マイケル・バリー氏が過去の使用を告白

2010年ツール・ド・フランスのチームプレゼンテーションに出席したマイケル・バリー氏2010年ツール・ド・フランスのチームプレゼンテーションに出席したマイケル・バリー氏

 かつてUSポスタルサービス、ディスカバリーチャンネル、チーム コロンビア、スカイ プロサイクリングと、ビッグチームを渡り歩き、2012年シーズンをもって現役を退いたマイケル・バリー氏(カナダ)が自著「Shadows on the Road」にて、キャリア最後に所属したスカイでトラマドールを服用していたことを明らかにした。

 そこでは、自身を含め数選手がレース時のみに使用していたという。その効果は高かったというが、「陶酔感があった一方で、レース中の集中力の持続が難しかった」と振り返っている。それでも、痛みを抑える効果は高く、2010年ツール・ド・フランス出場の際に、落車後4日間は使い続けたとしている。

 トラマドールの危険性を認識した彼は現在、その使用を控えるよう呼びかけている。

 これに対し、チーム スカイは即座に声明を出し、トラマドールの使用を否定。少なくとも、ここ2年間は選手・関係者を含むチーム全体の認識として服用していないとしている。ただし、バリー氏が服用していたとする2010年当時の状況については明らかになっていない。

あくまでも痛みを鎮めるもの

 前述のとおり、M.P.C.C.はWADAへの働きかけを強め、同時にUCI(国際自転車競技連合)に対しても、トラマドールの使用を控えるようアプローチを行っている。現状では、WADAの禁止薬物リストに入っていないことが理由で、自由に使用することができてしまうのが実情だ。

 レースを観る我々が勘違いしてはならないのは、トラマドールは鎮痛効果のある薬品であって、能力向上を目的とする薬物・行為とは異なるという点だ。サイクルロードレース界で耳にしてきたEPOや血液ドーピングなどとは、違った視点で捉える必要がある。

落車や故障など、痛みは付きもののサイクルロードレースだが、鎮痛剤によって落車が起こるとすれば本末転倒だ落車や故障など、痛みは付きもののサイクルロードレースだが、鎮痛剤によって落車が起こるとすれば本末転倒だ

 現時点で、選手たちのトラマドール使用・服用を許容するかどうかは、選手・関係者・チームの判断に委ねられる。ただし、多様化するレースの展開、激しさを増す集団スピード、よりスペクタクルな設定となるコースレイアウト、これらに対応するためには、“ライダーの安全性”の確保が欠かせないポイントであることを忘れてはならない。それらにかかわる不安要素として、「トラマドール」の存在があるというのなら、やはり排除(使用を禁止する)すべきではないだろうか。

※参考
独立行政法人 医薬品医療機器総合機構「医薬品医療機器情報提供ホームページ」

すべての道はジロ、そしてツールへ ロマンディ&ターキー途中経過

 春のクラシックシーズンが終わり、ステージレースが各地で続々と開幕。主だったレースとしては、ツール・ド・ロマンディ(スイス、UCIワールドツアー)、ツアー・オブ・ターキー(トルコ、UCI2.HC)が挙げられる。

 両レースともに、5月9日開幕のジロ・デ・イタリア、7月のツール・ド・フランスを見据えたメンバーが顔を揃える。

 27日に開幕したターキーは、第3ステージまでが終了。フラットなコースレイアウトのもと行われた第1、2ステージは、マーク・カヴェンディッシュ(イギリス、オメガファルマ・クイックステップ)が連勝。ターコイズブルーのリーダージャージに袖を通した。ここへきてオメガファルマ・クイックステップのスプリントトレインが機能し始めている印象だ。

第1ステージで勝利を挙げたマーク・カヴェンディッシュ(ツアー・オブ・ターキー)第1ステージで勝利を挙げたマーク・カヴェンディッシュ(ツアー・オブ・ターキー)
カヴェンディッシュがリーダージャージに袖を通した(ツアー・オブ・ターキー2014)カヴェンディッシュがリーダージャージに袖を通した(ツアー・オブ・ターキー2014)

 29日の第3ステージ(185km)は、今大会最初の山岳ステージ。山頂ゴールが設けられたこのステージをレイン・タラマエ(フランス、コフィディス ソリュシオンクレディ)が優勝。同時にリーダージャージも獲得した。大会は5月4日まで、全8ステージで行われる。

プロローグを制したミハウ・クフィアトコフスキー(ツール・ド・ロマンディ2014)プロローグを制したミハウ・クフィアトコフスキー(ツール・ド・ロマンディ2014)

 29日に開幕のツール・ド・ロマンディは、スイス西部のロマンディ地方が舞台。5月4日までの日程で、全6ステージ(プロローグ含む)が行われる。

 大会の幕開けとなるプロローグ(5.57km個人タイムトライアル)は、ミハウ・クフィアトコフスキー(ポーランド、オメガファルマ・クイックステップ)が勝利し、リーダージャージを獲得。

 山岳・スプリント・タイムトライアルがバランス良く構成された今回。個人総合はクフィアトコフスキーのほか、クリストファー・フルーム(イギリス、チーム スカイ)、ヴィンチェンツォ・ニバリ(イタリア、アスタナ プロチーム)が中心と見られる。

 スプリンターでは、マルセル・キッテル(ドイツ、チーム ジャイアント・シマノ)が約3週間ぶりのレースに臨む。また、地元・スイス開催のUCIワールドツアーレースにのみスポット参戦する、マウンテンバイク・クロスカントリー世界チャンピオンのニノ・シュルター(オリカ・グリーンエッジ)がロードレースに本格挑戦。その走りに注目が集まる。

今週の爆走ライダー-ピーテル・ウイーニング(オランダ、オリカ・グリーンエッジ)

「爆走ライダー」とは…

1週間のレースの中から、印象的な走りを見せた選手を「爆走ライダー」として大々的に紹介! 優勝した選手以外にも、アシストや逃げなどでインパクトを残した選手を積極的に選んでいきたい。

 27日のリエージュ~バストーニュ~リエージュ。エース、サイモン・ゲランス(オーストラリア)のために全力で牽いた。一度はメーン集団後方に下がったが、ラスト1kmで再び集団のスピードアップを担った。大混戦となったレースにあって、エースを勝利に導くための完璧なお膳立て。勝利を挙げたエースが真っ先に彼を探したのは当然のことだった。

優勝したサイモン・ゲランス(手前)と抱き合い勝利を祝福するピーテル・ウイーニング(リエージュ~バストーニュ~リエージュ2014)優勝したサイモン・ゲランス(手前)と抱き合い勝利を祝福するピーテル・ウイーニング(リエージュ~バストーニュ~リエージュ2014)

 首脳陣にとって計算できる安定感のある登坂力と、絶妙なタイミングで繰り出すアタックは、チームはもとより、本人にとっても意外な結果をもたらすことがある。グランツールのステージ通算2勝。2011年のジロ・デ・イタリア第5ステージでは、未舗装路を独走。かつてシクロクロスで培った脚でマリア・ローザを手繰り寄せた。

 「ツール・ド・フランスよりもジロ・デ・イタリアが好き」と述べる。今年もジロへの出場が決まっている。エースのために従事したシーズン序盤を終え、今度は自身のリザルトを目指す日々が待ち受ける。

 数週間後、急峻な山々がそびえるイタリアの道で羽ばたく彼の姿が見られるはずだ。3年前の再現、いやそれをも超える走りとなるだろうか。

文 福光俊介

福光俊介
福光俊介(ふくみつ・しゅんすけ)

自転車ロードレース界の“トップスター”を追い続けて十数年、気がつけばテレビやインターネットを介して観戦できるロード、トラック、シクロクロス、MTBをすべてチェックするレースマニアに。2011年、ツール・ド・フランス観戦へ実際に赴いた際の興奮が忘れられず、自身もロードバイク乗りになる。自転車情報のFacebookページ「suke’s cycling world」も充実。本業は「ワイヤーママ徳島版」編集長。

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