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じてつう物語<5>リノベーションのスペシャリストは自転車から街を眺める 大島芳彦さん

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 古くはなったがまだまだ使える建物に新たな生命を吹き込む「リノベーション」。建築設計事務所・ブルースタジオの専務取締役、大島芳彦さん(43)は、オフィスや集合住宅等のリノベーションを多く手がけるクリエイティブディレクターだ。日々の通勤や都内の現場への移動には自転車を使っているという大島さんに、その理由を伺った。

株式会社ブルースタジオ専務取締役の大島芳彦さん(45)。愛車のジオス・コンパクトプロとともに株式会社ブルースタジオ専務取締役の大島芳彦さん(45)。愛車のジオス・コンパクトプロとともに

自転車に乗ることで精神をリフレッシュしたい

 「自転車に乗り始めたきっかけのひとつは、体重が増えてしまったこと。これはなんとかしなくてはいけないなと思ったんです。もうひとつは、私たちのような仕事はアイデアが勝負ですので、どこかで脳みそをリフレッシュしたいと考えたんです。そこでふと、自転車が良いのではないかとないかと思い、試しに乗ってみたのがきっかけです。実際に自転車の何が良かったかというと、これは運動をするという意味でも、脳みそをリフレッシュするという意味でもそうなんですが、日々の生活や仕事の合間に取り入れられるところ。自転車なら、通勤や仕事移動で乗ることができます」

 もともとは、クルマで会社に通っていた大島さん。それは、仕事内容とも関わっていた。

 「それまでクルマで通勤していたいちばんの理由は、仕事で現場を見て回るのにクルマが便利だったからです。必ずしも鉄道の駅から近いところに現場があるとは限りませんので、クルマのほうが合理的だったのです。しかし、通勤だけではなく仕事の移動も自転車にすることで、もっと合理的になりました。そして、自転車ならばクルマよりも細かく、徒歩よりも広く街を見て回ることができます。建物を再生するときには、その周辺の街を知ることから始めます。街を知るためのツールとしても、自転車はぴったりでした」

メッキラグのフレームがお気に入りメッキラグのフレームがお気に入り
フレームにマッチした細身のボトルケージがこだわりポイント。ボトルを2本携行できるようにしているフレームにマッチした細身のボトルケージがこだわりポイント。ボトルを2本携行できるようにしている

自転車に乗って街の見え方が変わる

 大島さんが感じた自転車のメリットは、合理性だけではなかった。自転車に乗ることで、街や情報との接し方も変わってくるという。

 「脳みそをリフレッシュしたいと言いましたが、私はいつも情報を抽象化して物事を考えたいのですけれど、公共交通機関を使って移動していると、中吊り広告をはじめとして情報が多すぎるんです。鉄道などはマス・トランスポーテーションですから、当然そこを狙って数多くの広告が打たれ、私たちの目に絶対的に入って来ます。でも、そういうのは見たくない。クリエイティブな発想に支障をきたしてしまうのです。」

 確かに繁華街や鉄道駅は多くの情報に溢れている。電車の車内には中吊り広告があふれ、タクシーに乗れば液晶モニターに広告が流れ、駅前の大きな交差点に立てば複数の建物の壁面に競うように大型ビジョンが設置されている。

 「新宿や渋谷といったクラスの街は、鉄道を中心に発達しました。街自体が鉄道の駅に顔を向けているんです。例えば渋谷なら、東横線や田園都市線などが伸びていく方向が<表>です。一方で明治通り側から渋谷の街にアクセスすると、街の背中、つまり<裏>を見るかっこうになるんです。表から見た街は、ある意味では広告の世界。裏から見た街に、本来の姿があるのかもしれません。自転車であれば、余計な情報をそぎ落として、街の裏側を見ることができるのが良いのです」

 余計な情報をそぎ落として、リフレッシュされた心で、街の本当の姿を見ることができる……大島さんが自転車に感じた大きな魅力のひとつだった。例えば大規模な再開発が行われた街について、大島さんは次のように話す。

 「都心で大きな再開発プロジェクトがいくつかありました。再開発されると大きな建物が建ち、そして地価が上昇します。地価が高い街に出店できるのは、どこにでもあるチェーンストアばかり。だからどこに行っても同じような街になり、個性がなくなる……と言われます。しかし、それは表層だけを見ているのかもしれません。東京の街を自転車で走ってみて実感したのが、坂の多さです。情報としては知っていましたが、それを身体で感じることができました。街の生い立ちは地形と深く関わっています。高いところは高いところなりの、低いところは低いところなりの発展のしかたがあるのです。再開発により街が均質化していると言われますが、それでもやはり、地形が異なれば、文化も異なるのです。自転車に乗ることで、そういった地形の違い、文化の違いもよりいっそう実感することができるようになりました。これは、仕事をする上で街の個性、コンテクストを見出す上でもたいへん有効でした」

仕事の中でも自転車を意識するように

ブルースタジオが手がけたマンションの一例。自転車やオートバイなどエレベーターに乗せて直接自室にアクセスできる「LIFT」。こんな部屋に住んでみたい!ブルースタジオが手がけたマンションの一例。自転車やオートバイなどエレベーターに乗せて直接自室にアクセスできる「LIFT」。こんな部屋に住んでみたい!

 自転車に乗り、その魅力にはまっていくことで、大島さんはリノベーションの仕事の中でも自転車を意識するようになったと話す。

 「たとえばオフィスビルの仕事で駐輪場の場所を決める際には、都心で一定規模の建物には駐輪場の付置義務がありますから、それを満たすために、図面上で空いたスペースを探して、裏のほうに、このへんでいいかな……と線を引くような感じになりがちでした。ビルに入居する企業が業務で使う自転車が置かれたりするようなイメージであって、今のような積極的な自転車の使われ方が想定されていないのです。しかし、これだけ自転車を使う人が増えてくれば、駐輪場の存在がもっと表に出てきても良いはずです。そして、そのビルの中で働く人だけではなく、そこを訪れる人、テナントとして入っているお店に来る人のための駐輪場だってあったほうが良いでしょう。そういったことを、強く意識するようになりました」

 また、ブルースタジオが手がける住宅のリノベーション事例を見ても、自転車が出てくるものが多い。

こちらのリノベーション物件に住むのはメッセンジャー。広い土間と、天井に自転車を吊り下げることができるフックが特徴こちらのリノベーション物件に住むのはメッセンジャー。広い土間と、天井に自転車を吊り下げることができるフックが特徴

 「住宅でも同じですね。マンションの駐輪場はスポーツサイクルを置くことが考慮されてないケースがほとんどです。外の駐輪場に半分雨ざらしになるような駐輪場も多い。そういうのは嫌ですよね。それぞれの住宅の玄関を入ったところに自転車を置けるスペースを作るといったようなことを、強く意識するようになりました」

 ブルースタジオが手がけるマンションのリノベーションでは、土間が設けられることが多い。

 「マンションをまるごとリノベーションするという仕事を年に40件ほど手がけていますが、そのうちの半数くらいは土間を設けます。自転車だけではなく、趣味の道具や生活に必要なものを、無造作に置くことができる広い土間を、特徴としているんです」

 中には、自転車やオートバイなどを直接載せることができるエレベーターが設置されているマンションもある。エレベーターを降りたら、そこはもう自分の住居。自転車乗りにとっても夢のような物件だ。

いま気になるのは子供乗せ自転車

 最近は都内だけではなく郊外や地方での仕事も増えたため、毎日自転車で移動するというわけにもいかず、乗る距離が減ってきているのが悩みの大島さん。しかし自転車熱はまったく覚めることがない。ブルースタジオには自転車通勤するスタッフが何人もいるし(電車通勤相当の手当が支給される)、自転車部もある。街をゆるく走る自転車部なのかと思えば「みんなでツール・ド・千葉や佐渡ロングライドに出ています」(大島さん)という。

 しかし、いま大島さんがもっとも気になっているのは、子供乗せ自転車だ。

 「2歳と0歳の子供がいるんです。下の子が首が座ってきたら、幼児2人乗せで出かけたいと思っているのですが、日本で一般的な前後に2人ずつ乗せるスタイルが、どうしても嫌なんです。理由は、かっこ悪いから(笑) 子供を2人乗せる自転車をどうするか、最近はそればっかり考えているんです」

 仕事でもプライベートでも、すっかり自転車に魅了されてしまった大島さん。ふだんは青いジオスのロードバイクで都内を駆け抜けているが、休みの日にお子さんを乗せて街を走る日が来るのを楽しみにしている。

勤務先:株式会社ブルースタジオ
ルート:東京都杉並区~中野区、往復14km
時間:20分
頻度:毎日
マシン:ジオス・コンパクトプロ
じてつうの工夫:MTBシューズで乗れるビンディングペダルを使用。自転車を降りたあとも歩きやすい。

ブルースタジオ
http://www.bluestudio.jp/

TEXT&PHOTO BY Gen SUGAI

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